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 続けての更新です。

 見知らぬ木造の教室と校舎で、僕達は現在の状況を確認し始める。教室の黒板には、表示された人材配置の要求に名前を書けと赤字で表示している。


 ご丁寧に説明付きで、配置に必要な技能やら必要ステータスが書かれ、それに最も適した人材……クラスメイトを推薦している。


『日野 孝平……パイロット適正値S』


 自分の名前を確認すれば、パイロットとして一番に名前が書かれているし、他のクラスメイト達にもそれぞれ配属の推薦がされていた。友人の『桐生(キリュウ) 伸二(シンジ)』もパイロットとして名前が出ている。適正値はA。


 そんな状況で、木造の教室からは出る事も出来ずに窓から外を確認して見れば……校舎も見知らぬ建物。教室から見える近隣の風景もどこか寂しい街並みだ。


「これから話し合いを始めるけど、まだ騒ぎ足りない奴はいるかい?」


 黒板の前に立っているのは、委員長の『草壁(クサカベ) 直樹(ナオキ)』だ。軍服を思わせる制服に、整えられた髪と眼鏡が似合う委員長。細身でどこか頼りないが、成績優秀な先生受けもいい生徒だった。


 草壁の言う『騒ぎ足りない奴』と言うのは、このクラス全員の事だ。この教室に来てから3時間……僕達全員が今の状況に混乱し、騒ぎを繰り返した。


 その後の疲れと、教室から出られないと言う事実から、配属先を決めれば出られるようになると黒板に書かれているのに先程気付いたのだ。……人間慌てたり、混乱すると駄目だという事だろう。


「今の状況で窓の破壊や、教室の破壊は危険だ。黒板に書かれているクラスの総資産……ポイントが少なくなっている。これは僕や他数名の考えだけど……企業の説明を受けて、人差し指を訳の分からない装置に触れた時からこの世界に迷い込んだ」


 草壁の説明に、みんなが心の中で気づいていた事実を想像する。


『僕達はゲームの世界に迷い込んだ本物の人間だ』


 都市伝説で、VRゲームに囚われる人の話を聞く事がある。その状況と今の状況は、とても似ている。そして僕達の意見は……


『元の世界に帰る』


 当然これになるが、帰る方法が分からない。その上、このゲーム世界は企業の説明だとリアルを追求した物だ。生き残るには、生きていくには戦わないといけない。


「この状況に、不満を持つ奴もいるのは分かってる。だけど……僕は、ここは協力してこのゲームに参加しようと考えているんだ。生きていくためもあるけど、それ以上にここから生きて帰るためには情報が必要だし、ゲームのクリアが帰還の条件かも知れない」


 その日のホームルームで、草壁の参加表明にクラスの……男子女子を含めて30人のクラスの内で、10人が参加する事を決めた。


 僕もその1人だ。




 人材の配置を決定すると、教室の扉は木造なのに自動ドアのごとく自分で開く。そこから流れるように飛び出していく……残ったのは参加を表明した10人だけだ。


「それじゃ今後の事を話しあおう。……正直言って僕にゲームの知識はない。この中でゲームが得意とか、好きな奴はいる?」


 草壁の言葉に伸二が、僕の方を見て指をさす。


「孝平はゲーム得意だぜ。アクションゲームの、しかもロボット物なら結構有名人だからな」


 伸二の説明に僕は少し腹を立てる。確かにロボットを操縦するゲームは好きだが、それ以外の戦闘機の操縦も好きだ。ゲームセンターでの通信対戦で、ランキングに名前を連ねた時の気持ちは今でも覚えている。


「得意って言ってもゲームが違えば話が変わるよ」


 だが、僕の返答はみんなの期待に応える物ではない。いくらランキングに名前が表示されようと、大会で優勝しようがゲームの話だ。この世界の戦闘兵器である『フレーム』の操縦など経験がない!


「それでも日野の事は頼りにするさ。……後は?」


 今度は僕が伸二に仕返しをする。


「伸二が、戦略ゲームが得意って自慢してたよね?」


 伸二は、自称『戦略ゲームの鬼』だ。攻略本を横に置いた鬼など怖くもないのだけど……それを言われて伸二も僕と同様の返事をしている。


「ゲーム次第だからな! 大体このゲームって説明で聞いてたけど、VRゲームだろ? そんなゲームに有効な戦術や戦略なんてすぐに広まって、どれだけ課金したかで勝敗が決まるのがお決まりさ」


 そう……すぐに有効な戦略や戦術は広まり、プレイヤーの技量の差だけでない時間や金が物を言う世界になる。……ん?


「なぁ、この世界に迷い込んだのは僕達だけかな?」


 僕の全員に対する質問は、その場の雰囲気を変えた。


「……僕達だけとは考えにくいね。実際にこのクラスの全員が自我を持っているし、この技術的な実験に参加したのは全国の中学校から高校までとても多い。僕達以外にもいるのなら……」


 協力すればそれだけゲームを早くクリアできる。しかし、それが帰還の条件かも定かではないこの状況下で、協力を求めてどこまでそれに応えてくれるのかが問題だ。


「あぁぁぁ!!! もう! なんでそんなに悩むのよ! 最初にやる事なんかゲームなんてどれも一緒でしょうが!」


 その場の雰囲気にイライラした『東条(トウジョウ) 由香里(ユカリ)』が、大声で僕らに気合を入れる。


「この手のゲームは課金させる事も目的だけど、参加人数を稼ぐために課金だけじゃ上手くいかない様にもなって居る筈よ! それにこれは、説明通りなら課金なんて存在しないテスト状態のゲームよ」


 立ち上がった東条は、お嬢様と言った感じの女子だ。実際に家は金持ちだと聞いているし、勉強もできる……が、正直に言えば正確に問題がある。


 上から目線で命令口調! そこが良いと言う猛者達もいるけれど、僕には苦手な部類の女子である。得意な部類も存在しないが、苦手なのは確かだ。


「これからはどれだけ時間を割くか、それからどれだけ効率を重視するかが問題よ。最初の目標は……このチュートリアルミッションのクリアが目標なら、それに従ったら?」


 黒板に表示されている『チュートリアルミッション』。近日中に準備を整えて、出撃する事で受けられるミッションのようだ。これをクリアしない事には先に進む事も出来ない。


 そして準備と言うのが……それぞれの配属先での必要技能の習得と熟練度の上昇。それから装備品の確認と購入……表示されている内容を、数日中にこなすと考えると頭が痛い!


「日野と桐生は、パイロットの技能獲得! アンタ達が勝たないと、私達はこのままだと一ヶ月しない内に餓死よ!」


 東条のが黒板を叩いて、クラスの総資産であるポイントとそれを食料に換算した数字を見せ付ける。……何時の間に機能をここまで使いこなせるようになったんだ?


「全ポイントは2840pよ! さっきの破壊活動で160pも消費したの……これをクラスの食料に換算すると、最低ランクの食事にしても一日に300p消費するわ。数日空腹に耐えたとしても、このままだと何もできないまま終わるの」


 肩まで伸びたストレートの髪を揺らして振り返る東条。華奢な体に似合わない大声でこの教室に残る全員に告げる。


「敵は侵略者って言われる火星の国家だけど、それと同時に化け物みたいな連中まで敵として登場しているのよ……これがゲームなら死んでも誰も文句は言わない。けど、この世界に迷い込んだ私達は……説明でも戦死での復活は無しになっているわ」


 その言葉にこの場の雰囲気は最悪となる。参加を表明した物静かな女子『宮本(ミヤモト) (ケイ)』さんが、震えて涙を流している。


「……だから死なないで! ここに居る10人で、何とか部隊を機能させる事が出来ているけど……ギリギリなんだから、誰も死なないようにするわよ! いいわね!」


 僕達は、顔を見合わせて反応に困る。……あの東条がデレただと! 普段の自分と違う言動に顔を赤くする東条が、可愛くもあり微笑ましい。


「僕も東条さんの意見に賛成かな? ここにいる10人でギリギリなのは確かだけど、それ以上に僕は誰にも死んで欲しくない。他のみんなも参加しなくてもいいと思っているんだ。……意見違うのもしょうがないし、無理に参加させるのも違う気がする。けど! だけど見捨てる事もしたくない」


 草壁が黙り込んだ東条の代わりに話を再開する。


「先ずは出来る事をしよう……この世界の言い方だと訓練かな? 時間は限られているけど、やるべき事は多いから、できるだけ協力して最初のミッションに挑戦しよう」


 全員が立ち上がってその言葉に頷く。こうしてこのクラスでゲームに参加する10人が決まった。


 僕と伸二はパイロットとして前衛へ……東条と草壁、宮本さんは指揮を執るために後衛に……残りの5人は機体の整備に当たる事になった。この5人は、戦闘時には輸送機の操縦などもこなす事が決まった。歩兵にもなれる万能の5人だ!


「……俺達の扱いが酷過ぎるだろうが! 整備に歩兵もこなせねーよ!」


 文句は、この際聞き流すとして……早速行動を開始した訳だが……これがゲームと思えないほど地味だった。体力をつけるなグラウンドでランニング! 操縦の技能は訓練機を使用してでしか得る事が出来ない。




 行動を開始してから初日に技能は得る事が出来た。そこは流石ゲームだったが、僕達以外にも行動しているクラスはいる訳で……順番待ちで訓練がはかどらない。


 そして、今日も地味にグラウンドを走っている。走っているのは、クラスでは僕と伸二だけだ。だが、周りを見渡すと他のクラスの下級生から上級生まで30人近くが走り込んでいる。


 僕達の高校は、全校生徒450人の1学年5クラスの高校だ。しかし、現在の高校の名前は『第108学校』……番号管理もここまで来ると尊敬するよね。


「はぁはぁ、孝平! こんなんで生き残れると思うか?」


 走りながら聞いてくる伸二に僕は、息を切らしながら答える。全身から汗が流れ、普段の運動不足が骨身にしみて実感している時にこの質問……考えた答えなんか出るもんか!


「知るか! けど……これで生き残る確率が上がるなら安いもんさ」


 この学校の運動服……それに着替えてのランニングだが、女子が来ているのはブルマだった。ほとんどの個人の所有物を持たない今の僕達は、学校から支給された制服と学生手帳に運動服……それが全ての財産だろう。だがそれが良い!


 目の前を走る、3年生の女子達の後ろについて行きたくなる気持ちを利用してとにかく走る。少なすぎる体力と言うステータスを何とかしないと、このままでは効率が悪いらしい。


 東条の意見だが、その意見に喜んで従う友人の伸二はMだと思う。今も苦しいのを楽しんでいるし……


「これを乗り越えると俺はもっと……東条の為に頑張るぜ!」


 あんなツルペタのどこがいいのか分からない。趣味趣向は人それぞれだから、文句もないが……この状況に追い込んだ東条には言いたい事もある。


「ち、ちくしょう……こんなに頑張っても、現実には効果ないなんて……空しいだろうが!」




 そして数日と言う時間はすぐに過ぎた。その間にした事と言えば、整備の連中はフレームの整備に装備の補充。後衛の指揮車に乗り込む3人は、それぞれが必要技能の習得と訓練……運転手は草壁で、オペレーターは宮本さん。そして隊長には東条だ。


 校庭のグラウンドの隅に設置された僕達2年1組のハンガーには、起動できるフレームが5機用意されている。実際にはパイロット不足で、2機しか出撃できないけどね。


 黒い基本フレームの人型の巨人に、ドラム缶みたいな装備を着込ませた僕達の機体。武骨な頭部から2つのカメラアイがキラリと光っている。


 出撃を前にして、ハンガーに集まるクラスメイト……僕達10人は、その巨人達を見上げていた。ここまで来るために全員で準備していたのだ。絶対に成功させたい。


「……チュートリアルの適性出撃数は、フレーム5機よ。この意味わかるわよね?」


 東条が、僕達を見ながら告げてくる。この数日、みんな遊んでいた訳ではない。クラスメイトに参加しないか聞いて回り、何とか人材を確保しようとしたのだ。だが結果は……


「この数日で成果は0よ。誰も参加しようとしない……食料だけは要求するんだから、腹立つわよね」


 本音をこぼす東条に、草壁と宮本さんがなだめに入る。


「由香里ちゃん、きっと今回のミッションが成功すれば、みんな参加すると思うよ」


 弱弱しい声で、宮本さんは東条に語りかける。両手を胸の前で握りしめて……何と言うかエロい! 宮本さんもそうだが、東条もエロい! 今着ているのは、戦闘時に着る戦闘服だ。その戦闘服……肉体の強化もしてくれる優れたスーツなのだが、体に密着していて何ともエロい!


 全身をごついタイツで包んだだけの装備に、多少の不安もある。だが、男子としてブルマや、この服装の発案者には尊敬する!


「……ポイントを沢山稼いだら、こんなエロスーツなんか即代えてやるから!」


 視線に気づいた東条が、体を隠そうとするが……正直お前には興味ない。他の男子の視線もどちらかと言うと宮本さんに注がれている……1人以外はね!


「そ、それは困る!」


 東条を見つめる伸二……僕達は黙ってそのまま配置に就く事にした。




 コックピットに入ると、シートに滑り込むように座る。オートで固定される僕の強化スーツは、全身タイツの上に白い胸当てと、左腕に小手が付けられている。固定されるのを確認して、起動させるとパイロットの確認が行われる。徐々に起動していくこの世界の『相棒』に、僕は『ギオ』と言う名前を付けた。


 起動したギオのカメラアイを操作して周りを確認する。足の下にクラスメイトが居ない事を確認すると、ゆっくりと歩行を開始した。……コックピット内には、操縦桿2つにペダルが2つ、外の光景を見るのはヘルメットの中に映される映像を見るしかない。


 目の前に、大画面のディスプレイがあるにはあるが……それだけしかないからね。基本的な動作も細かい動作も、ほとんどが機体とのリンクした状態で簡単に行える。流石ゲームだ! 長時間の訓練を必要としたらゲームとして欠陥だと思うしね。


 横を向けば、伸二の機体も起動している。そして歩き出した人型兵器の前を走る指揮車から、宮本さんの声が聞こえる。


『二人とも聞こえる? これから現場に向かうけど……到着までそんなに、そんなに時間はかからないから』


 慣れない事に、あたふたと対応する宮本さんもいいなぁ……そう考えて歩かせているギオの足元に、クラスメイトや学校の生徒が集まりだした。歩いているすぐそばまで来て、こちらを見上げている。


『歩きにくいから離れろよ!』


 音声を外に聞こえるようにして、そう言ってみるが……周りは特に気にもせずに近寄ってくる。


「ケチケチすんなよ! しかし不細工なロボットだよな」


 機体の両腕に装備したマシンガンに、背中には近接戦用に剣が収納してある。ハッキリ言って転んだら相当怖い事になる。


 校庭を歩くだけで、こんなに疲れると考えてもいなかった。足元に不用意に近づく連中に気を付けながら、そして校庭を出る事に成功する。それだけでミッションをこなした気分になった。


『日野、急ぐわよ!』


 指揮車か聞こえる東条の声に、気合を入れられて再び歩行を開始した。このフレームと言う人型兵器は、経験を積む事でより強くなると説明してあった。それはつまり、初期状態は弱いという事でもあるだろう……歩く事すらぎこちない相棒のギオ。本当に戦闘で生き残れるか不安になる。


 装備してある武装を確認するが、攻撃力と言うステータスも低いし、フレームの外部装備は防御力が低い。スタート時に贅沢は言えないが、もう少し安全が欲しい。




 そしてチュートリアル開始ポイントに到着する。そこに現れるのは、敵と思われる同じフレームが4機確認できた。ヘルメットを通して見えるマップには、敵の機体が確認できた。


 場所は戦闘後である街だ。壊れたビルや、瓦礫の散乱するその場所に雲で覆われた薄暗い戦場に、敵の赤い機体がとても目立っている。


 説明文が表示されながら戦闘が進行していく……そこで敵もようやく動き出すのだ。


『今回に限り、敵の位置を確認できるようにします。通常は敵を視認するか、特殊な装置での発見をしないと敵は見えません』


 教室で聞こえた無機質な声は、今回を特別だと説明する。そして動き出した敵は、接近する機体と後退する機体に別れた。3機が接近する中で、僕は機体を壊れかけのビルに隠しながら前進して近付く。


『あ! て、敵の1機が日野君に向かっていくよ!』


『敵のフレームもあなた方の使用するフレームと大して変わりませんが、相手の装備している外部装備はランクが1つ上です』


「量でも質でも負けるのかよ! それで勝てるからゲームなんだけど……な!!!」


 勢いよく動かすイメージをギオに送るが、その反応について行けないギオがぎこちなくビルから半身を出して、マシンガンで攻撃を開始する。僕が握る操縦桿のトリガーを引いているが、反応が悪過ぎて敵には当たらないし、その攻撃に気付いて避けた上にこちらに攻撃してくる。


『孝平、無事か!』


 伸二の機体からの攻撃で、敵も逃げ出したが……ステータスを確認すると、機体にはダメージが……


「ああ、少しくらったよ……だけど、ここからだ!!!」


 ギオの反応速度も分かった。ゲームセンターで扱えるどんなゲームのロボットよりも遅いし、バーニアなんか装備してないから不格好に走るしかない。


 それでもマシンガンを敵に向けて放つ! 敵の動きを予想して、そこに敵が居ればいいくらいの気持ちで攻撃し続ける。残弾数の表示か勢いよく減る中で、敵の動きが予想通りな事もあり攻撃が当たる。


『凄いよ日野君! 敵を撃破したよ! でも、また次が……今度は2機だよ』


 両腕のマシンガンを止める頃には、次の敵が近付いているらしい。半泣き状態の宮本さんの声を聴いて確認すると、すでに伸二と交戦していた。


『全然当たらねーよ! 本当にチュートリアルかよ!!!』


 叫んでいる伸二も苦戦している。僕もギオを動かして伸二の援護に回るが、もう1機が邪魔をしてくる。予想しながら敵にマシンガンで攻撃するが、残弾数は残り僅かだ。


「ちっ!」


 勢いに任せて敵にギオを突撃させると、敵の反応も鈍いのか反応が遅かった。そんな傍から見れば不格好な戦闘でも、今の僕には精一杯だ。


 敵にぶつかり倒れ込む敵に、抑え込むような形となるギオ。そのまま両腕のマシンガンの残弾すべてを撃ち込んでいく……映画やテレビで聞いた事のある銃の音と共に、コックピット内にまで振動が伝わる。そのまま敵が動かなくなると……


『日野君が2機目を撃破! だけど、もう残弾も『0』じゃ……』


「まだだ!」


 背中に収納している『剣』を両腕のマシンガンを交換する。武骨な外見の剣は、斬ると言うよりも殴りつける方が良いかも知れない。それを右腕に装備して伸二と交戦する敵に向かう。


『日野、いくらなんでもそんな武器じゃ無理よ! 桐生には何とか耐えて貰うから下がって……アンタの機体のダメージは、結構酷いのよ』


 言われて確認すれば、ダメージを知らせるアラームは鳴らないまでも、フレームにまでダメージが及んでいた。


「このままだと伸二が危険だ。それに……まだやれる」


 僕の返答を聞いて黙り込む東条。しかし……


『なら、なるべく見つからないように、隠れながら進みなさい。桐生にも伝えるけど、無理して死なないようにね』


「分かってるよ」


 軽く笑いながら通信を終えると、そのまま指示通りにビルに隠れながら進んで行く。銃撃戦の音が近付く中で、敵を視認する事が出来る位置にくる。


 そこには激しく撃ち合う伸二と敵の機体が確認できた。通信を送ろうとも考えたが、敵にばれるかも? と考えて控えると、シンジに分かるようにギオの腕で合図を送る。


 それに気付いたのか、ビルに隠れるように後退する伸二。それを追う体勢を取った敵に後ろから走って敵に剣を突き立てた。切っ先は鋭いのだから、刺さるだろうと言う安易な考えだったが……伸二との銃撃戦でボロボロの敵は動かなくなった。


『3機目も撃破! 凄い……』


『残り1機ね。油断しないで!』


 その時僕は、自分に銃があればと考えていた。接近してこないなら、敵は遠距離攻撃タイプだと思い込んでいたのだ。だが……


「代えの弾倉とか無いの? 普通のゲームならありそうなんだけど……東条?」


 言いながら思った。東条ならこれくらい気づきそうだ! それでも用意していないという事は……


『装備とか用意して、すでにポイントもギリギリなのよ。だから今回のミッションが失敗すると……本当に餓死するしかないわね。それにマシンガンも、残った3機の武器だから無くさないでね』


「ちょっと待てぇぇぇ!!!」


 そんな話は聞いていない! その後も問い詰めようとするが、そこに伸二が現れて……


『良いだろうがそれくらい。東条さんは正しいよ……今回のミッションが失敗したら、どうせ……だから孝平もあんまり責めるなよ』


 お前は東条だから擁護してるだろう! しかし、本当にどうするか? 敵に近付きながら様子を見るが、敵は全く動かない。


 そこで残弾に余裕のある伸二が先行する。その時また聞こえてきたのだ。


『後方の敵は、レーダーを装備した支援型です。戦闘力は低いですが、厄介な敵なので早めに対処しましょう』


 無機質な声に苛立っていたら、伸二が攻撃を開始した。


『……桐生君が最後の敵を撃破しました! やったねみんな!』


 喜んでいる宮本さんには悪いけど、無機質な声のチュートリアルに腹が立ってしょうがない。もっと先に知らせてくれたら、ここまで苦戦しなかったかも知れない。


 最初の戦闘だという事で、敵が弱く設定されてなければ最悪死んでたぞ!


 コックピットの中で、一度深呼吸をして落ち着こうとした時だ。ヘルメットに今回の成績が表示される。


『総合評価S 敵よりも少ない数での勝利が評価されました。 総ポイントが10000p 今回の被害額が……』


 表示されていく内容により、どんどんとポイントは削られて……最後には


『今回の報酬は参加したクラスメイトに200pに、クラスには6500pが加算されます。そして成功報酬に『強化ドリンク』を進呈します』


 成功報酬が、ドーピングアイテムと言うのが何ともしょぼい感じがした。だけど、最初の戦闘で高評価を受ける事が出来て生き残れたのだ!


「おお、凄くない俺達!」


 しかし僕の感想は、東条に退けられた。


『す、少ないわよ! いったい今後どれだけポイントが消費されるか分かってるの? 装備に弾薬に……消耗品だけでもかなりポイントを使うのよ!!!』


 通信の向こうから叫んでくる東条……そこに最悪の知らせが舞い込む。


『なお、次回からはこのミッションをフリーミッションとします。何度でもチャレンジしてポイントやアイテムを獲得してください』


 この言葉は東条に火をつけた。


『……そうね、後2回……いや、5回もこなせば少しはましに……』


 考え込む東条に勘弁してくれ、と思いつつギオを自分達の学校に向かわせる。ぎこちない歩きは変わらないが、それでも新しい相棒に少しだけ頼りになる感じを受けた。


「これからも頑張ろうなギオ……」


 その時に聞こえた機械音が、まるでギオの返事に聞こえた。

 やり始めて気づきましたけど、この手の小説ってどこで区切ればいいんでしょうね?

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