SUICIDE36〜帰れる場所、帰らなきゃならない場所、帰る場所〜
前回、前々回、そして今回の後書きをぜひお読みください(願
生者は『死』を受け入れて天空に帰る。
死者は『生』を得ることで大地に帰る。
これが輪廻の根源
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親父との会話の途中で表れた小夜。
「なぁ、小夜……」
「ヤだ」
現在、俺はその小夜に……つまり『ヘルの休息』(参照)状態で拘束されていた。
『あぁ、そんなモンあったなぁ』とか思ったそこのあなた!!
実は見えない所で一週間に二、三回は行われてるんですよッ!!
……と、言っても、ここまで離れることを拒否されるのは初めてだけどな。
「なぁ、小夜。そろそろ離してくれな……」
「ヤだ」
さっきからこの会話を何度続けてるだろうか……
完全に取りつく島もない小夜。
てか、最後までしゃべらせろ!!
「ほら、お前の好きなクッキー焼いてやるから」
「いらない」
「んじゃ、シフォンケーキ」
「いらない」
「……チーズタルト」
「いらない」
「コ〇ラのマーチ」
「…………いらない」
うおおぉぉぉぉ!!
〇ッテの定番菓子に心が揺らいだ!?
……でも、ケーキやタルトは作れても、さすがにコ〇ラのマーチは無理だわ。
好物で釣れないなら……
「そんなにワガママだと、夕飯にグリンピース入れるぞ?」
「!?」
後ろから抱きつかれてるから小夜の顔は見えないけど、俺の両脇に通された腕からビクッと反応が伝わる。
「……」
完全に沈黙
更にギュッと抱き締められる。
「……むぅ」
唸る。
手がソワソワと動く。
「……」
更に沈黙。
腕の力が緩む。
うしッ! このままいけば、離してくれる!
俺は勝……
「……………………いい。シン、どこにも行かないなら」
……てませんでしたぁぁぁぁ。
それどころか、小夜の腕は再び俺の体をガッシリと抱き締めた。
もう一人じゃ無理だぜ、こりゃ。
……あのクソ親父、こんな時に逃げやがって。
『まぁ、結論を早まるこったねぇ。三日後にもう一度来っから、そん時に答えな』
そんな言葉を残して、親父はどっかに消えてった。
だから、小夜の拘束を外すためには、俺一人でなんとかしなきゃならない……!
いいこと考えたッ!
「いや、このままじゃ料理できないし、退院パーティーできなくなるぞ」
小夜は優しい子だ。
周りのことを考えて行動すれば、ここで俺に料理をさせるはずだ。
「……」
お、手が離れた。
……と思ったら、ベルト!?
俺の腰には、車椅子についていると思われるシートベルト(?)がしっかり装着されていた。
「ヲイ、ちょっと待てや」
「……」
「シカトか……って! ちょっと危ねぇッ!!」
両手がフリーになった小夜は、車椅子を手で漕いで、俺を乗せたまま移動する。
そして、二人を乗せた車椅子が着いた先は……まな板の目の前。
「もしかして……この状態で料理しろと?」
「……」
俺の左首筋に、小夜のあごが一瞬だけ触れる。
きっと、うなずいたんだろう。
「……小夜、なんで俺がいなくなると思うんだ?」
俺が質問すると、小夜の腕が俺の胸で交差して、俺を後ろに強く抱き寄せる。
……小夜は、俺がどんなことをしようとも、こんなに強く止めることは今まで一度もなかった。
その小夜が今のように行動する理由が、俺には分からないのだ。
「…わか……い…」
「ん?」
「わからない……わからない…けど……こわい……」
小夜の震えた言葉が聞こえた時、左肩に『何か』が押しつけられる。
左目が使えないから見えないけど、左頬に触れた絹糸のような小夜の髪が、その『何か』が小夜の顔だと教えてくれる。
そして、その左肩に伝わる弱々しい震えが……小夜の涙を教えてくれる。
「シン…傷つく……心…イタい…悲しい…ツラい……」
……小夜は本当に優しい子だ。
その優しさは、きっと小夜の根底にあって、感情が欠乏した今でもそれは変わってない。
そして、涙を流しながら絞りだされる小夜の震えた声が、今の行動がその優しさから来たものだと教えてくれる。
「……だから……おね…がぃ……行かな…いで……」
小夜の儚く消え入ってしまいそうな声が、俺の心を揺さ振る。
小夜の縋るように抱き締めてくる両腕が、俺の決意を引き止める。
クソッ……俺はどいすりゃいいんだ。
「もぉ……小夜。真慈を困らせちゃダメでしょ? て、言うよりズルい!」
「真慈も真慈だ。笠井さんのなすがままで……まぁ、そこが君らしいけれどな」
俺の心に迷いが生じた時、突然耳に入ってきた二人の声。
その声のしたほうに目線を向ける。
すると、リビングの入り口に見慣れた二人の姿があった。
片方は俺の幼馴染み。
赤くキラめくツインテールを揺らし動く小さな姿は、小動物のような愛くるしさがある。
その名前を谷津麻依子と言う。
片方は俺の恩人の妹。
光の加減で青く輝くポニーテールなびかせ歩く姿は、女性の中に凛とした精悍さを見せる。
その名前を戸野麗花と言う。
「なんでお前等……」
「アタシはパーティーの準備を手伝おうと思って来たんだけど、たまたま真慈と小夜が話し込んでるのを聞いちゃったんだ」
「そこに私も来て、そのまま二人で聞き耳を立てていたわけだ」
二人ともまったく悪怯れなさそうな顔をして、俺達に近づいてくる。
小夜は二人が目の前に来ても、俺の肩に顔を埋めたままだ。
「……まぁ、いい。んじゃ、俺がどっか行くってのは知ってるな」
コクン、と首を振る二人。
「場所は死者の逝く世界、黄泉。理由はお袋に会って一発ブチかます。行くのは一ヵ月後だ。下手すりゃ死ぬ」
ここでなにを隠しても無駄だ。
俺は正直に、そして簡潔に話す。……さぁ、どう反応するのか。
「……まったく、真慈もバカやるね。バカもバカ、大バカ者だね」
「あぁ、行動が意味不明すぎる。私の姉以上に理解不能だ」
「お前等……結構ヒドいな」
麻依子はバカバカ連呼するし、麗花は彩華より意味不明って……素でショックデカい。
「ヒドいのは真慈の方だよ? 周りのこと考えないで、勝手にそんなこと決めてさ」
麻依子はハムスターのように頬を膨らませながら、俺に文句を言う。
「君は独断的すぎるのだ。もう少し周辺の事を考えて行動してもらいたい」
麗花は麗花で、ジト目で俺を見下ろしてくる。
……どうやら、今回の件で俺の味方はこの場に居ないらしい。
俺は、諦めるようにため息を吐く。
「なにため息などを吐いている? 一ヵ月後に命懸けの事をするのだろ?」
「その通り! 今からそんなんじゃダメだよ!」
「そうそう、一ヵ月後にはお袋ブッ倒さなきゃなんねぇんだから、今からため息なんて吐いてらんねぇ……ってぇぇぇぇぇええええ!?」
なんか、二人とも俺が行くこと認めてんじゃん!
「真慈ウルサい! そんな驚く必要ないじゃん」
「いや、だってさ…」
びっくりした。
正直、反対されると思ってたからびっくりした。
いや〜びっくりした。
「真慈、私達も馬鹿ではない。君が私達の制止を受け入ない事ぐらい分かっている」
「アハハ……やっぱり分かってた?」
麗花の言ってることは正解だ。
俺は誰が制止しようと、お袋に会いに行く。
「だからこそ言わせてもらう。いくら反対されるのが分かっていたとしても……そのような重要な事は私達に相談してくれ」
「……気が乗ったらな」
「絶対! 絶対だよッ!!」
「ハイハイ……」
麗花に言われ、麻依子に念を押された。
どんだけ信用ねぇんだよ、俺。
取り合えず、二人はなんとかなったみたいだ。
問題は……
「小夜」
「…………ヤだ…」
このだだっ子をどうするか……だな。
俺は、小夜の頭を左手で優しく撫でる。
「小夜? そろそろ真慈のこと離してやりなよ」
「そうだ。それに……羨ましすぎるぞ」
「……」
二人の説得にも、小夜は顔を埋めたまま……
「…マイ…レイ……シンいなくなる…こわくないの……?」
……無言だと思っていた小夜は、以外にも声を出した。
震えながら、怯えながら。
「……怖くないって言ったら嘘になるよ。でもね、アタシは真慈を信じてるから」
「私には、彼が死ぬところが想像できないのだ。だから、私は彼を送り、彼を待っている」
二人は少しだけトーンの下がった声で、小夜を優しく諭すように声をかける。
その声に答えるように、小夜の腕の力が少しづつ抜けていく。
だけど、まだ腕の震えは止まってない。
俺は小夜を……いや、大切な人達を少しでも安心させるために約束する。
「麻依子、麗花、そして小夜……俺は必ず黄泉に行く。そして、必ず帰ってくるから」
必ず、絶対、必死に守る約束。
例え大地が割れ、天空が裂けようと……
「帰ってきたら……お前等の好きな食い物作ってやるよ」
俺は帰る。
俺には帰らなきゃならない場所があるから。
俺には帰るべき場所があるから。
俺には帰れる場所があるから。
そして……
「……シン………約束……だよ……」
小夜の腕がゆっくりと、俺の体から離れていく。
俺はすぐには立ち上がらずに、もう一度小夜の頭を撫でる。
「あぁ、約束だ。必ず帰ってくる」
俺は笑顔で小夜に答える。
俺は立ち上がって、背伸びをしながら息を吸い……その空気を声にして吐く。
「よしっ! パーティーの準備始めるぞ!」
「おーッ!」
「うむ、手伝わせてもらおう」
「……うん…」
俺は帰る。
俺には帰れる場所があるから。
そして……俺の帰りを待ってくれる人がいるから。
皆々様、お久しぶりです。
最近更新が滞っている夷 神酒です(汗
さて、まずは前回&前々回の呼び掛けに新たに答えてくださった……
ソラ様、桜坂 世蹴様、おおおーいお茶様、漆黒の咎人様、涼舞様
ご意見、ご評価誠にありがとうございました。
今回、人気の三人を登場させた話となりました。
実際の順位としましては
一位、麻依子
二位、麗花
三位、小夜
でした。
また、まだ集計途中ですが、最終話のご意見では3番がダントツですね。
又、一部の方からは『コメディENDを書いてから各フラグメントを書く』案が出ています。
その場合ですと
『私の実力では、コメディENDとフラグメントEND、その二つに違和感のなくバトントス出来る前話が書けない』
と、言う問題が発生します。
原因はすべて神酒の実力不足です、申し訳ございません。
しかし、その問題の解消策として神酒が考えた意見があります。
『【コメディ+フラグメント】がダメなら、【コメディ→フラグメント】ならどうだろうか?』
つまり、コメディENDを書いた後、その時間軸を少し進ませて、数年後の各フラグメントを書くということです。
この場合は、告白シーンなどを回想で送るしかありませんが、コメディENDと各フラグメントをまともなものに仕上げるためには一番確実な方法です。
前々回の意見募集はもちろんのこと、この案に対する賛成、反対、別意見なども受け付けます。
神酒は貴方のご意見を、心より欲しております。
貴方のご意見が今後の話を左右しますので、是非とも参加してください。
よろしくお願いいたします。