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SUICIDE7〜壊れたマリオネットのように〜









『不死』というものは、『死なない』のではなく『死ねない』ことなのだ。

なのに、なぜその不自由を求める人がいるのだろうか。









―――――――――――――――









モノトーン調の質素な部屋

カーテンの隙間から、そこに差し込む清らかな朝日

部屋を出て階段を下りれば、目の前には吹き抜けから差し込む光によって、幻想的な雰囲気を醸し出すリビング

その中心にあるカウンターキッチンの中に入り、軽いアルコールの洋酒をグラスについで口にする。

その味に酔いしれながら、左手に刃先の鋭い刺身包丁を手にする。

そして右手をまな板の上に置き、左手を振り上げる。



「卍解! 天〇残月!!」



包丁が漆黒のやいばに変わる。

開けたら閉める。

振り上げたら振り下ろす。



「……月牙〇衝ぉおおおお!!」



まな板に置かれた右手に向かって、容赦なく死神の必殺技(偽物)を繰り出す。

俺の手首は黒き斬撃によってザックリ切り落とされ、木のまな板を血液が赤黒く染め……







ガキンッ



……ることなんてなくて、元に戻ったの刺身包丁の斬撃は、右手の皮一枚斬ることもなく、その皮膚の表面に止められた。



「……ハァ」



鉄の刃物が生身の肉体を斬れない、まさに摩訶不思議な出来事……

ついつい出たため息と共に上を向いてみる。



「…………」



まるでしかばねのよう(元々死んでる)な黒ヘルが、糸が絡まった操り人形のように天井から吊されていた。

てか、俺が吊した。

なぜ、こんな風になったかというと、昨日の夜…俺が黒ヘルに刺されて二日後にさかのぼる。








←←←←←←←←←←←←←←←








黒ヘルに鶴嘴で胸をザックリ刺されて死んだ俺……

自殺じゃなくて幽霊に殺された俺が次に目を開けた時、目の前に表れたのは花畑や川ではなかった。







「いや、なぜに普通にリビング?」



俺が見たのは見慣れた我が家の天井。

俺はソファーに横たわってるだけだった。



……前回の展開の場合『死ぬ』→『地獄に落ちる』→『地獄である一定の条件をクリア』→『天国に昇る』→『ノーマルエンディング』が成り立つと思ったんだが…



「おっ? やっと起きたか」



いつのまにか目の前に、黒ヘルがコーヒーカップ片手に立っていた。

寝ている俺にたいして平行に立ってる(=浮いてる)時点でおかしいし、カップの中身がこぼれないのもおかしい。

だけど、一つ一つツッコむ必要はない。

なぜなら、コイツの存在自体がおかしいからだ。

そう考えれば、コイツの行動すべてが簡単に飲み込めるのだよ。



「んで、黒ヘル。お前は俺になにをした?」



別に体に異常はないみたいだ。

しかし、コイツはおかしいから一応確認する必要がある。



もしかして、刀(鶴嘴)を胸に刺す=自殺屋代行になってるかもしれない。

オレンジのツンツン頭は自分で死神になったけど、俺は自殺屋なんてなりたくねぇぞ!




「だから、プレゼントって言っただろ? 真慈には特殊なスキルをつけてやったぞ」

「特殊なスキル?」



嫌な予感がするのは……気のせいじゃねぇな。





「自殺屋奥義の一つで、真慈には『不死』になってもらった」





…………へ?





「不死ってあの『全く死なない』っていうやつ?」

「因果封印は自殺屋の技の一つで、相手を不死に出来るんだ」



…不死=死なない

……俺=死にたい

………不死×俺=至上最悪の嫌がらせ


俺はそっと、右手を黒ヘルの頭に添える。



「おいおい、俺は男に撫でられ喜ぶキャラ設定じゃないぞ?」



その右手で頭を鷲掴みにして下に下げる。

そして、右膝を全力で上に……



「なにふざけたこと言っとんじゃボケェェエエエエエエ!!!」

「ゴブッ!?」



マジの顔面潰しニーキックを食らい、床に落ちる黒ヘル。



「不死なんて…ウソに決まってんだろ!!」



簡単に飲み込めるって言ったって、そんな超ヘビー級のもんはムリだ!

もう死に方を選んでなんていられねぇ!!







俺は死ぬ。






すぐにキッチンに向かい、鋭利なものを探す。

…………あった。

俺は、見つけたロック用のアイスピックを右手で掴み、人間の急所の一つ…首に向かって突きを放つ。



ガツッ



「なっ!?」



俺の喉を貫き、息の根を止めるはずのアイスピックは、なにかに弾かれたように宙を舞って床に突き刺さった。

現実的にありえない状況に、思考回路が固まる。



「因果封印…生体に霊力を送り込んで、その生体が自分の意志で自身を傷つけようとした時、意志に反応してその霊力で表皮に不可視の防御壁を張り、自殺を阻止する自殺屋専用保護術だ。

自殺の意志さえなきゃ発動しない…だから、飛び出しじゃなきゃ普通に事故死するし、自分で引き金を引かなきゃ銃殺もされる…その代わり自殺で死ぬには自殺儀式以外じゃ死なないようになる。

簡単に言えば『死なない』じゃなくて『死ねない』ようにする術だ。

……通常は定期的に霊力の補給が必要だが、真慈は元々霊力があるからたぶん永久的に発動し続ける」



アイスピックのそばに立つ黒ヘルは、いつもと違った雰囲気のしゃべり方だった。

……しゃべり方は少し格好いいけど、潰れた顔面はモザイクかかるぞ。



「……こんな衝撃的事実を突きつけられたのに、よく冷静でいられるな。もう少しいいリアクションを期待してたのに」



いや、だってねぇ……



「お前がいる時点でありえねぇし、実際にやってみて見事に弾き返されてんだ。認めるしかねぇだろ? …あと、驚きすぎて逆にリアクションなんてとれねぇよ」



ホント、頭がパンクしそうだよ……



「……まぁいい、一度乗った船はマンビョンボン号だろうがタイタニック号だろうが乗ってやる」



けどな……

俺はゆっくりと黒ヘルに歩み寄る。



「ん? 俺は男に抱きつかれて喜ぶ設定もされてないぞ?」



俺は黒ヘルの目の前に立つ。

そして、右腕を振り上げて……



「歯ァ食い縛れェェェェエエエエエエエ!!」

「ギャフン!?」



俺は黒ヘルの顔面をさらに潰す気で、思いっきり殴り飛ばした。



「お前の言ったことは信じる…けど、やったことを許せるほど俺は寛大じゃねぇ」



『自殺屋専用お客様保護術』だって、いわゆる『客を逃がさないための術』じゃねぇか!!



「罪は償ってもらおうか…」



その後、俺は殴られて気絶した黒ヘルを操り人形のように天井から吊しておいた。









→→→→→→→→→→→→→→→









黒ヘルを吊し上げた後、俺は二日間寝てたことを知った俺は、運良く(?)謹慎期間だったことに感謝した。

その数時間後に起きた黒ヘルは、逃げ出そうと暴れ回ったから、糸が絡まって今の状態にある。

ついでに黒ヘルには、謹慎期間中ずっと奇怪なアートでいてもらうつもりだ。



「…今日は怠惰に睡眠を貪るか」



バイトもなく、特に何もすることのない俺は、謹慎期間中はずっと寝ることになりそうだ。

……ついでに、俺の生活費等は二階の書斎にある数台のパソコンを使い、株とかで稼いでいる。

教育費とかも払って、十分貯金が出来るぐらい儲けられるのは、親父譲りの勝負運と金運のおかげだろう。

あの、『ドコデモドア』ショックの時も、ちょっと前に売りに出したためダメージはほとんどなかった。

まあ、売ったのは『なんとなく、どら江社長が調子に乗ってウザいから』って理由だったけど……

まあ、そんなこんなでバイトもなにもやることのない俺は、洋酒をもう一口飲んでから、夢の世界に旅立つためにリビングから出……




〔TELLLLLLL……〕



っと、リビングから出る前にキッチンのカウンターの端に置いてある、アメリカン風な家電のベルが鳴った。



「……こんな朝早くからなんだってんだよ」



新聞勧誘と家庭教師だったら即座に叩き切る!

でも、その前に……

俺はある作戦を思いつき、受話器を手にする。



「Hello? Who are you?」



……日本人だと思ってかけたら流暢な英語で電話に出られてみろ!

勧誘じゃなくても即座に相手が切るぞ!

さぁどうする? 受話器の先の誰かさん!



〔…ヒドいわねぇ、私が英語苦手なの知ってるでしょ?〕

「…なっ!?」



受話器から聞こえた、聞き覚えのある甘ったるい女の声…



〔驚いたぁ? ヘル〕



やっぱり……間違いない。



「ロキか……もうその呼び方はふさわしくないんじゃないのか?」

〔相変わらず冷たいわねぇ。だけど、ヘルのそんな所が私は好・き・よ♪〕



ず、頭痛と悪寒と吐き気と腹痛と目眩が一気に襲ってくる。

……持ち堪えてくれ、オレの精神力!



「……悪いが俺は睡眠で忙しいんだ。用件があるなら早くしろ、待ってる一秒さえ不快だ。用が無いならその耳障りな声をコンマ一秒も耳に入れたくない。即刻切って、二十秒以内にこの番号を着信拒否にする」

〔もう、素っ気ないわねぇ。ちゃんと用件ぐらいあるわよ。…今日の午前十時、戸野高に来てくれない? もちろん、拒否権はないわよぉ〕







……なぁ黒ヘル。お前の術、意味なくなるかもしねぇわ。

俺は心の中で小さく呟いた。








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