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SUICIDE43〜親父の涙と約束の拳〜







人は死を認識しなければ己の生を確認できない。

ならば己の身が滅ぶとき、蔑む生で死を認識する者と誇る生で死を認識する者……その死は同等と言えるのだろうか?










―――――――――――――――













……フゥ、結局死ネナカッタナ。コノ小説ノ題名ミタイジャナイカ。

全ク酷イ弟ダヨ……唯一無二ノ兄弟ダッタ僕ノ、最期ノ願イヲ聞キ入レテクレナカッタンダカラ……ッテ、死ンデナインダカラ最後ジャナイカ。

チャンスハコレッキリダッタノニ、コレジャア真慈ガ僕ヲ否定シナイ限リ僕ハ消エラレナイ。

コレジャア自由モ人権モナイナ……



ダカラ、ソノ責任ハ真慈二シッカリ取ッテモラウカラ♪



実ハ、真慈ハ精神的二強クナッタカラ狂気二打チ勝テル……真慈ガ狂気二飲ミ込マレナケレバ、僕ガ狂気二染マル必要ハナクナル。

ツマリ、僕ハナニモシナクテイイッテコト。

今マデ蓄積シタ狂気モ、今回ノ件デ殆ド消失シチャッタカラ、僕二悪影響ハナイシネ。



僕ハ真慈ノ中デ楽シマセテモラウヨ……ソレガ、滅ブハズダッタ僕ノ世界ヲ生カシタ、君ノ罪ダカラ。















―――――――――――――――















「…き……し……ろ」



……



「…きろ…真……しっかり…ろ」



……っ…なんだ?

意識がはっきりしねぇ……



「起きろ! 真慈ッ、しっかりしろ!!」



……ん…なんだかうっせぇな



「くそッ……こうなったら奥の手を出すしかないか」



そういや……真壱兄ちゃんはどうなった?

俺は意地を通せたのか……



「…………この白髪マザK…」

「死ネぇぇぇぇええええええええッ!!」

「ゴブァ!?」



聞き捨てならない単語を聞いた俺は、無意識の内に声の主へ拳を振るっていた。

はっきりしてなかった意識の中で放った拳は完全にレバーに入って、声の主を黙らせることに成功した。

声の主……ってか、黒ヘルもとい親父は、幽霊のくせして床を転げ回ってマジで痛がってる。



「イッテェーーッ!! 不意打ちか!? 意識不明のように見せ掛けて実は狙ってやがったな!?」

「い、いや、体が勝手に動いた。実際、今もちょっと意識が薄らいで……立てない」



朦朧とする意識は、軽く叩かれただけでも簡単に闇へと溺れてしまいそうなほど薄らいでいる。

親父はそんなことを気にせずに、転げ回りながら怒鳴りまくってる。



「なんだこの野郎ッ! 責任能力なしで無罪を勝ち取ろうってか!? そんな息子に育てた覚えはありませんッ!! お前はマザコ……」

「チェイサーッ!!」

「ンブッ!?」



親父の腹部に深くめり込む俺の肘。

気絶寸前の意識はどこへやら、俺の体は親父にフライングエルボーを食らわせていた。

左手を使った見事な技を食らったのに、目立ったダメージがないのは幽霊だからか、それともお袋との夫婦生活において超人的な耐久性に鍛えられたか……両者だな、うん。



「ゲホッ、ゴホッ……コノヤロ容赦ねぇなッ」

「テメェのおかげで覚めましたぜこのクソ親父」

「なに、そんなに『母親が好き』と言われるのが嫌か?」

「一回と言わずにあと四、五回死ぬか?」

「ハハハッ……ジョークだジョーク」



俺が立ち上がって拳を振り上げると、親父は両手を頭の後ろに回して無抵抗を示した。

俺も、無抵抗なやつをブン殴るほど腐っちゃいない。

仕方なく握った拳を解いて降ろすと、親父は溜め息混じりに上半身を立て、床にあぐらを掻く。

俺は周りを見回して、ここが我が家のリビングであることを確認する。



「確か、俺が術をかけられたのは道路だったはずだけど……」

「それは俺が運んだからだ。道路に人が倒れてたら、通報されて病院に直行だろうからな。お前、病院とか大嫌いだろ?」

「病院とかマジ勘弁」

「だろ?」



俺は背中に嫌な寒気を感じながら、苦笑いをする。

その寒気を振り払いながら、取り合えず報告をする。



「狂気はブン殴ってきた。んで……真壱兄ちゃんと話し合って、勝手に死のうとしたから勝手に助けた」

「そう、か」



行儀の悪い格好で俺の顔を見上げる親父は、安心したような、それでも悲しそうな顔をしていた。

そして、これから俺の言う言葉に対して構えてるようでもある……でも、こんなことで遠慮するほど、俺は甘くない。



「……クソ親父。俺になんか言うことあんだろ?」



俺は怒鳴ることなく至って冷静に、そして鋭く親父に言葉を投げ掛ける。

……今回の件は、俺の過去が改竄されていた。

俺の為を思っての行動だとしても、それを俺に隠してたことは明確で、俺はそれが許せない。

それは騙されたとか、そんなちっぽけな理由じゃなくて……真壱兄ちゃんの存在をこの世から消した事実を知ったからだ。



「……すまなかった」

「それは誰に対してだ?」

「お前と……真壱にだ」



親父は殆ど憔悴した様子で俺の問いに答えた。

……親父は親父なりに苦渋の選択をしていたんだろう。

疲れ切った表情の中に、どこかスッキリしたような表情をしていた。



「人体錬成だろうが魔界転生だろうが……もし、二人とも救える方法があれば、俺は迷わずそっちを選んでただろうさ。でも、俺ができたのは、肉体が半分以上残ってたお前の精神に、真壱の魂を移植してお前の精神破壊を防ぐ……そんな中途半端なことしかできねぇクソ親父だったんだよ」

「……おい」

「死んでからもシンと一緒に、二人を救う方法を探した。……けど、神に近い英霊でも聖人でもない俺達にできることは『自分達が幽霊として活動を維持する』ことと『自ら術を研究して編み出す』ことしかなかった」

「……ちょっと、シカトですかぁ?」

「でも……結局ダメな俺にできるのは『周囲から真壱に関わる記憶を封じる』ことで、お前の精神的ダメージを減らすぐらいだった……」

「無視ですかそーですか。珍しく真面目な話してんのは分かるけど、度を過ぎると心優しい真慈さんもブチキレれるぞ?」

「しかも、その結果真慈は狂気に目覚め、真壱はその狂気を取り込み狂気に塗り潰された……俺は結局なにも出来ないクソ野ろ……」

脳天頭突ココナッツクラッシュ♪」

「ゴカァッ!?」



人の話を聞かずに話し続ける親父にむかい、俺は自分の頭を親父の脳天に叩きつけた。

親父は脳天を押さえて崩れ落ちた。



「ッ!? 何すんだこのクソが!! 痛いだろうが!!」

「吠えるんじゃねぇよ」

「あぁ!? ナメた口きいてんじゃねぇぞ真慈ッ!!」



親父は崩れ落ちた姿勢から一瞬で立ち上がり、怒りに満ち溢れた表情で俺の胸ぐらを掴み上げた。

俺はその目を見て……悲しい気持ちになった。







「……そんな顔で喚くんじゃねぇよ。痛々しくて見てらんねぇだろうが」



俺の言葉を聞いた瞬間、親父はハッとした顔になった。そしてすぐにその顔をクシャクシャにした。

汚い泣き顔を見せる親父に対して、俺は親父に掴み上げられたままの胸ぐらに、ゆっくりと右手を添える。



「……あんたが俺達ことを必死に考えてたことぐらい、『俺達』は知ってる。だから、泣きながら懺悔なんざしてんじゃねぇよ」



俺が死のうと思った時も、俺だけじゃなく真壱兄ちゃんも生かすために、黒ヘルなんて被って赤の他人のフリして……



「夫婦揃って無茶苦茶で、馬鹿ばっかりやってるけど……俺は、アンタが親父でよかったと思う。真壱兄ちゃんだってそう思ってるに決まってる」



親父は男泣きを必死に堪えながら、俺から目線を逸らさない。

それに対するように、俺も意地でその泣きっ面を見続けながら口を開く。



「……アンタは息子から見ても馬鹿で馬鹿で仕方ない親父だ。女たらしの癖に、目障りなほどお袋ラブラブだったし、死んでからも目の前に現われやがって、目障りに拍車がかかりすぎてブン殴りたくなる。しかも、本当にブン殴ってもゴムパッキンのカビとか、世間に巣くう汚職級に生命力がありやがるから、殴るだけじゃ気が済まずにマジ殺してぇ。しかもこんなふざけた茶番劇に付き合わせやがって、百回殺しても殺したりねぇよ」



無尽蔵に浮かぶ親父への文句を口にしながら、俺は開いてる左手で拳を握り、親父の右頬にゆっくりと痛みがないように『殴る』。

これは俺が狂気と戦う前に、親父と交わした約束。

それを果たした今、俺は親父に向かって言葉を紡ぎ、気持ちを伝える。







「そんなアンタに……俺は助けられてんだよ。ウジウジしてねぇで黙って感謝されてろ」




……俺は親父を誇りに思ってる。

家族のために体張って働くだけでも十分なのに、この親父は化けてでるほど俺達のことを思ってくれてる……そんな親父の息子になれたのは、幸せなことだと思う。


俺の言葉を聞いた親父は、泣き顔を隠すように俺の胸ぐらから手を放して、俺に背を向けた。

鼻水をすする音やら、しゃくり上げる音が聞こえるけど……俺はそれを指摘せずに、自分の部屋に向かうために玄関に通じる扉に向かう。

そして、ドアノブに手を掛けた時、背中になにかが触れた。

俺の後ろにいるとしたら、親父しかいない。

多分、背中に当たってるのは親父の拳だろう。



「……俺だけ殴られんのは……不公平だろうが」

「確かにそうだな」



男泣き丸出しだろう親父に背を向けたまま、俺はドアを開けてリビングから出る。




「……テメェ達が息子でよかった」



ドアが閉まる瞬間、僅かな隙間から小さいながらも自身溢れる声が聞こえた。

突然、背後から胸をひと突きされたような感覚に、俺はゆっくりと胸に手を当てる。



「……最初からそれを言え、このクソ親父」



俺は一人呟いてから部屋に行き、ベッドに横たわって寝た。

見なくても分かる、今の自分の情けない顔を、誰にも見られたくなかったから……
















はてさて、ここ二ヵ月更新がままならない状況に陥っている夷神酒です。

読者の方々には更新が遅く、非常に悪いことをしていることは重々承知しております。

しかしながら、現在『ネタは尽きてないけど、書き方が分からない』という、非常に困ったスランプ状態にはまってしまい、中々書き出せない状況にあります(汗

なんとなく始めた執筆活動ですが、これほど辛いものとは……しかし、私は投げ出さずに書き続けたいと思います。




ちなみに、次回はいきなりトンで一ヶ月後の話……つまりは秦との戦いとなります。

この一ヵ月の中に『なにもおきなければ』、ノーマル黒ヘルエンドです。

後三、四話で本編は終了……フラグは特になし、どんでん返しもなしの、種も仕掛けもない内容になりそうです。



先が見据えやすい薄っぺらな話ですが、見放さないで頂きたいです。



では、また。



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