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SUICIDE16〜天上に召す死に神〜







神を生み出すのは人

神を育てるのも人

神を殺すのも人







―――――――――――――――







俺は小夜を休ませるために保健室に来た…はずだった。



だけど、道の途中で金髪赤スーツの独眼竜に半分拉致られて、理事長室の中に連れ込まれました。

まぁ、そのおかげで左足のスペアを借りれたけどな。




「……んで、何でニヤニヤしてるんだ?」


目の前にいる金髪赤スーツの独が…まぁ、彩華だけど……

とにかく彩華がニヤケ顔でこっちを見てくるのだ。




「だってぇ〜、二人の姿がとっても憎らしいほど羨ましいんだもん♪」

「……訳分からないが、憎むな」



てか、『だもん』って言いながら殺気を出さないで欲しい。



今の俺の状態…三人掛けの高級ソファに座ってる。

今の小夜の状態…毛布を被りながら、眠たそうな猫を彷彿とさせる仕草で横たわっている。




俺の座ってるのと同じソファの上で。




…俺を膝枕に使いながら寝ているのだ。






「だってヘルの膝枕よぉ〜? 十分で二十六万は出してもいいわょ」

「時給百四十六万…ホストより金のなる仕事だな」



てか、この膝に関する金銭感覚がおかしいだろ?

左膝は異常に硬くて寝心地悪そうだし…




「……ふみゅ…」




……なのに幸せそうな顔して寝てくれるよこいつは。



「いいなぁ〜。小夜じゃなかったら捻り潰してたゎ♪」

「いや、冗談キツい」

「冗談なんて中国製品の安全性よりも含まれてないわよぉ」

「皆無に等しいな…んで、その異常に悪い機嫌を直すにはどうすればいいんだ?」



目の前で不機嫌な人間がいて、気分の良い奴はいないだろ。

なら、そいつが不機嫌になる理由を排除すればいいだけだ。




「ん〜。じゃ結婚して♪」

「…よく考えろ、俺は未成年だ」

「じゃぁ、事実婚」

「……」



ヲイヲイ、冗談もいい加減にしてほしい。



「…お前は知ってるだろ。俺はいつか自殺する。若いうちから未亡人なんてブランドつけたいのか?」

「そんなつもりサラサラないわよぉ。私の愛しのダーリンになってもらって、戸野家の後継ぎとしてT.Cの経営を任せる気ょ?」



彩華の瞳には強い意志があった。

まさに本気と書いてマジである。













まさに愚の骨頂だな。




「死を求める人間に先の未来を話すな。気分が最高に悪すぎて血ヘドが出る」

「昔から言ってるでしょ? ヘルみたいな人は、誰かに大切にされて行きてくべきなのよぉ」

「誰に大切にされようが、誰に嫌われようが、俺は結局俺のモノだ。早く死のうが俺の自由勝手だろうが。俺のシナリオを勝手に決めんじゃねぇ」




誰にも俺の死を止める権利はない。

いくら恩義のある彩華でも、な。



「……私はヘルにいいことだと思ってその腕や足を与えたゎ…だけど、私がヨーロッパに行ってて目を離したうちに、ヘルは実験体にされてて……あなたはもう苦しみ過ぎたわ。あなたは生きて幸せになるべきよ」



どうも、彩華は俺の過去に責任を感じているらしい。

しかし、それはゴミ以上に不要だ。



「俺はこの手足をくれたお前に感謝している。そりゃ、死ぬほどな。…俺が死にたいのは誰のせいでもない。俺自身の問題だ」



周りの環境や人間が自殺願望の原因だったとしても、結局死ぬのは自分自身だ。

だからこそ、自殺者は極力他人に迷惑を掛けないように死ぬべきだと思う。

俺も含めて…だ。







俺は左手につけた時計を見る…



「さてと…」


俺は起こさないように小夜の頭を膝から降ろして、ソファーから立ち上がる。


「どこ行くのぉ?」

「……C棟の屋上」

「!?」


小夜が驚きの表情を浮かべる。

…完全に勘違いしてんな。

『自殺志願者+屋上=死』は絶対じゃないっしょ。



「…学校行事を潰してまで死に急がねぇよ。ただの昼寝だ」




そう言って、俺は小夜と彩華を置いて屋上へと向かった。















―――――――――――――――













「……畜生! あのバカどこにいやがる!」


俺が現世に帰ってきた時、真慈は家にいなかった。

…もう時間がない。

精神を集中し、真慈の霊力を探す。


「この方向は…学校か!!」



あいつの馬鹿デカイ霊力は簡単に見つかった。

だけど…



「術の発動まであと三分…って、カップ麺作れても食えねぇじゃねぇか!?」


でも、堅麺でいいならなんとか食える…ってそんなこと今は必要ねぇ!!



「ったく、相変わらず世話がかかる野郎だ……間に合ってくれよッ!!」




俺は、全力で真慈の元へ向かった。

…彼を死なせないために。













―――――――――――――――












俺はただ、C棟の屋上に続く階段を上る。


教師や生徒はグラウンドに出払っているため、校舎内は異様な静けさを保っている。

唯一の音は俺の規則的な足音と微かな呼吸音のみ。



この静かな空間は好きだ。

感覚が研ぎ澄まされて、余計な思考が入る隙を与えない。

この孤独感が心の土を踏みつけ、硬く地を固める。


……大丈夫、俺はまだ死ねる。




ふと、前を見るといつの間にか屋上のドアにたどり着く。

白い塗装がハゲて、そこが赤黒く錆びている見慣れたドア。




…なんか、いつもと雰囲気違くねぇ?

風景描写なんて今までしたことないって!




そんなくだらない自問自答は捨てといて、俺はドアに手をかけ、引っ張る。


広がる青い空、所々に浮かぶ白い雲、やけに広い白っぽい床、緑色のフェンス、見慣れた屋上の風景。
















そして、フェンスの先には見慣れない小さな子供がいた。



「んなっ!? なにしてやがんだ!!」



何でこんな所に小学生らしき子供が!?

ここって確か高校だろ!?

それも、小学生の身長でどうやってフェンスを越えた!?



…あぁ、俺が蹴で穴あけたんだっけな。

何話目だったっけなぁ。

てか、この子スカートはいてるから女の子みたいだなぁ。

なんかもう、やってらんないなぁ……






「って、軽く現実逃避してんじゃねぇぇぇええええ!!」



俺の咆哮に、ビクッと反応して顔を上げる名も知らぬ少女。


そして、綺麗な黒髪のショートヘアー少女の頬には涙が溢れていた。



「なんで泣いてんだ?」

「……遊んでたら来ちゃ…ヒッグッ…て……怖ぃ…助けて……くだしゃぃ」

「ったく、…ちょっと待ってろ」


知り合いでもないが、このままほっといて『もしも』のことがあったら後味悪い。

仕方なく俺は、壊れたフェンスから少女のいる所に向かう。



下を見ると、いつも自分が立ってるはずの地面が人を殺す立派な武器に見える。

さすが地上六階建ての校舎。

…ム〇カ氏がいたら『人がゴミのようだ』と言いそうだな。


まったく、俺の腰程もないぐらい小さいのにこんな所に不法侵入するとは…

親の顔が見てみたいもんだ。


そんなことを思ってる間に、俺はフェンスに捕まりながら少女に手が届くぐらいに近づいた。



「ほれ、早く捕まれ」


少女の方にある左手を出来るだけのばす。


「…グスッ……うん」


片手でフェンスに捕まりながら、あいた手で俺にしがみつく少女。


おし、このまま……




「マキ!! それに…須千家君!?」


いきなり屋上に響くヒステリックな声。

その声の方を見ると……



「浅尾!?」←俺

「ママ!」←少女
















え………ママって、motherであり母上でありお母様でありお袋のことですよね?



「ママ〜♪」



目の前のショートヘアー少女は、さっきまでの涙は欠片もなく、笑顔で両手を振っている。

あ、我が担任が子持ち…聞いたことなかったはず……







ん? てか、目の前の少女は両手を離して手を振ってるよな…

なんか体が後ろに傾いてるし。


……なんか…ヤバくね?




「えっ…マキ!!!」




俺の予想通り、後ろに傾いた少女の体は重力にされるがまま落下モーションに入る。

俺は腕を伸ば…ダメだ、ほんの少し足らない。




このままだと少女は落ちる。

少女は死ぬ…







えっ…死ぬ?

死亡?

Dead?

俺の前で人が死ぬ?

冗談だろ?



……やめろ

やめてくれ

死なないで




…ナンデミンナ、俺ノ前デ消エルンダ?













俺を守っていた仮面が音を立てて崩れ去り、真の感情ペルソナが剥き出しになる。












「……やめろォォォォオオオオオオオオオ!!」


俺の体は勝手に動き、落下し始める少女に向かってダイブする。


自分の状況が分からず唖然としている少女を、しっかり掴み抱き締める。




数秒間のスリリングな落下。

その間に空中で体勢をなんとか整える。

それは少女を下から包み込むような体勢。



これで少女は助かる。















………ガゴッ。


「クガッ!!」



体の芯に響く不気味な低音。

それと共に来る背中への衝撃が、背骨や肋骨を容赦なく粉砕する。

肺に入った空気が抜けるが、吸い込むことが出来ない。

そのせいもあるのか、意識が朦朧になり焼けるような痛みも徐々に薄れていく。

すべての感覚が鈍くなるのが分かり、視界もぼやけてくる。




…ん? あぁ、必死だったから気づかなかった。




これが死ぬってことなのか。



黒ヘルの術…は、どうなったんだろ……


まぁ、もういい…ゃ。

…や…っと、願……いがか…なった。















―― この、死を求める物語の主人公は夢を叶え、永久の眠りを迎えた。




主人公が死んでも、この物語は続きます

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