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SUICIDE23〜サイナラ〜








人も含め全ての生物は、生存本能に純粋である







―――――――――――――――






壮絶なるお袋との戦い…

俺は過去を掘り返し、狂気に飲み込まれながらも、その偉大な主婦を倒すことが出来た。

ひとまず足の支えを解除、煉獄焔砲を左手の状態に戻す。


《……疲レタ。俺ハ寝ルゼ》


その声と同時に、纏っていた狂気が一瞬で四散する。

黒く染まった左側の髪も白く戻り、逆立っていたのが嘘のように垂れる。












「…で、ここはどこ?」


俺は真っ白な空間に立っていた。

いつ移動したなんて分かんない。

お袋に着弾させんのに夢中で周り見てなかったし。



…まぁ、原因は分かり切ってるけど。




「いやぁ〜、お疲れちゃ〜ん。結構ボロボロだブェ!?」


取りあえず、目の端に原因物質が映った瞬間、反射的に左手でフックを放つ。


「…グッ」

天地が回って逆転する。

俺は拳を適当に放ったせいで、バランスを崩して仰向けにぶっ倒れた。



だけど…痛みがない。



今気づけば左足はボロボロ、右腕にいたっては爆発で吹き飛んだのになんともない。



「…ムリすんな。俺の空間から解除したから痛みはないが、魂自体はかなり傷ついてる。回復するまで無理しない方がいい」

「…ウッセーよ」


俺の拳でぶっ倒れた黒ヘルから気遣われるのはムカつく。

…が、痛みの代わりに心身を襲ってくる疲労感が俺の体を動かそうとさせない。



「ご苦労さん。お前は母親を超えた。これで術は無効化されて、お前は望み通り現世に戻れる」

「『ご苦労さん』じゃねぇよ。マジで死にかけた」


右半身の殆どが潰されたし、狂気にも飲まれかけ、左手の忌々しい兵器まで使った…俺はギリギリだった。

けど…



「……それに、俺は『本当の』お袋を超えてない」


お袋は世界最強の主婦。

家庭を支える『主婦』に、型や武器の制限はない。

その肉体と精神が主婦の刀になり盾になる。



「…? いまいち意味が分からないんだが?」

「……お袋が得物を出すってことは、『このぐらいの力なら楽しめるだろ』って計算がされたからだ」



あの巨大包丁は確かに超強力だ。

しかし、お袋の戦闘スタイルは完全接近戦型のファイター。

むしろ、その存在自体が最強のお袋にあんな巨大な武器などはお荷物に近い。

…俺が勝ったお袋は『楽しむために自分にリミッターをつけたお袋』なのだ。

もし、お袋が武器を出さずに拳だけで戦ってたら、俺の負けは目に見えていた。


「…俺はお袋の予想を超えただけだ」


結局、俺はお袋にはかなわないってことだ……




「…別にいいじゃねぇかよ」

「よくねぇ」

「いや、別にいいことだ。今回の目的は母親の分身を倒して『術を解く』ことだ。目的は達成したんだし、今は予想を超えられただけで十分だろ」

「………」


黒ヘルの言うことにも一理ある。




…それに、俺は心のどこかでお袋達を恨んでいた。

勝手に突っ走って俺を残して死んでいった二人を…


それと同時に後悔していた。

…俺が間接的に二人を殺したようなものだから。


今まで引き摺って来たすべての未練や恨み、そして罪悪感。


お袋との戦いは、そのすべてを吹き飛ばしてくれた。

親父の分までしっかりと。




「……まっ、そんなこんなでこれで俺とはお別れだ」

「文脈が分からねぇが『自殺願望のない俺に憑いてる意味がない』ってことだろ」

「この坊っちゃんは相変わらず理解力があるねぇ…っと」



動けない俺に対して、黒ヘルは立ち上がり、俺を見下すような姿勢になる。

それでも見えないヘルメットの中身って……ん〜ミステリアス。



「自殺屋の癖に俺を生かそうとすなんて…クビになっても知らねぇぞ」

「ハッ! クビが怖くて仕事時間中にキャバクラなんて行ってられるかっつーの」

「いや、仕事中はムリだろ」

「気にしない。おーるおーけー♪」


黒ヘルの口元が愉快そうに歪む。

…俺の口も人のことは言えないだろう。




「お前が現世ですべきこと…分かってるよな?」

「あぁ、まずはひとしきり暴れ回って……それから、大切な人達の一人を助けなきゃな」

「分かってんならそれでいいさ」


過去の俺は自分が死ぬこと中心に生きた。

今の俺は周りの人達を護るために生きる。

未来の俺は最期を不敵に笑って迎える。


一度は捨てる気だった人生…

少し無茶をするかもしれねぇが、汚泥がぶ飲みしてでも生きてやるさ。



「ダチ大切にしろよ」

「分かってる」

「ムダ死にするなよ」

「分かってる」

「…んじゃ、暫く右腕&足は使えないから気をつけろよ」

「分かって……ッはぁ!? 肉体じゃねぇから大丈夫じゃねぇのかよ!」


俺は黒ヘルの言葉についつい声を荒げる。



「無理言うなボケ。足は複雑を超えて粉砕骨折、腕にいたっちゃ爆発で消滅…真慈の莫大な霊力がなきゃ、完全不随になってたな。それでも完全回復に最低一ヵ月半かかる」


…黒ヘルに言われて、俺は自分の体(正確には魂)のことを考える。



・擦り傷切り傷は数え切れず。

・右足は骨が見事に粉々。

・右腕は…吹っ飛んだ。



確かに…現世だったら助からなかったな。


「それに、出血だって既に危険値を超えてる。霊力を垂れ流してたようなもんなのに…お前の生命力は恐ろしいな」

「ウッセー。台所の漆黒帝王なみのテメェには負ける」


でも、普通なら大量出血で死亡決定だな。

今現在、俺の傷が出血してないのも、傷口の血が狂気によって固まってるからだ。




……おっ、いいこと思いついた。









おい狂気、ちょっと起きろ。


《…ッタク、俺ダッテ疲レテンダヨ。人ヲイタワレ相棒》


いいじゃねぇか。

制御は俺がするからちょっと寄越せ。


《分カッタヨ。ヤルカラ暫ク寝サセロ》


サンキューな。


《……ナンカ、受ケ入レラレテカラ相棒ハ扱イガ難シクナッタ》


そりゃ、俺も生きるための狂気だ。

似た者同士は相性悪いんだよ。


《ケッ…クダラネェヨ相棒。俺ハ寝ルゼ》


あぁ、永眠でもしとけ。













「…これでどうだッと」


俺の腕の傷口から黒いオーラが流れだし、ある形を形成していく。

そしてそのオーラが体を下に這っていき、右足全体を包み込んむ。


「!? なんだそりゃ!!」

「ん? 俺の狂気だけど」



黒ヘルにメチャクチャ驚かれた。

俺はため息を吐いて立ち上がり、黒ヘルと真っすぐ向き合う。

もちろん、左半身の手足だけじゃ人は立てない……




「予想通りだな。狂気で右半身の代わり出来るじゃん」

「……お前は何者だ」

「須千家真慈ですけどなにか?」


黒ヘルはまじまじと俺の右手足を見てる。

…俺の右足には狂気の黒炎が絡みつき、右腕があった部分には真っ黒な狂気が腕の形をしていた。

俺はただ、ボロボロの右足を補強して、なくなった右腕を狂気で代用してみただけだ。



「これで、手足が治るまで動かせるだろ?」

「ん? あぁ、それなら霊力も含まれてるから、現世の手足も大丈夫だろ。…でも、その状態じゃ現世時間で二週間が限界だな」

「そんだけもてば十分さ。残りの一ヵ月は小夜の気持ちを味わうさ」

「…お前、霊力と狂気の使い方なら親を超えてるな」

「それほど嬉しくない誉め言葉ありがとよ」



あんな超人×2を超えてる……素直に喜べないな。

やっぱ、あの二人は一生超えないほうがいい壁だ。

俺の中で永遠の理想でいてもらおう。



「…じゃッ、そろそろお別れの時間だ」


そう言った黒ヘルは、なにもない空間からいつもの鶴嘴を取り出す。


「ふっ、感動なんて欠片もない別れだな」

「感動なんて無用だ、男同士の涙なんてムサ苦しいったらありゃしない」

「フッ、言えてるな」



鶴嘴の鉄部が、純白から術の発動を意味する漆黒に染まっていく。


「これから、この空間と共に俺がお前にかけたすべての術を解除する」

「いいのか? もしかして、気が変わって自殺するかもしれねぇぞ」

「お前の瞳は死んでねぇし、しっかりと先を見据えてる。お前を支えるダチ公がいる。そんな奴は自殺なんかしねぇよ」

「すげぇ洞察力。さすが自殺屋の黒ヘルさん」

「…今更だが俺は安全第二だ。出来ればダイちゃ…」

「呼ぶかボケ」



んな名前で呼ぶわけねぇよ。



「あんたは黒ヘルだ。名前で呼ばれたきゃその被ってるものとって、面見せろ」

「!? お前まさか」

「そのまさか。気づかないとでも思ったか?」


周りは鈍感って言うけど、そうでもないんだなこれが。

…気づいたのはついさっきだけど。


俺は黒ヘルの様子をじっと見つめ、俺の言葉への返答を待つ。
















「……………………サイナラ♪」

「いや待てよッ!?」




俺の反論虚しく、黒ヘルはいそいそと鶴嘴を振り、俺は鶴嘴から放たれる光に飲み込まれた。














これから、なるべく土曜日に更新することにします

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