短編4 俺は子供の頃は転生者だったらしい
バイト中、店長に呼ばれた。
何かと思ったが、どうやら携帯の電源がONになっていたらしく、スタッフルームで煩かったそうだ。
俺は休憩になったので、携帯をロッカーから出すと誰からの電話か確認した。
履歴には田舎の実家からの電話番号が表示されていた。
どうせまた意味がない内容だろうと思って、電源を切ろうとしたら、また電話が鳴った。
仕方なく取った。
「はいはい。俺だけど。」
電話の相手は母親かと思ったが、違った。聞いた事もない声で、詐欺かと思ったが、どうやら叔父|(母の兄)らしかった。
内容は母が死んだという連絡だった。
俺は、父が結構前に死んでしまったので、母子家庭だった。苦労をかけながらも大学はストレートで国立大の教育学部にはいった。父も母も教員だったので、俺も教員を目指したのだ。
大学は留年せずに卒業したが、2年ほど就職できていない。教員試験には受かっているが、少子化の昨今、教員の採用枠なんてほとんどないのだ。
もうすぐ24も終る。ずっとその事で心配をかけていた。
その事が死期を早めたのかもしれなかった。
俺はすぐに店長に数日休む事をつげて、準備のために家に走ったのだった。
XXXX
葬式は俺が長男という事で喪主だった。
喪主なんてどうやれば良いのかわからなかったが、叔父が後見人をしてくれて、ほとんど取り仕切ってくれた。
遺産分与は翌日に行なわれたが、母に遺産などほとんどなかった。
俺の大学費用などの影響で、借金があるほどだった。
それでも遺言があったのには驚いた。俺に宛た手紙もあった。
俺には紙束やノートが大量にはいったダンボール10箱が分与された。
中身は事前にチェックされているが、どうやら俺が1歳頃から5歳頃に書いた物を、母が集めて大事に取っていたらしい。
よほど大事に取っていたのか、丁寧にファイリングされ、日付や時間が詳細に記録してあった。
ただ、書かれている物は完全に子供の落書きにしか見えなかった。
絵のような物も時々あるが、ほとんどはのたくったような線の羅列で、なぜこんな物を大事に取っていたのか理解できない。
ダンボールの一つから、「解読ノート」なる物が出てきた。
それは文字を解読しようとしたノートだった。母はこの文字?に意味があると信じていたらしい。
父が考古学者を目指して挫折した高校の社会科教師だったし、母は外国語が好きな英語教師だったから、こういった謎文字のような物に興味があったのかもしれない。
ノートには「前世の知識?」とか「転生」とか書いてあった。
俺は、すこし笑ってしまった。俺は子供の頃は転生者だったらしい。そして悲しくなった。
確かに転生とかは憧れもあるけれど、前世の記憶なんてない。
ちょっと見たはずもない景色とかうっすら夢に見る事はあるけれど、どうせどっかでテレビで見た記憶だろう。
このノートは焼いてしまおう、と思ったが、母が大事に残していた物だと思い直し、しばらく眺めていた。
「お兄ちゃん。何見ているの?」
親戚の多真子ちゃん(13歳中二)がどうやらヒマらしく、俺にちょっかいを出しに来た。確か母の妹の娘だったはずだ。
多真子ちゃんは結構背が高く160センチより少しあるだろう。制服はセーラ服の学校らしく、ちょっと遠くから見ると高校生にも見える。ただ、近くで見るとやっぱり顔は幼さを残している。
少子化の影響であまり子供がいないためか、葬式の間も童顔だし背の低い(多真子ちゃんよりやや高い程度だ)俺に同年代かの様に接してきていた。
すこし舐められていると思うが、一応兄と呼ぶので、許容している。
「ああ、これをね。」
俺は捨てるつもりの紙束と「解読ノート」を多真子ちゃんに渡した。
多真子ちゃんはそれをムムムっと言う顔をしてしばらく見ていたが、突然のように叫んだ。
「わかった!すごいよお兄ちゃん。これはすごい発見だよ。これ全部ちょうだい!」
何がわかったのか、良くわからないが、多真子ちゃんはすごく目をきらきらさせており、その表情は完全に子供だ。
「え、でも焼いちゃうつもりだし。」
と俺が言うと目を見ひらいて、何を言われたのか理解できない、といった表情をした後、俺に抱きついて来た。
「焼くなんてとんでもないよ!これは世紀の大発見だよ!」
多真子ちゃんがぐいぐいと俺の右腕に胸をおしつけているが、それはわざとだろうか。
なんか意外にむにょむにょぷにぷにするぞ。
着痩せしてるか?最近の女子制服は体型が目立たないデザインが多いらしいからな……。
多真子ちゃんの目がきらっと光った。
「お、お兄ちゃんお願い?」
な、泣いている?
俺は折れる事にした。
「わ、わかった。焼かないよ。」
「やった!じゃあくれるんだね。」
って、泣いてないね。嘘泣きだね。女の子はこんな歳でも小悪魔なんだね。
「あげても良いけど。でも、叔母さん、多真子ちゃんのお母さんが何ていうかな。捨てちゃうんじゃないかな。」
「うーん。そっか。」
多真子ちゃんはしばらく悩むと、ひらめいた!って感じで聞いてきた。
「お兄ちゃんどこに住んでいるの?」
俺は正直に住所を言った。
驚いた事に、多真子ちゃんの家まで自転車でも結構近い事がわかった。親戚の住んでいる場所なんて普段ほとんど連絡しないと知らない物だよ……
「これってきっと運命だよ。お兄ちゃとの赤い糸が確認できたよ。よし、わたしにまかせてよ。」
何をまかせるのでしょうか、多真子様。
その後はとんとん拍子だった。多真子ちゃんの交渉能力はすばらしかった。
俺は、あっという間に多真子ちゃんの家庭教師になっていた。
俺が教育学部を出て教員免許を持っていると知った叔母は、意外と簡単に許可してくれた。
どうやら多真子ちゃん、ちょっと成績が良くないらしい。
「やったね、お兄ちゃん。」
多真子ちゃんに週3回ほど家庭教師をするが、その時は「解読ノート」と紙束を順番に持っていく約束がさせられた。
時給もちゃんと貰えるので、良いかもしれない。
俺は、この後何度も、この時焼いておけば良かった、と思うかをまだ知らなかったのだった。
(完:続きはありません)
続く場合、多真子ちゃんにより解読されるとかの展開が良いのでしょうか。