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SUICIDE18〜仮面を外した死神、対峙する世界最強〜

これで、ストックがなくなりました………正直ヤバいっす(涙







人の死はその人の世界の終焉を意味する













―――――――――――――――







「……だからホニャララッてわけだ」

「…なんで俺、ホニャララの内容が理解出来てんだろ」

「それは……この『翻訳機能付蒟蒻』のおかげだ!!」

「テメェは未来の青ダヌキ型ハイテクロボットか!!」

「ギャブッ!?」




……黒ヘルの説明で取り合えずこの世界のことは大体分かった。




この世界は本当に『T■UTAYA…(以下省略)』って言う名前らしく、はっきり言って不快だ。


機能としては『魂の半永久的捕獲』と『時間枠の自由移動』、『霊力増加』…etcらしい。

ついでに、現世の時間も俺が落ちてから数秒後で止まっているらしい。



てか、簡単に言えば俺は黒ヘルに捕まえられたのだ。

これ以上にみっともないことは、一生のうちにそうはない。


……まぁ、おかげで糞の輪廻(二話目参照)にはならなったわけだ。




「抹殺してやりてぇ…」

「いや、その爛々とした目で俺を見ないでくれ………恥ずかしいわ♪」

「撃滅!!」

「ブビョ!?」


いきなり女言葉になった黒ヘルの横っ面を、左手を使い全力で殴り飛ばす。

そして、きりもみ状に転がっていった黒ヘルに回り込み、腹部を前蹴りして動きを止める。



「ゴブッ!? ……な、なんかこの世界に来てから暴力行為が増えてないか?」

「こっちとら機嫌が心底悪いんじゃボケェ!!」

「カハッ!?」



俺は怒りのままに踏んでいる黒ヘルの腹部を踵で踏み潰す。

……まぁ、普通の俺ならここまでしない。

なせ、機嫌が悪いというと…




「んで、なんで俺をこんな空間に閉じ込めやがった? 」



そう、せっかく死んだんだからとっとと地獄でも天国でも行かせてほしいのに、途中で止められてストレスが溜まっているのだ。



「グフッ……それはな真慈、おまえに話しておきたいことがあるからだ」



俺に腹を踏まれながらも、しっかり話している黒ヘル。

生命力は洋ぐらいあるかもしれない。



「で? 命をかけてまで話したいことってなになぁ?」

「え…それって話したら死ぬってこと?」

「どうすればいいか分かんねぇけど、殴り続ければ幽霊も死ぬかなぁ〜?」

「ストーップ!! 少し…いや、限界まで落ち着いて話を聞け!」



……しかたないなぁ。



「んで、話し終わったらこの世界から解放しろよ?」

「あぁ、これでも約束と非核三原則だけは守ってきたはずだ」

「両方確かに偉いな」



黒ヘルの守ってるものを世界の国々に守ってほしいと思いながら、この世界からとっとと出たい俺は、黒ヘルの話を聞くことにした。

(無論、黒ヘルの腹部を踏んだまんまで)












「真慈、お前が死んだのは偶然でも運命でもない。……意図されて殺されたんだ。それも最悪のオマケつきでな」


















―――――――――――――――






ん? やっと私の出番かい?

ったく、ずいぶんと待たされたもんだね。

…ま、その分楽しみで仕方がないよ。

……この目でしっかり見させてもらおうじゃないか。




我が真慈むすこの成長をね。







―――――――――――――――










「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………」

「…………グボッ!?」



シラケた空気が何となくイヤだったので、取り合えず黒ヘルの腹を強く踏んでみた。



「んで、どういうこと?」

「人の体を痛めつけて話すきっかけを作るな!!」



俺の行動にメチャクチャ文句を言う黒ヘルに、『黙らないと踏むぞ♪』って目線を送ったら、一度咳き込んでから『ゴメンなさい、ちゃんと話します』って目線が返ってきた。

……てか、わざわざアイコンタクトする意味ねぇじゃん。



「ゴホッ……今回、真慈が死ぬことになったのは『死期極滅しききょくめつ』という、自殺屋の使う術の一つだ」

「…………お前、いつの間にそんな術かけた?」

「俺じゃない。この術は『対象を定時に、自然を装って死を与える』&『定時まで、対象者は死の運命を避け続ける』という効力を持った術で、他の術を無視して発動される超高等術……そして、あまりの威力に数年前に封印された禁術だ」



……なるほど。

『死の運命を避け続ける』から、いくら危険な目にあっても死ななかったわけか。



「で、その『決められた時』ってぇのが、俺が屋上から落ちた時ってわけか」

「……驚かないのか?」

「幽霊のお前が存在してることを認めてんだ。そんぐらいで驚かねぇって」



それに、自殺屋の術とやらはこんな世界を作れるんだ。

そのぐらい出来てもおかしくはない。



「いいのか? お前の死は意図されてたんだぞ?」

「……理由はどうあれ、時間は掛かっちまったが最終的に俺の願いが叶ったんだから問題なしの結果オーライだ。で、話はそれだけか?」

「いや、ここからが一番の問題だ。お前にはもう一つ強力な禁術がかけられている」



ったく、どこのどいつが俺に術かけまくってんだ?

俺は実験体モルモットじゃないんだぞ。



「その名は『過未消滅かみしょうめつ』。効果は『対象が現世から黄泉に移動終了時、その現世に関する存在を完全に抹消する』」

「……?」

「…簡単に言えば、『須千家真慈』っていう人間が最初から存在しなかったことにするんだ」




うん、なんとなく分かった。

でも……



「それって逆によくねぇか?」



俺という存在が、関わってきたすべての人から消える……誰も悲しませないで死ぬなんて、後腐れなくていいじゃんか。


それに、過去にも関わるならもしかして………










「それって……例えば俺が過去に殺した人間は生き返るのか?」



俺のせいで消えてしまった命…

過去の俺がいないことになるなら、その命が消えることはないはず。



「落ち着け真慈!」

「ぁ…す、すまない」



いつの間にか、俺は黒ヘルに馬乗りしながら拳を握り締めていた。

俺は立ち上がり、黒ヘルの体を立たせながら高ぶり過ぎた気持ちを落ち着かせる。



「……で、どうなんだ?」

「残念ながらそれは無理だ。魂はあってもその肉体は過去に滅びている」



ダメだったか…

やっぱり、命はそんなに甘くないってことだな。



「無から有は生まれないってことだ。……けど…」

「けど?」



口ぐらいしか見えなくても、黒ヘルの表情に陰りが見える。


背筋を駆け抜ける嫌な予感。

まるであの時のような…なにかを失う喪失感が胸を締めつけ始める。
















「有は無になる。お前と関わった人間…

谷津やつ麻依子まいこ

戸野との彩華さいか

笠井かさい小夜さよ

戸野との麗花れいか

櫻井さくらい亮佑りょうすけ

大西おおにしひろし

浅尾あさお真紀まき

浅尾あさお咲耶さくや

この八人が死ぬ。その他数十名も不幸な運命を歩むことになる」

「!?」



手が勝手に、黒ヘルの襟首を掴んでいた。



「なにふざけた事行ってんだテメェ!! 俺が死んだからって、なんであいつらが死ななきゃならねぇんだよ!!」



これは俺個人の問題。

なのに、なんで……



「なんなら死因を全部言ってやる。

谷津麻依子。戸野彩華殺害計画の人質として、暴力団に拉致。その後、その暴力団とR‐ラグナロクの解放軍勢との戦闘に巻き込まれて死亡。

戸野彩華。谷津麻依子の死からチームの信頼を失い、裏切りによる闇討ちにて死亡。

笠井小夜。誰も認めてくれない孤独感から解放されず。車椅子で線路上に飛びだし自殺

戸野麗花。ある男子に一方的な交際を求められ、仕方なしに認めたところ強姦され、それを苦に投身自殺。

櫻井亮佑。戸野彩華の死亡でチームは解散。後に暴力ざたを起こし取り押さえに来た警官に暴力を振るい、危険とみなされ拳銃で撃たれ死亡。

大西洋。戸野彩華の死亡でチームは解散。再度麻薬を乱用し始め、数年後に麻薬中毒にて死亡。

浅尾真紀。母親の勤める高校の屋上に侵入。事故に近い形で屋上から落下し死亡。

浅尾咲耶。娘の発覚で教育委員会やPTAからパッシング。娘の死のショックと重なり、自宅で意図的にガス爆発を起こし自殺……

すべてがお前が関わったから生きてた命だったんだ」



黒ヘルの言葉は俺の鼓膜を震わせるだけで、内容が頭に入ってこない。

感覚すべてが虚ろだし、黒ヘルを持つ手の力も多分ない。

なんとか動く思考を働かせても、辿り着くのはたった一つの題材。



なんで、あいつらが死ぬんだよ?

死ぬのは俺だけで十分だろうが。

これジャぁ…おレの死ヌ意…みガ無イじ…ゃネェか!?!!




ダ、駄…めダ……抑えルんだ。

今まデ隠し通しタんだ。

思考を抑エろ。


脳ミソを抉り取られるような痛みを発する頭を抑えながら、感覚を取り戻すことに集中する。


視覚は…まだぼやけてるけど、黒ヘルが目の前にいるのが分かれば十分。

味覚は…無意識に唇を強く噛みすぎて、生臭いサビの味が口を満たしている。

聴覚は…黒ヘルが言葉を発すれば分か…




「…真慈。本当は死にたくないんだろ?」



















あっ

ああっ…

…ダ、ダメだッ

隠さなきゃいケないのに

思っちゃイけないことナのに

俺は死ニたイんだ…

生キたくないんダ!!!

そのハズなノニ…



俺は! オれハァァァアアアアアAAアアア亜アあアあ亜あAアああ亜アA亜亜あ亜ァaぁァぁッ!!!!
















自ら破滅の道を歩むため、心を封じた鋼の感情。

その感情は心の熱は伝えられても、心の声は伝わらない……


今、その感情は音を立てて崩れ去り、それが崩れゆく隙間から心の声が響き渡る。
















「…生きたいに決まってるだろ!! 本当に死にたい奴なんていない! だけど怖いから、嫌だから、苦しいから、生きる意味を見失ったから死を求めるんだ!!」



まるで決壊したダムのように、言葉が心の底から取り留め無く溢れ出る。



「……俺は周りの人間が傷つくのが怖い。昔みたいに大切な人を失うのが怖いんだよ!! だから俺は死を求めた! 死ねば失うものもうなくなる…目の前で消えるものがなくなるんだよッ!!」







……昔、俺が左半身のほとんどを失った事故があった。

簡単に言えば未遂に終わった身代金目的の誘拐事件。

誘拐されたのは俺じゃなく…豪族の戸野家の長女、戸野彩華だった。


彩華の行動を調べあげ五、六人の屈強な男どもによる綿密な計画的犯行。

それが未遂に終わった理由…それは、俺の食器が割れたために三人で買い物に出かけていた俺と親父とお袋が、誘拐途中の集団を見つけたからだ…


正義感の強い両親は、何人もの男に囲まれた彩華を見ただけで、迷いなく突っ込んでいった。

誘拐犯は火器や刃物を持っていたが、いとも簡単に倒されて彩華も助けだされた。




そして、悲劇は起こった。



男達は死ぬ覚悟だったらしく、お袋を巻き込み、持ってたダイナマイトで一斉自爆。

その爆発から彩華と俺を守るために、庇った親父が犠牲になった。


二人はほぼ即死。

俺と彩華は親父のおかげで死なずにすんだけど、俺は爆発の衝撃で左半身を持ってかれ、彩華は失明はしなかったものの、飛んできた破片で片目の一部を傷つけた。


後に俺に届けられたのは、俺がいつも左腕につけてる親父の腕時計だけだった。

爆発の衝撃で壊れたらしい時計は、正確に両親の死を俺に叩きつけてきた。


それ以来、俺は何かを失うことが怖くなった。

だから、すべてを守ろうとして必死に足掻いた。

だけど現実は厳しくて、大切なものが次々と俺の手から取り零されていく。




…だから、死のうと思った。



何かが零れるたびに心が痛み、苦しみ、涙を流す。

そんな世界が続くのはあまりに残酷で生きていけないと思った。



そしてやっと、その苦しみから解放されると思った。


だけど、俺が逃げようとしたら、すべてのものが俺の両手から零れてった。

そんなこと……望んでなんかいないのに………
















「歯ァ食い縛れ大バカ野郎がぁぁああああ!!!」

「…ガッ!?」



いきなり、左頬に激痛が走る。

今まで見てた風景が、右にあった風景と入れ代わっていた。

それが、黒ヘルが俺の左頬を殴ったということだと理解するまで何十秒とかかった。



「生きてぇんだったら生きろ!! 死ぬ気があるんなら、自分の人生へしゃげるまで守ること諦めてんじゃねぇボケナスッ!!」

「クッ…お前になにが分か…」

「分かんねぇし理解する必要なんてねぇな。テメェもタマついてんなら、死ぬ気で生きて守りたいもの守れ!! 何もせずに今死ぬんだったら、その死ぬ気でふてぶてしく自己中心的に生きやがれ!!」



…出来るならそうしたい。

だけど、もう…



「…俺はもう死んだ。皆も死ぬ。…もうなにも出来ないんだ」



黒ヘルの言ってることは結局『俺が生きてた場合』の結果論でしかない。


結局、俺にはなにも出来ない。

そういう事なのか……







「……? だったら生き返りゃいいじゃねぇか」

「なっ!? そんなこと出来んのか?」



そんな、さっきは親父達は生き返らないって言って…



「術の発動は黄泉に行かなきゃ発動されないから、まだ皆は死んでない。…昔滅びた体は無理だが、お前の体は死んだばかりだ。それにこの空間は時が止まっている。あることさえすれば、まだ生き返れる」

「ある…こと?」



黒ヘルは俺の方に手をかけ、ヘルメットを通してでも分かる強い目線で俺の目を見透かすように見ている。


だけど、俺は切り換えの早い男だ。

見透かす必要はない……俺の心はもう決まってる。




「須千家真慈。お前は何かしたいことがあるか?」

「……皆を守りたい」

「お前は皆を守れずに絶望しないか?」

「絶望する。……けど、今みたいに何もしないで絶望する方が嫌だ!!」

「お前は現実に立ち向かえるか?」

「玉砕覚悟でやってやるさ。死ぬのは廃人になってからでも遅くねぇからな」



俺の答えに納得したのか、少しだけ黒ヘルの目線が弱まる。



「んじゃ、これからお前には術自体と戦ってもらう」

「………へっ?」

「この二つの術は強力な分、術をかけた術者の魂とシンクロしている。そしてこの空間は意思や魂が霊力によって存在してんだ。…この空間でもう俺が術を実現化しておいた。それを倒して術と術者とのシンクロを断ち切れば、術は消滅して術の効果で死んだ真慈は生き返る」

「…………?」

「簡単に言えばお前に術をかけた人のコピーを倒せ」

「成る程。要するに敵を倒せばいいわけだ」



喧嘩なら俺の得意分野だ。

ガチンコなら亮佑と彩華とお袋以外に負けたことは……












「…息子。随分といい男に成長したみたいだね?」



後ろから聞こえたキリッとした女の声で放たれる女の声。

その声に俺は身震いした。

懐かしくも、この状況ではかなり聞きたくない声。


まるで、油が切れた機械のようにギギギッと音を立てながら首を後ろに回す。




そこに立っていたのは世界トップランクの日本撫子。

その後ろで結われたセミロングの黒髪に、パッチリとした黒い瞳。

俺ぐらいの身長にスタイル抜群な体、化粧なんて必要ない若々しいその肌は一児の母だったとは思えない。

唯一、その服装がデニムにTシャツ、その上に黄色いエプロン、右手にお玉、左手にフライパンという装備だから主婦だということが分かる。


そんな女性が意地悪そうに笑っていた。









「最後の質問だ。お前は目の前の敵を倒せる自信はあるか?」

「ムリ」



黒ヘルの質問を否定の一言で答えた俺は、あまりの頭痛に頭を抱えた。



目の前に立つこの女性こそ、彩華を軽く超えて俺が世界最強だと思う人。

画面に映るどんなヒーローよりも強かった正義の味方。

そして、俺の中の『絶対に敵に回したくない人ランキング』で、初代終身名誉賞を与えた最凶のトラブルメーカー。







「……お袋。久しぶりだな」

「そうだな愚息。六年も会わないうちに図体はデカくなったようだね」

「外見で判断か? 俺は中身もそれなりに成長したと思うけどな」

「中身は外見じゃ分からないさ。だから今から拳を合わせて確かめるんじゃないか」






俺の目の前に現れたのは、俺のお袋にて最強の主婦…須千家 しんだった。















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