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SUICIDE13〜和解と対立の組曲〜








人の心というものは、時に単純明解な一本道であり、時に脱出困難な迷宮である







―――――――――――――――









私立戸野高等学校…

この周辺地域を昔から治めてきた豪族…戸野が創立した学校。


偏差値は平均的、男女の比率も五分五分。

ちょっと成績悪くても入れるため不良もちょっと多く(亮佑・談)、その割に美女が多い(洋・談)。



そんな戸野高の一番の特徴は、『学校行事の熱狂ぶり』だ。



戸野高はイベントの度にクラスや個人で順位をつけら、ポイントが与えられる。




ここからが恐ろしい程に生徒が熱狂する理由






生徒はそのポイントが入ったカードを渡される。

そのカードを使えば、文房具や菓子パンから家庭用ゲーム機や高級ブランド品まで、ありとあらゆるものが揃う購買部で買い物が出来る。


クラスで二、三回優勝すれば、高額商品が手に入る…この学校は生徒を物で釣っている。

そして、優勝したクラスの担任にはボーナスがある…と彩華が言っていた。



そんなこんなで、生徒&教師は優勝目指して奮闘するのだ。




これが戸野高の学校行事が熱狂する理由だ…













「真慈〜。咲耶ちゃんが呼んでるよー」


晴れ渡る晴天の中、日課の如く屋上で昼寝をしてた俺を、麻依子がが呼びに来た。

ついでに忘れてるかもしれないが、『咲耶』とは我がクラスの担任浅尾の名前だ。



浅尾は俺のサボりについて基本的に何も言わない。

しかし、クラスで何か決めたり重要なことの時は呼び出してくる。


実際面倒だけど、これをサボろうとすると麻依子の怒涛連撃を食らう羽目になるので、素直に従って貯水タンクの上から降りる。



「今日はなにがあるんだ?」

「えっと、LHRに体育祭の出場者決めだって」




……面倒クサ。


「まったく、面倒くさがらないの」

「…バレたか」

「バレバレ、顔に出てるよ」


そんなやり取りをしながら。俺達二人は教室に向かって階段を降りてった。













→→→→→→→→→→→→→→→













「さぁ、今年の体育祭の競技はこれよ」


浅尾が黒板に文字を書きながら言う。

俺は自分の机に頬杖をつきながら軽く周りを見る。



「みんな出る競技決める時点でやる気満々だね♪」

右側には自分もウキウキしてる麻依子。


「Zzzzz…」

前には死んだかのように寝続ける亮佑。







そして…


「小夜、こっち向いてないで前見ろ、前」

「ヤだ」

左側には、なぜか黒板じゃなくこっちを凝視してくる小夜がいた。


本当は新しい机(車椅子だから椅子はいらない)を持ってくるはずだったけど、このクラスメイトに例の誘拐事件に参加して退学した野郎が一人いたため、都合よく俺の隣の席が空いたのだ。




「…シンを見ること…減るものじゃない…」

「そりゃそうだけど…まぁいいや」



小夜の言うことにも一理あるため、俺は黒板に目線を戻す。

えっと、一番楽そうな競技は…






〃〃〃




騎馬戦(全員参加)



クラス対抗リレー(全員参加)



〃〃〃















静まり返った空間に、俺は一人挙手をする。


「Teacher? なぜに二種目だけ&全員参加なんだ?」

「しょうがないのよ。理事長が決めたことなんだから」



…彩華の陰謀か?

だったら、この数少ない競技もふざけた決めごとがあるな…



「先生、俺体育祭の日に暇をエンジョイしなきゃならないから休みます」

そんな彩華の陰謀に引っ掛かってたまるか!




「残念ながら無理ね。理事長から『須千家真慈は瀕死状態でも絶対参加。参加しなかった場合、悪戯に処する』って文章が来てるわ。悪戯の意味は分からないけど…」

クラスの中で

「悪戯ってなんだろ?」とか

「理事長ってどんな人か知ってる?」とか

「Zzzzz…」とか聞こえてくる。




…ロ、ロキの悪戯だ。

サボったら地獄の拷問…

てか、俺がサボろうとすること予想してやがったか。



「真慈、参加したほうが身のためだよ」

「……諦めが肝心…」


『悪戯』の意味を知る両隣の二人にかけられた言葉には、哀れみが六割ほど含まれていた。




「…分かった」


てか、そうするしかないでしょ。

俺の選択肢はハズレも当たりもない、『参加する』のただ一つしか残されてないんだから。



まぁ、特に実行委員につかなきゃいい。ただの駒として参加させて…













「あと、『須千家真慈は強制的に体育祭実行委員に任命すること。本人が拒否した場合、不参加時と同じ刑に処す』だそうよ。随分と理事長に気に入られてるのね?」


…ハイ、いじる相手として大層気に入られてるみたいですね。













→→→→→→→→→→→→→→→













「おいゴルァァァアアア! なんで俺が実行委員なんぞやらんとあかんのじゃボケェェェェエエエ!!」



俺は放課後、小夜を先に帰させてある部屋に乗り込んだ。

その部屋の名は…勿論『理事長室』。




「とっとと実行委員から俺の名前外せやオラァァァアア!」



左の前蹴りでドアをブチ破り、理事長室に侵入する。

が…






「…ったく、こういう時に限って留守かよ」


俺が乗り込んだ首領ドンの間には、目標の金髪眼帯女はいなかった。




その代わりっちゃなんだけど…


「確か………生徒会長でしたっけ? まぁ、誰でもいいけど、彩…理事長がドコにいるか知りません?」



目の前にある理事長室の接客席には、一人の生徒(たぶん生徒会長)が座っていた。


「覚えていたようだな……姉はT.Cのアメリカ支部に最高顧問代理として行っている。明日の昼間には帰ってくるだろう」


会長(確定)は 、椅子に座ったまま俺を見据えるような視線を送ってきた。



「教えてくれてありがとう。んじゃ、用ないんで」


はっきり言って、生徒会長とか先生とか、お偉方えらがた系は苦手だ。

まぁ、この学校でまともに(?)接せるのは彩華と校長…あと浅尾ぐらいだな。


なので、とっととおサラバ…




「まぁ、ちょっと待て。私は君を待っていたんだ」


させてくれないんですねぇ、まったく…



「ちょっと待て、なんで俺がここに来ることがわかった?」

「姉が言っていた。『面白い文書を送ったから、絶対理事長室に乗り込んでくる』とな」


…ったく、そんなに俺は単純なのか?

最近行動を読まれすぎてる気がするそオイ。



「ったく、この一般生徒の俺ッ…そういやあんたはあん時見てたんだから、普通じゃないって知ってんのか。…で、なんか用か?」




どうせ、家には夕飯前に帰ればいい。

会長も俺なんかを待ってたんだから、話ぐらい聞いやろう。



立ったまんま話してるのは疲れるので、俺は会長の向かい側の席にに座る。



「この前は助けてくれてありがとう。感謝する」

「感謝なんていらねぇ。俺は麻依子が心配だっただけだ」


実際、誘拐されたのが会長だけだったら、俺は助けに行かなかった。

=俺は麻依子しか助ける気はなかったさ。



「結果的には助けてもらった。その結果に変わりはない」

「は、はぁ…」


どうも、こんなにしつこく感謝されるのは苦手だ。

…いや、感謝自体が苦手だ。







「…本題に入るが、今回何人かの生徒が退学処分になったのは知ってるな」

「あぁ、俺の隣の席の奴が消えた。変わりがすぐ入ったけどな」


これからあの見透かされるような瞳で見られ続けるとなると…ため息が出そうだ。



「その中に、多田という人間がいた。君が謹慎の原因になった時に蹴った男子生徒だ。その時のこと、覚えてるいか?」


…さすが会長様。謹慎開けの生徒も怖くないってか?

その話題は禁句に近いぞ。



「いちよう覚えてる。金髪ロン毛野郎とムカつく女が居たな」


確か女の方は…会長みたいに青っぽい黒髪をポニーテールにして、会長ぐらいの身長で、会長みたいな喋り方で、会長みたいな綺麗な顔つき…













「その『ムカつく女』は、人違いでなければ私のことだ」

「………本気と書いてマジっすか?」

「本気と書いても読んでも描いてもマジだ」



…ったく、なんでこんなとこで出会うかね。


「んでナニ、俺になにしろってんだ?」


俺はさっきまでの姿勢を崩し、足を組んで背もたれに思いっきりよりかかり、軽く会長を睨みつける。


「いきなり態度が変わったな」

「俺の頭は左手足と違って機械じゃないんでね。嫌いな人間に対しては冷たい態度になってもしょうがねぇだろ」



当たり前だ。

俺が求めるものを否定した奴に、普通に接しろというのは無理。




「姉から君のことを少しだけ聞いた…その件に関してはすまなかった。私も軽率だった」

会長は座ったまんま、俺に対して深々と頭を下げる。

…だけどな。


「謝るとか関係ねぇ。俺がテメェをムカつく理由はテメェの考えの甘さだ。『死ぬことに意味がない』なんてテメェが思ったって、死に救いを求める奴だって、逆に死を恐れる奴だっている。…『死ぬこと』は『生きる』ことと同等の意味と重みを持ってんだよ」

「……」


俺がまくし立てる中、会長は頭を下げたままだった。

……ったく…



「それに、相手に合わせて自分の考えを簡単に曲げるような奴も嫌いだ。そうやって頭下げて…」

「それは違う!!」


俺がもっと言葉を吐き出そうとした時、会長が大声を出して頭を上げた。



「私は自分自身の軽率な言葉に謝っただけだ。決して自ら死ぬことに賛成したわけじゃない」


そして、睨みつけるような勢いで俺と目を合わせた。







「私は…君のような人には生きていてほしいんだ」


俺を見据える真っ直ぐな瞳は、あの時の彩華を彷彿とさせる…









――俺がある事故で両親と自分の左半身のほとんどを失い、瀕死状態になった時、何者かが俺の半身を機械化することで俺の命を救った。



俺に埋め込まれたのは特殊な機械だったらしく、研究室で決まった食事を取り、決まった運動をして、決まった時間に寝る…そしてそのデータを計測したり、薬を投与されたこともあった。

…俺はまるでモルモットの様な生活をしていた。




その一年後。怪我の調子が戻った俺はその研究所らしき場所から逃げ出し、世界を拒絶する日々を送った。


…その時の俺に喧嘩と哀れみ以外で近づいて来たのは麻依子ぐらいだ。






暫らくして、俺の周りに同年代の二人の仲間が増えた。

一人は幼い頃に両親に捨てられた、キレやすい超怪力少年。

もう一人は両親が無理心中した時生き残った、麻薬常習犯の大嘘吐き。


様々な理由で傷ついてた少年三人は、気に入らないものすべてを破壊し続けた。






…そしてその二年後、俺達は一人の女に出会った。

その頃、中学生にして周辺地域で負け知らずの俺達はその女に挑み…彼女の左腕一本で全員ねじ伏せられた。

そして彼女は、地に伏せた俺達に強い意志が宿った真っ直ぐ瞳で言った。




『君たち…私が生きることを教えて上げるゎ』






…それがきっかけで、俺達はその女…彩華の結成したR‐ラグナロクに入り、今の俺達がある。――









…今の会長の瞳は、あの時の彩華のように『他人の一生を変えることが出来るほどの強い意志』が宿されている。

そう、会長は真っ直ぐに謝り、真っ直ぐ俺にぶつかってきた。


さすが彩華の妹…いや、妹だからってわけじゃないな。

会長は会長自身の強い意志を持ってる。

……けど。




俺は立ち上がり、出口の方に歩きだす。


「…会長さん、俺はあんたを見直した。だけど、俺が死ぬのは決定事項だ」


そんなことで俺の意志は曲がらねぇし、頼りねぇけどいちよう専門職の方に頼んでるしな。




「っ!? だって君は…」

「真慈だ」

「…?」


しかし、会長の印象はこの短時間で何度も変わるなぁ。

俺は少し立ち止まって、顔だけを半分ぐらい振り返る。



「気に入った奴には、俺の葬式の時に苗字で呼ばれるよりも、名前で呼ばれたいからな」




まぁ、気に入ったといっても教師とかは例外。

逆に、彩華はいくら言っても俺をヘルとしか呼ばない。

小夜の場合は…いちよう理解できる呼び名だからいいだろ。




「真慈か…分かった。…しかし、そう簡単に葬式は行われないと思うぞ」

「随分言ってくれるな…近々学校にカメラが入るかもよ? …彩華にも迷惑かけるな」



俺はふざけた言葉を会長と交わし、理事長室を後にした。















…あ、卵切れてたから帰りに買いに行かなきゃ。















―――――――――――――――







彼…真慈が部屋から出ていった瞬間、緊張の糸が完全に切れ、私は背もたれに倒れこんだ。




…真慈にまくし立てられていたた時、私は彼を殺す幻覚を見ていた。

その幻覚は、私が部屋に飾ってあった日本刀を手に取って、彼の首を斬り腕を斬り足を斬り胴を斬り……

正直、その時現実の彼の姿を見たら…私は幻覚と同じ行動を取ってたかもしれない。



そして、『相手に会わせ…』と真慈が言った時、私の見てた幻覚はいきなり変わり、なにもない暗い空間に彼が立っていた。















そして、真慈の両頬には涙が一筋づつ伝っていた。



一筋の涙はあまりに純粋な悲しみで、それを流す瞳を見てると、こっちが悲しみに打ち拉がれてしまいそうになる。

もう一筋のその涙は血のように真っ赤で、それを流す瞳はこの世界すべて…進む時間やそこに生きる自分自身さえ怨んでいた。




その後、一瞬で現実に引き戻された私はその瞬間思った。




『彼に生きてほしい。死んでほしくない』と…









気を抜いていた所に、携帯のバイブがスカートのポケット内で鳴る。


着信は…姉か。

一息ついてから、私は通話ボタンを押す。



〔もしもし〜♪ 麗花ぁ?〕

「あぁ、なんだいきなり」

〔いやぁ、そろそろヘルとの話が終わると思ってねぇ〕


…なぜ分かる?

アメリカにいるはずだろう。


〔黙ってるってことは終わったのねぇ。どうだったぁ?〕




…実は今回、私が彼を待っていたのは、姉の計らいによってである。


『分からないなら直接会ってみなょ』と言われ、興味のあった私は姉の話に乗った。


そして、わざわざ彼が怒るような話題を振り、姉の言ったことを確認することにした。



『ヘルは泣いているのょ』

一瞬見えたあの姿が、姉の言ったことなら…




「…なんとなくだが、真慈のことが分かった気がする」

〔それはよかったわぁ。…それよりも、男の人を呼び捨てにするなんて初めてなんじゃなぁい? れ・い・か♪〕

「…っ///」



い、今思えばそそそそうだ…


〔仕事以外で、数えるぐらいしか男関係のない、お堅い麗花がついに恋愛かしらぁ♪〕

「っ!? そ、そんなわけ…」

〔あるから焦ってるのよねぇ〕



姉の言葉一つ一つに、体中が羞恥心で熱くなる。

きっと、今の私の顔はゆでダコのように真っ赤になってるだろう。


〔でもねぇ、ヘルは鈍感だしぃ。ライバルもかなり多いわよぉ〜。麻依子ちゃんと小夜もかなり強敵だしぃ…そ・れ・に♪〕



突然、受話器の聞き取り口から姉の殺気が流れだした。













〔私も敵に回すことになるわょ〜♪〕







いつもの間延びした声なのに、体中が凍りつくような感覚になる。













…私は恋愛なんてしたことない。

何度か告白はされたが、感情は全くといって動かなかった。



…だけどもし、この『彼を知りたい。彼に生きてほしい』という気持ちが本当だったとしたら…




「……姉」

〔ん? なぁに?〕




この、今まで感じたことのない胸の高鳴りが偽りじゃないとしたら…













「…スタートは遅れたが、最後に勝つのは私だ」


まだこれが恋愛感情か分からないけど、『負けられない』と心が叫んでるのは確かだ。







〔フフッ…望む所よぉ〕

「宣戦布告完了だな」










…ここに、戸野姉妹の間にライバル関係が生まれた。










―――――――――――――――













「クシュッ…あ゛〜何だか寒気が」



あるスーパーの卵コーナーに、学校の最高権力者と生徒の最高権力者の戦いに巻き込まれる運命さがが決定した、悲惨な白髪少年がいた。





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