SUICIDE41〜真実の奏鳴曲(ソナタ)〜
後書きに謝罪文面ありm(__)m
君は自分を否定し、自分を追い詰め、自分を殺す
だから、僕は君を認めてあげる、貴方を解き放ってあげる、貴方を救ってあげる
だから……生きて
―――――――――――――――
おれ、は……かつ?
……って、何バカな事考えてんだ俺は。
右拳握り潰されて、左腕ブッタ斬られて、両足飲み込まれて、胸突き破られた……『ただそれだけのこと』じゃねぇかよ。
俺はまだ折れてねぇ、まだ負けたわけじゃねぇ。
《ヒャッーハハハッ!! 勝チダァ……俺ノ勝チダァァアアア!!》
狂気は俺が反撃しないことで、勝利を確信したらしい。
……不意討ちのチャンスだけど、そんなの狂気に通用しない。
《ッヒッヒィ!! ヤット!! ヤットコノ渇キカラ解放サレル!! 血デ潤オワセル!! 俺トイウ存在ヲォ!!》
「んなこと、お前には一生無理だな」
《……アァン?》
俺の声に気づいた狂気は笑いを止め、冷たい目線を俺に突き刺す。
俺はその目線を真っ向から受ける。
まるでさっきまでの狂気のように……笑いながら。
「テメェの目の前にいる男を、誰だと思ってやがる」
俺は拳を握り潰されている右手を、無理矢理引っ張る。
ブチブチブチッと、筋肉の繊維や軟骨が千切れる音を聞きながら、俺は右拳と右腕を引き千切る。
そのささくれた右腕の傷口に、握り潰されたのと同じ右拳を創り出す。
……しかし、このまま拳を突き出してもまた握り潰されるのが関の山。
「今の今までテメェが飲み込めなかった男だ。そしてこれからもテメェは俺を飲み込むことなんてできやしねぇ」
だから、俺はその拳を背中に回し、貫通している狂気の右腕をガッシリ掴む。
その腕を折ることも押し返すこともしない……引っ張る。
「グァッ!?」
《……血迷ッタカ?》
狂気の腕を引っ張ったことで、その腕は余計に俺の体を深く突き刺す。
俺の口から溢れ出る赤黒い吐血が白い床に飛び散る音を聞きながら、フッと意識が飛びそうになる。
もう、どこからどう見たって死に損ない状態だ……でも、これでいい。
これで『狂気との距離』か鼻先が触れるほど近づいた。
――ほぼゼロ距離の超接近戦において、『振るう』や『凪ぐ』といった曲線軌道を描く攻撃は、力が分散しその威力を発揮できない。
この場合、効果的な攻撃方法の一つとして上げられるのは……『突く』。
それはただ、一点に向かって直線状に力を打ち出せばいい、単純かつ軌道が読まれやすい基本攻撃。
しかし、竹刀よる『突き』は、剣道で一定年齢まで禁止技とされている程危険であり、打ち出す力が強ければ強いほど、打ち出すものが硬ければ硬いほど、打ち出す業が鋭ければ鋭いほど驚異的な力を発揮し、目前の敵を突き破る。
そして、俺が現状で出来る突きは一つのみ。
それは人体の中で一番硬い部分の前頭部を使った、喧嘩にも実用される超接近戦技。
すなわち……頭突き。
「ハァァァァァアアアアアッ!!」
《ッ!!》
俺は頭を後ろに振り絞る。
その様子を察したのか、狂気は空いた左手を防御にまわす。
けど……遅い!!
「グッ!!」
《ガッ!?》
頭突きを『打ち込んだ』せいで、俺自身もダメージを受けて視界が白黒する。
俺は視界の回復を待たず、感覚だけで自身の右腕を正面にいるはずの狂気に向けて伸ばし……掴む。
そして、狂気を掴んだ手と行動不能になった両脚の靴底に『ある物』を作り出す。
それは超危険薬品で作られた、たった一握りの超危険爆発物。
しかも、着火済み。
「フッ飛べッ!!」
《――ッ!?》
鼓膜を破るような爆発音。
同時に体を吹き飛ばす衝撃波。
その衝撃波に俺の体が宙に舞う。
狂気の腕が俺の胸からズルリと抜け、噎せ返るような生暖かい鉄の臭いがこの空間全体に充満する。
輝災禍鈴の効力で痛みは感じないが、体中がボロ雑巾のようになり、両足と右腕はただの肉片となって吹っ飛んだ。
これでもう俺の手足はない……でも、これでいい。
「ワリィが一気に片をつけるぞ。『創生』ッ!!」
俺の声に答えるように、頭部に突き刺さってる白刃から特別な力が流れ出し、その力は俺の全身を駆け巡る。
そしてその力によって、両手足や胸部の傷口から細胞が一つ一つ創り出され、骨や血肉、鋼鉄製の部品を構成していく。
動作確認なんて必要ない、その時に無茶苦茶でも動けば十分。
俺は創生された足で着地した瞬間、さっきの爆発による爆煙が立ち込めてる方へと走る。
そして、爆煙の中でも感知できる禍々しい殺気に向かい、迷いなく右拳を放つ。
「フッ!!」
《グガッ!?》
放たれた拳は見事に狂気の腹部へと『打ち込まれる』。
これ以上の追撃は返り討ちにされる危険性があるが、俺は容赦なく追撃の拳を放つ。
そして俺はひたすら『打ち込む』。
滅亡への『恐怖』を
戦闘への『疑心』を
敗北への『絶望』を
狂気に拳が触れた瞬間、その心に『創生』される戦闘終結への階段。
ひたすら、一方的に殴る。
反撃を許さず、回避を許さず、ただ殴って殴って殴り続ける。
防御もへったくれもない……狙いをつける暇もなく、硬く握り締めた拳を振り回す。
狂気の頬に肩に胸に腹に、拳の言葉が当たれば当たるほど、狂気の心には恐怖が創生れる。
狂気の心に生まれた疑心は、あっという間にその心を埋め尽くし、戦う意志を飲み込んでいく。
そして……ついに狂気の膝が地に着いた。
「はぁ…はぁ………」
俺は息を切らしながら、振り回していた拳を止める。
右拳は皮膚が剥がれ血が滲み、左拳は変形していて開くことが出来なくなっていた。
それに……力を使いすぎた。
俺は自身の頭を貫通してる白刀の柄をなんとか開く右手で掴んで、ゆっくりと抜き取る。
刀を抜いた跡は創生によって瞬時に血肉が創られ、埋められていく。
……『神』の創った最高傑作……たとえこの空間で作り出した模造品だとしても、人がその力を行使するにはそれなりに負担があるらしい。
「ふぅ……ったく、クソ狂気が……なめんじゃねぇよ」
吐血で口の周りにこびりついた血を右手で拭いながら、俺は目の前の狂気を見る。
俺の拳をフルで受けたその姿は、乱れた黒髪が覆い被さって傷だらけの体を隠れていた。
そして、見るからに戦意喪失……いや、動くことさえ億劫になっている。
……さっきまで狂った笑みを浮かべ暴れ回っていた狂気の姿は、今はもうなかった。
――君ハ勝ッタ……ダカラ、君ハシル必要ガアル――
何度も俺の頭に響く声…………知る? なんのことだ?
てか……お前は誰だ?
――ソレモ知ルコト……二人ガ隠シタコト……ソシテ真慈ノ宿命――
声の主は意味の分からないことを言う。
てか、俺はこれからどうすりゃいいんだ?
――……黒イ刃ヲ持ッテ――
クソッ……肝心な事は言わねぇくせに、命令ばっかりしやがって。
けど、俺はなにすればいいか分かんねぇし、こいつのおかげで狂気に勝てたと言っても過言じゃない……なんか癪だが、俺はその声に従うことにする。
「さて…………って、」
狂気と少し離れた所に、鎖鋸が規格外のガイドバーの殆どを地面に突き刺していた。
その性質上『斬る』より『抉る』を得意とするこの鎖鋸が、こんなにスッパリ地面に生えているのは、『万物破壊』の為せる業か……
俺は取り合えず白刀の柄を開かない左拳にねじ込んでから、この最悪兵器の持ち手を取り、この空間に作り出された時の形……抜き身の黒刀へと形状を変化させる。
さて……この後なにをすれば?
――……破壊スルンダ……記憶ヲ封印スル鎖ヲ――
……は?
記憶? 封印? ナンノコトデスカぁ?
――万物ヲ破壊スル刀ニ念ジテ……『記憶ヲ束縛セシ黄金ノ鎖ヲ破壊セヨ』ト――
……もう文句は言わねぇ。
俺は目を閉じ、右手に持った黒刀念じる……『記憶を束縛せし黄金の鎖を破壊せよ』。
呼吸を整えいらない感覚をシャットアウト……ただひたすら念じることに集中する。
――自分ヲ貫ケ!!――
迷いはない。
俺は声に反応して、手にした黒刀を自らの胸に突き刺す。
黒刀は肉体を貫通する……しかし、胸に痛みはないし傷もない。
頭の中でカチャリと細い鉄が当たる音がして…………俺の心がバキンと鳴った。
……溢れだす
『……真慈』
忘れていた記憶が
『僕が兄で君が弟だ。だから、僕が君を守ってあげる』
無くしていた思い出が
『ほら、男の子は泣いちゃいけないって母さんが言ってたろ?』
消えていた存在が
『大丈夫、君ならできる。だって君は僕の弟だから』
見逃していた矛盾が
『ほら、麻依子ちゃんにゴメンなさいしよ? 僕も一緒に行くからね』
感じていた違和感の答えが
『え? なんで僕が君のこと名前で呼ばないって?』
欠けていた断片が
『それは君が二番はイヤって言ったからじゃないか』
見失った過去が
『僕が一で君が二。だから僕が君の……真慈のお兄ちゃんなんだろ?』
……流れ込んでくる。
濁流が今まで俺が『過去』としてきたものを飲み込んでいく。
「……忘れてた……そして思い出した」
俺は混乱しそうな事実に対して、冷静に胸に刺した黒刀を抜いてから、狂気の目の前に向かう。
覇気も殺気も感じない……まるで脱け殻のように跪いたままびくともしない。
「確かに……俺が知らなきゃならないことだよな」
そして……俺は狂気の名前を呼ぶ。
後悔に唇を噛み千切る寸前まで噛んでから、さっきまで本気の殺し合いをしていた敵の真名を……
右拳を鬱血寸前まで堅く握り締めながら、俺のせいで狂気となってしまった、俺の大切な家族の名前を……
「なんで……なんでこんな姿なんだよ……真壱兄ちゃん」
アーアーアー、テステステス、ただ今マイクのテスト中……
まずは、私事による勝手な長期連載中止、誠に申し訳ありませんでした。
私の作品を読んで頂いている読者の方々には頭が上がりません
二ヵ月以上の更新を延期していた『死にたくても死ねない』ですが、作者の復活により再開させていただきます。
これからも見捨てずにこの作品を読んでください。切に、切にお願いします。