表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第8部:

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/202

クロの戦記another1「雑煮」

本エピソードは第4部第15話『Attack on Myra』後編と第5部第1話『代官』の間の出来事になります。

 帝国暦四三二年一月一日朝――クロノが欠伸を噛み殺しながら食堂に入ると、ティリア、フェイ、リオ、エリル、スーの五人が席に着いて待っていた。


「遅いぞ、クロノ」

「ごめん。仕事がないからつい長寝しちゃって」


 ティリアが責めるような声音で言い、クロノは謝罪しながら対面の席に着いた。

 すると、リオがしな垂れ掛かってきた。

 ティリアの片眉がぴくりと動く。


「謝ることはないさ。皇女殿下と違ってクロノは仕事をしているんだからね」

「……やはり、皇女殿下には感謝の念が足りていない」

「ぐぬッ……」


 リオが揶揄するように、エリルが溜息を吐くように言うと、ティリアは呻いた。

 事務官が休暇に入っているので大した仕事はしていないのだが、口にはしない。

 真面目に働いていると思われたいのだ。


「ちなみにボクはちゃんと仕事をしているよ」

「……私も超長距離通信用マジックアイテムの制作を頑張っている」

「ぐぬぬ……」


 リオとエリルが勝ち誇ったように言い、ティリアはますます口惜しそうに呻いた。

 スーが口を開く。


「ティリア、呻く、仕事する」

「呻くくらいなら仕事をしろと言いたいのか?」

「働く、大事」


 ティリアが問い質すと、スーはこくこくと頷いた。


「帝国、仕事する、繋がる」

「なかなか深いことを言うでありますね」

「本当に意味が分かっているのか?」

「当然でありますよ」


 ティリアが訝しげな視線を向ける。

 だが、フェイは胸を張った。


「じゃあ、どういう意味だ?」

「スー殿は仕事をすると仲間外れにならないと言っているのであります」

「本当か?」


 フェイがこれでもかと胸を張って言うが、ティリアはスーに視線を向けた。


「どうして、そういうことをするのでありますか?」

「お前の意見が正しいか確認するのは当然じゃないか」

「それはそうでありますが……」


 ティリアが当然のように言い放つと、フェイは口籠もった。

 当然かな? と疑問に思ったが、口にはしない。


「で、どうなんだ?」

「間違い、ない」

「ほら! 私の意見が正しいと言っているでありますよッ!」


 スーの言葉にフェイは元気を取り戻し、バシバシとティリアの二の腕を叩いた。


「そうか? 今のは『間違ってはいない』くらいのニュアンスじゃないか?」

「何故、そこまでして私の正しさを認めようとしないのでありますか?」

「何となくだ」

「何となくでありますか、そうでありますか」


 そう言って、フェイは拗ねたように唇を尖らせた。

 その時、重々しい音が響いた。

 食堂と厨房を隔てる扉の開く音だ。

 扉を見る。

 すると、女将、セシリー、ヴェルナの三人が出てくる所だった。

 女将は手ぶらだが、セシリーとヴェルナは料理の載ったトレイを持っている。

 女将がテーブルの側面――エリルの近くの席に座り、セシリーとヴェルナが料理を並べ始める。

 パンとスープ、サラダ、焼き豚の煮豆添えというメニューだ。

 料理を並べ終え、セシリーがこちらに視線を向ける。


「どうかしたの?」

「他の仕事があるので、わたくし達は失礼いたしますわ」

「うん、お仕事ご苦労様」


 ふん、とセシリーは鼻を鳴らし、ヴェルナと食堂から出て行った。

 ややあって、女将が口を開く。


「召し上がれ」

「いただきます」

「「いただきます」」

「いただくであります」

「いただく」

「……」


 クロノが手を合わせて言うと、リオ、エリル、フェイ、スーが続いた。

 ティリアはといえば目を閉じて神に祈りを捧げている。

 祈りを終えたのだろう。

 ティリアが目を開け、クロノはパンに手を伸ばした。

 ふとエリルが動きを止めていることに気付く。

 女将も気付いたのだろう。

 エリルに声を掛ける。


「エリルちゃん、どうしたんだい?」

「……このスープは何か?」

「クロノ様のリクエストで作ったゾーニってもんだよ」

「……ゾーニ?」

「そう、ゾーニ」


 エリルが鸚鵡返しに呟き、女将は頷いた。

 エリルはスプーンを手に取り、スープに浮かぶ白い物体を掬った。

 恐る恐るという感じで口に運ぶ。


「……謎の食感」

「ああ、それは米粉を練って茹でたもんだよ。モチって言ったかね?」

「……モチ」


 エリルが神妙な面持ちで呟き、クロノはパンを皿に置いた。

 スプーンを手に取り、ソーニ――雑煮を口に運ぶ。

 すると、女将がこちらを見た。


「どうだい?」

「美味しいよ。美味しいんだけど……。雑煮じゃなくてゾーニって感じ?」

「言いたいことは分かるよ。けど、ま、話を聞いただけだからね。流石に完全再現って訳にゃいかないよ。要研究って所だね」

「お手数をお掛けします」

「期待しないで待ってておくれ」


 女将が軽く肩を竦め、クロノはスープを口に運んだ。

 魚介の風味が強く、モチも餅ほどもちもちしていない。

 でも、まあ、これはこれで、とクロノはゾーニを再び口に運んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「クロの戦記Ⅱ」コミック第5巻大好評発売中‼


同時連載中の作品もよろしくお願いします。

10月31日コミック第3巻発売

アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?

↑クリックすると作品ページに飛べます。


小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=373187524&size=300
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ