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SUICIDE8〜悪戯神との対話・片翼天使との再会〜









悪魔は幻想ではなく、人の心に必ずいるものである









―――――――――――――――









「…はぁ…死にたいなぁ」



『だったら死ねば』って思った人もいるだろう。

そんなヤツは前回を見直しやがれコンヤロー!!(ヤケクソ)

……俺は一人、あるものの前で盛大なため息と今の願望を愚痴った。

さぁ、俺の前にあるものとは?


次の三択から選んで答えよう。



〃〃〃



1、重厚な戸野高の理事長室のドア

2、開けたらただでは帰れない扉

3、魑魅魍魎が巣食う地獄へ続く半回転して開ける戸



〃〃〃



賞金もライフラインもなし、IQなんて関係ないこの問題。

さぁ、その答えは……









目の前にあるのは、重厚な造りで開けたらただでは帰れない、魑魅魍魎と同等なものが巣食う『理事長室』とかかれた金色のパネルがついた半回転して開く戸、いわゆる扉[英語名ドア]でした。



『三択の意味ないじゃん!』って思った人もいるだろう。

だけど、1は一般生徒から見て、2はR‐ラグナロクの奴等から見て、3が亮佑・俺・洋から見た印象なのだからしょうがない。



「あれ真慈、なんで学校にいるの? 月曜日からずっとヒッキーになってたのに」

「人を勝手に引き籠もりにするな。チビって呼びぞ」

「ヒドーい! ちゃんと約束は守ってよ!」



いきなり声をかけてきた麻依子は、廊下で大声を上げる。



「わかったから騒ぐな。ってか、何でこんな所いんだ?」



ここはA棟二階のため、基本的に用事のない生徒が来ることはない。



「ん〜と、アタシは放送で生徒会室に呼ばれたの。それも会長かららしいよ」

「生徒会室か…なんかやったのか?」



生徒会員以外が生徒会室[A棟三階]に呼ばれるのは、生徒会に悪い意味で目をつけられることをしたか、なにか特殊なことを頼むぐらいしかない。

『特殊なこと』というのは、目をつけた生徒の校則違反の証拠を掴んで校長などに報告するために、その周囲の生徒に情報を聞き出したり、スパイまがいなこともさせる。

…ついでに俺は、『サボり多過ぎ』で何度か呼ばれているけど、その呼び出しをことごとくサボっている。

まぁ、俺は堂々サボってるからスパイなんて関係ないけどな。



「それがアタシも分からないの。真慈が呼び出されるのは分かるけど、アタシには心当たりがないのよ」



くっ、正論にはなにも言い返せねぇ。



「で、なんで真慈はここにいるの? てか、謹慎中じゃなかったっけ?」

理事長ここのバカに呼び出された」

「……拒否権がなかったのね。ご愁傷さま」



理事長室を指さしながら言うと、麻依子は俺の答えに納得した顔をしてからその両手を合わせた。



「じゃぁ、アタシはそろそろ行くけど、無事帰還することを祈ってるよ」



そう言って敬礼してから、生徒会室の方向へ去っていく麻依子。

なんか、戦場に行く人の気持ちが分かる気がした。

でも……おかげで覚悟が決まった。




「……ここまで来たら行くしかねぇな」



俺は覚悟を決めて理事長(魑魅魍魎)がいる、理事長室(地獄)のドアノブに手をかけた。

ノブを回しながら、頭の中で口調を理事長専用に変える。



「須千家真慈。理事長の全面的脅迫命令により、謹慎期間中にも関わらず来校した。失礼する」



言うことだけ言って、入室許可の声がかかる前にドアを開いた。

その部屋の中は『理事長の部屋』と言うより『ヤクザの首領ドンの部屋』って感じだった。

だって、理事長室に巨大な木彫りの龍虎とか日本刀とか鎧兜って普通置いてないでしょ。

それに、中央にある接客用らしき机には、口径のデカイ弾丸が四、五発分置いてあるし、まあまあ広いこの部屋の天井を見ると、とてつもなく獰猛そうな龍も描かれてた。



「ヘルゥ〜♪」



もちろん龍の絵が喋ったわけじゃなく、その部屋の奥に唯一理事長室らしい大きな事務机の方で、金髪美女が椅子から立ち上がってこちらに手を振っていた。



俺は龍虎の間を早足で通りすぎ、真直ぐそいつの方へ歩みを進める。

そして俺は、机を挟んでそいつ向き合う。



キリッとした顔立ちに独眼竜のような逆五芒星の描かれた眼帯。

ショートカットのくせ、耳前の髪だけが胸の辺りまである金髪。

ピッチリとした深紅のスーツ&パンツが、スタイルのいい体を妖艶に包む。



「ちゃんと来てくれたんだぁ。さすが私のヘル♪」

「理事長、俺はあんたのものじゃない」



この女が俺を呼び出した張本人、戸野高校理事長。

そして……




「チームを辞めた俺に今更なんのようだ? 理事長……いや、ロキさんよ」



そしてこの女が『悪戯最高神ロキ』の名を持ち、俺を戸野高に半強制入学させたR‐ラグナロクのリーダー…戸野との 彩華サイカだ。









―――――――――――――――









やった! 初めての地の文だぁ〜♪

あっ…アタシ、谷津麻依子です。

好きなものは、甘いものと真慈の作った料理全般。

嫌いなものはいっぱいあるけど、特に嫌いなのはグリンピースとハイポーションです。

これからもよろしくね♪



「谷津麻依子です。さっき放送で呼ばれて来ました」



そしてアタシは今、生徒会室の前にいるのです。



「入ってきてくれ」

「はい、失礼します…って!?」



アタシがドアを開くと、そこはまさに裁判所の法廷のような場所だった。

だって、弁護側と検察側みたいな席の先に、裁判長席っぽいものもあるし……



「驚いたか? ここに初めて入った者は、だいたい君みたいな反応をする」



その裁判長席的な所に生徒(一人だけだけど)が座ってなかったら完全に裁判所だよ、ココ。



「まぁ、そっちの椅子に座っててくれ」

「あっ……はい」



アタシは言われたとおりの場所に座る。

法廷で言うなら『被告人席』って場所。

そして、アタシは裁判長席に座った人をよく見る。

クッキリとした輪郭に、強気な印象を与える顔のパーツ。

結構長いポニーテールは、黒だけど青っぽい髪色してる。

座ってるから分かんないけど、たぶん真慈より少し小さいぐらいの身長に、ほっそりとした体型。

今、ココにいるのはアタシと目の前にいる女の人だけ。

もしかして……



「あのぉ、もしかして生徒会長ですか?」



この男口調のカッコいい感じの人なら、会長でもあり得そう。

その人はちょっと考えた様子を見せてすぐに立ち上がって、こっちに近づいてきた。



「……一学期は表に出ることが少なかったからな、私を見るのは今日が初めてか」



はいビンゴボンゴー!

予想的中したよ、さすがアタシ!



「じゃあ自己紹介をしよう。この高校の生徒会長をやっている、二年の戸野との 麗花レイカだ。よろしく、谷津さん」



会長は、女らしい中にも男にも勝てるカッコよさのある笑顔をアタシに向けてきた。

これは男も女もホレそうだよ。

ま、アタシは例外だけどね。



「よろしくお願いします。で、会長はアタシになんのようですか?」



アタシは早めに本題を切り出す。



「君は気が早いな…」



そう言いながら元いた席に戻る会長。

だって、早めに終わらせて理事長室の決闘を見たいからね。

アタシを見下ろす状態になった会長は、さっきの笑顔と違い冷たい仕事の目になる。

でも、そんなんじゃアタシはビビッたりしない。



「フッ、普通の生徒ならこの状況でそんなに冷静じゃいられない…さすがあの時の男と一緒にいるだけあるな」



あの時の男って…まさか!?



「…これから君には、今週の月曜日に起こった事件に関係している、須千家真慈について話してもらう」





…………な〜んだ、アタシはてっきり洋が会長をナンパしたのかと思ったよ。









―――――――――――――――









俺は今、接客用のソファーに座り悪魔ロキと対面していた。



「で、俺になんのようだ? 謹慎中の身なんだ。学校に長時間いるのはマズイんじゃないか? 理事長様」

「もぉー! 昔から『愛する彩華』って呼んでって言ってるじゃないよぉ」



いやこの悪魔、昔は『我が永遠の恋人、彩華』って言わせようとしてたぞ。

もちろん断固拒否したけどな。



「せめて彩華で許せ。あと、右袖に短ドス、腕時計に小型麻酔銃と左のパンプスにスタンガン仕込んで言う願いは脅迫って言うんだぞ」

「ダイジョーブ♪ 暗器の位置が分かるのはヘルぐらいだから」



……いや、誉められてるのか分かんねぇ。



「イコール、誰が一緒でも俺だけを脅す気だったんだな」

「当たりぃ〜」



ったく、前々からだがコイツの扱いは疲れる……



――戸野彩華は見た目は妖しい美女だけど、三年前にロキの名前でR‐ラグナロク(R=ロキの略)を立ち上げた人物であり、昔からこの辺りを治める豪族『戸野家』の正当な跡取りである。

戸野家は、世界的に有名なT.C(戸野カンパニー)という技術産業系の大手企業をやっていて、彩華はその時期社長でもある。

ついでに、俺もここの株の数パーセント(彩華曰く、俺は個人投資家では一番持ってるらしい)を買っていて、売ればかなりの大金になる。

そしてこの女は去年大学を卒業し、その卒業祝いに父親からこの高校の経営権を貰ったらしい。

俺以外の二人は知らず知らずこの高校を選んだけど、俺は今のように脅されて入った。

ただ凶器を突き立てられるだけなら死んでもかまわない俺は脅せない。

けど、彩華は『ロキの悪戯』と言われる“生き地獄の拷問”をしてくるため、俺も何度か強迫されてる。

ここにいさぎよく来たのもそのせいだ。

……あの拷問されたら、地獄なんてきっと生ぬるい。

地獄が炎‐(2000℃)なら、ロキの悪戯が太陽のコロナ‐(100万℃)と言っても、閻魔大王も嘘にカウントしないだろう。

そんな眼帯女は、俺の自殺願望の原因の一つである。――



「で、最初から脅す気でいるってことは、厄介ごとでも頼むつもりだろ? それも一つじゃなくて複数」

「やっぱりヘルは二人より物分かりが早いわねぇ。ホレなおしたわん♪」



いゃ、惚れられる筋合いないし。

あと、ヘルって呼び名は黒ヘルと被るからやめてほしい…って言ったら説明が面倒だから我慢しておこう。

てか、やっぱり亮佑達も何か頼まれたわけか。



「今回のお願いは二つあるの。一つは二人にも頼んだんだけど、もう一つはヘルにしか頼めないのよん。どっち先に聞くぅ?」



〃〃〃



俺達全員に頼む=何かを破壊=喧嘩大好き亮佑に任せられる=俺はサボっても平気…

俺だけに頼む=面倒=サボりたい=一人だからサボったらすぐバレる=バレたらロキの悪戯決定…



〃〃〃



「……後者にしてくれ」

「分かったわ。ちょっと待っててねん♪」



そう言って彩華は立ち上がって歩きだし、飾ってあった日本刀を手に取り、その刀身を鞘から抜き出す。

眼帯に日本刀、まさに女伊達政宗だな。

そして刀を持ったまま、木彫りの虎に近づいていく。



「何する気だ?」

「もぅ、せっかちねん。ちょっと見てれば分かるわよぉ」



彩華は手に持った刀を、その虎の口から喉に突き刺した。

木彫りと分かってても、見た目は虎が気の毒…



「実は、これが秘密の部屋への鍵なのよ♪」



そう言って、喉に刀を刺された虎と対の竜に近づいた彩華がその竜に少し触れると、その重量感ある見た目の割に滑らかにスライドして、その先にもう一つ部屋らしきものが表れた。



「勘違いしないでよぉ。私が力持ちなわけじゃないからね」



彩華は今日一番のマジな顔でそういって、その部屋の中に入っていった。

別に彩華は怪力でじゃない。そんなことはすでに知っている。

あんなデカイ木彫りを一人で動かせるのは、俺の身近じゃ亮佑ぐらいだろ。

見た感じでは分からないが、多分T.Cの技術力による仕掛けがあるとしか言えない。

……そして、その先の部屋のなかは気にしない。

気にしたら、いろんな意味で負ける気がするからな。

そう思った俺は、彩華が来るまで部屋に背を向けて、机の上の弾丸の一つを手の平で転がしていた。



そして……ふと、後ろから人が歩く音と共に、車輪が床を擦る音がする。

この音は……



「ハァーィ 久しぶりのご対面♪」



俺が後ろを振り返ると、そこには彩華が立っていた。

そして、その前には車椅子が一つ……

座っていても麻依子ぐらいある長身に黒いワンピースをまといい、そこから見える肌はまるで陶磁のような白。

長すぎる漆黒の黒髪は、車椅子に座ってる状態で地面スレスレまである。

そして、無感情な顔の無機質な黒い瞳に見つめられると、すべてを見透かされてるような錯覚に陥る。



「……久しぶり…シン…」

「……ん……あぁ、久しぶりだな……小夜サヨ



その人は俺と似た不幸を背負った女性……

片翼を失い、一度は飛ぶことを諦めた天使がいた。





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