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SUICIDE19〜親子戦争‐壱・ガチンコ〜






親の背中を超えて初めて、子供は大人へと成長を果たす










―――――――――――――――









静まり返った廊下。

その空間は白と黒のコントラスト。

俺はその一直線を全速力で駆け抜けていた。



……なぜかって?

そりゃもちろん『あれ』から逃げ………




「…クッ!」



窓の方向から近づく殺気に向かって、腕を十字に組みガードを固める。


次の瞬間、ガラスの砕ける音と共に、両腕でトラックが激突してきたような衝撃を一瞬受け止める。

その瞬間、衝撃のすべてを受け止めたら100%死ぬと判断。

体を横にずらして、衝撃を滑らせるように受け流す。


しかし、その衝撃はスッとなくなり、さっきまでの進行方向の先でオリンピック級の着地をする音がした。









「息子〜。逃げてばっかりじゃ私には勝てないぞぉ?」

「ッザケんな! 逃げる以外に俺になにが出来るッ!」

「私とガチ」

「…それは俺に『死ね』って言ってるのか?」



そう、さっきの衝撃は我がお袋の蹴りだったのだ。

そのすらりと長い細身の足から、殺戮兵器としか言いようのない跳び蹴りを放ってきた。

それに、足が細い分威力が一点に集中して、最強の破壊力+貫通性抜群の一撃だ。

下手すりゃ核シェルターさえ貫くだろう。

そして、その蹴りを流そうとしたら、その前に俺の腕から飛び退いた……もう、尋常じゃない反応と判断力だ。




「ったく、始まってから一度も攻撃してこないじゃないか。私がいなくなったからって、そんな屁っ放り腰に育ったのかい?」

「イヤ、攻撃してほしいなら隙見せろ。今のアンタに攻撃するのは、地雷が隙間なく埋められた草原にスキップで足を踏み入れるようなもんだ」



そう、さっき屋上で黒ヘルが『ガンダ〇ファイト! レディ…ゴォー!!!』と言った瞬間から、お袋にはまったくといって隙がない。

今の俺じゃ、どんな一撃を放っても、その何千倍のカウンターが返ってくる。



「……挑発してもダメかい。頭の方はだいぶ使えてるようだね」


そして、逆にお袋が容赦なく殺人的な攻撃を放ってくる。

黒ヘル曰く、この空間は『霊力で物質が生成出来る』らしく、さっきからフライパン(軽く当たっただけでコンクリの壁を粉々に破壊する威力)やら、万能包丁(鉄の机を豆腐の如く真っ二つにする切れ味)やらが無数飛んできていた。

さっきの一撃が初めて食らった攻撃というのが、ドリーム〇ャンボ宝くじの一等を当てるぐらい奇跡的だ。



…で、今現在進行方向を塞がれた俺は、取りあえずいつでも攻撃を無力化出来るように身構える。


そして、目の前に立っているお袋は少し首を傾げていた。

キリッとした女性が、エプロン姿で首を傾げる……そのギャップは破壊的だな。

親じゃなかったら撃沈しそうだ。


そんなこと思ってたら、お袋はその首を元に戻して……







「んで、その左手…あと左足はなんだい? 金属みたいだけど、どうやらパッドとかじゃない。……義手足にしては随分物騒だね」



背中に悪寒が走る。

……完全に見破られた。

今でも人皮をつけているはずなのに、なんで分かった……?



「なんで分かったって顔してるね? 腕はさっき蹴った時の感覚と、お前が右からの攻撃も左腕ガードするから分かった。左足は足音と足の上げ具合が左右で少し違ったんだよ」







………うん、もう無理。

叫ぶっちゃねぇな。



「もぉぉおおお!! だからお袋と戦いたくねぇんだよ!! 主婦のくせに百戦錬磨のソルジャーみたいなスキルもんってんだもん!」

「む、主婦をナメるな。 主婦という職業を取得すると、主婦スキルと言って、すべての能力値が100上がるのよ」

「なんたそのポケ〇ンとかド〇クエでも反則的スキルはッ!?」

「他にも『プライスダウン』や『へそくりサーチ』とか、他64のスキルがつくわね」

「………その中に『瞬歩』とかも含まれてるのか?」

「もちろん♪」



お袋はそういいながら笑顔を見せると…



「…クッ」



一瞬で数十メートルあった間を縮めてきたお袋を右手で横薙にする。

が、その顔面を捕らえるはずの拳はそのまま空振り……



「甘いわよ? 弐掌打にしょうだ双槍そうそう!!」

「グブッ!?」



ガードも出来ずに吹っ飛ばされた俺は、そのまま百メートル以上後方の壁に叩きつけられた。

…お袋は俺の懐に潜り込み、両手で掌底を放ってきたらしい。



「さっきは胴体を狙うのが適策。頭とか足とかは急所だったり移動力を削いだりするのに有効だけど、さっきみたいに避けられる可能性が高い。最初のうちは確実に当たる胴体を狙って相手のダメージを蓄積させてから急所とかを狙うべき……まぁ、攻撃の瞬間後ろに飛び退いて、ほとんどの衝撃を軽減したのは誉めてやるよ息子」

「…クッ…さっきの一撃はッ…蓄積というより必殺技に近いだ…ろ」



お袋の言葉に強がって立ったものの、衝撃が九割弱減ってるはずなのに肉を抉り取るような威力を持つ一撃のせいで、今だに内蔵が揺れている。

ウップ……リバースしそう。



「それに、胴体まで金属部分があるとは…いつの間に息子はサイボーグになったんだい?」



さっきの一撃でもバレたか。

…もうガチでもなんでもやるしかないな。



「……お袋達がいなくなってすぐだ。あん時あんたらが助けた女につけてもらった」



そう…彩華がつけてくれた俺の左半身。

そして、俺はまた太陽の下を歩けるようになった。

………今度も助けてもらうぜ。

太陽の下を歩くために……



「本当は許可ナシに発動は禁止されてっけど、この空間じゃバレねぇだろ」



俺は左腹部の服を人皮ごと引き裂き、黒光りする金属部分を露出させる。

そして、背中の部分にある小さなピンを外してから、服の上から右手で左肩を軽く押す。




「発動…輝災禍鈴ブリーキンダ・ベル



自分自身のリミッターを外し、俺は人知を超える。

その機能はこの世界でも順調に動きだし、俺の体に効果を現す。



「…やっとやる気を見せたようだね。でも、どんな仕掛けか分かんなくても、先に潰せばそこで終わりだよ!」



さっきと同じように目の前に現われたお袋を、さっきと同じように左手で横薙にする。

そして、お袋も同じように懐に飛び込んできて…



「まったく、さっきから成長してっ…!?」



お袋は俺に掌底を放たず、十メートルほど跳躍して間を取っていた。



「チッ…まだだ!」



俺は、飛び込まれた瞬間に放った膝蹴りの勢いを殺さず、そのままお袋に向かって特攻する。



「このクソお袋ォォォオオオオオオ!!!」



そして、強く握り締めた右手を迷いなくお袋に叩き込む。



「なんだアホ息子ォォォォオオオオオオ!!!」



着地したお袋も、一瞬で身構えて俺の拳に向かって右ストレートを放つ。



ズドンッという音と共に、俺とお袋の拳がぶつかり合う。

その衝撃で空気が弾け、髪が突風に吹かれたようになびく。


その風が治まってもお互いにそのままの態勢で、俺達は不敵に笑う。



「息子。肉体の反応速度やら移動速度が上がったようだね」

「当たり前だ。さっきの操作で俺の腹部の機械から、アドレナリンとかを大量に生成して全身に流してる。今の俺はアンタより倍は早い」



この力は、麻依子がトラウマになった誘拐事件で使った時、俺がボロボロになりすぎてに彩華に止められた。

簡単に言えばドーピングみたいなもの。

戦闘力は上がるし、痛みをまともに感じなくなるため、致命傷を食らうまで止まらない暴走状態に入る。

…しかし、効果が切れた瞬間に乱狂するほどの痛みが押し寄せる諸刃の剣だ。



「…きっと、アンタは全力の約50%しか出してない。今の俺は丁度アンタの全力に追いつける。…本気を出せお袋!!」



…だが、今の俺には諸刃だろうが関係ねぇ。

俺は生きてお袋を倒す。



「いい度胸だね。さすが私の息子。…でも、右手はもう使えないんじゃないかい?」



お袋のいう通り、普通の右手からは赤黒い血が滲み出ていた。

…痛みは感じないけど、粉砕されたのは間違いないだろ。


だけどな…



「俺はアンタを倒せれば、足だろうが腕だろうがくれてやる。……代わりに、故人になったアンタをこの機会に超えてやるよ!!」

「粋がるな息子。お前に親の背中を超えさせるには一千億光年早い!!」



俺達はほぼ同時に後ろに跳んで、相手との距離を置く。


俺は左腕の服を肩から人皮ごと破り捨て、黒鋼の体を解放する。

お袋は髪止めで、艶やかな黒髪の毛を後ろで一つに結い上げる。



そして、お互いに左拳を相手に向けてから…



「俺は須千屋真慈。死神ヘルの名において、世界最強の我が母親を凌駕する」

「私は須千屋秦。主婦道を極めた私は、これから生意気な息子を抹殺する気で迎え撃つ」






ここに、神々の戦争に引けを取らない、親と息子の交流ガチンコが始まった。




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