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SUICIDE29〜生命のリズム〜

黒ヘルがいなくなってからコメディが急激に書きづらい………いっちょ死者復活ネクロマンスでもしますか!!(作者暴走)







人は時に歴史を刻む

人は楽器でリズムを刻む

人は自分の生きた証を刻む









―――――――――――――――






あーぁ。


地獄だ地獄。

ここはこの世にあってはならない純白地獄だ

異様な臭いは俺の嗅覚を麻痺させ、水の滴る音は俺の精神を破壊する。

……あぁ、ここで俺は朽ちるのか。




「なに言ってんのよ。ただの病院じゃないの」

「いや、病院はこの世に存在する最悪の地獄だ。ここに動けない俺を拘束するなんて…お前等は悪魔だ!」



病院なんて大ッ嫌いだぁ!

消毒液の臭いも、点滴の音も嫌で嫌でたまらない。



「まったく…真慈の病院嫌いも筋金入りね」

「当たり前だ! 医者なんて裏金とか医療ミスとかで信用できねぇし、ナースだってあの笑顔の裏でなに考えてるか分かったもんじゃねぇ」

「だから他の病棟から隔離してもらって、アタシが主治医代わりに来てあげてるんじゃないの」

「……まぁ、確かに麻依子だったら信用できる」

「素直でよろしい♪」




俺の言葉がよかったのか、傍から見ても上機嫌になる麻依子。




…そう、ここは病院だ。

個室のベットで上半身だけ起こしている状態だ。

俺がなぜここにいるかというと、霊力と狂気の限界が来て右手足が動かなくなったからだ。

元々は自宅療養の予定だったけど、寝てる間に彩華に拉致られたらしく、朝起きたらここにいた。



逃げだそうにも、右手と右足が動かない+左義足を取り上げられたため、左手以外は行動不能。

松葉杖突いて十メートル先のトイレに行くのがやっとの状態だ。




「まぁ、アタシの診断結果としては無理しすぎの限界突破。一週間昼夜を問わずにブッ続けで腕立て伏せとスクワットやってた感じね」

「なんだその地味にツラそうな表現は」

「だって、筋繊維や骨がボロボロだし、神経細胞も切れてはないけどちゃんと信号を伝達してない……ここまで酷い疲労状態は初めて見た」



いや、向こうの世界じゃ足は粉砕して、腕は弾けてたしねぇ。

まだ、マシなんじゃね?



「ま、あと二週間はおとなしくしてなよ。理事長権限で明日からの学校は出席停止にしておくってさ」

「彩華も無駄に権力使ってるな」

「まぁ、彩華さんはアレだしね」

「確かにアレだな」



俺達が言ってるアレとは『アノ人は見た目美人なのに、やることなすこと男勝りでえげつない。痛い目にあいたくなかったら傍観してなサレ』の略だ。

R‐ラグナロクが出来る前に彩華が俺達三人を倒した時も、洋の手の小指をハイヒールのヒールで踏んだり、亮佑の両膝の関節外したりとか、俺の左腕を破壊したりとか…

あんなのは二度とゴメンだ。




「…じゃ、今までの分しっかり返してもらおうかな」

「?」




突然、訳の分からないことを言い出す麻依子。

返すっていったって、金借りた記憶もないし……あッ!



「医療費の返済か?」

「違うわよバカッ!!」

「ゴブゥ!?」



ベットに寝てるため、完全フリーの腹部に麻依子の拳がクリティカルに入る。

…さ、さすが我がお袋に護身術という名の殺人武術を習っただけある。


「アタシが医療費なんて取るわけないでしょ!」

「じ、じゃぁ、なに返せばいいんだよ」

「ハァ……まったく、鈍感にもほどがあるよ」


言葉にため息混ざった麻依子は、俺を呆れた顔で見る。

ったく、なん……ッ!?




赤みがかった髪の毛が、目の前で風にふわりと揺れる。

それと同時に、俺の胸に麻依子が飛び込んできた。




「ちょ、ちょい待てっ!! いきなりなん…だ………って、聞く必要もねぇか」



…麻依子と肌が触れた瞬間、俺が返さなきゃならないものが分かった。


麻依子はいつも俺のそばで、俺を心配し続けてた。

俺がケガしたり風邪引くたび、病院嫌いの俺の治療や看病をしてくれた。

今回も、俺の手足が動かなくなる前にしつこく入院を勧めてた。


そんな麻依子が俺が自殺しようとして、心配しない訳がない。


つまり、俺の返さなきゃならないものは『今まで心配をかけた分、安心させろ』ってことだろ。




俺の胸に顔を埋めたまま小刻みに震える麻依子。

俺は泣かせたくないのに、きっとこいつは泣いている。

その涙を止めるために今俺が出来る事は…



「こんな時に腕が動かないのは不便だなッ…」


俺は左手で自分の右腕を掴む。

その腕はだらんと垂れて、まるで自分の腕じゃないような気がする。

まぁ、どんなこと言ったって俺の腕にはかわりない。

俺はその腕を麻依子の背中にゆっくりと置き、左腕をそこに重ねる。

…今の俺には、その体を抱き締めることぐらいしか出来ないから。




…トク…トク…トク……


麻依子の心臓の音が体を伝わってくるたびに、俺の心臓もそれに答えるように強く脈打つ。


それはまるで、麻依子が俺に話し掛けているように。

それはまるで、俺が麻依子に答えているように。

それはまるで、お互いが生きてることを確認するように…



「今までゴメンな…これからもよろしく頼む」

「………ぅん」



俺の腕の中にいる小さな温もりは、返事をした途端に眠ってしまった。

これは安心させることが出来たってことなのか…?



「…ふぁ〜…てか、俺も眠くなってきたな」



座ってる状態じゃ眠りにくいけど、麻依子を退かすわけにもいかないしなぁ…

俺は、起きた時の体の痛みを想像しながら、腕の温もりをそのままにしてゆっくりと意識を手放した。



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