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SUICIDE20〜親子戦争‐弐・狂気解放〜

コメディなし、ラブなしの親子戦争編…あと二回は続きそうです。…イヤ、マジで本当にかなりゴメンなさい(涙






人の心に巣食うものこそ、世界を崩壊させるもの。

または世界を救済するものなり









―――――――――――――――




「うひょ〜。こりゃ随分と派手にやってんな」



俺は、トラブルに巻き込まれない空中から親子のガチンコ……いや、そんなもんじゃない…お互いの総てを賭けた決闘を観戦していた。

まさに高みの見物ってヤツだ。


てか、地上70メートルぐらい離れないと、はっきり言ってただじゃ済まない。

数秒で手足一本ぐらいは持ってかれること必須だ。

この学校全体(偽物だけどな)が息子と母親、その二人しか存在することを許されない空間になっている。



まぁ、この二人に割り込むような不粋なことはしない。


二人は、お互いに親離れ子離れする前に離れ離れになった。



親に甘えきれなかった子供

子供を育てきれなかった親



何もかもが中途半端に別れた。



そのまま不器用に育った子供

そのまま不器用に消えた親



この決闘は、その中途半端な別れをした、不器用な親子が一緒に過ごせなかった時間を取り戻するための方法。




「まぁ、もう少し素直になってもいいと思うんだけどな」



お互いに素直になれれば、もう少し落ち着いた戦いになるものを……



「……ま、あの二人には無理だな」




俺が呟いたと時を同じくして、校舎の一番高い棟が無残にも瓦礫と化した。












―――――――――――――――









砂埃が舞い上がる中、俺は安全圏であるB棟の屋上に着地した。



「ゲホッ…あの野郎っ!! 昔よりパワー上がってないか?」



C棟はお袋の踵落しによって脆くも崩れ去った。

俺達の戦闘で建物にダメージが蓄積されてたとはいえ、ぶっちゃけありえ…



「……このクソがッ!」



俺が思考を止めて横に飛び退いた瞬間、俺の立っていたコンクリの床は、お袋の拳によって粉砕された。



「息子ぉ!! 気ぃ抜いてんじゃねぇ!!」

「クッ…アンタも隙が見え始めたぞお袋ぉ!!」



お袋が拳を戻した瞬間、その背後に回りこみ、頭部に向かって右足で横薙の蹴りを放つ。

しかし、その蹴りは空を斬る。



「どこが隙なんだい!!」



お袋はその場にしゃがんで俺の蹴りを避け、そのまま片足を軸に俺の脚を削ぐような回し蹴りを放ってきた。

でも、俺はお袋の蹴りを避けない。



「!?」



こっちを見て、お袋の表情が驚きに変わる。

俺は蹴りを避けない…否、俺には避ける必要がないのだ。

俺は攻撃のためにバク転をして宙に浮いているから。

そして、その回転を利用して…



「いつまでも見下してんじゃねぇぇぇえええ!!」

「グゥ…!?」



お袋の頭を狙い、左足で地を割る勢いの踵落しを叩きつける。

その威力に床のコンクリが負けていくつものヒビが入り、最後には砕けて大きな穴が開く。

それでも蹴りの威力は衰えず、お袋は総ての階に穴を作りながら、相当な速度で地面へと落ちていった。




…お袋は真っ直ぐな人間だ。

嫌なものは死ぬほど嫌。

好きなものは死ぬほど好き。

その事考えて右足でフェイクを入れた所、予想的中。

素直に攻撃だと思い込んだお袋は、本命の左足をモロに食らった。


……いや、モロじゃない。

蹴りが入った瞬間、変な違和感があった。

きっとフライパンでも生成して直撃を免れやがった。

だとしたら……

直感的に俺はその場から走り去る。

だが…



「……甘いなぁ、息子」



お袋の呟きぐらいの声が、耳に響き渡る。

それと同時に進行方向から何本もの刃物が飛んできた。

避けられるものは全部避け、避けきれないものは左腕を使って流すように軌道をずらす。

それでも避けきれないものが、俺の右頬と右肩をパックリと切り裂く。

痛みはないが鮮血が飛び散り、真っ白な床に鮮やかな朱色が弾ける。



「そのくらいのフェイクじゃ私は仕留められないよ。…いい味出てきたけど、まだまだ甘いな」



どうやら、俺が蹴り落したのはフライパンだけで、お袋は瞬時に回避してたらしい。

さすが世界最強ってことか。



「…ったく、俺が甘いんじゃなくてアンタが厳しすぎんだよ」

「なら、なんで得物を生成しない? アンタの霊力なら私より上等なもん作れるはずじゃないかい?」

「アホ抜かせ、作った所でアンタに破壊されるのがオチだ。それに使う武器は、時と場合と相手と状況を考えて使うべきだろ?」

「…よくわかってるじゃないかい」



状況によって、武器を持っていることが命取りになることがある。

特に、今のような『一撃で生死が決まる白兵戦』の時には、余計な武装は死を意味する。

…はずなのだが……



「だったら私は遠慮なく得物を使わせてもらうよ?」



そう言ったお袋は手を掲げて、その手から巨大な一本の光が伸びて…



「……斬龍刀ざんりゅうとう烈襲叢牙れっしゅうそうが



その光から出来たのは、持ち手が丸太のように太く、刃先4メートルはある出刃包丁………







「…………………………え、これってギャグ? ツッコんだ方がいいのか?」

「見た目は冗談だけど、武器としては折り紙つきだよ」



お袋は脇に丸太のような包丁の持ち手を挟むような形で腕を絡め、軽い感じで横に振る。



「ぐぉっ!?」



そのモーションの軽さからは想像できないほどの殺気と空気の揺れを感じ、俺は衝撃に備えてガードを固める。


















………あれ?


ガードを解いてお袋の方を見ると、振り終えた超巨大包丁を軽々と担いでにっこりと笑っていた。

さっき感じた殺気は気のせいだったのか……?



「あれを見てみな」



お袋が指差した方向を疑いナシに向いてみると、そこには白黒のA棟が立っていた。




そして、A棟に綺麗な横一本線が入っていた。




その一本線から上が徐々にスーッとズレていき、ついに地面に落下して粉々に砕け散る。


視線をゆっくりとお袋に戻すと、さっきのままの姿でにっこり笑って立っていた。



「これは神獣の中でも最上級の力を持つ龍さえ一振りで斬れる斬撃を放つという、我が家の家宝だ」

「んな!? 家宝って、こんないろんな意味でヤバいもんどこにあった!? 見たことも聞いたことないぞゴルァ!!」

「地下の開かずの部屋(SUICIDE6参照)」

「………成る程」



なぜか妙に納得できる俺。

それと同時に最悪な予感が脳裏をよぎる。



「動きづらくはなるけど、この威力でカバーすれば大丈夫♪ 鉄の腕でも真っ二つだね」



やっぱりーーーーーーー!!(涙

な、なんとかあの包丁見たいな超SSS級危険武装をお袋の手から引き剥がさないと……



「だけど、この得物は使い勝手が悪くてねぇ。一回敵を認識するとそれを斬るまで持ち主の手を離れることのない、いわば呪いの刀なんだよ」


そう言ったお袋が手を開いても、包丁は手にくっついたままだった……




ふざけんなぁーーーーーーーー!!(号泣



「なんだその裏技で出てきたゲームシステムを大幅に崩す超反則的アイテム見たいなのはっ!!」

「いや、本当は投げたほうが威力はあるんだけど、何十体もの龍の怨念が取りついちゃってね……いやぁ〜参った参った」

「参ってんのはこっちだボケッ!! そん次元を超えた武器で攻撃されたらのソッコー終わりだろが!!」

「本気出せって言ってたろ? これが私の本気ってこと♪」

「ぬぉぉぉおおおおおおお!!」



俺の叫びと共に、凶悪な一本の包丁によって、B棟が縦に真っ二つになった。












―――――――――――――――












「……ありゃ、やり過ぎだろ」



傍観者として、俺は真慈に深く同情していた。


今、秦が持っている出刃包丁のような大剣『斬龍刀』はその名の通り、神に使える龍を斬るための刀であり、決して人間のような低級霊に向けるべきものじゃない。




あの斬撃を止められるとしたら、神のような力が必要だ。



…真慈にはその力が眠っている。

それにはあいつの一番強い感情……狂気を引き出さなきゃならない。

しかし、ここは魂だけの世界。

魂の枷となる肉体がない今、魂が狂気に飲み込まれる可能性が高い。

もし狂気に飲み込まれたら、あいつは餓鬼…いや、最強の鬼、鬼神になるだろう。



「……母親を乗り越えられるか、それとも鬼と化すか」



もし、後者になったら…俺も介入させてもらう。

あいつの尻拭いは俺の手でするべきだ…




決意を胸に愛鶴嘴を握り締め、俺はゆっくりと滲みだしてきた狂気の根源を見ていた。












―――――――――――――――










「…クソッ……あんなふざけたブツ作ってんじゃねぇよバカお袋」



俺は、次々と放たれる異常な斬撃を走り回って避けながら、対応策を考えていた。


…と、言っても今の俺の力じゃ到底無理。

布の服にひのきの棒装備の状態で、ラスボスに立ち向かうようなもんだ。

今のままじゃ、すぐそこで敗北が歓迎ムードで待っている。



…気は進まないけど、今は力が必要だ。俺は瞳を閉じ、久しぶりに『あいつ』に会うことにした。









■■■■■■■■■■■■■■■












完全なる闇の空間に、俺はゆっくりと浮かぶ。

どこか心地よくも、恐怖を駆り立てるこの空間。

…三年前、麻依子が誘拐された時も、俺はこの空間に来た。

そして……




「よぅ、久しぶりだな俺…いや、俺の狂気」

《待ッテタゼ、相棒》



俺と同じ体格、俺と同じ姿、俺と同じ顔、そして俺の白髪とは相反する漆黒の髪。

…そこにはもう一人の俺が存在していた。






\\\\\\\\\\\\\\\




…相棒、オ前ハナニヤッテイル

オ前ハ死ニタインダロ

世界ニ悲観シタンダロ

自分ニ絶望シタンダロ

オ前ガアノ時皿ヲ割ラナケレバ、オ前ト親ハ出カケナカッタ

オ前ガアノ時出カケナケレバ、オ前ハ誘拐ニ出クワサナカッタ

オ前ガアノ時出クワサナケレバ、親ハ死ナナカッタ



オ前ガ悪イ

オ前ガ親ヲ殺シタ

オ前ハ死ヌベキナンダヨ

…死ネヨ

モウ死ンジマエヨ

死ネ

死ネ

シネ

しネ

SIネ

死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ…




///////////////




相変わらずウルセェな

俺は死なない

俺には守るものがある。


頑張り屋で優しい麻依子を守る

単純で喧嘩好きな亮佑を守る

女たらしのナルシストな洋を守る

強い大人な女性の彩華を守る

無口で甘えん坊な小夜を守る

几帳面で責任感のある麗花を守る

高飛車で強情な浅尾を守る

たまたま出会った女の子を守る



俺に関わるすべての人を

俺の傍にいるすべての人を

俺が全部守る

俺は生きなきゃいけない


いつもはテメェの力を借りてたけど、今回はちっと違う。

…テメェの力全部寄越せ!!




\\\\\\\\\\\\\\\




……オ前ハマダ、チカラガ欲シイカ?

ハハハッ! 傑作ダナ!

俺ノチカラガ欲シイナラ、理性ヲ飛バシテ狂エバイイ

狂気ヲ走ラセロ!

狂気ニ踊レ!

狂気ニ落チロ!

狂気ヲ欲セ!!




///////////////




…俺は狂気に溺れても、理性は飛ばさない




\\\\\\\\\\\\\\\




舐メタコト言ッテンジャネェ!!

理性ヲ飛バサズ狂気ヲ寄越セト?

寝言ハ寝テ言エ相棒




///////////////





テメェは俺の付属品だろが!

オマケごときが俺が決めたことにケチつけんじゃねぇ!!

オマケはオマケらしく、寄越すもんだけ黙って寄越してとっとと消えやがれ!!




\\\\\\\\\\\\\\\




…随分言ウヨウニナッタナ

イイダロウ、オ前ニ理性ガ吹ッ飛ブヨウナ狂気ヲ与エテヤル

三年前、狂気ニ飲ミ込マレタオ前ガ、コノ狂気ニ耐エラレルカナ、相棒?




///////////////




…極上なチキンレースだ

俺が狂気に飲み込まれたら、お前が俺を支配すればいい

たが、俺が理性を飛ばさなかったら、俺がお前を支配する




\\\\\\\\\\\\\\\




キキキキッ…

ヤッパリオ前ハ最高ダ! 相棒ゥ!!

コレハ、俺トオ前ノ生死ヲ賭ケタ戦争ダ!

ドンパチ死ヌマデ殺リ合オウゼッ!!




///////////////




いちいち騒ぐなクソ野郎

騒ぐ前にとっとと力を寄越せ!




\\\\\\\\\\\\\\\




イイゼッ!!

狂気ト血肉ガ沸キ踊ル、俺達ノ殺戮SHOW TIMEノ始マリダ!!






■■■■■■■■■■■■■■■




「…グッ…」



体中に高圧電流が流れたような衝撃が何度も往復する。

その衝撃が流れるたび、俺の体中の血がブクブクと沸騰したように踊り回る。


手が血の生暖かさを欲する

目が血の紅を欲する

鼻が血生臭ささを欲する

口が血の味を欲する

耳が血の滴る音を欲する


体中の神経が血を欲し、殺意が増幅し、心の枷を破壊し始める。



「……グッ……グガァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」













―――――――――――――――







「ありゃ〜ヤバいな。鬼になるかもしれないね」



いきなり立ち止まった息子は、禍々しい殺気を纏い始めた。

これだけ膨大で重い殺気は、今まで感じたことがない。

…それに、普通の殺気じゃない。

普通の殺気は周辺に放出される。

だけど、今の息子の殺気は放出はされず、体の中でドロドロと渦巻いてる。


…今のうちに息の根を止めないと、息子はとんでもない化け物になる。



「もう少し楽しみたかったけど、親としてせめてもの世話焼きだ……一思いに消してあげるよ!!」



私は息子に向かって、情け容赦無い縦一線を放つ。

凶刃は真っ白な砂埃を立てながら、目標を真っ二つする。







はずだった。







「解放…堕落狂危ファランダ・フォラズ

「……なっ!?」



斬撃が息子にぶつかる瞬間、斬撃が爆発したような衝撃が起こり、砂埃が激しく舞う。

…『斬る』だけの斬撃が、衝撃を起こすなんて事ない。


少し落ち着いてきた砂埃の中に見えたのは、人が拳を突き出しているシルエット。

その瞬間分かったのは『私の放った龍さえ殺す凶刃は、息子の拳によって消え去った』という事実。

あの斬撃をガード出来るのは、龍よりも力が上…神レベルの力が必要だ。

これだけの狂気を生み出す神は……



「ウチの息子は鬼神にでもなった…のか…ね……!?」




そのシルエットが実際に見えるようになった時、私は生まれてからも死んでからも見たこともないものを見た。




「…俺は鬼神じゃねぇ」



息子には鬼の特徴の角がなく、鬼神になった様子はない。

しかし、髪は異様なほど逆立ち、全部白髪だったのに、左側が私の髪より黒くなっていた。

さっきまで渦巻いていた殺気が視覚からも分かるようになり、首から下の左半身を黒い炎のようなものが包み込んでいて、その部分を漆黒で塗り潰していた。

そして、肩と膝の部分から炎を裂いて見える髑髏が、その不気味さを一層強める。




「俺は…死神ヘルだ」







私はその言葉を聞いた時、額に逆さペンタクルの刻まれた膝の髑髏が、一瞬不気味な笑みを浮かべたように見えた。





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