SUICIDE15〜仲間の団結、死神の意地〜
戦こそが人間の本性が表れる場所である
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『テメェ等! やる気はあるか!?』
「オオオオォォォォォォォ!!」×無数
『テメェ等! 殺る気はあるか!?』
「オオォォォォ!!」×亮佑を中心とした数人
『テメェ等! モテてぇーか!?』
「ウオオオオォォォォォォォ!!!!!」×洋を中心とした大多数の男
『テメェ等! 事件は!?』
「会議室で起こってるんじゃない! 現場で起こってるんだッ!!」×ノリのいい奴ら
『テメェ等! レインボーブリッジ!?』
「封鎖できません!!!」×ノリのいい奴ら2
『テメェ等! どうして現場に!?』
「血が流れるんだッ!!!」×ノリのいい奴ら3(多分、全員名字は青島)
…ったく、会場盛り上げるのに時間掛けすぎだな、オイ。
…面倒だけどさっさと始めようじゃん。
『テメェ等!! …待ちに待った戸野高等学校体育祭の始まりだぁ!!!』
「オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」×ほぼ全員
ここに、他とは一味も二味も違う体育祭が開会宣言された。
→→→→→→→→→→→→→→→
少し肌寒いぐらいの秋空の下、ついに開催されてしまった体育祭…
「やるんだったら優勝だぜ!」
「アタシも頑張るよー!」
「…シン……頑張る?」
「面倒だけどな」
「勝利こそ僕に相応し…」
「「「黙れ太平洋」」」
「酷ッ!! てか、僕の名字は大西だ!」
…今、俺達は言うまでもなく体育祭の真っ最中だ。
午前中は学年ごとのリレーのために、一年の俺達は午前中最後の競技になっている。
今は、テントの下で三年の走ってる姿を見てるだけなのだ。
「それにしても、真慈が最初から行事にいるとは思わなかったぜ」
「亮佑、それを言うでない」
俺だって、浅尾に小夜を任せた後に二、三度寝する気だったよ。
だけど…
「…先生の車に美人会長が乗ってるなんてねぇ」
「……邪魔…入った」
「真慈? 二人から怒りのオーラが見えるのは僕の気のせいか?」
「…俺にはさっぱりわからん」
二人の怒ってる理由はわからんが、今日の朝にいつものように迎えに来た浅尾の車に、いつもと違い麗花先輩が乗っていた。
理由は、俺が『生徒会長補佐』だから、最終調整等を手伝えってことだった。
朝からの強制労働はキツかった…
「あ、生徒会長だ」
「一年生になんのようだろ?」
近くにいた名も知らぬクラスメートA&Bがいきなり話しだす。
てか……噂をしたら、ポニーテールを風に流しながら来ましたよ。
それも俺の目の前に止まっちゃったし。
「真慈、君は生徒会役員として私と同じテントにいてくれと言ったはずだ」
そう言って、放送用具などのある生徒会専用のテントを指差す。
「…面倒だから
「真慈は『アタシ』達の大事な実行委員です。会長には渡せません」麻依子…どうしてお前が答える?」
「谷津さん、彼は『私』の補佐でもあるんだ」
ギャーギャー騒ぐなって。
変な目で見られてるぞ、二人とも。
「そんなこと知りません。とにかく真慈はここにいるべきなんです」
「いや、私と一緒のテントにいるべきだ」
「アタシと!」
「私と!」
「アタシと!!」
「私と!!」
「二人とも黙らっしゃいッ!!!」
「「…ッ!?」」
あまりに煩い二人の頭(脳天部分)に、チョップを繰り出す。
もちろん、麻依子に向かう金属製の左手の方はある程度手加減した。
「うぅ〜。痛いよ真慈ぃ…左手は酷いよぉ」
「い、いきなりなにをするんだ!?」
二人とも頭を擦りながら、俺に抗議の目線を送ってくる。
「二人とも無駄な喧嘩すんな! 俺は生徒会役員とか実行委員とか役職の前に、一人の生徒として小夜の補助があるんだ」
「………シン…」
足がまだ不自由な小夜にとって、体育祭なんてつまらないかもしれない。
だから、暇潰しに話相手にでもなれる人間がいた方がいい。
「だったら、笠井さんもつれて来ればいい」
「あんな初対面に近い人ばっかりな場所は、小夜にとっては苦痛になる」
「……君は、どうしても私と一緒にいたくないらしいな」
「なんでそうなる? てか麗花さん、左足踏むな。神経は通ってなくても気分的に痛い」
目の端で自分の足がグリグリ踏まれてるのは、見てて何となく悲しい。
「ときたま顔見せしますから、それで勘弁してください」
「……嘘は許さない」
「分かりました。…そろそろ二年のリレーなんじゃないですか?」
「ん? そうだな。…絶対に来てくれよ」
「ハイハイ」
しつこく念を押した麗花は、俺に手を振りながら去っていった。
ふぅ、これで一件落ちゃ…
「真慈? いつの間に会長と名前で呼びあう仲になったのかな?」
理由はわからんが、強力な伏兵…麻衣子が落着させてはくれないようだ。
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現世で悪事を働き、煉獄の業火に焼かれた者の魂は浄化され、輪廻の流れに還される。
しかし、浄化しきれない邪気の成れの果ては、暗黒の肉体を持った邪鬼になる…
その邪悪が隆起した肉体を、純白の鶴嘴が抉り取る。
「ッ、時間がねぇってのに邪魔すんじゃねぇ!!」
俺は黄泉から現世へと繋がる道の途中、醜い鬼・餓鬼の集団に道を塞がれた。
邪鬼の中でも最低ランクだが、四、何十体もいれば邪魔なことこの上ない。
「キシヤャャャャャャャ!!」
「黙れ! 輪廻に戻れぬ出来損ないのゲス野郎が!」
次々襲い掛かってくる餓鬼を、我が愛鶴嘴…幻羅空鶴ですべて凪ぎ払う。
その間、霊力の密度を限界まで上げ続ける。
あと3…懐からあるものを探す。
2…そのあるものは黒いサングラス。
1…そして、そのサングラスをしっかりかける。
「転生の道を外れた、世界に存在権のないカスども…無に還れ!」
その密度の霊力をすべて、鶴嘴へと注ぐ。
それと同時に純白の先端が、術の発動を意味する漆黒へと染まる。
「……このサングラスはメン・〇ン・ブラックでも、『お昼休みはウキウキウォッチ』でもねぇぜ!!」
絶えず襲い掛かる餓鬼共が、鶴嘴から漏れ出て放たれる霊力によって吹き飛ぶ。
そして、その鶴嘴を振り上げて、思い切り地面に振り下ろす。
その瞬間頭に被ったヘルメットがニット帽に変化する。
「テ〇ー伊藤だ!!! 文句あるかバカ野郎ぅぅううう!!!!」
一瞬、術を発動した俺でさえも眩しい光が周辺を包み込む。
そして、その光が消えた時には、数十体の餓鬼たちも消えていた。
それと同時にテリー伊〇の状態を解く。
「…無駄な力使っちまった……先を急ごう」
俺は遅れを取り戻すべく、現世に続く道を走りだした。
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〔一年生のリレーも後半戦に突入です!〕
「随分都合のいい放送だな」
「真慈、無駄なことにツッコんでないで準備しなよ。順番アタシの次なんだからさ」
「ハイハイ」
現在、俺達D組は見事トップで、二位と半周差以上をつけて独走状態に入っている。
…洋の立てた作戦通り、スタート時の乱戦に亮佑を入れたことによって、力技で一位を取ってからゆっくりと距離を稼いできた成果だろ。
なんせ、この競技は『先にトラック二十周(4000m)走ったクラスが勝ち』というシンプルなルールだった。
1クラス四十人と考えて一人半周(100m)走ればいいのだ
しかしそれは平均で、誰がどれだけ走っても問題はない。
…だったら、足が遅く体力がない人は少なく走り、足が速くて体力がある人が多く走ればいい。
あるものは半周ほども走らず、あるものは二周以上走った。
セコくても勝てればいい。
それが偽善者の戦略だ。
ブーイングが聞こえてもかまわない。
……だけど、もっと二位との差が欲しい。
俺達が勝つために…
「…久しぶりに必死になるのも悪くないな」
ラストのバトン回りは…洋(200m)→麻依子(100m)→俺(395m)→アンカー(5m)の順だ。
数値が中途半端なのは気にしない。
そして今、洋が半分走り終え…
「そこの綺麗なお嬢さん。これが終わったら一緒にティータイムを…」
「北極海! 真面目にやれ!」×小夜を除くクラス全員
「いや、もうそれ漢字まったく違うじゃん!? てか、みんな変に団結しすぎ!!」
小夜も叫ばない代わりに、汚物でも見るようなジト目で洋を見ている。
「ちゃんと走ってるんだからいいじゃないか! …ヘイ、パス」
「だったら、話ながら走らないの!」
文句を言いながらも麻衣子はバトンを受け取る。
走り終わった洋に近づき…
「なんだい真慈? 頑張った友を労ってく…グビャヒッ!?」
一発アッパーカットを食らわせてから早々とリレーゾーンへと向う。
麻衣子の足は、小さい割に意外に早くすぐに俺にバトンが渡る。
「イケェー!!」
言われなくても、バトンを手にした瞬間にスパートを掛ける。
正直、約400mを全力で走るのは苦痛だ。
だけどやるっきゃな……
「ッ!?」
いきなり左足のバランスが崩れる。
なにが起こったかわからない。だが…このままじゃコケる…!?
無常にも倒れていく体。
クラスメートが驚きの悲鳴を上げる。
地面に触れるまでの動きがスローに感じる。
態勢はヘッドスライディング。
走る速度のまま、腕や足をグラウンドの砂利が荒く削る。
…昔からこうだ。
なんで俺が必死になると、神様は俺を絶望に叩き落とすのかねぇ。
…ッざけんな。
「……ナメんなこのクソったれぇッ!!!」
左顔の一部が地面についた瞬間、速度の落ちてない体を両腕を使い無理矢理立たせる。
左足は…上手く関節が動かないがなんとかするっきゃねぇ。
「ぐおらアアアァァァァァァァァァァァァ!!!」
口に入った少量の砂利を粉々に噛み砕きながら、俺は駆ける。
…一人抜かして歓喜を呼ぶ
…二人抜かして足が軋む
…三人抜かして傷が疼く
クラス全員で勝利を掴むために、俺は必死に足掻く。
…その傷だらけの不様な走りで、後ろとの差を一周までつけた。
そして、俺はアンカーのもとにバトンを届ける。
そのゴールを飾るのは、長く艶やかな黒髪を持った、日本人形のような片翼の少女。
…その名を笠井小夜という。
車椅子に座った彼女に、バトンを渡して彼女の脇にまわる。
「亮佑!!」
「分かってるぜ!」
小夜を挟んで俺の反対側に亮佑が立つ。
体格が同じ俺と亮佑の肩を支えに小夜が立ち上がる。
「……ん…くッ」
小夜が俺達から手を放し、ゆっくりと一歩を踏み出す。
…小夜が来てからずっと、毎日家で一緒にリハビリをしてきた。
たった5m…だけど小夜はあと一歩の所で歩ききれなかった、大きすぎる距離。
一周差あった二位との距離もすぐに縮まっていく。
「やっぱり笠井を入れたのは失ぱ…」
「黙って見てろ!!」
ふざけたこと口に出した奴を瞬時に睨みつける。
「この体育祭のクソ競技は『全員参加』とあったはずだ。この俺がサボれねぇのに小夜を抜いて走れるかッ!!」
…確かに『怪我人や走行不可な人は選手から抜いてもよい』と知らされていた。
その知らせを聞いた小夜は、無表情の中に憂いを隠していた。
自分は参加できないと見越してたんだろ。
…その姿勢にイラついた俺は、実行委員の権限で小夜を含めた全員参加にし、小夜も参加できる作戦を洋に作ってもらった。
ゴールまであと一歩の所で、二位のランナーが背後に迫る。
小夜の顔からあからさまに疲労の色が見える。
あの震える足じゃ、一歩を踏み出すのも無理かもしれない…
…最終手段を使うか。
「小夜ッ! そのまま倒れこめ!」
「……ん!」
ランナーが通り過ぎる寸前、倒れ込んだ小夜の体がゴールテープを切った…
《独走態勢から一気に接戦になった一学年のリレー! 勝者は面白い作戦と友情を見せてくれたD組ぃ!!》
『……ウオオォォォォ!!!!』
クラスメイトの歓喜が、グラウンドに響き渡る。
「小夜…お疲れさま」
「………うん…」
瞬時に倒れる小夜を支えていた俺は、手早く車椅子に座らせる。
「倒れる時、怖くなかったか?」
…なるべくなら、歩き切って欲しかったけど、もしも無理と判断できる場合のために、小夜に前に倒れてもらってゴールするという緊急用作戦があった。
自ら倒れこむのには度胸が必要なので、躊躇して二位ぐらいになると思ったんだけ……
「…シン……絶対受け止める……信じてた」
「…ありがとよ」
俺は小夜を保健室に運んで、午後までゆっくり休ませてやることにした。
そろそろ、この駄文物語も終演に向かいます