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クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第8部:

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クロの戦記another9「花見」

 帝国暦四三×年四月上旬昼―――アリデッドは通りを歩きながら手の甲で目を擦った。

 天気がいいせいもあってか、ぽかぽかと暖かく、眠くて仕方がない。

 さらに――。


「あ~、春は眠くてやる気が出ないし」

「……」


 大きな欠伸をしてぼやく。

 だが、隣にいる妹――デネブからの反応はなかった。

 不審に思い、隣を見る。

 すると、デネブが何か言いたそうな目でこちらを見ていた。


「おお、そんな目であたしを見て、どうしましたか妹よ?」

「何、それ?」

「春なので春めいたキャラ付けをしてみましたみたいな」


 デネブがうんざりしたように言う。

 塩対応にちょっと傷付く。

 だが、アリデッドは努めて陽気に答えた。

 妹の言動にいちいち傷付いていたらお姉ちゃんなどできないのだ。

 デネブが深々と溜息を吐く。


「その溜息は何ですかみたいな?」

「夏は暑くてやる気が出ない、秋はお腹が空いてやる気が出ない、冬は寒くてやる気が出ない――お姉ちゃんのやる気はいつになったら出るのかなって」

「可能なら一年中だらだらしたいし」

「……」


 本心を告げるが、デネブは無言だ。

 無言で溜息を吐く。

 やはり、ちょっと傷付く。


「デネブ……」

「何?」

「取り繕うのは止めるべきみたいな」

「取り繕ってないよ」

「本当ですかぁみたいな?」

「何、その、イラッとする聞き方」

「いえ、他意はないですみたいな」


 デネブがイラッとしたように言い、アリデッドは言い訳した。

 というのもデネブが軽く拳を握ったからだ。

 暴力はよくない。

 つまり、そういうことだ。

 そのまま通りを進み、頃合いを見計らって話しかける。


「デネブの本質は基本的にあたしと一緒だと思うみたいな」

「私の本質って?」

「易きに流れる所みたいな」

「そ、そんなこと……」


 アリデッドが胸を張って答えると、デネブは口籠もった。

 どうやら、デネブは自身の性を認めたくないらしい。

 気持ちは分からないでもない。

 自分が駄目人間と認めるのは勇気がいるものだ。

 ニヤニヤ笑いながらデネブを見ていると、侯爵邸の正門が見えてきた。



 ゴルディの工房ではドワーフ達が、紙の工房では人間が忙しく動き回っていた。

 そういえば、とデネブが口を開く。


「お姉ちゃん、どうして侯爵邸に来たの?」

「そんなの決まってるし。厨房に盗み食いに来たみたいな」

「あ! クロノ様ッ!」


 デネブの問いかけに答える。

 だが、デネブはクロノ――侯爵邸の一角に置かれた木箱に座っている――に駆け寄った。

 ちなみにクロノの傍らにはレイラが立っている。


「火中に飛び込むとは、恋は盲目みたいな」


 アリデッドは小さく溜息を吐き、デネブの後を追った。

 まずレイラが気付き、次にクロノが気付いてこちらを見る。


「クロノ様、お疲れ様みたいな!」

「うん、お疲れ様」


 デネブが元気よく挨拶すると、クロノは何処か気怠げに応えた。

 デネブが気遣わしげに声を掛ける。


「クロノ様、寝不足みたいな?」

「いや、春は眠くて」

「そんなに眠いなら昼寝すればみたいな?」

「昼寝はちょっとね」


 クロノが苦笑じみた笑みを浮かべ、アリデッドはデネブの隣で立ち止まった。


「あたしの時とは大ち――ぎゃひぃぃッ!」


 アリデッドは悲鳴を上げ、その場に蹲った。

 デネブに足を踏んづけられたのだ。

 しかも、踵の辺りで思いっきり。

 クロノがぎょっとこちらを見る。


「どうしたの?」

「デネブに――いえ、どうもしてないですみたいな」


 クロノが心配そうに声を掛けてくるが、アリデッドは嘘を吐いた。

 デネブが拳を握り締めたからだ。

 余計なことを言ったら……、分かってるよね? という脅しに屈したのだ。

 妹のくせにと思わないでもない。


「こう暖かいと花見をしたくなるね」

「「花見って?」」


 クロノがぽつりと呟き、アリデッド達は思わず尋ねた。


「花見っていうのは花を見て、何か、こう、お酒を飲んだり?」

「「「……」」」


 クロノが小首を傾げ、アリデッド達――レイラもだ――は首を傾げた。

 レイラがおずおずと口を開く。


「それは社交的な催しでしょうか?」

「いや、そんな畏まったものじゃなくて……、宴会みたいなものかな?」


 クロノはまたしても小首を傾げながら言う。

 言い出しっぺのくせにと思わないでもないが、きっと南辺境独自の風習だろう。

 花を見ながらお酒を飲む――なかなか面白そうな催しだ。



 夜――。


「抜き足、差し足、忍び足……」

「ねぇ、お姉ちゃん……」

「アリデッド・チョ――ぐはッ!」


 デネブに声を掛けられ、アリデッドはチョップを繰り出そうとした。

 だが、それよりも早くデネブの拳が鳩尾を貫き、その場で膝を屈する。


「な、なな、なかなかすごい一撃だったし。誉めてやるみたいな」

「何、その上から目線」


 アリデッドが鳩尾を押さえて呻くと、デネブは呆れたように言った。

 デネブが小さく溜息を吐き、侯爵邸の廊下を見回す。


「やっぱり、止めようよ~」

「ここまで来て、止めるとは何事ですかみたいな!?」

「だって~」


 アリデッドが立ち上がって詰め寄ると、デネブは情けない声で応じた。


「お酒を盗みに入ったことがバレたらまた連休が……」

「そんなの、バレなきゃよかろうみたいな」

「いつもバレるのに……」

「バレても連休がなくなるだけだし! 元は取れてるみたいなッ!」

「私は連休の方がいいよ」

「この敗北主義者めみたいな! そんなに連休がいいなら兵舎に帰ってゆっくり休むがいいしッ!」

「分かった」

「ちょっと待ってみたいな!」


 デネブが踵を返して歩き出し、アリデッドは慌てて後を追った。

 デネブの肩を掴み、こちらに向き直らせる。


「そこは『お姉ちゃんの馬鹿……』とか言いながら付いてくる流れだし!」

「帰れって言ったくせに」

「だから、素直に受け取るんじゃなくて言葉の裏を読むみたいな。あたしなんて常に言葉の裏の裏を読んでるし」

「裏の裏は表だよ」

「そういうこと言ってるんじゃないし! 必殺アリデッド――ぐぼッ!」

「……お姉ちゃん、私まだ何もしてないよ?」


 アリデッドがその場で膝を屈すると、デネブはやや間を置いて言った。

 立ち上がり、膝に付いたゴミを払い除ける。


「やられる前にやってみましたみたいな」

「お姉ちゃん……」

「さあ、付いてくるし」


 そう言って、アリデッドは倉庫に向かって歩き出した。



 アリデッドは倉庫の扉を開けると強く床を蹴った。床を転がり、デネブに向き直る。


「デネブ、早く来るし」

「お姉ちゃん、なんで前回り受け身をしたの?」

「……流石、クロノ様。お高そうなお酒を揃えてるし」


 デネブが不思議そうに言う。

 だが、アリデッドはあえて答えずにワインの瓶を手に取った。

 ついでに女将が作ったと思しき瓶詰めも手に取る。


「ふふふ、女将の瓶詰めがあるなんてツイてるし」

「は~、今回は女将にも怒られるんだ」

「溜息吐いてないで、デネブも手伝うし」

「は~……」


 デネブが深々と溜息を吐いた直後、ガチャという音が響いた。

 倉庫の扉が開く音だ。アリデッドは強く床を蹴った。

 そして――。


「あ、あたしのせいじゃないし! これはデネブに脅されて仕方がなくッ!」


 土下座を敢行した。

 もちろん、言い訳も忘れない。

 恐る恐る顔を上げると、倉庫の入り口に見知った女性――神官さんが立っていた。


「何じゃ、誰かと思えばお前らか」

「なんだ、神官さんかみたいな。慌ててジャンピング土下座して損したし」

「お姉ちゃん……」


 あはは、と笑って立ち上がる。

 すると、背後から声が響いた。

 当然のことながらデネブの声だ。

 責任を押しつけようとしたことを怒っているようだ。

 これはマズい流れだ。

 流れを変えなければ。

 ところで、と神官さんに歩み寄る。


「どうして、神官さんはここにいるのみたいな?」

「ふ、酒を頂きに来たに決まっとろう」


 神官さんは悪びれずに言った。

 あまりに堂々とした態度なので、感嘆の声を上げそうになる。


「お主らこそ何をしに来たんじゃ?」

「神官さんと一緒だし。お酒を頂きにきたみたいな」

「盗みは感心せんな」

「ちょっと待ってよ、神官さんみたいな。あたしらの目的は同じはずだし。それなのに、盗み扱いは納得できないみたいな」

「いや、ワシは代金を支払う予定じゃし」

「嘘だし」

「いやいや、本当じゃし」

「嘘だし、神官さんにお金がないことはお見通しだし」

「確かに今はお前が言う通り金がない。だが、だがしかし、ワシは神人――いくらでも出世払いが可能じゃ。お主はどうじゃ?」

「ぐッ、流石に神人には勝てないし」


 神官さんに問いかけられ、アリデッドは呻いた。

 その時、バンッという音と共に倉庫の扉が開いた。

 ぎょっと扉を見ると、獣人の兵士が雪崩れ込んでくる所だった。

 アリデッドは両膝を突き、手を首の後ろで組んだ。

 抵抗の意思がないと示すためだ。

 ややあって、ある人物が倉庫に入ってくる。


「こんなこともあろうかと倉庫を見張っていました」

「ぐぅ……」


 ある人物――レイラが淡々と言い、アリデッドは呻いた。

 呻くしかない。

 神官さんがおずおずと口を開く。


「ワシは帰ってもええか?」

「駄目です」

「ぐッ……」

「ほら、やっぱりこうなった」


 レイラの言葉に神官さんががっくりと肩を落とし、デネブが溜息交じりに呟いた。

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