32/55
五感でない広告
平たく言えば、俺の仕事は自社の化粧品を宣伝することだ。どこにポスターを貼るとか、CMはどんな俳優を起用するかとか、同僚はそれぞれの分野で頭を捻っている。
ところが一人、駅の広場で日がな一日油を売っている奴がいる。理不尽な上司に理由を問い詰めたら、直接聞いて来いと言われた。
「広告ってのは何も直接騒ぐだけじゃないぜ。間接的な働きかけでも、モノを買ってもらえれば、それで役割を果たしてるのさ」
「あんたはさっきから俺と喋ってるだけだろ」
「ちっちっちっ」
男は気障に指を振った。
「俺はこいつが壊れないように見張ってるのさ」
そう言って短くなった煙草を捨て、傍らでずっと動いている音の鳴らないオルゴールに手を置いた。
とにあ様からのお題。
『広告』『オルゴール』『間接』




