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夕鬱の日
「寂しかったんです」
私の嫌いな朱色に染まった教室で、あの人は演奏を終えた相棒を労うようにサックスを撫でていた。その場面だけは目に焼き付いている。
「たぶん、分からないでしょう」
「うん」
声を聞く限りでは、予想に反して普段と変わらないようだった。
「だけど水よりは塩水の方が幸せだよね」
「なぜですか」
「なぜだと思う」
「分かりません……何にも」
「ならきっと、私も分からない」
私はあの人の顔も見ずに、踵を返した。
妙なお題だけで三題話をしてみやがれったーhttp://shindanmaker.com/161245より三題。
「水より塩水のほうが幸せ」と「寂しかった」と「サックス」




