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SUICIDE33〜ヘルメットの下には……〜

十日以上放置してしまいすいません!!(号泣

 試験や短編『氷月姫つきりんと遅刻魔のホワイトデー』を書くのに手間取ったりで、こんなにも時間が空いてしまいました。

 これからちゃんと約一週間で更新しますので、作者を見捨てないでください(懇願








子供は母親の顔を見て育つ。

子供は父親の背を見て育つ。






―――――――――――――――







……やっとこの日が来た。

この日が来るのを、俺がどれだけ待ったことか。



「やっとだな。待ってたぜ」

「まったく、僕としては、もう少し早くして欲しかったよ」



部屋の出口では、俺の兄弟とも言える二人が立っていた。

今は憎まれ口を叩かれても、悪い気はしない……



「グファ!?」



…訳がないので、ほざいた方…洋に速攻近づき、右手で顔面を思いっきりブン殴った。



「テメェ等、迎えはいらねぇって言ったはずだが?」

「右手もしっかり動くようだな。安心したぜ」

「おぅ、久々に人をブン殴れてスッキリした」



洋を見てニヤニヤ笑っている方……亮佑と軽く言葉を交わす。


しっかりと彩華から義足を返してもらい、人皮もつけた。

そしてなにより……今俺は、自分自身の脚で立っている。



「酷いッ! せっかく退院の出迎えに来たのに」

「んじゃ、祝いにメシ食いに行くぜ!」

「おぅ、行くか。二人でな」



そして、俺と亮佑は一ヵ月も世話になった、忌々しい部屋を後に……




「…………えっ、完全にシカト? 酷ッ! 僕も連れてってくれビョッ!?」



騒ぎながら追い掛けてきた洋に、俺は左手で追撃の一発を放つ。

……おし、左手も順調♪



「さすが真慈……容赦ねぇぜ」




……こうして、俺は無事に退院した。
















―――――――――――――――













「……ふぅ、食った食った」


俺達は退院祝いということで、新装開店した焼肉屋に行った。


浅尾が見舞いに持ってくる料理以外、味の薄い病院食ばっかり食ってたため、久しぶりの濃い味を味わえて最高だった。


……九十分食べ放題(一人五千円×3=一万五千円)で、約二十七人前(合計二十万円以上)を食った。

もちろん、支払いはすべて洋持ちで♪


俺達三人が店を出る時には、店長が滝のような涙を流して見送ってくれた。

亮佑は『俺達の食いっぷりに、店長も感動してるみたいだぜ!』と言っていたが……店長の目には悲しみしか映ってなかったぞ。


まぁ、そんなことがあった後、手持ちぶさたになった俺達はそれぞれ解散することにした。

そして今、俺は久しぶりに我が家に帰って、リビングでソファーに座りくつろいでいた。



「……あぁ、やっぱり我が家は最高だ。病院なんて二度と行かねぇ」



俺の独り言を、消毒液臭くない馴れ親しんだ空気が飲み込む。

その空気を堪能しながら、リビングに設置されている壁掛け時計に目をやる。

すると、ちょうど長針がてっぺんに登り、短針が四時を指していた。



「…さて、そろそろ小夜が帰ってくる頃か」



……実を言うと、今日は平日。

亮佑と洋は学校をサボって俺の見舞いに来たのだ。

もし今日が休日だったら、いつのもメンバー全員が病院に押し掛けて来ただろう。


てか、夜には退院祝いをするらしい。

場所は……ココだ。

祝いに出る料理は、祝われる俺自身が作ることになるだろう。



「……今のうちに下ごしらえしとくか」



俺はゆっくりと立ち上がり、台所に向かう。

まずは冷蔵庫を開け、作れる料理を確認……



「……なんじゃこりゃ」



冷蔵庫の中には、肉やら魚やら野菜がありえないほどいい割合で入っていた。

これって……最初から俺に料理を作らせる気満々だったわけね。



「これ揃えたのは絶対彩華だな。……酢豚にパイナップル入れてやる」



俺は彩華への嫌がらせを考えながら、戸棚からグラスを二つ取り出す。

そして、なんの変哲のない台所の床を三回ほど蹴る。

すると、床の一部が正方形に抜け落ち、その抜け落ちた部分から、目的の物が見える。



「ったく、これを見るのは何年ぶりだ?」



俺は目的の物……濁酒どぶろくの入った古い酒瓶を手に取る。

そして、その中身を二つのグラスにそれぞれ注ぐ。


一つは俺のため

もう一つは……



「おいッ! 出てくるならとっとと出てこい」



俺はくうに向かって声をかける。

……端から見れば危ない人間に見えるだろう。

しかし……




「…………ったく、この坊っちゃんはなんでわかるかねぇ」



さっきまで誰もいなかった空間に、少し気を悪くした声する。

それと同時に、まるで幽霊のように人影がゆらりと浮かび上がる。

……いや、幽霊のようじゃない。



「よ! 久しぶり」

「黙ってそこ座れ」

「へいへい」



その人物は、俺の指したダイニングの一席に堂々と座る。

黒いヘルメットを目の下まで深く被り、そこはみ出た白い髪は肩まで伸びている。

薄汚れた作業服を着て白い鶴嘴を持っているその姿は、嫌でも覚えてる。

そいつは幽霊『っぽく』現れたんじゃなく、幽霊『らしく』現れた。



「毎度毎度、霊感もないのになんで俺の存在が分かるんだ?」

「その悪質ストーカーとしか思えない目線で分かる。あ、女を連続して十秒以上見るなよ。妊娠しかねないから」

「……ははは、言葉の暴力も痛いなぁ」



俺は、笑いながら涙を流すそいつ……黒ヘルに、片方のグラスを渡す。


この酒は親父の好物であり、酒税法を完全無視して造られた物である。

この酒は生粋の酒豪のでないと、グラス一杯で泥酔し、たとえ高度数の洋酒を飲める外人でも、濁酒独特の風味や味によって酔い、ナメてイッキ飲みすると、アル中で簡単に逝くような危険物だ。


現在、周囲の人間でこれをまともに飲めるのは、大酒豪である親父の血を受け継ぎ、風味にも慣れている俺ぐらいだ



「お、言葉の割りには気が利くねぇ」



酒豪の彩華でも眠りに誘うその一杯を、黒ヘルは俺から受け取った瞬間、一気に煽る。

幽霊とはいえ、味覚もしっかりしてる黒ヘルなら、この酒の威力は確実に食らう。

こんな殺人酒をイッキするなんて、俺でもそんな無茶はしない。

しかし……



「……くぅぅぅッ! やっぱ酒は最高だな! もう一杯!」



黒ヘルは何もなかったかのように、笑顔で追加を注文してくる。

別に無理してるわけじゃなく、本当に飲むことを楽しんでるようだ。



「もう一杯の前に……その被った物取れや」

「お! すっかり忘れてた。今日は自殺屋として来たわけじゃないから、取ってよかったんだったな」



黒ヘルは手の平をポンッと叩いてから、自分の被ったヘルメットに手を掛ける。

……このヘルメットを外した瞬間、黒ヘルは黒ヘルでなくなる。



それは世界最強の主婦であるお袋と肩を並べる男。

『現在』は俺しか飲めない殺人酒を『過去』に製造し、イッキ飲みしていた男。

そして……俺にとって最高の男。















「改めて……久しぶりだな。我が息子」



ヘルメットを取った人の目は、意志の強いはっきりとした目線を俺に向けていた。

その素顔はあの頃と変わりなく、随分と懐かしい……



「……本当に久しぶりだ。このクソ親父」



須千家すぜんや 大慈だいじ……お袋と死んだ、俺の親父がそこにいた。





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