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書き溜めてた物はこれで最後です。
使い古された木造校舎にも慣れてきた僕……『日野 孝平』は、人の少なくなった校舎で購買部で買ったパンと牛乳を屋上で食べていた。外を見れば青空が広がり、少し寂しい街並みに人通りが確認できた。
日差しと風がとても気持ちいので、外に出てみたが……周りを見れば他にも客が居た。
この世界に来て2週間になるが、カップルが数多く誕生している。右にも左にも……イチャイチャとするカップルに1人でいる僕は耐えきれなくなる。危機的状況下で本能が刺激されている! 僕はそう思い込んでいる。
チュートリアルミッション攻略後に、数多くのフリーミッションをこなした僕達。気が付けばポイントが10万を超えていた。頑張り過ぎなんだよ東条の奴!!!
その間に色々と問題も出てきたが、今の所は落ち着いている。最初の問題は、他のクラスからポイントの要求だった。稼ぎ出した僕達に、ポイントを寄越せと言ってくるクラスの多い事……ポイントを渡す事は、お互いの同意がないと出来なかったので、これは大した問題でもなかったけどね。
次の問題は、クラスの連中がポイントを使いだした事だ。ポイントが増えると教室に集まってそのポイントの使用権を主張してきた。それはいいが、結局その後に誰もゲームに参加する事は無かった。
その10万のポイントを早急に使用して、装備を整えた僕達だが……今度はその行動に、クラスメイト達が口を挟んできた。自分達の意見を聞いていないとかなんとか……
「上手くいかないな」
独り言を呟いてみるが……周りのカップル達は、自分達の事で忙しく誰も振り向かない。……流石に居ずらいから帰ろうとした時だ。
校門にフリーミッションから帰還したクラスが、とても酷い状況だったのだ。フレーム5機で出撃したはずなのに、帰還したのは3機……指揮車の姿も確認できない。 その3機も左腕が無かったり、頭部が無かったりしていた。
まるで亡霊のように、校門から校庭に入るフレーム達……その姿に、屋上のカップル達も声を失っていた。
その日の午後に、教室に集まった僕達10人のゲーム参加組は、笑顔で微笑んでいる東条を前にして何事か! と思っていた。黒板を操作して現在の状況を説明する東条。
「チュートリアルを終えてから2週間……ついに市街地が利用可能になりました! ミッションをクリアすると開放地域が増えて、なんか利用できる所や、効果があるらしいのよ!」
その発言に一応の反応をするが……市街地を開放して何が手に入るのか?
「……日野、桐生と他男子は、分かってないわね。今まで学校で寝泊まりしていたけど、これからは自分の家からこの学校に通えるのよ。つまり自分の個人スペースが手に入るの!」
「凄いじゃないか!」
僕が喜んでいるその横で、伸二が俯いている。
「東条さんとの寝泊まりもこれまでか……はぁ」
しかし自分の家か……今日まで学校で寝泊まりしていたから、正直嬉しい。どんな家に住むか今から考えるとワクワクするよね。
「因みに、どれくらいのポイントが必要になるんだ?」
草壁が東条に質問する。確かにこの世界は、ポイントを消費しまくるからな……
「……アパートで2500pで、月に500p支払うみたいよ。条件がいい所だと5000pで、月に1000p必要みたい」
「……駄目じゃん! そんなにポイント稼げる訳ねーよ!」
個人のポイントなど微々たる物しか稼げない。しかも、稼いだら使いたくなるのが信条だ。椅子に深く座りなおして、体を机に投げ出す。もう、やる気が出てこない。
「ここからが本番よ。前回から2週間経って、他のクラスもどんどん動き出しているのよ。それにフリーミッションも他のクラスとかぶると受ける事が出来ない。それなら私達は次に進むべきよ」
東条の言う事は分かる。同じミッションは、同時に受ける事が出来ない。違うクラスがフリーミッションに参加するようになってからは、稼げなくなってきている。
「昼ごろに帰還した1年生のクラスが、次のステージに挑戦したらしいんだけど……結果は失敗ね。7人が戦死、ポイントも使い果たしたそうよ」
あの時のフレームの一団だよな? しかし……5機でも勝てない敵に、僕達が勝てるのだろうか?
「由香里ちゃんの意見も分かるけど……私達で勝てるのかな? 人数だって少ないのに……」
宮本さんが心配するが、東条は自信満々に答える。
「私達は今まで散々準備してるもの! それに1年生の話を聞いたら、相当な無計画で挑戦していたらしいのよ。それに……人数を増やす方法ならいくつかあるわ」
「『カプセル』って奴か? 一回いくらかかるの?」
整備班の男子が質問すると、東条は黒板にチョークで記入していく。
「最低で2000pよ。けどこれはあんまりしない方が良いわ……高額な物なら多少安心かもしれないけど、他のクラスが試しているのを見たら悲惨って言えるわ」
東条の説明はこうだ。2000p出してカプセルを購入したが、現れた人物は大した技能もやる気もない一般生徒と変わらなかったらしい。しかもだ! 呼び出された人材の分の食料は、支給しないといけないからポイントの出費がかさむと言うのだ。
「高額な物は、5000pに10000p……最高の奴が100万pよ。正直危険すぎるのよ。ランダムで使えない人員が出てきたら、泣きたくなるわよ」
「それ以外の方法は?」
僕の質問に笑顔になる東条。それを横から、恨めしそうに見つめる伸二が怖い。
「『クラス替え』や『転校に転入』に『同盟』ってのがあるの。クラス替えは人材の交換や受け入れができて、転校するのはそのままの意味だけど、これをすると相手側からも人材を出さないといけないらしいの。最後の同盟が、他校やこの学校のクラスと友好を結んで協力できるシステムみたい。」
「協力って事は、ミッションに参加してくれるの東条さん?」
今度は伸二が素早く質問した。競わなくていいから!
「そうよ。ただ問題があるとすれば、こちらからも協力を要請されたら断りにくいし、協力した分だけポイントも渡さないといけないの」
だが、人数不足で苦しむ僕達には有効な手段でもある。不要な人材を抱え込まずにいられる点は、他2つよりも安心できる。
「それで実際に、この学校の人材を調べてみたんだけど……日野と桐生は別格だったわ」
「ぼ、僕がそんなに凄いの!」
「俺は東条さんの役に立てるならそれだけで……」
喜んで東条に聞き返す。それよりも何時の間に調べたりしてるんだ? 東条はポイントの管理に、消耗品の管理と忙しい筈なんだけど。
「2人ともパイロット適正が高いのよ。この学校のパイロット適正の平均はCなのに、うちのクラスだけよSとAが揃っているのは……でも、日野はそれ以外の適性が極端に低いけどね。それに引き替え、桐生はほとんどの適性がAかBよ」
「……良いじゃん。僕はパイロットが大好きさ!」
「負け惜しみはみっともないぞ孝平」
伸二が余裕の笑みで僕を見てくる。他全てが低くても、パイロットとして一流なら問題ないだろうが!
「それで東条は誰かに目星を付けたのかい?」
草壁が話を戻すと、東条は黒板に名前を記入して黒板にその生徒の情報を表示させた。……相変わらずこの手の物に強いよな東条ってさ。
「3年生の『如月 彩愛』先輩と1年生の『武藤 悠馬』君が、かなり適正が高くて優秀かな? 如月先輩はパイロットも歩兵もこなせる前衛だし、武藤君は桐生と近い感じね。ほとんどそつなくこなせるから、どこででも活躍してくれるわ」
「……なぁ、東条? この2人のクラスがクラス替えに応じるかな? 僕が思うに、それだけ優秀なら絶対にクラス替えなんかさせないと思うよ」
優秀な人材を手放すなんて考えられない。しかし、クラス替えに学年は関係ないのだろうか?
「クラス替えは本人の意思次第よ。転校になると生徒会の決定に従うしかないけど……うちの学校は、生徒会が機能してないのよね」
何処のクラスも色々と大変だもんね。
「それと、確実にこのクラスに来ると思ってるのよね。日野は如月先輩を勧誘してきて、桐生は武藤君を勧誘すれば問題なく事が進むわ」
「? 如月先輩の事は美人だから知ってるけど、僕は面識がないよ?」
「俺は、東条さんの頼みなら頑張るけどね! 孝平も文句言わないで働けよ」
働けって……これでも結構働いてるからな! 整備の手伝いだってしてるのに……まぁ、主に雑用しかさせて貰えないけどさ。でも、本当に如月先輩と面識ないんだよね。向こうは黒髪の腰まで伸ばしたストレートの髪に、大和撫子! みたいな容姿と剣道部女子の主将だ。……その上、学校内でも上位に食い込む魅力的なあの身体……男子の人気だけでなく、女子からも人気の先輩だ。
「いいから、さっさと行きなさい!!!」
「は、はい!」
「任せて東条さん!!!」
教室を飛び出した僕と伸二は、それぞれ目的の学年の教室を目指す。黒板には如月先輩のクラスは3組と表示されていたから、僕は校舎3階の3年生の教室を目指した。
伸二とは階段で別れる。1年生の教室は一階だから……1人で上級生の教室に行くのは、少し怖いんだけどなぁ……
そうして来てみた3階の3年生の教室! お目当ての3組の教室前は、上級生の教室という事もあり変に凄みを感じてしまう。と、取りあえずノックをした方がいいのかな?
ち、違う違う! 兎に角だ、如月先輩を探さないと東条にまた怒鳴られるから早く済まそう。僕は意を決して、3年生の教室のドアを開いた。そうすると、一斉に上級生の視線が僕に集まる。怖くなって声が出なくなるが、そこに1人の男子が寄ってきた。
「君は2年生だよな? 今、うちのクラスは今後の作戦会議をしている所だから、用があるなら後にしてくれないか?」
あ、そうか……だから全員が揃っていたのか。取りあえずその意見に納得して頭を下げてその場から去ろうとする。
「あ、それと誰に用があるか聞いていいかい? 会議がいつ終わるか分からないからね」
優しい先輩だな……こんな人ばかりならいいのに。
「あ、じゃ……如月先輩に用があって……」
その時だ。急に窓から外を眺めていたらしい如月先輩が、僕の方を向くといきなり立ち上がった! ちょっ!!! 先輩が顔を真っ赤にして怒ってる!!!
しかもそのまま、僕の方に足早に歩いてきて右腕を掴んで教室から連れ出された。
「え? え! せ、先輩???」
「き、如月さん! まだ会議中なんだけど!」
そして男子の声を無視した如月先輩は、僕を連れて階段を上って校舎の屋上に向かった。あれれ? これってあれかな? ……まさか先輩は僕に恨みを持っていて、その腹いせが出来たらうちのクラスに来てくれると言う約束を東条としたのかな? あ、あり得そうで怖い!!!
目の前の先輩は、俯き加減で顔を赤くしている。両手が、何だか追いつきがないのか動いている。……目線も僕を見たり、逸らしたりと……あれ?
「は、話とはなんだ?」
いつも堂々としている先輩が、声を詰まらせて僕に質問してくる。何度か全校集会の時に聞いた、部活動の主将の挨拶では落ち着いてとても凛々しかった先輩。しかし、今の目の前にいる先輩は、恥らっているような感じがする。
「ああ、えっと……実はクラス替えの事でお話があります。先輩の力が必要で、うちのクラスに来て貰えないかなーって……」
そのままクラス替えと言うシステムと、僕達のクラスの現状を説明する。それを聞くと、先輩が少し気落ちした感じがした。軽く肩を落とし、目線も斜め下を向いている。
「そうか……私達のクラスも、その話が丁度出てきた所だったよ。でも、それならうちのクラスと君のクラスで同盟すればいいから、別に私がクラス替えする理由は……」
それもそうだけど、お互いに協力するにしても僕達の戦力はギリギリだ! 助けている余裕がない状況では、対等の関係ではいられない。……東条の言葉だけどね。
このままだと、先輩に断られてしまうよ! その時は、なんて言い訳したらいいんだ? いや、諦めるな僕! 東条や伸二に、失敗したらなんて言われるか考えろ……あいつらなら、絶対に僕の事を責めるに違いない。
「僕には先輩の助けが必要なんです! (失敗したら大変なんです!)」
僕の言葉に、先輩が顔を上げて僕の目を見てくる。目を逸らしてはいけない気がしたんだ……僕がどれだけ真剣かを分かって貰うために、僕は先輩を見つめ返す。
「わ、分かった。君達に……君に従おう」
最後は先輩の方から目を逸らして、僕の意見を聞き入れてくれた。本当に、ありがとうございます先輩! 僕は頭を下げて先輩にお礼を言った。
「こ、こちらこそ宜しくお願いします! 本当にありがとうございます!」
ふっ、見たか東条……僕の本気を! これで、東条にも伸二にも文句なんて言わせないぞ。僕はそう思っていたんだけど……後から考えると、正直失敗だったと思うんだよね。貴重な戦力を横取りされた3年生達からしたら、僕の行動は最悪と言っていいだろう。
そうして再び教室に戻ると、そこには伸二が自慢げに下級生を紹介していた。体の大きな伸二の横に並んだのは、小柄な下級生の男子。くせ毛の髪を少し伸ばした感じで、顔も格好いいと言うよりも可愛いと言った感じで、年齢よりも幼く見える。
「もう、即断即決だったな。武藤に、俺の気持ちが伝わったと確信したよ。俺について来い! これだけですべて上手く行ったんだから、東条さんはやっぱり流石だな」
「は、はい。僕も先輩に声をかけて貰えて嬉しかったです!」
伸二に寄り添うような感じの1年生……他の男子も薄々気付いているのだが、この武藤君の顔がほんのりと赤いし、伸二をキラキラした瞳で見つめている。
(ああ、そっちか……)
僕もその場で如月先輩を紹介したんだけど、その時の男子の視線は酷く冷たかった。伸二ですら
「ちっ、調子に乗りやがって……」
クラス替えを成功させた事が、そんなに恨まれる事かよ! これでも頑張ったんだぞ。
「はいはい、みんなこっちを向いて……クラスメイトの紹介もこれでいいとして、次の問題は『階級』かしらね?」
階級か……確か、上がる条件を満たすとポイントの消費で、階級が上がるんだよな。現在の僕達の階級は、全員が『伍長』だったと思う。ゲームの階級だから、精々が特典が付いたりするくらいだろうけどね。
階級の話になると、僕と伸二に東条がその条件を満たしているらしく、すぐに次の階級に昇進した。今では『軍曹』だよ。
「これから忙しくなるわよ。次のステージで失敗した1年生達の話を聞いたけど、私達なら攻略できると分かったの。敵の数が8機にまで増えているけど、大体の敵の位置も聞いたから安心して」
「随分と協力的だな1年生は……なんか怪しくないですか?」
僕はその意見を、僕の隣に座った先輩に聞いてみた。先輩は曖昧な返事をするだけで、あまり僕の話を聞いていない。
「そ、そうだな」
その後の東条の説明で、うちのクラスからポイントを渡した、と言われた。ギリギリの状態である1年生達は、この取引に応じて情報を渡したと言う。どんな世界でも、金が物を言うのかね?
「今回から、如月先輩と武藤君にも出撃して貰うわ。残っているフレームは、準備が済んでいるんでしょう?」
東条が、整備班の男子に質問する。その質問に堂々と整備班が頷いた。
「かなり厳しかったけど、なんとか間に合わせたぜ。近接専門とレーダー搭載の後方支援型は、準備できてる」
「流石! それとチュートリアルの報酬なんだけど、この『強化ドリンク』を日野に使う事にするけど、文句ある人?」
「僕に? なんて言うのかな……ドーピングって怖いから文句あるんだけど」
本音が即座に出てしまった。強化ドリンクは、文字通りステータスや技能の『強化』を行う。ランダム性が強いアイテムで、何がどれだけ上昇するか分からない。上限は決められているから、劇的に強くなる訳でもないが……怖いアイテムではあるよね。
「他に文句のある人がいないから、日野に決定でいいわね?」
「異議なし」
「文句なし」
「人体実験だから、日野でいいよね」
……整備班の男子と、伸二が東条の意見に賛成した。そうすると、東条が僕の前に妖しいドリンクを持ってきて、僕の机に置いた。……何と言っていいか、虹色に輝く不気味な液体を透明な瓶に入れている。ラベルには
『強化ドリンク』
筋肉質の男性が、腕に力こぶを作っている絵と文字が描かれていた。……普通に市販されていたら、手に取る事すらしないその液体の詰まったビンを手に取って蓋を開ける。
臭いはしない筈なのに、何だか飲むのをためらってしまう。本能が拒否しているのではないだろうか? そのまま周りを見渡すと
「「「いっき! いっき!」」」
全員がいっき、いっき、とコールして飲む事を強要した。いや全員ではないな。武藤君は伸二を見ているし、先輩は僕の事を顔を赤くして見ているだけだ。
覚悟を決めて飲み干してみる。……液体が喉を通る時に、酷い吐き気を感じて苦しくなる。胃に到達するとかなり重い感じと、変な汗が出てきた。本格的に苦しくなってきて、そのまま教室の床に倒れるように横になる。
「ひ、日野君! だ、大丈夫か!」
先輩が近付いてきて僕を介抱してくれているが、他のクラスメイトの反応は冷たかった。
「……やっぱり強化ドリンクって、効果はあるけど相当苦しいのかしら? 草壁はどう思う?」
「効果があるから、苦しいのかも知れないね……正直、追い込まれないと飲む気が起きないかな」
先輩に膝枕をされながら、自分のステータスを確認する。学生服のポケットから生徒手帳を取り出して、そこに記入された自分のステータスを見ると、確かに効果はあった。全体的に少しだけ上昇したステータスに、技能はパイロットに必要無さそうな物が上昇していた。
ついでに新しく『確変』と言う物が、備考欄に追加されていた。説明文には
『特殊な技能であり、入手困難な技能の1つ。確率変動を起こす事が出来る』
実に運任せの技能だ。技能として強化もできない事を考えると、微妙としか言いようがない。大体だ! 確率が10%から20%に変わっても、外れたら何の意味もない!
取りあえず効果のほどを東条に説明したら、全員が微妙な顔をしていた。僕と同じ結論に至ったらしい。
「と、兎に角! これで準備もできた事だし、次のステージを目指すわよ!」
全員が返事をする中で、僕だけは先輩の膝枕で苦しんでいた。……もう、ドーピングなんてしないからな!
『今回のステージから4機で出撃するけど、問題は無さそうね』
東条が、指揮車から見た状況を僕達に伝えてくる。ハンガーから出撃した僕達は、目的地に到着後も問題なく隊列を組んだり連携を行えていた。
4機のドラム缶を着込んだようなフレーム達は、レーダーを装備した武藤機を守るように配置に付いている。この2週間で、ギオの動きも大分ましになっている。それでも、1年生達のボロ負けした姿を思い出して緊張してしまうのだ。
今回も戦闘後の市街地での戦闘だった。違うのは、雨が降って居る事と味方が2機増えた事だろう。向こうは2倍の敵機が居るんだが……4倍よりは断然いい。
『敵の位置は掴みましたけど……5機しかいないみたいですね』
武藤君の見つけた敵を、マップで確認する。……確かに5機だが、1年生達の情報では8機は確認していたはずだ。増援か、隠れているのだろうか?
『厄介そうな敵から叩きましょう。……レーダー装備の敵から叩くわよ』
『任せてくれよ東条さん!』
伸二のフレームが、動き出して敵の注意を引きつけた。未だに敵は弱い設定のままなのか、2機が伸二の機体に釣られて動きだし、レーダー装置を装備した敵機の護衛が手薄となる。
僕と先輩が、その隙に残った敵の3機に近付いた。瓦礫となったビルの残骸を利用して進む僕達に、敵が反応したのはマシンガンの射程に入った時だ。ギオの両腕のマシンガンと、先輩の機体のアサルトライフルが火を噴く……隠れながら敵に対して攻撃を繰り返し、敵を倒していく。
『敵3機を撃破! 日野君が2機で、如月先輩が1機を撃破です……桐生君も敵を1機撃破!』
ヘルメットから聞こえてくる、宮本さんの声も明るい。このまま行くと何事も無く終わりそうだな……しかしその時。
『!!! 気を付けて下さい! 日野先輩と如月先輩の後方から敵が来ます! 数は……4機!!!』
4機! 情報と違うじゃないか! すぐにギオを反転させてビルを建てにしようとしたが、敵はすでに視認できる距離にいた。僕達がマシンガンとアサルトライフルで反撃するが、敵はビルを利用して攻撃が当たらない。
それに2機は完全に接近戦使用で、両手に剣を持ってこちらに向かってくる。マシンガンで向かってくる1機は撃墜するが、もう1機は目の前に迫っていた。
「嘘だろ!!!」
ギオを動かして敵の攻撃を避けようとするが、反応が追い付かない。敵の剣が振り下ろされる中、次の瞬間には敵は撃破されていた。
『如月先輩が1機撃破! 残り3機ですから、みんな頑張って!』
宮本さんの声が聞こえた後に、今度は先輩の声が……
『まだ動けるかい日野君?』
「だ、大丈夫です。……まだいけますよ」
先輩の声を聴いて少し安心した。そのまま機体のダメージをチェックして、このまま戦闘が出来る事を確認する。今回は弾倉も持って来てあるし、前回よりは余裕だろう。
それよりも先輩だ……同じ鉄の塊である剣を使用して、敵機を切り裂いたのだ。切り口も綺麗な敵機を見ると、先輩の異常さに驚いてしまう。
『……それなら援護してくれ』
そう言って先輩の機体は、残りの敵機を目指して突撃していった! 何考えてるのあの人!!! 僕が両腕のマシンガンで先輩を援護するけど、先輩に当たらないか冷や冷やしてしょうがない。しかし先輩は、機体を上手く操作して敵の攻撃にも反応し、そのまま敵を斬り伏せる。
最後の敵機も、左手に装備しているアサルトライフルを全弾撃ち込んで撃破していた。……この人あれだよ、化け物の部類の人間だよ。そしてヘルメットからは、先程から繋がっている通信で先輩の笑い声が聞こえてくる。
『クククッ……は、ハハハァ!!!』
狂気! 先輩のその後の行動は、動かなくなった敵に対して必要以上に攻撃を繰り返していたのだ。剣を何度も突き立てる先輩に声をかける事は出来なかった。
『最後の敵も桐生君が撃破! みんなお疲れ様……』
コックピットの中には、先輩の笑い声と宮本さんの喜びの声が聞こえている。
『総合評価S 敵よりも少ない数での勝利と損害の軽微が評価されました。 総ポイントが21000p 今回の被害額が……』
表示される今回の成績に全員が喜んだ。単純に2倍の収入に加えて、成功報酬は『強化ドリンク2個』……ふざけんなよ! 虹色の液体なんかいらねーんだよ!!! なんでそんなに薬漬けにしたいんだよ!
東条なんか、今度は誰に飲ませるか通信越しに、ブツブツ呟きながら悩んでいるのが聞こえている。1回くらい自分で飲んで見ろよ! 本当に罰ゲームを超えて危険だって分かるからさ!
色々と文句も言いたい結果だが、それ以上に問題なのが……如月先輩だ。ギオを操作して学校への帰還途中に色々と考えた。先輩のあの行動は異常だ。
誰かに相談するか? あの時の事は僕しか知らないみたいだし、先輩のこれまでの人柄から信じてくれるかも問題だった。僕が嘘を言っている、と言われて終わる可能性もある。
そうして悩んでいると、問題の先輩から通信が入った!
『……日野君……帰ったら時間を作ってくれないか? 話があるんだ……』
落ち着いた声なのか、気落ちした声なのか……冷たく聞こえる先輩の声に、僕は即座に返答が出来なかった。数十秒か、数分か……その後にようやく絞り出した声で、先輩に答える。
「…………分かりました。学校に着いたら、すぐにハンガーの裏に行きます」
僕達のクラスは、ミッションが終わるとささやかながらに祝勝会を行っている。ハンガー内で、整備班の男子達が買い込んだ購買部のお菓子とジュースだけで、みんなで騒ぐのだ。
その時気付いたのだが、ハンガーの裏には、学校を囲む壁とハンガーに隙間がある。暗くなると不気味なその場所は誰も近付かない。明るい時でも、ハンガーから聞こえる機械音などが五月蝿いから人などいない場所だ。
出撃前の緊張感とは、違った緊張をしながら僕は学校に戻る事になる。相棒……僕は、いったいどうしたらいいと思う? その時は一切の機械音が止んで、まるでギオが黙り込んだような錯覚を受けた。
「お、お前! 僕を見捨てるつもりか!」
本当にどうやって、この難問を切り抜けたらいいんだよ!!!
人気のVR作品に手を出したかったんだ! 異世界もいいけど、VRもいいと思う。