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SUICIDE39〜運命の狂想曲(カプリッチオ)〜

この選択が彼の運命を左右する……





貴方の存在が死ぬのは何時?


貴方が生きる事を諦めた時?

貴方の呼吸が止まった時?

貴方が死を受け入れた時?

貴方の肉体が灰になった時?


否、肉体の死は貴方の存在の死ではない。

貴方の存在が死ぬのは、この世に生きている人達の記憶から貴方が居なくなった時。









―――――――――――――――



















「このクソォ〜、あんなとこで術掛けるんじゃなかったぜ」



みんなのアイドル黒ヘルこと俺は、我が家で……いや、『元』我が家のリビングで後悔していた。


葬列行脚そうれつあんぎゃ』は俺が作り出した空間創造術式。

元々の術は『閉鎖空間による魂の半永久的捕獲』と『時間枠の自由移動』、『霊力増加』等の効果を持つ術式だ。


その術式を解体、再構築を繰り返し作り上げた特殊な術で、『生命体内での空間展開』と『超硬度閉鎖空間による魂の半永久的確保』を主体としている。

その代わり、魂と人体の間に壁を作るようなもんだから、術をかけた瞬間に肉体は死んだように動かなくなる。

つまり……



「無理矢理な術式でバカ見てぇに霊力使ってるってのに」



俺の目の前には、真慈がまるで人形のように椅子に座っている。

さすがに路上に長時間放置すると、死体と間違えられて警察に通報されかねないからな。

そうなると後々厄介になるから、俺が汗水垂らして必死にこの家まで運んだんだぜ。

……いや、実は瞬間移動ワープしたから一瞬だったけど……無駄な霊力を使っちまった。



「これからが一番霊力使うってーのによ」



俺はため息を吐きながら、手に持った鶴嘴を両手で握り直して振り上げる。

あー、これで真慈の意識が戻ったらスンゲー殴られるんだろうなぁ。



「……まぁ、殴られるだけで済むならいいんだけどな」



そう、今から発動する術は『真慈が戻ってこなかった場合の保険』。

信じたくはないが、もしそうなった時は……俺が殴られるぐらいじゃ済まない。

下手すれば、止まることを知らない殺人兵器となりかねないのだ。



「――我知らず、我認めず、我想う。我、この隻影せきえいを知らぬ、この意味を認めぬ、この存在に想ふ……悠久ゆうきゅうに眠れ」



言葉を一言紡ぐたび、振り上げた鶴嘴は言葉から生まれた幾千もの細かい黄金の鎖を纏う。

その黄金の鎖が鶴嘴を全体を覆った瞬間、俺は鶴嘴を目の前へと振り下ろす。

その先には……魂と肉体が分離され、微動だにしない真慈。



「天上天下唯我独尊ッ!! 万物連鎖封禁術式……罪滅神枷ざいめつじんかッ!!」



振り下ろした瞬間、黄金の鎖が鶴嘴から解き放たれ、その一本一本が真慈の体に巻きつき、拘束していく。

そして全身に巻きついた鎖は、真慈の体に溶け込むように色を無くし、最後には見えなくなった。

ふぅ、これでオッケー……っ!?



「クッ……霊力切れなんて何年ぶりだコンチキショー」



いきなり体から力が抜けて、俺はその場に膝を折る羽目になった。。



……この術式は殺人的な霊力消費と引き換えに『形無き鎖で万物を封じる』ことが出来る。

もし、真慈が喰われた場合は……俺がこの術式で肉体ごと封じる。

自分の息子が人殺しするとこなんて、どんな親も見たくねぇはずだ。



「……あーあ、こんなにダリーのは六年ぶりだ」



人より膨大な霊力を持ってる俺でも、無理矢理構築した術式+殺人的霊力消費する術を休みなく発動するのは疲れる。

俺は立ち上がるのも面倒になって、その場に天井を仰ぎながら倒れこんだ。



「……そうか六年ぶり、か」



ふと、自分で言った一つの言葉を繰り返す。

……六年前、俺は罪滅神枷これを発動した。

その時は今回とは違って、形の無いものに対してだった。



それは『記憶』。



術式の対象者は沢山いた。

麻依子ちゃんや眼帯ねーちゃん、真慈もその対象だった。

その何百人って人達は、今でも無形の鎖で『記憶』を封じられている。


それは俺と秦の身勝手で、ねじ曲げてしまった事実。

両方を失いかけた俺達が、片方を救うために犯した罪。

そして、あの切なる願いを聞き入れたがために、起きてしまった狂い。


そして今、俺達が目を逸らし続けてきた事実が……俺の手の届かない所で歯車を回し始めたッ!!




「クソッ……クソクソクソクソクソクソォォォオオオオオオオッ!!」



歯痒さと悔しさに飲み込まれた俺は拳を握り、その拳を床に叩きつける。

しかし、俺は幽霊。

音も衝撃も起こさず、俺の拳はただ床をすり抜けるだけ。


なにもできない……それがこんなに悔しいこととは思わなかった。



「ごめんな……■■」



俺はこの世に存在しない名前を口にしながら、血が滲むほど下唇を噛む。

ただ、生臭い錆の味もしない無味の血を滲ませながら、真慈の無事を祈るしかなかった。
















―――――――――――――――




















《キャヒィィイイイッ!! 切断! 肉塊! 細切レ! ミンチダァ!!》



狂気が振り下ろす禍々(まがまが)しい漆黒の鎖鋸チェーンソー

その咆哮は空間さえも破壊し尽くしそうな殺気を放つ。



「ッタク! その汚ねぇ口開くんじゃねぇ!!」



俺はその軌道上に、純白の籠手ガントレットを装着した右拳を突き出す。

力を温存するために、無駄な創生はしない。



「うぉらっ!!」

《キャヒッ!!》



二つの神器が接触する寸前に強大な力がぶつかり合い……そして拒否反応の爆発。

その爆風を利用し、長距離バッグステップで狂気の間合いから外れる。



「クソッ……」

《ヒャヒャヒャヒャッ!! ソンナ防一戦ジャ、オガクズニナッチマウゼェ!?》



狂気は鎖鋸を唸らせながら、フラフラと動き回る。

……その脱力な動きのわりに、隙がまったく無い。

ったく……さっきからこの繰り返しだ。

俺が隙を見極めてる最中に、痺れを切らした狂気からの攻撃。そして俺が防御しながら距離を取って仕切り直し。


あのバカデケェ鎖鋸を軽々と振り回しやがって……間合いが広すぎる。

間合い外からの遠距離攻撃は、鎖鋸の『万物破壊』によって無効化。

間合いに入っちまう中近距離攻撃は、入った瞬間に迫ってくる鎖鋸を防ぐのに精一杯。

この籠手を銃や剣に変えても、状況は変わりそうにない。


クソッ、こんなんじゃ埒が開かねぇ……どうすりゃいいんだ。




――……シンジ……――




……こんな時になんだ?

俺は勿論、狂気でもない……誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

それも、頭に直接語り掛けるような少年の声……



《オイオイ、ボケーットシテルト殺サレチマウゼ?》



突然左側から聞こえる声……

周囲にうっすらと漂う殺気。

声に注意を奪われ狂気の接近を許した!?

鎖鋸のエンジン音がしない……エンジン止めやがったか。

この立ち位置じゃ右拳での防御は間に合わない。

無理に防御しようとすれば、爆発の衝撃に対応体勢が取れず、右腕が体から吹き飛ぶ。



「このッ!!」



俺は防御を断念し、右拳を地面に向ける。

そして、右拳の籠手から瞬時に灯台のような特大の鉄柱を創生する。

その鉄柱は下に伸びてすぐ地面につき……今度は俺を上へと押し上げる。



《クハァーッ!! サスガ相棒、機転ガキクゥ!!》



狂気の感嘆の声を無視して、俺は力の配分なんて考えずに鉄柱を創生し続け、上空へと回避する。

どう降りるかは後でいい、今は狂気ヤツの攻撃範囲から逃げるのが先だ!!




――…ダメ……逃ゲ切レナイ――




再び頭に響く少年の声。

なに言ってやがる、このまま逃げ切ればあの鎖鋸は届かない……



《デモナァ……最終安全装置解除コード、ヘルヘイム……発動ォ!! 煉獄焔砲グニパヘリルッ!!!》



まさかと思い狂気のいる下の方を見ると、そこには漆黒の髑髏がこっちに大口を開けていた。

その状態からして、既に射撃指揮ロックオンされている!?



《甘インダヨナァ……クヒッ》



ヤバいッ!! 右腕で創生を止めて……いや、間に合わないッ!!

この状態だと、どうやっても避けきれねぇ!!

直撃を免れるためには……



「一か八かッ……最終安全装置解除コードヘルヘイム!! 発動! 煉獄焔砲グニパヘリル!!」

《遅インダヨォ!! ファイアァァァアアアッ!!》



狂気の砲弾が発射されると同時に、俺も左腕を砲身に変形、発射口の髑髏を下に向ける。

高速で迫り来る砲弾。

その弾道を見極め……いや、そんな時間はない!!



「吹ッ飛べッ!!」



俺は一か八かの大博打で、下に向かって砲弾を撃ち出す。

これで撃ち落とさなきゃ大痛手……へたすりゃ死ぬ。










二つの砲弾は擦れるようにぶつかって…………何事もないように擦れ違う。

そして俺の砲身に砲弾が擦れるようにぶつかって………爆発。



「グガッ!?」

《当ッタリィ♪》



俺は急いで鉄柱の創生を中止し、追撃を防ぐためにその鉄柱の上に乗る。

そして、運悪く砲撃が着弾した自分の状況を確認する。


……うわ、最悪だ。砲身になってた左腕は完全に大破して、肩の根元から赤黒い血が溢れだしてやがる。

しかも、左腹の一部も爆発の威力で抉り取られて、各部でショートの火花が散っている。

外傷はそれほどじゃないが、左足も調子悪い。

輝災禍鈴ブリーキンダ・ベルの効果は後二、三分……とても戦える状況じゃねぇな。




――諦メチャダメダヨ――




さっきから脳ミソに話し掛けてくるこの声はなんだ?

いったい誰だ?




――真慈、勝ツンダ――




分かってるッつーの。

だから、今勝つ方法考えてるんだろうが。

ガキが邪魔すんな。

この不利な状況から戦局を引っ繰り返すにはどうすりゃいい……

まともに使えるのは右拳と右足のみ、時間も短い。

……このクソッ! こんな体で狂気を出し抜く方法なんて、全然思いつけねぇ。




――ソンナノ簡単ダヨ。ホラ、創生乃祝福リジェ・ル・レナシスヲ剣二戻シテ――




「んなこと…って!?」



信じられない……

俺は何も念じてない……なのに、俺の右手に装着された籠手は、最初に手にした一振りの白刃に戻って、俺の右手に納まっていた。

いったいなんなんだ?




――サァ……ソノ剣デ自分ノ頭ヲ貫イテ――




……いや、フザケんじゃねぇ。

頭貫けって、完全に自殺行為じゃねぇか。

いくら斬れない刀だからって、鉄パイプ頭に突き刺せば死ぬのと一緒だぞ?




――大丈夫、僕ヲ信ジテ――




あぁウゼェ。

俺はお前の姿も見えねぇ顔も知れねぇ、声も聞いたことねぇ。

そんなヤツ信じるわけねぇよ。




――デモ、早クシナイト……――




「ッ!?」



突然、足元がぐらつく。

落下しないようにしがみつきながら下を覗き込むと、狂気が根元から鉄柱を切り倒そうと、鉄柱に鎖鋸を押し当てていた。

その鎖鋸も、唸り声を上げながら易々と特大鉄柱を斬っていく。




――コノママ落トサレチャタラ、真慈死ンジャウヨ?――




……この声の言う通り、右手足しかまともに動かない状況で落とされたら、まともな着地は出来ない。

それに着地に成功しても、今度は狂気からの襲撃が待っている。

左半身を負傷してまともに戦えない俺が、狂気ヤツに勝てる確率は極めて低い。




――サァ、早ク――




しかし、この声の主が分からない限り、完全に信用は出来ない。

それに、頭に白刃コレをブッ刺す意味が分からねぇ。


……タイムリミットは、俺に深く考える時間を与えず、刻々とその針を進めていく。



「……迷ってても仕方ねぇな」



そして、俺は決めた。

一六勝負、長か半か、やってやろうじゃねぇか。










……この時、俺は何の確証もなく選択した。

この選択が俺の運命を大きく左右するとも知らずに……











皆さんこんにちは。

最近適性学科を調べるテストをして、『商船学』(この学科がある大学は日本に三校しかない)の適性が奇跡の85%以上(それ以上の目盛りがなかった。つまりMAX)だった、夷神酒です。



はてさて、今回の話は真慈の選択が物語を左右します。


『声の誘惑を振り切り、自力で狂気に挑む』

『声の言う通りに、頭に刀をプッ刺す』



この二つのどちらかを選ぶと物語は分離し、愉快なバッドエンドストーリーが幕を開けます。(次の更新はバッドエンドじゃないほうを選択した場合です)

『エッ、バッドエンドって母親との戦いからじゃないの?』と思った方もいるかもしれませんね。

しかし、真慈にとっての本当のバッドエンドは『自分の死』ではありません。

本当のバッドエンドは……既に知ってる方もいらっしゃいますが、ここはあえて言わないでおきましょう。

なので、バッドエンドの話が投稿された場合は『あ、この話からの分岐だったっけ』と、思い出してください。



あと、各フラグメントは現在も続行中で、人気によって書く順番が変わります。

私は評価や感想、メッセージに『〇〇がいい』的なコメントが書いてあれば、投票者が重複しても投票に加算します。(一度のコメントで複数投票もOK)


その算出方法だと現在は、一位麻衣子、二位麗花、三位彩華、四位小夜の順になっております。

一位はブッちぎりですが、二位以下はなかなか接戦です。

さらに、この四人の間にバッドエンドも入りますので、人気下位のエンドは随分遅くなってしまいます。

『〇〇のエンドが早く見たい』と言う方。ぜひ、感想やメッセージ(評価だと点数稼ぎの為みたいなので……)でご投票を!!



それでは、また。




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