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短編2 小野篁 魔人の国で内政チートする

篁はいい加減、疲れていた。

大臣(おおおみ)たちは、彼の政策をことごとく無視するのだった。


今夜は月がとても綺麗であったので気晴らしに庭に出て、月を眺める事にした。

彼がこの庭に出るのはこの屋敷を数ヶ月前に購入してから初めてであった。

庭を暫く散策すると端の木の裏に井戸があるのに気がついた。


彼は月が井戸底の水に写っていることを期待して、その井戸を覗き込んだ。


ところが井戸の中の水は満杯で、しかも階段と成っており、底がしれなかった。

彼はその様子に驚いたが、先がどうなっているかにも興味が湧いた。


一度屋敷に戻り、下男達にもう寝るから部屋には朝まで入らぬように伝え、服を整えると、再び井戸の前に来た。


井戸の中は依然として水で出来た階段があり、何処かへと続いていた。

彼は悠然とその階段を降りて行ったのだった。


階段は永遠に続くかとも思われる程底が見えなかったが、突然石組みの階段に変わると、暫くして、長い廊下に出た。


そこは彼が見た事もない、石で出来た屋敷か砦の様だった。

彼は奥と思われる方へと進む事にした。

奥の方に進めばきっと身分の高い人物に会えるだろうと思ったのだった。


そしてその判断は間違っていなかった。

やや豪華な開いたままの扉があり、部屋があったのだ。

彼は気にせず部屋に入ると、そこは大きな部屋で、書類が部屋中に散乱していた。


部屋には大きな机があり、その机に大きな体をした長く紅い髪の人物が突っ伏して眠っている様だった。


その人はかなり豪華な服を着ており身分が高い人物だと思われたが、その手元の書類には、手に持った筆の様な物から墨が滲んでしまっていた。


篁はこの人を起こす事にした。

仕事中に寝てしまったのだと思い、ここで寝るとまずいような仕事だと思ったからだ。篁にもこれに近い経験があり、起きたら朝だった時は大変に後悔したものだった。


ゆさゆさと揺するとその人の被っていた冠がずれて、そこから角の様な物が覗いて見えた。


篁はやはりここは異界であったかと思っただけで、余り気にせずそのまま揺すりつづけた。


揺すっているとその者が寝言のように唸った。


「うーん。煩いぞ。暫く一人にしてくれと言ったはずだ。」


その声は美しく澄んでおり、女の声の様であった。

さらに数度揺すると寝ていた人が目を覚ました。

篁を見ると目をパチパチして驚いたかと思うと、怒鳴った。


「貴様、何者だ!」


篁は落ち着いた態度でここに来たあらましを語った。

篁の余りの落ち着きっぷりにその人は呑まれたらしく、静かに話しを聞いていた。


話しを聞き終わると、突然の様に笑い出した。


「なんと楽しそうな話しか。儂もその階段を見て見たい。案内しろ。」


机から立ち上がった人の背丈は篁の二倍はあり、とても大きかったが、篁は異界の者は大きいのだなとしか思っていなかった。

顔は恐ろしげであったが、美しく、また胸の具合からやはり女性であるらしかった。


篁は、階段まで女を案内した。


「おお、こんなところに階段などあったのか?しかし儂には登れそうにないの。」


階段は篁には問題ないが、女には入り口が小さすぎ、無理に階段に足を載せようとしても、なぜか弾かれてしまうのだった。

女は大変残念そうだったが、すぐ諦めた。


「少しこの階段の先の話しを聞かせてくれぬか?」

「良いですが、お仕事は大丈夫なのでしょうか?」


はっと女は苦い顔をした。


「そうで有ったな。仕事をどうにかせねばならなかったのだった。」

「お手伝い致しましょうか?」


篁は女を起こすとき書類を見ており、自分も手伝える確信があった。


「ほ、本当か!よし手伝ってもらおう。」


篁は女と部屋に戻り、仕事を始めたが、篁の仕事の速度は女の何倍も早かった。

どうやらこの女はあまりこういった仕事が得意ではないようだった。


篁が手伝ったことで、女の仕事は驚くほどに早く終わった。


「ありがたい。儂は最近親をついでこの仕事を始めたはよいが勝手かわかっておらなかったのだ。

大変助かった。

そういえば名も聞いて居なかったの。

儂は、エンマニウ・ラ・ラーペントと言う。エンマとでも呼んでくれ。」

「閻魔様でしたか。わたしは小野篁、篁が名でごさいます。」

「そうか、タカムラ殿、大変ありがたかった。礼を言わせてもらう。」

「いいえ。できることをしたまでです。」


篁とエンマは、楽しそうにしばらく話をしていた。篁は余り気にせず性別を確認したが、やはりエンマは女であった。

言葉使いは威厳を出すために男言葉なのだと言うことだった。


閻魔が女であることに篁も多少の驚きはあったものの、そう言うこともあるかと納得したのだった。


二人は長く話していたが、そろそろ夜が明けそうだった。


「名残惜しいですがそろそろ帰ります。」


篁はさすがに帰らなければいけない時間になったと思った。

エンマもそれは分かっていた。


「そうか、また来てくれ。」


エンマはそう言ったが再び会えるとは思っていなかった。

階段まで見送って、篁とお互い別れを惜しんだ。


篁が階段を上がっていきその姿が見えなくなると、階段は壁のなかに溶ける様に消えてしまった。


エンマは、これでもう会えないだろうと、大変残念そうであった。


篁は井戸から出ると、月の位置を確かめた。どうやらあちらで過ごした時間より、時間が経ってはいないようだった。


井戸の中の階段は消えていないことも確かめて、安心すると部屋に戻って眠ったのだった。


翌日も篁は井戸を降りて、エンマの部屋に行くとエンマは嬉しさのあまり飛び上がるようにして喜んだ。


こうして、篁とエンマは出会ったのだった。


(完:続きはありません)

やっぱり、時代考証とか設定とか極めていいかげんです。

巡察弾正に任じられ屋敷を移して独立した(?)あたりを想定しているので、22か3の頃になるはずです。

小野篁には自宅の井戸から地獄に行って、閻魔大王の補佐をしたという伝説があります。

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