短編5 星間の戦争
彼女は生れた時に前世の記憶があった。それは地球という美しい星の、日本という豊な国で生きた記憶だった。
その星、その国への思いを彼女は忘れる事ができなかったのだ。
彼女の転生した国は、砂漠の国だった。ずっと熱く、油断すると熱中症やら脱水やらで簡単に人が死んでしまうのだ。
前世の夏でもせいぜ35度ですごい暑いと言ったり、クーラとかの記憶がある彼女には過酷以外の何物でもなく、彼女はそんな環境を早く脱出したいと願っていた。
幸いにして、この世界には魔法があり、そして彼女には魔法の才があった。
彼女が最初に覚えた魔法は、水と氷の魔法だった。
彼女は本当に努力した。そして15になる頃には、最強とまで言われる魔法使いになっており、砂漠の国を出て、かなり豊かな国の王室に仕えていた。
数日前までは、ほとんど貴族のような生活をしていたのだった。
数日前、空から赤く輝く巨大な船が降りてきた。
彼女はそれを遠くに見てびっくりしていた。
彼女はこの世界はファンタジーな世界だと思っていたが、その船は明らかに宇宙船だったのだ。
そして、それは戦争の始まりだった。
彼女の住んでいた国は、この星でも有数に緑が豊富な国だ。まず最初にそこが狙われたのだ。
彼女は逃げる事はできなかった。彼女が豊かに暮せていたのは、こういった有事の際に先頭に立って敵を打ち倒す契約があるからだった。
それに逃げた所で、宇宙人共の攻撃に耐えられる国はそれほど無い事もわかっていた。
この国は有数の豊かさを誇り、世界の最強戦力を保持しているのだから、ここで止められなければ、終りだった。
宇宙人は角ばった部分がいくつもある赤い円筒型をしており、手が何本もあり、人間の姿ではなかった。
宇宙人はなぜか白兵戦を挑んできた。
彼女はなぜ宇宙人が白兵戦をするのかとても疑問だった。
アニメ等では、宇宙船からビームなりだして一発だったりするのに。
ただ、疑問を持ちならがらも彼女は宇宙人共を次々と殺した。
人の姿でないので、彼女はほとんど抵抗がなかった。
魔法を知らないらしい宇宙人は彼女にかなわず、すぐに死んでしまった。彼女の魔法だと、敵は塵も残らなかった。
しばらくすると、敵がなぜ白兵戦をするのか徐々にわかってきた。
どうやら、宇宙人はあまり人を殺さないように戦っているようだった。
宇宙人の武器を解析すると、拘束を目的としている武器のようだった。
確かに何人かは拘束されていったようだった。
宇宙船はずっと空中に浮んでおり、そこに仲間が拘束されている事は明らかだった。
国は、拘束された仲間が酷い目にあっていると断定した。国王は、彼らを殺してあげるのが優しさだと決断した。
いかなる被害を出そうとも、宇宙船ごと攻撃し、殺し尽すという裁可がなされた。
彼女は最大の魔法を使う事を王に提案し、了承された。
『落星』
その魔法は国の一部にさえ被害を出すほどの大魔法だったが、宇宙船を落す事に成功した。ただ、破壊には至らなかった。
完全破壊ができなかったのは、彼女の魔力が相次ぐ戦いのせいで、大分不足していたせいだった。
彼女は責任を感じて、宇宙船の落下地点に精鋭の軍を率いてむかった。
宇宙船の墜落地点は酷いありさまだった。
やけ焦げた肉の臭いが周囲にただよっていた。死体がぽつぽつと転がっていた。それらはほとんどが人の形をしていた。
その時初めて彼女は、今迄の敵がロボットだったと気がついた。
彼女が転生した時は、ロボットというと工業用ロボットがほとんどで、後はおもちゃのような物しかなかったから思いつかなかったのだ。
敵は血が流れているただの生き物だとあらためて実感して、すこし震えていたが、彼女の率いている軍の軍人達は容赦がなく、息がある物を次々と殺していった。
それが敵か見方の捕虜かは関係がないようだった。
彼女の世界には、制限はあるが、充分に長く時間をかければ記憶を改変する事ができる魔法が存在する。捕虜であっても信用はできなかった。
彼女の背後で、音がした。
とっさにそちらに魔法をはなったが、手が震えており、直撃しなかったようだ。ギャっという悲鳴が聞こえたが、生きている事は彼女にはわかっていた。
悲鳴がした方に行くと、そこには足が焼けている人が倒れていた。宇宙服のような物を着ているようで、顔は見えなかった。
彼女はゆっくり近づくと、その人のヘルメットのような物を無理矢理外そうとした。
軽く抵抗されたり、脱がしずらかったりでかなり手まどったが、魔法を駆使して、ついに脱がしてしまった。
それは黒髪黒目の男だった。自分にかなり歳が近いようだった。
なにか懐しいような感じがあった。
『助けてくれ。』
男はそう言うと、気絶してしまった。
日本語だった。
彼女はショックを受けていた。日本語を話す人が相手にまざっており、今も殺され続けているのだ。
男に簡単な治癒魔法をかけて、魔法で拘束した。そのまま近くの木にしばりつけて、隠蔽した。
彼女は、軍に以後極力殺さず、拘束し、尋問する事を命令した。
すこし反対されたが、後発部隊が来る可能性を示唆して、説得した。
彼女は、拘束した人がつれてこられるのを見ながら、すこし暗い目をして、自分が落した宇宙船を眺めているのだった。
(完:続きはありません)
続いた場合、助けた男との出会いで彼女の運命が動いていくとかでしょうか。