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クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第8部:

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188/202

クロの戦記ifその3「エレナ・エンド」

 帝国暦四三四年二月末――クロノが船室でうとうとしていると、トントンという音が響いた。

 最初は何の音か分からなかった。

 だが、すぐに扉を叩く音だと気付く。

 ベッドから飛び起き、扉に向かう。

 扉を開けると、ケインが立っていた。


「悪ぃ、起こしちまったみてぇだな」

「ちょっとうとうとしてただけだから。ところで、何の用?」

「シルバニアにそろそろ着きそうだったからよ。起こしに来たんだ」

「もう着くんだ」

「まあ、海路だからな。陸路じゃこうはいかねぇと思うぜ?」

「そうだね」


 ケインが頭を掻きながら言い、クロノは頷いた。

 内乱が終わって二週間余りが経つ。

 新政権を樹立することはできたが、帝国の治安は麻の如く乱れている。

 そんな状況で領地に戻るのは自分でもどうかと思うが、一度領地に戻っておきたかったのだ。

 ガクンと船が揺れる。

 着いたようだ。

 クロノがマントを手に取ると、ケインが道を譲るように脇に退いた。

 マントを羽織り、歩き出す。

 階段を登って甲板に出ると、船は桟橋に着けられていた。

 岸壁に視線を向けると、大勢の人々が立っていた。

 最前列に見知った顔を見つけ、目を見開く。

 これは――。


「行かねーのか?」

「行くよ。行くけど……」


 ケインの問いかけられ、クロノは口籠もった。

 いや、別の可能性もある。

 クロノが板を通って桟橋に下りると、ケインが後に続く。

 意を決して足を踏み出す。

 桟橋を半ばほどまで進んだ所でエレナが足を踏み出した。

 もう半分進んだ所で立ち止まる。

 もちろん、エレナもだ。


「お帰りなさい。もう帰って来ないかと思ったわ」

「考えすぎだよ。ところで――」


 クロノは言葉を句切り、咳払いをした。


「太った?」

「違うわ」


 ふん、とエレナは鼻を鳴らした。

 沈黙が舞い降りる。

 気まずい沈黙だ。

 少なくともクロノにとっては。

 風が吹き、エレナが口を開いた。


「孕んだの」

「一回しかしてないんだけど……」

「一晩の間違いでしょ?」

「たった一晩でスナイプ決めるなんて驚異の命中率だよ」

「言葉の意味はよく分からないけど、とにかく失礼なことを言ってるのは分かったわ」


 クロノが溜息交じりに言うと、エレナはムッとしたように返してきた。


「それで、責任は取ってくれるのよね?」

「はい、取ります」

「よかった。でも、あたしはもう奴隷じゃないし、じっくりと、腰を据えて、グラフィアス家を取り戻してくれればいいわ」

「はい」


 どうやってグラフィアス家を取り返せばいいのか考えていると、くくっという音が響いた。

 いや、音ではない。

 ケインの笑い声だ。

 肩越しに視線を向ける。

 すると、ケインは笑うのを止めて足を踏み出した。

 クロノの隣に立って肩を叩く。


「よかったじゃねーか。子どもが――所帯を持てるってのは幸せなことだぜ」

「他人事だと思って」

「ま、他人事だからな」


 ケインが軽く肩を竦めた次の瞬間、港に立っていた人々が左右に割れた。

 その先にいたのはエレインとシアナだ。

 エレインはゆったりとした衣装を身に着けている。

 ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 クロノとエレナが道を譲ると、エレインはケインに歩み寄って立ち止まった。


「よ、よう、久しぶり」

「そうね。便りの一つも寄越さないから死んだのかと思ったわ」

「格好つけて出て行った手前、覚悟はしてたんだが……」


 ケインは口籠もり、チラチラとエレインの腹部に視線を向ける。


「太ったか?」

「分かって聞いてる?」

「いや、俺の子だよな」

「ええ、たった一回だったけど驚異の命中率ね」


 ほ~ん、とクロノは声を上げた。

 上には上がいるものだ。


「そうか、俺の子か」

「一応、報告をしておこうと思って」


 そうか、とケインは相槌を打った。


「まさか、俺が親になるなんてな」

「私もそうよ。まさか、子どもを授かることができるなんて思わなかったわ」


 そう言って、エレインは優しくお腹を撫でた。

 その表情は微笑んでいるようにも、悲しんでいるようにも見える。


「私は生むつもり。貴方は?」

「あ、うん、まあ、父親をさせてもらえるんならさせてもらいてーなって思ってる」

「回りくどい言い方ね」

「『私は生むつもり』って言ってる女に何て言やいいんだよ」

「責任を取るって言えばいいじゃない」

「そりゃ俺も責任は取りてーけど、能力を上回ることを要求されても応えられねーし」


 ケインは気まずそうに頭を掻いた。


「とりあえず、俺がどう責任を取るかについて話し合わねーか?」

「私達の間違いでしょ?」

「まあ、そうだな」


 ケインが軽く肩を竦めて歩き出すと、エレインも歩き出した。

 彼の腕に自身のそれを絡める。


「あたし達も行きましょ?」

「責任云々の話し合いをするために?」

「それはまた今度でいいわ」


 ふん、とエレナはクロノの手を掴んで歩き出した。しばらくして――。


「お帰りなさい」

「うん、ただいま」

 エレナがぽつりと呟き、クロノは小さく微笑んだ。

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