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SUICIDE42〜存在の聖譚曲(オラトリオ)〜








自分が誰に必要にされているかは、自分自身では分かりにくいものだ。










―――――――――――――――






……須千家真壱。

須千家の長男で俺の双子の兄貴。

俺が親父と同じ白髪なのに対して、兄貴……いや、真壱兄ちゃんはお袋と同じ黒髪で俺と同じ顔をしていた。

真壱兄ちゃんは、同い年……ましてや俺と双子とは思えないほどしっかりしてて、当時ワガママだった『オレ』を『兄』として面倒見てくれた。

俺はそんな真壱兄ちゃんが誇らしかったし、アホな親父や桁外れのお袋よりも、まず最初に真壱兄ちゃんへの憧れを抱いていた。



「……クソッ……訳分かんねぇよこんなこと……なんでこんなことになってやがんだよッ!!」



俺は疑問と憤りが入り交じった言葉を吐く。

……その真壱兄ちゃんは、今の今まで俺の記憶から消え去り、『狂気』と言う名で俺の目の前に力なく座り込んでいた。

なぜ、こんなことになってるのか全然分かんねぇし……何より、俺が真壱兄ちゃんのことを覚えてなかったことが腹立たしくて仕方ない。



――仕方ナイヨ。君ハ記憶ヲ封ジラレテイタンダカラ――



俺の頭に直接語り掛けてくる声……あぁ、この口調……今なら分かる……



「……でも、どんなことがあっても、忘れたくないことはあるだろ。なぁ……真壱兄ちゃん」

――ソノ呼ビ方……分カッタンダネ――

「そりゃ、分かるさ。俺をいざという時しか『真慈』と呼ばないクソ丁寧な口調……何年も忘れてたけど今ならハッきり分かる」

――君ハ口調ガ悪クナッタカナ――

「そのへらず口も変わんねぇよな……なにもかも思い出したさ」



戦う前から俺の脳に直接話し掛けてきたこの声は……真壱兄ちゃんの声だった。

俺がどんなに文句を言っても、最終的に真壱兄ちゃんに言い負かされてた。

それに逆ギレして殴りかかっても、いつも簡単にいなされた。

そして、俺が悔しくて泣くと、慰めてくれるのは涙の原因である真壱兄ちゃんだった……俺もガキの頃はバカやってたもんだ。

毎日同じことの繰り返し……でも、憧れだった真壱兄ちゃんと遊べることがガキの頃は楽しくて仕方なかった



……でも、その繰り返しは唐突に終わりを告げた。



それは親父とお袋が死んだ日……俺達家族は『四人』で俺が割った皿の代わりを買いに出かけた。

そして、その時は名前も知らない彩華が誘拐されている所に遭遇……誘拐犯の自爆までの流れは変わらない。

でも、今思えば『俺を親父がかばった』なら、俺は左半身を失うはずない……世界最強の主婦と肩を並べるあの親父が命を捨ててまで彩華と俺を庇ったなら、そんなヘマをするはずない。

俺が左半身を失ったても生きてた理由は、親父以外が俺を庇ったが、俺の全身を守り切れる程体格がよくなかった。

……ここまでくれば分かり切ったことだ。



「そう、思い出したさ……あんたはあの時俺を庇ったことも。そしてあんたが目の前で死んだこともなッ!!」

――……ゴメン、君ノコト守リ切レナクテ――

「俺はそんなこと聞きたかねぇンだよッ!! 『なんで庇った!?』なんて言わねぇから安心しやがれ。……だがな、なんで死んだあんたが俺の中にいる!? 狂気に成り下がってやがんだッ!?」



俺は、実体のない自分の兄に怒号をぶつける。

俺を庇った理由なんて『兄だから』の一言で済まされちまうのは明白……だが、俺を庇って爆風の衝撃を受け、ほぼ全身をグチャグチャに引き裂かれながら熱波で焼かれて……さながら焼き挽肉にされて死んでった真壱兄ちゃんが、なんで俺の中に生きてる理由がどう考えても分かんねぇ。

そして、なによりあの優しく強かった真壱兄ちゃんが殺戮と快楽に負けた存在……狂気になったことが俺には認められなかった。



――……簡単ナ話ダヨ――

「なに?」

――君ハ僕達ガ死ヌノヲ目ノ当タリ二シテ、『魂』ノ一部ガ抜ケ落チタ。欠ケタ魂ハ時ガ経ツト共二崩レテ、最後ニハ死ヌ……ソノ穴ヲ埋メルタメニ、父サンハ僕ノ魂ヲソコニ埋メ込ンダ――

「んなっ!? そんなふざけたこと……あの親父ならやりかねないな」



あの親父の行動は予測不能。

今思えば生前の親父と黒ヘルの調子は完全に一緒だった。

そんな親父ならそんなことやっても……いや、おかしいが、そのおかしいことを飄々とやってのけるのがあの親父だ。



――ソシテ父サンハ君ヤ周囲ノ記憶カラ僕ノ存在ヲ消シ、母サンハ禁術ヲ使ッテ君ガ死ヌコトヲ防イダ……ワザワザ戦ウ意味ハ分カラナカッタケドネ。ソレカラ、僕ハ君ノ中デ生キルコトヲ決メタ。デモ、ソウ簡単ニハイカナカッタ――

「……狂気か」

――ソウ、君カラ生マレル悲観、苦痛、哀感、ソシテ絶望……君ガ全テヲ受ケタラ自ラ命ヲ絶ツ感情ヲ、僕ハ出来ル限リ受ケ止メタ。君ト一緒二悲観シテ苦痛ヲ味ワイ哀感ヲ受ケタ……ソレヲ続ケテルウチニ、イツノ間ニカ僕ハ絶望に快楽ヲ得ル狂気ニナッテタ――

「なんでそんなことした!! 俺の感情は俺の問題だろ!? なのになんで……」

――君ガ死ネバ僕モ死ヌ……ソレハ、君ガ死ナナケレバ僕モ死ネナイトイウコト。母サンノ計ライデ君ハ死ナナイ……ダッタラ、僕ハ君ノ苦シミヲ和ラゲル事ニシタ――



声を荒げる俺とは対象的に、真壱兄ちゃんは酷く落ち着いていた。

まるで何かから解放されて安心しているように……




――デモ……ソレモ今日デ終ワリ――




真壱兄ちゃんの声が脳に響くと同時に、目を離していた狂気の体が異様な光を放ち始めた。

金色のやわらかい光……

その光に包まれた狂気の体は、まるで夏夜に舞う蛍のような儚い光の粒子を飛ばす。

そして……両足から徐々に光に飲まれていき、光に飲まれた体も粒子と化す。



「なにが起こってんだ!?」

――君ガ死ネバ僕ハ死ヌ。ソレヲ裏返セバ、僕ハ君ニヨッテ生死ガ決マル……ツマリ君ダケガ僕ヲ殺セル――

「ッ!? それって!!」

――ソウ……君ハ狂気二打チ勝ツ強イ心ヲ持ッテイル。苦境ノ中デモ助ケテクレル仲間ガイル。魂ノ穴ハ十分埋マッタカラ、魂ガ崩レル心配ハナイ……モウ僕ハ用済ミナンダヨ――



真壱兄ちゃんの声は、絶対的事実を叩きつけるように冷たく俺の中に響く。

けど……俺はその事実を頭から否定する。



「……なんだよそのふざけた理論」

――理論ジャナイ。事実ダヨ――

「んなことは問題じゃねぇんだよッ!! 俺が言ってんのはテメェの考え方がふざけてるってことだ!!」



俺は光に変わりつつある狂気に近づき、その胸倉を掴み上げてその顔を睨みつける。

その体は生気が全く感じられずだらんとし、顔は人形のように固く、死んだ魚のような目をしていた。



……この中にいつも正しかった真壱兄ちゃんがいる。


……この中にカスの考え方しか持たないクソ兄貴がいる。


そして……この中に過去の俺がいる。



「自分が用済みだと? ッざけんな!! アンタはモノじゃねぇだろ!? 個人としての意志はねぇのかッ!!」

――ナニヲ言ッテルンダイ。僕ハ君ノ感情ナンダカラ意志ナンテナイヨ――



……あぁ、今の真壱兄ちゃんは死にたがってた頃の俺だ。

世界を見限って、何にも見えてなかった俺自身の生き写し。

真壱兄ちゃんが過去の俺なら……ここで俺が修正しなきゃならない。



「はぁ? バカじゃねぇの? 俺の感情がそんな敬語なんて使うはずねぇだろ。アンタは俺の意志なんて関係なく、勝手に動いて発言してやがる。それはアンタが個人である証拠じゃねぇか」

――……ソレハコジツケダネヨ――

「こじつけはアンタの方だろうが。アンタは勝手になにもかも背負いやがって、勝手にいっぱいいっぱいになって、勝手に疲れて、勝手に諦めやがる。しかも、『もう大丈夫』なんて言って自分が消えることで、目を逸らしきれねぇ現実から逃げようとしやがる。これをこじつけと言わねぇでなんて言うんだよ?」

――全ク……クチガ巧クナッタネ。デモ、君二僕ハ否定デキナイハズ。ダッテ君モ死ヲ求メテタンダカラ。僕ノ気持チハ君自身ガヨク分カッテルハズダヨ――

「……」



真壱兄ちゃんの言ってることは事実だ。

過去の俺は死を求めていた。

真壱兄ちゃんは俺の負の感情を請け負って狂気になった……つまり、俺以上に死を求めている。

けど、自分では死ねないためさらに絶望を重ねた。

そんな、真壱兄ちゃんの気持ちを、俺は痛いほど分かってる。

ここで俺に……真壱兄ちゃんを苦しめた張本人である俺に止める権利があるのか?


そう考えてる間にも、狂気の体は足から徐々に光の粒子になって空に舞い上がりながら儚く消え去り、ついには掴んでいた胸倉まで光に飲み込まれていく。



――狂気ハ僕ガ持ッテイクカラ、君ハ僕ノタメニ強ク生キレバイイ――



……いや、違う。

俺が真壱兄ちゃんのために出来ることはそんなことじゃない。

その絶望が分かる俺だから止めるんじゃないのか?


掴んでいた胸倉が粒子と化し、俺の手から狂気の頭が滑り落ちていく。

作り物のように生気の無かった顔が、落下しながら優しく微笑んだ気がした。

そして……血の気のない唇がゆっくりと動き言葉を紡ぐ。



《色々アッタケド……サヨナラ、真慈》



最期にふさわしい言葉。

別れにふさわしい言葉。



自分の行き先を知った言葉を最期に、狂気の頭は落下しながら光に飲み込まれる。

その光は床に着く前に、残った頭部を全て粒子とする勢いだ。

全てが粒子となり空に舞散ったとき、狂気は消える。



…………けど、俺は認めねぇ。



自然落下する狂気の頭が、一閃で地面に叩きつけられる。

その一閃は眉間のド真ん中を貫いた白刃の突き。

『斬る』ことの出来ないはずの刀は、デタラメな力で眉間から後頭部を貫き、真っ白な地面に捻込まれていた。

突きを放ったのは……もちろん俺だ。



《ナニヲ……》

「一寸黙っとけ」



俺は白刃の柄を両手で握り締め、万物創生に必要な霊力を流し込む。

しかし、狂気との戦いで俺の霊力は殆どすっからかん……でも、やるしかない。

俺は創生する……『真壱兄ちゃん』の存在を。



「グッ……このクソッ!!」



戦闘に殆ど使いきってしまった力を限界を超えて捻り出してるため、代償となる負荷が直接体中に鈍痛として広がる。

そうして白刃は俺の力を対価とし、光となって空に舞い消えた狂気の体を創生する。



《真慈!? 僕ハソンナコト望ンデナイ! ソレニ、ソンナコトシタラ君ノ魂二傷ガ……》

「黙ってろッ!! これは俺のお節介で自分勝手な行動だ!! 文句はあとで聞いてやるッ!!」



クソッ……口を開くだけで喉の奥から深紅の液体が零れ出しやがる。

集中しないとしっかりと創生できない……俺は五感全てを遮断して、創生に全身全霊をかける。



とくとくとくとくとく……



聴覚も遮断したはずなのに、自分の心音がいやにハッキリ体に響く。

生きている証拠……真壱兄ちゃんが俺の魂の一部なら、この心音は真壱兄ちゃんも一緒。



……俺は子供の頃から真壱兄ちゃんに助けられてばっかりで、俺自身がなにかをしてあげたためしがない。


今回も俺は、死を望んでいた真壱兄ちゃんを死なせなかった……ある意味最低な兄不孝な弟だ。


なら、兄不孝なら兄不孝なりにやってやるさ。


俺が真壱兄ちゃんを必要とするから、狂気は俺が必死に押さえ込むから。


寂しいなら、俺が一緒にいる。

苦しいなら、俺が半分受け取ってやる。

悲しいなら、俺が原因をブッ壊してやる。

忘れられたなら、俺が一生記憶に刻み込んでやる。

存在理由が見つからないなら、俺が理由になってやる。


俺は……俺は……アンタに生きてほしいんだよッ!!


だから……







「――勝手に死ぬんじゃねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええ――ッ!!!!」














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『お暇書き!!』

投稿形式‐連載

ジャンル‐コメディ

作者‐doubter様

神酒の主観‐ほのぼの暇人系コメディ

是非とも御覧ください。

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doubter様からの要望により、私の後書きに宣伝させていただきました♪


これを期に、是非とも自らの作品を宣伝してほしい方は、何らかの形で私に連絡してください。

それほど有名ではないため効果は少ないと思われますが、後書きを中心として無償、無利息、無賃金で宣伝させていただきます!!

ミキヱビスマーケティングの提供でお送りしましたぁ。




……はてさて、色々忙しく執筆時間が取れないでうだうだしてる神酒です。



取り合えず今回で狂気(真壱)との戦いは終了。現実世界に戻ります。

遅いネタバレですが、麻依子に真慈の狂気が効かないのは、過去に真壱と仲良くしてた事実により、狂気(真壱)に恐怖を感じないことにあります。

流れとしては、私のようにうだうだしてても仕方ないので、現実世界でフラグヒロイン達と一通り行動→お袋との戦闘→コメディエンドとなります。



そして言っておきます……VS狂気が最大の戦いで、お袋の戦闘は意外と呆気ないです。


ではまた!!(書き逃げ!!)



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