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 思いついたままに書いています。楽しんで頂けたら幸いです。

 そこはハンガー内と比べると、暗く狭い一本道にも思えるハンガーと学校の壁の間のスペースだ。祝勝会の真っ最中のハンガーから抜け出して、そこで待ち合わせをしている人物を待っていた。……決して色恋沙汰でないのが、僕を悩ませているのだ。


 今回のミッションで、僕は如月先輩の異常性を目撃してしまった。もう、憧れの先輩の隠れた一面を目撃してしまい……どうしていいのか分かりません!


 もう本当に怖かったんだよ!


「待たせたかな?」


 そしてハンガー裏に現れた如月先輩……身体には未だに強化スーツを着込んでいる。その上の装備は取り払って、完全に身体のラインが浮き上がっているのだ。暗いハンガー裏には、ハンガーから漏れる光と闇に慣れた目で先輩の姿が表情まで確認できる。


 余裕の表情であるから、もしかしたらあの時の事は間違いかも? そんな淡い期待を抱いた。でも現実は残酷だ!


「あの時の事を見ていたんだろう? いや、私から見て貰ったんだが……日野君はどう感じた?」


 最悪だ! 見せつけていたと言う考えは想像もしていなかった! 精々あの時の事は錯乱していた、とか理由を聞いて終わりだと期待していたのに!!!


「そ、そうですね……い、何時もと違う感じだったかなって……」


「何時もと違う? 君なら気付いていると思ったんだが……君もそうなんだろう? いや、そうに違いないよ」


 先輩が僕に詰め寄ると、壁際に僕を追いこむ。顔を近づけて、鼻先がぶつかりそうになる。相手の息使いまで分かる距離に、少しだけ興奮した。しかし、その瞳は……暗い光を帯びていた。


「そうだ、君も、君が狂っていない訳がない! あの時から、私は君をずっと見てきた」


「あ、あの時? てか、先輩それって!」


 それはストーカーです先輩。犯罪ですから止めて下さい。マジ怖いっす!


「今でも覚えているよ……去年の春に、君が商店街のゲームセンターでネットを使った世界大会で、優勝した時さ。その時の映像が、店頭の大画面の液晶で観戦できたんだよ。……凄かった。私はゲームに疎いが、それでも君の動きに感動した!」


 ……去年の春に、僕は商店街のゲームセンターで世界大会に挑戦していた。その大会でギリギリの戦いを何とか生き残り、その大会で優勝したのだ。空を飛ぶ人型兵器を操り、敵と戦う……それだけのゲームだったが、僕にはとてもあっていた。


 人型兵器を操る感覚に、僕はのめり込んでゲームを続けたのだ。


「最高だった……君の表情も画面に小さく表示していたよ。私は、その時の君に……体も心も熱くなった! 初めてだ! 同じ人間に、私以上の狂人に出会ったのは!」


 先輩は、身体を僕に密着させる。そして口を……僕は先輩を突き飛ばした。この世界での訓練で強化された身体は、想像以上の力だで先輩を突き飛ばした。ハンガーの壁に叩きつけられた先輩は、唖然としていた。突き飛ばした事に驚いたのではないようだ。


 そのまま力なく壁にもたれかかり、滑るように地面に座り込んだ先輩。その瞳が、信じられない物を……認められない物を見る事を拒んでいるようだった。


「ぼ、僕は狂人じゃない! 先輩に何が分かるんですか!!!」


 力なく僕を見上げる先輩は、不気味に笑いながら話し始める。


「狂人じゃない? ハハハァ……君は自分が普通だと思っているのかい? 私と君は変わらない……いや、私以上に狂っていたよ! あの時の君は、敵を倒す度に動きが鋭く、激しく、そして美しくなった」


「ゲームなんですよあれは!」


「それでも! 私には……君しかいなかった。私と同じ人間に初めて出会えたと喜んだ……。小さい時から剣道や色んな稽古事をやらされてきた。自分の偽る事にも慣れてきた……それでも苦しかった! 周りが私をもてはやすたびに、本当の自分に価値がないと言われた気がしてきた!」


 先輩が俯くと、膝を抱えてすすり泣きだした。その光景に胸が痛む……何故か先輩が酷くもろい存在に見えたのだ。まるで今にも壊れてしまいそうな……ガラス細工のような……


「きっと理解して貰えると……でも、無理なら……私には世界なんて意味がない! 本当の自分が、生きる事が出来ないなら!!!」


 先輩の手に、初期の歩兵に支給されるハンドガンが握りしめられていた。その銃口を先輩は迷いなく自分のこめかみに当てる……!!!


 気づいたら、身体は勝手に先輩の手に握られた銃に蹴りを放っていた。蹴りだされた銃が闇に消える。そのまま銃の電子データは、再び先輩の腰にあるホルスターに収納される。このままだとまた繰り返す!


 そう判断して先輩の両腕の自由を僕は片腕で奪う。もう片方の腕で、先輩の胸ぐらをつかんで立ち上がらせ、ハンガーの壁に押さえつけた。


「何してんだよ!」


 乱れた髪を直す事もせず、先輩は顔にかかる髪の隙間から僕を見る。その瞳は暗い光すら宿っていない。輝きを失った瞳から涙が溢れている。まるで裏切られた、と言いたげな瞳から僕は目を逸らす。


「君にも何時か分かるさ……認められないという事が、一番辛いんだ。この世界に来てから、何時かは理解して貰えるって! なのに君は、私を拒むんだろう?」


「……べ、別に拒むわけじゃ……」


 先輩はもう何も喋られない。僕の声が届かないような……瞳も僕を見る事を拒んでいる。


 ふ、ふざけるな! 僕が何をした! 僕は……


 先輩の拘束を解く……先輩はそのまま歩き去ろうとするが、僕は両手で先輩の顔を無理やり近づけキスをした。ただ唇をぶつけただけのその行動に、先輩は目を見開く。


「ふざけるなよ……勝手に期待して、希望と違えば逃げるのかよ!」


「あ、ああ……私は君に」


 今度も暴力的に口で先輩の口を塞ぐ。そのまましばらくはお互いに何も喋らなかった。先輩の瞳に少しだけ光が戻るのを確認すると、唇を離してその両肩を掴む。


「僕は狂人でも何でもない! でもな……お前みたいな狂人だろうが、何だろうが受け入れてやるよ! 認めてやるよ! 今日からお前は僕の物だ。だから死ぬ事も認めない!」


 無理やり絞り出した僕のわがまま発言に、先輩は驚いたまま頷く。その姿に安心した僕は、身体の力を抜くが……今度は先輩の方から僕を壁に押さえつけた。


 僕以上の力で押さえ付ける先輩は、瞳に力が戻っていた。しかし……凄く怖いんですけど!!!


 乱れた髪を手櫛で直し、片腕で僕を押さえ付けている先輩。そのまま笑顔で僕の顔に自分の顔を近づける。そのまま距離はどんどんと狭まって……


「やっぱり君も狂っているよ」




 ハンガーに戻ると、全員の視線が集まる。僕は苦笑いで適当な理由を話し始めたのだけど……僕の後ろに控える感じの如月先輩を見た整備班の男子達は、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「裏切り者には制裁じゃ!!!」

「ここに振りまくった炭酸飲料が用意してある」

「今までどこに行っていた? ほら、答えてみろよ!!!」


「お、お前ら!!! ……ギャァァァ!!! 目が! 目が!」


 炭酸を顔にかけられた僕が、ハンガー内を転がるとその場の全員が笑い出す。そうして祝勝会は終わりに近づく……だが!


「さて、今回の頑張りに私からも報酬を出しましょう!」


 東条が、何時も言わない言葉に全員が驚く。しかし次の瞬間に、何時もの東条だと理解した。ハンガーに置かれた折り畳み式のテーブルの上に、音を立てて置かれる虹色の飲み物……強化ドリンク!


「……おい。これが報酬とか可笑しいだろ!」


 僕の発言にその場の全員が頷く。そして全員がテーブルから一歩だけ後退した。全員が、こんな飲み物を受け取る事など拒否したいのだ。


「それじゃあ……日野と桐生が飲むって事で」


「待てや! いや、待って下さい! 1日に2回もドーピングとか笑えないだろう? 正直に言うけど、その虹色の液体は飲み物じゃねーから!!! 絶対に体に悪影響が出るって!」


 しかし、整備班の男子達が、面白半分に僕を拘束する。4人がかりで拘束されて、何とか逃げようともがいている時に……先輩が虹色の液体のビンの蓋を空けた。


 そのまま口に含んで……僕に近付く!


「や、止めて! マジでそれ洒落にならないから!!!」


 口移しで飲まされました。騒ぐクラスの連中に、先輩の何とも妖しい笑顔で口元を拭う仕草が妙に色っぽかったけど……虹色の液体は最悪だった。


 ……ハンガーの床でもがき苦しんでいたら、伸二が虹色の液体と睨みあっていた。東条から差し出された物だから、断れないけど飲みたくない! って感じなんだろう。


 僕は床に横になりながら伸二に助言する。


「つ、次はお前の番だ……さっさと地獄に落ちろ!」


「孝平! お前は友人に対して、もっと優しい言葉をかけられないのかよ!」


 だがそこに、立候補して虹色の液体を飲もうとする人物が現れる。武藤君だ……


「伸二先輩が苦しむのを見ているなんてできません! ここは僕が……」


「ま、待つんだ武藤! 後輩にそんな事……俺が飲む!」


「せ、先輩!」


 ……その場にいる男子は、武藤君の赤くなった顔を見て確信したし、伸二が気付いていない事にも触れない事にした。本人同士の問題だと思うんだ。……本当は面白そうだから黙っているんだけどね。


 その後は、伸二もハンガーの床に寝転がり、虹色の液体のダメージにのた打ち回った。


「な、何だよこれ……不味いとか苦いと関係ない……飲むのを、本能が拒否する感じだよ」


 僕が嫌な汗が止まらない状態で、東条が祝勝会の終了を宣言する。


「もう遅いし、今日はここまでにしましょう……では解散!」


「うーす」

「そんじゃ整備でもするか」

「そこに寝てるのはどうする?」

「寝かせとけば」


 この後は整備班が忙しい時間だ。戦闘後の機体の整備の為に、夜遅くまで整備に励む。感謝すべき所ではあるが、扱いの酷さに素直に感謝できない自分が居た。


 彼らが居ないと、僕達は満足に戦闘もできない。出撃したクラスメイトの為に、お菓子などの買い出しをして気を使ったりしているから、基本的に悪い連中じゃないんだよね。


「立てるかい孝平?」


 床に仰向けに寝転がりながら、声のする方を見上げる。そこには先輩が、座りながら僕を見下ろす形を取っていた。呼び捨てにされるのはこれが初めて……どうやら、気に入られたらしい。


「物凄く気持ち悪いです。やっぱり、薬に頼るのは止めるべきですね」


 色々と皮肉を込めて返事をする僕に対して、先輩は笑顔のままだ。この人も、ここだけ見れば優しい人の出来た先輩なのになぁ……




 それからしばらくした時の事だ。この世界の生活にも、全員がそれぞれのやり方で適応してきた時に、校内放送が鳴り響いた。時々放送される内容は、どこのクラスがミッションを成功させたとか、失敗したとか……それを聞いてから、次に準備を済ませたクラスがミッションに挑む。


 そんな感じにしか利用してなかった。しかし今回は……


『全校生徒に連絡します。こちらは『新生徒会』です。今日からこの学校……第108学校の生徒会として、全クラスの指示を出していきたいと思います。早速ですが、クラスの代表は至急、会議室に集まって下さい』


「新生徒会? ……選挙とか立候補とか誰かしてた?」


 放送をハンガー内で聞いていた僕と伸二は、その場にいた整備班の男子達と生徒会について話をした。生徒会は、司令部と言う役割を担っている。全クラスの上位に位置する……転校や転入の管理以外にも、仕事があるとは聞いていた。しかし、生徒会は事実上機能していなかったような?


 基本的に隊長である東条が居ないと、僕達は出撃する事が出来ない。何だか新しい出来事に、少しだけ不安になってしまう。話していても情報は集まらないので、僕達は一度教室に戻った。


「た、大変だよ! 由香里ちゃんや、草薙君が会議室に……それに、黒板にこんな文字が!」


 教室では、宮本さんがオロオロと動き回っていた。机の上には東条や草薙のノートや筆記用具が使用されたままになっている。……草薙は几帳面だから、移動する時は筆記用具は絶対に直していく。


 それをしてないって事は、連れて行かれたのだろうか? 考えながら黒板を見ると、そこには僕達を唖然とさせる文章が表示されていた。


『ミッション成功時の報酬であるポイントから、毎回30%を生徒会が徴収します』


 ……東条がキレるな。


「おいおい、これって何の冗談だよ! 今のままでも結構ギリギリなのに、そこから徴収するとか正気かよ!」


 整備班の男子が愚痴をこぼす。……確かに、以前よりも僕達は稼いでいる。しかし、稼いだ分で装備の強化や消耗品の購入に、参加していないクラスメイトの贅沢により結構ギリギリだったりする。


 毎日の食事による消費ポイントが、1600pまで上昇しているのも大きい。単純に5倍も食費がかかっているのは、給食のグレードが上がったからだ。朝昼晩と支給される給食は、今までは質も悪ければ、量も少なかった。僕もよく購買部パンとか買っていたしね。


 でも現在は、器すら立派になった定食屋みたいな給食になっている。牛丼とか凄い人気で、給食に出てくると取り合う連中すらいる。


「東条が怒るだろうな……けど、俺は東条を指示する!」


 決意を語る伸二は放って置くとして、問題は東条だ。また騒ぎ出して無理なフリーミッションの挑戦を繰り返す事をしないといいのだけど……考えていたら、教室に東条と草壁が入ってきた。2人は、怪我がなくて全員が安心する。


 だが、ここで初めてクラスの意見が分かれる事になった。




「クラス替えを大々的に行う? ……それって全校生徒で精鋭でも集めるのか?」


 東条と草壁の話から、2人は意外にも30%の徴収に文句は言わなかった。それ以前にゲームとして、学校の強化にポイントが必要だし、その強化により全クラスにもメリットがあるんだとか……校舎が新しくなったり、設備が充実したりするそうだ。


 ハンガーもボロイ作りだから、それならいいのかも? と思ってしまう。それに強化すると、消耗品のポイントも抑える事が出来るらしい。東条は、そこを強調していた。


 だけど問題は……


「……今クラスにいるゲームに参加していない連中を集めるのよ。そうすれば、参加している私達の所にやる気のある連中が集まる事になるわ。……流石に、12人だけじゃきついしね」


 実際に整備班は限界に近い。他のクラスがミッションに参加しているから、何とか自分達のミッションに間に合わせて機体を整備し終えている状況だ。


「切り捨てた連中は……」


 僕が、その言葉を言いかけて途中で止めた。切り捨てる連中が、どうなるかなど分かりきっている。ゲームに参加するにしても現在でもミッションは順番待ちの状態だし、次のステージに挑戦すれば戦死するかも知れない。


 ステージに挑戦して、どこかのクラスがクリアしたら、そのステージにはもう挑戦できない。成功報酬のあるステージは、参加クラスが狙っている。今後の競争率はどんどんと上がっていく事だろう。


 しかし、今回のクラス替えを行えば、参加しているクラスを減らしつつ、役に立たない連中をまとめて潰す事が出来る。競争率を下げ、戦力の充実に繋がるのだ。


 その結果として、切り捨てた連中には悲惨な結果が待っていると思う。協力を拒んできたのに、今更新しいクラスで団結できるとも思えない。僕達を憎んでまとまると言う考えも浮かんだが……


「僕は反対だ! 切り捨てるやり方で、この先生き残っても空しいだけだ!」


 東条と反対の意見を草壁が言う。草壁は、参加しないクラスメイト達と根気よく話していたし、最初から切り捨てるやり方を拒んでいた。だが、周りのほとんどが東条を指示する。


「でもさ……これから厳しくなったとして、他の連中は協力しないし、役にも立たない。それなら、俺はやる気のある奴らを集めたクラスで頑張る方が良いよ」


 整備班の男子の1人が意見を言うと、それに何人かが頷いている。


「俺は、東条さんを指示する。それに参加しない奴らは、東条さんの事を悪く言っているしな」


 伸二の意見は個人的すぎるが、東条の態度もあってクラスの雰囲気が悪いのも事実だ。東条が全部悪いわけじゃないけど……上から目線で、従えって言われたら腹が立つよね。そこさえ直せばいい奴なのに……


「伸二先輩に賛成です! 僕の元のクラスも、参加しない連中に苦労させられましたから……」


 武藤君が答えた後に俯く……確かにクラスごとに参加する人数が違う。ほとんど参加しているクラスも存在するし、全く参加していないクラスもある。全く参加していないクラスは、ポイントの物乞いみたいな事までしていたな。


「それでも、見捨てる事なんてしたくない!」


 何時もはここまで強気の主張をしない草壁が、ここまで言うとなると全員が困る。普段から色々と頑張っているのを知っているだけに、無理やり意見を押し通す事もし難い。


 そのまま話し合いを続けるが、意見は分かれたままだった。特に、東条と草壁の意見の対立は珍しい。宮本さんがオロオロと2人の間で落ち着くように言っているが、まるで効果が感じられない。


「……少しいいかな? 生徒会の決定には、絶対に従う事になるのか?」


 ここで、今まで黙っていた如月先輩が質問する。それに東条が答える。


「大々的にクラス替えをする事は決まってるけど、細かい指示は出てないの。クラス替え事態が、クラスと本人次第で決まるから……今回の行動で、生徒会は有力なクラスを見極めるつもりなのかもって思っているけどね」


 自主性かよ! 下手に細かな指示が出ないのを喜んでいいのか、悩んだらいいのか……


「……! な、なぁ……それなら切り捨てる連中は、どうやってクラスから追い出すんだよ! それならクラス替えを拒否するだろう?」


 僕は思った事を口に出した。クラス替えを拒否すれば、切り捨てる事になっている連中はクラスに残れる。そう思って聞いてみたんだが、東条は溜息を吐く。


「私の権限で、クラスに受け入れる事も追い出す事も出来るのよ。……今まではしなかっただけ」


「そ、そうなのか?」


「でも本当は、クラス替えをして追い出そうとしても、その受け入れ先が無かったのも大きいけどね。それに個人の意思でもクラス替えはできるけど、相手のクラスが受け入れを拒否したらクラス替えはできないのよ」


 む、難しい。


「基本的に、転校も転入も生徒会が権限を持っているだけで、ほとんど同じだよ。違うのは、出る時に……転校の許可も必要って事かな?」


 先輩が東条の説明の補足をしてくる。それを聞いて考えた。全クラスをまとめたらいいんじゃ! ……何かゲーム的に駄目な感じがする。きっとこのままゲームが進めば、そんな事をしていると行き詰りそうだ。


「日野の意見はどうなんだ?」


 草壁が、あまり意見を言わない僕に話を振ってきた。草壁の真剣な表情に、冗談を言う訳にもいかないな。


「正直な話し、切り捨てる必要はあると思うんだ。……でも、もう一度だけクラス全員に参加をお願いしたい。それで駄目なら諦めるよ」


「だけど!」


 僕の意見に、草壁は納得できない様子だった。その時に東条が割り込む。


「日野の意見を採用するわ。……私はすぐにでも切り捨てるつもりだったのよ。この世界に来て一ヶ月も説得したのに、協力しない連中には勿体無い提案だけどね」


 東条はもう決まった事にして、この話を終わらせようとする。それでも草壁が納得できない表情をしていた。


「なぁ、草壁……俺達だけが苦労して、あいつらを養う理由って何? ここまで耐えてきただけでも十分だろう。何時までも遊んでいるだけの連中の為に、死にそうな思いをするのは耐えられねーよ」


 伸二が草壁に意見する。この場にいる全員の気持ちでもある。僕達は戦闘で危険な目にあって、整備班は少ない人数で夜遅くまで頑張っている。東条も宮本さんも……それに草壁も帰ってから作戦会議なんかして、夜遅くまで効率や安全を考えた作戦を立てている。


 それなのに、参加しない連中に悪口まで言われているのだ。正直言って気に入らない。草壁もみんなの気持ちが分かるだけにそれ以上は何も言わなかった。


「でもさ、もしかしたら今回の一件で、クラスがまとまるかも知れないし、クラスから追い出したとしても助言したりポイントを渡す事も出来るだろ? 別に最悪な状況になるって決まった訳じゃないんだ。それにクラス替えしたら連中もやる気になるかもよ?」


 整備班の1人がその場の空気を和らげようとした発言に、多少は効果が現れる。


「そうかも知れないな……そうだと、いいんだけどな」


 草壁の祈るような呟きに、僕達は内心で気付いていた。全員が参加する事は、絶対にないだろうって……




 そうして次の日からは、予想外の行動が開始された。どのクラスも……ゲームに参加しているクラスによる、引き抜き合戦が始まったのだ。参加している連中も、違うクラスに移動するより、引き抜いた方がいいと思ったのだろう。


「聞いてくれ! 今日だけで2回も勧誘を受けたんだ。どうしよう……凄くうれしいんだけど!」


 教室に入るなり、僕は全員に先程の事を説明する。下級生の女子から、今日だけで2回……廊下でクラス替えをしてくれないか、と勧誘されたのだ。


 上目使いでお願いされた上に、その女子が中々可愛いかったのも付け加えて説明した。


「なんかパイロットって貴重らしいんだ。それで、是非うちのクラスを助けて下さい! って言われたよ。僕って凄くない!」


 そんな僕を、教室にいる11人が呆れて見ている。これからクラス全員が夕食で集まるのを利用して、そこで今回の大々的なクラス替えを話す事が決まっているのだ。そんな状況で浮かれている僕自身もどうかと思うけど……正直言って嬉しかったんだよね。


「日野君……如月先輩なんか、このクラスに押しかけて勧誘する人達も沢山いたよ?」


 そんな時に宮本さんが、善意で教えてくれた事実に悲しくなる。僕以上に人気があるじゃないか! 浮かれていた僕が馬鹿みたいだよ。


「整備だって重要なのに……何故みんなそこに気付かない!」


 整備班の男子が握り拳を作って、整備の重要性について熱く語り始めた。……当然無視したけどね。


「整備とか後方の安全が確保できる所には、人が集まって居るのよ。問題は戦闘に参加している連中が少ないって事よね……この一ヶ月で、結構戦死しているし……」


 東条が黒板に今回の生徒会の決定と、今後のクラスの方針を書きながら呟いた。そう……すでに戦死者が、他のクラスに結構出ているのだ。ゲームの序盤と言える現在でも、準備不足や不注意でどんどんと生徒の数が減ってきている。


 そして時間が来ると、給食が教室に不似合いな大き目の冷蔵庫に自動で届けられる。……冷蔵庫なのにアツアツの給食が出てくるゲーム世界には、言いたい事も多い。


 それとほとんど同時に、教室に入ってくる参加を拒否しているクラスメイト達。主に女子が多いため、彼らの中心は女子である。参加している僕達の中心も東条だから、うちのクラスは女子が強いのだろう。


 食べながら今回の件を、東条と草壁が話して協力を求める。しかし結果は何時もと同じだった。


「また勧誘? いい加減にしてよ。私達は参加なんてしないから」

「ウッセ馬鹿」

「生徒会とか興味ないし、関係ないわよね」


 給食を食べ終わると、話の途中なのに教室から出ていくクラスメイト達。


「説得は無駄だったみたいね……」


「……」


 東条はそう言って、出ていったクラスメイト達を黒板を操作して、クラスから強制的に外していく。草壁はその行動を悔しそうに見ていた。


 草壁の意見も正しいのだ。……だけど、このままだと僕達まで危険になる。広く感じる教室で、僕達は給食を食べ始めた。何時もなら馬鹿みたいな話や、今後の事を話しあっていた時間なのに……今は誰もしゃべらない。




 そして次の日の朝は、東条の提案で全員が朝早くから教室に集まって居る。現在朝の5時! 凄く眠いんだけど……整備班は4人とも、昨日も夜遅くまで仕事をしていたのか……疲れて眠っている。宮本さんは朝に弱いのか辛そうだ。伸二は武藤君と話している。


 元気なのは如月先輩くらいだろうか? この人は習慣なのか、朝から剣道の素振りをしているから全然平気そうだ。今も僕の横の席に座って、時々僕の方を見ている。


「それじゃ始めましょうか。実は昨日からの引き抜き合戦で、思っていたよりも人が集まりそうにないの……だからカプセルを購入します!」


 カプセル……NPCやアイテムを手に入れる事が出来る手段だ。だが、ランダム性が強くて失敗すると厳しい。東条が中々やろうとしない手段でもある。


「まぁ、人もいないし賛成だけど……予算は?」


「10万ポイントをつぎ込む!」


「「「おぉぉぉ!!!」」」


 クラスのほとんどがその言葉に驚く……寝ている連中と草壁は別だけどね。


「それから、今回は日野に挑戦して貰うわ」


「ぼ、僕に!」


 そうして、このクラス初のカプセル購入が始まろうとしていた。

 カプセル……ガ〇ャですね。課金した事ありますけど、あれは中毒になりますよ。いいカードが出ると、止まりません。

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