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クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第7部:クロの戦記

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第19話『宣言』その5

 扉が開き、クロノは軽く目を見開いた。

 以前、謁見の間を訪れた時は分厚い絨毯が敷かれ、床は鏡のように磨かれていた。

 だが、今は違う。絨毯はなく、床には埃が積もっている。

 最近、撤去したのだろう。

 絨毯があった場所だけ埃が積もっていない。

 道のようにも見えるが、これもまた帝国の惨状を示しているように見えてならない。


「愛人として左団扇な生活を送るのはまだまだ先そうだし」

「左団扇な生活はどうでもいいけど、何か、こう、もうちょっとありがたみが欲しいし」

「ここで偽帝アルフォートを討ち取ったと聞いているからそのせいだろうね」


 アリデッドとデネブが溜息交じりに言い、ブラッドが解説する。

 何処か沈んだ口調だ。

 無理もないか。

 彼は名家出身で、近衛騎士団の団長だ。

 クロノ達より帝国に思い入れがあるはずだ。

 沈んだ口調になるのも無理からぬことだ。

 とはいえ、いつまでもボーッと突っ立っている訳にはいかない。

 クロノは小さく息を吐き、歩き出した。

 謁見の間に足音が響く。

 初めて訪れた時は何を感じただろう。

 畏怖の念か、それとも威圧感か。

 どうにも思い出せない。

 だが、少なくとも今と違うことを感じたに違いない。

 謁見の間は空虚だった。

 かつて、人々はここで皇帝に頭を垂れた。

 皇帝にはそれだけの力があったし、権威があった。

 いや、力と権威があると信じていたというべきだろうか。

 この惨状を見ているとまやかしだったのではないかという気がしてくる。

 さらに前に進むと、玉座が見えてきた。

 玉座も心なしかくすんでいるように見える。

 クロノは歩調を緩めた。

 玉座から少し離れた所にアルコル宰相とピスケ伯爵が立っていたからだ。

 さらにジョニーもいる。

 三人とも玉座を見つめている。

 最初にクロノ達に気付いたのはジョニーだった。

 ジョニーは肩越しにこちらを見ると――。


「兄貴、お疲れ様ッス!」


 手を振って駆け寄ってきた。

 そして、クロノの前で立ち止まる。


「お疲れ様。ところで、どうしてジョニーがこんな所に?」

「アルコル宰相の監視ッスよ、監視。昨日、言ってたじゃないッスか」

「そうだっけ?」

「兄貴、体調が悪いんならまだ寝てた方がいいッスよ?」


 クロノが問い返すと、ジョニーは訝しげに眉根を寄せた。


「で、監視した感想は?」

「暇ッスね。一日中、カリカリ何か書いてるだけなんで」

「……そうなんだ」


 クロノはやや間を置いて相槌を打った。

 ジョニーは何を書いているか把握していないようだ。

 監視役には向いていないような気がする。

 だが、マイラが何も言わなかったのだ。

 案外、監視役に適性があるのかも知れない。


「クロノ様、いつまでボーッと突っ立ってるみたいな」

「さっさと並びましょみたいな」

「こいつはうっかりしてたッス。兄貴、どうぞどうぞッス。特等席を用意してるッスよ」


 アリデッドとデネブがぼやくと、ジョニーは案内するように歩き出した。

 特等席とはいうものの、謁見の間はがらんとしている。

 ジョニーは玉座の正面で立ち止まった。


「どうぞ、玉座の正面ッス」

「ありがと」

「礼には及ばないッス」


 ジョニーは照れ臭そうに鼻の下を擦り、アルコル宰相のもとに向かった。

 彼の背後に立つ。

 嫌な予感でもしたのか。

 アルコル宰相はぶるりと身を震わせた。

 監視の役に立っているかは分からない。

 だが、少なくとも嫌がらせにはなっているようだ。

 クロノは玉座の正面に立ち、横に移動した。

 アルコル宰相から離れたかったのだ。

 すると、アルコル宰相は距離を詰めてきた。


「そんなに邪険にせんでもよかろう」

「むしろ、邪険に――」

「いやいや、兄貴の立場からしたら邪険にしない方がおかしいッスよ。昨日は反省してるみたいな雰囲気を出してたのにこれだから偉ぶってる爺さんは嫌なんス」


 ジョニーがクロノの言葉を遮って言った。

 くくッ、とアルコル宰相が笑う。


「何がおかしいんスか?」

「いや、儂も歳を取ったと思ってな。儂も偉ぶってる爺さんと言われる側か」


 ジョニーの問いかけにアルコル宰相は苦笑じみた表情を浮かべながら答えた。


「ジョニー、敬老精神は忘れずにね」

「俺はお爺ちゃん子だから大丈夫ッス」


 ジョニーは胸を張って言った。


「隣り合いたくないのならあたしがみたいな!」

「なら、あたしは反対側だし!」


 アリデッドとデネブがクロノの腕を掴み、ハッとしたように振り返る。

 クロノもつられて肩越しに背後を見る。

 すると、レイラが立っていた。

 何か言いたそうな目で見ている。


「うん、ここはレイラに譲るみたいな」

「あたしらにも情けはあるみたいな」

「デネブもこう言ってることですし、どうぞどうぞみたいな」

「いきなりの裏切り!」


 アリデッドが手の平で差し出し、デネブはぎょっと目を剥いた。


「さあ、さっさとそこを退くし」

「お姉ちゃんこそ、そこを退くべきだし」

「妹に発言権はないし」


 突き飛ばそうとしたのか、アリデッドがデネブに向かって手を突き出す。

 だが、デネブは手首を掴むと後ろ手に捻り上げた。


「痛゛ッ!」

「いつまでもやられっぱなしだと思わないでよね!」


 アリデッドが濁った声を上げ、デネブが鼻息も荒く言い放つ。

 口調が素に戻っている。

 これは――ついに下剋上の時がやって来たのだろうか。


「うぐぐ、いつの間にこんなに強く……」

「お姉ちゃんが訓練をサボってるからだよ」

「うう、デネブがこんなに強くなるなんて涙がちょちょぎれそうだし。それはそれとしてちょ、ちょっと力を緩めてくれると助かりますみたいな」

「これに懲りたら二度と大きな態度を取らないでよね」

「うへへ、もちろんですみたいな」


 アリデッドが愛想笑いを浮かべる。

 クロノはすぐさま理解した。

 アリデッドに約束を守るつもりはないと。

 だが、デネブは力を緩めてしまった。

 アリデッドが反撃に転じる。

 手を振り解き、拳を振り上げたのだ。

 残念ながら拳は空を切った。

 デネブが跳び退って躱したのだ。


「こ、これを躱すとは――ッ!」

「やっぱり……」


 アリデッドが驚いたように目を見開き、デネブは呆れたように溜息を吐いた。

 どうやらデネブも約束を守るつもりがないと考えていたようだ。

 それでも、力を緩めたのは姉に対する情からだろう。


「私、お姉ちゃんとは一度しっかり話し合わなきゃと思ってたの」

「それは同意だけど、どうして指を鳴らしてるのかとっても気になるし」


 デネブが指を鳴らしながら近づくと、アリデッドはじりじりと後退った。


「徹底的に話し合おうと思って」

「話し合うなら指を鳴らす必要はないし。まあ、落ち着くみたいな。落ち着いて話せば分かり合えるはずみたい――なッ!」

「――ッ!」


 突然、アリデッドが踵を返して走り出し、デネブがその後を追う。

 まったく、と溜息を吐く。

 すると、レイラがクロノの隣――アルコル宰相の反対側だ――に立つ。

 ちょっとだけ誇らしげだ。


『じゃ、あっしはレイラの隣に』(ぶもぶも)


 副官がレイラの隣に立ち、スー、ケイン、フェイ、ロバート、ブラッド、ベアの順で並ぶ。

 やはり、横一列に並んでもまだ余裕がある。

 アリデッドとデネブの声と足音が響く。

 だが、静かと評してもいいだろう。


「何も言わないんですね」

「何も言えんよ」


 クロノが切り出すと、アルコル宰相は髭をしごきながら答えた。


「クロノ殿は何も言わんのか?」

「泣き言、愚痴、恨み辛みならいくらでもありますよ」

「たとえば?」

「親征のことです」


 アルコル宰相の問いかけに答える。

 アリデッドとデネブの声と足音が遠ざかったような気がした。

 多分、錯覚だ。

 自分では冷静なつもりだったが、そうではなかったようだ。


「……貴方は嘘を吐くべきじゃなかった」

「嘘は吐いておらん。我々は不快感を示す必要があった」

「でも、水面下で和平交渉が行われていることは黙っていた」

「全ての情報をつまびらかにすることはできん」

「親征で死んだ者達にも同じことが言えますか?」

「言うとも」


 アルコル宰相が即答し、クロノは溜息を吐いた。


「全ての情報をつまびらかにすることはできない。僕もそう思います。ですが、言い様はあったんじゃないですか?」

「それで納得できると言うのか?」

「納得……。いいですね、納得」


 クロノは思わず笑みを浮かべた。


「それで、クロノ殿は納得できるのかな?」

「少なくとも自分に言い聞かせることはできます。アルコル宰相は情報を秘匿しなければならない状況下で真摯に向き合ってくれたと。貴方はそれさえしてくれなかった。命を懸ける将兵に対する裏切りです」

「……そうか」


 アルコル宰相はやや間を置いて頷いた。

 まるで溜息を吐いたかのようだ。

 罪悪感からではないだろう。

 ティリアを裏切り、将兵を裏切った。

 その果てにあったのは傾いた帝国だ。

 自業自得とはいえ立て直さなければならない。

 あまりの徒労感に溜息が出ても不思議ではない。

 再び静けさが戻る。

 まだアリデッドとデネブは争っているようだ。

 注意すべきだろうかと考えたその時――。


「おお! 揃っとるようじゃなッ!」


 脳天気な声が響いた。

 声のした方を見ると、神官さんが駆け寄ってくる所だった。

 背後にはマイラの姿がある。

 箱のようなものを抱えている。


「なんで、神官さんが?」

「純白神殿と連絡が付かなくての」


 思わず疑問を口にすると、アルコル宰相が答えた。

 神官さんが自慢げに胸を張る。

 豊かな胸が揺れる。

 眼福眼ぷ――いけないいけない。

 これは神官さんの巧妙な罠だ。


「そういう訳でワシにお鉢が回ってきたという訳じゃ」

「いいのかな?」

「な~に、構わんじゃろ。何せ、この国に漆黒神殿はないしの」

「他の神殿と違って分かりやすい御利益がありませんからな」


 アルコル宰相がしみじみと呟くと、神官さんはぎょっと目を剥いた。


「いや、御利益はあるじゃろ? 爪弾きにされた者達の最後の拠り所じゃぞ?」

「正直、爪弾きにされた者達の拠り所になられると……」


 為政者として困りますな、とアルコル宰相は呟いた。


「ぐッ、これだから帝国は嫌なんじゃ」

「神聖アルゴ王国の方がひどいと思うけど……」

「そうじゃけど、新神殿として頑張っとるぞ」


 クロノがぼやくと、神官さんは言い訳がましく言った。


「う~ん、でもな~」


 クロノは腕を組んで唸った。


「まだ不満があるのか?」

「やっぱり、他所の国の、しかもマイナーな漆黒神殿の大神官という所に抵抗が……」

「ワシ、お主のためにものすごく働いたんじゃけど……」

「それはそれ、これはこれということで」

「むぅ、何か、大昔に聞いたような台詞じゃな」


 記憶を漁っているのか。

 神官さんは人差し指でこめかみを押さえながら言った。


「駄目じゃ。あまりに昔のことすぎて思い出せん」

「それは今に限ったことでは――」

「じゃが、思い出したこともあるぞ」


 神官さんはクロノの言葉を遮って言った。

 一体、何を思いだしたのだろう。


「お主の心配はもっともじゃが、こういうことは強行するのが一番じゃ」

「そうかな~?」

「所謂、既成事実というヤツじゃな。先に事実を作って、文句を言われたら『は? なんで、今になって文句を言う訳? 文句があるんならもっと早く言えばよかったじゃんよ~』と強弁する」

「それで何とかなるの?」

「何とかならなけりゃ『文句があるなら一戦交えるか? あ? イモ引くなら今の内だぞ? 吐いた唾は飲めんのじゃ』と言うんじゃ。大体、これで黙る」

「何かチンピラみたい」

「似たようなもんじゃろ」


 神官さんはきっぱりと言った。

 そこまで言われると、そうなのかなという気がしてくる。

 だが――。


「黙らなかった場合は?」

「一戦交えることになるに決まっておるではないか」

「決まってるんだ」

「吐いた唾は飲めん。つまり、そういうことじゃ。大体、ケフェウス帝国だって――」

「大神官殿、そろそろ……」


 アルコル宰相が神官さんの言葉を遮る。

 ケフェウス帝国にも突かれたら困る部分があるらしい。


「おお、そうじゃったそうじゃった」

「よろしくお願いいたします」

「うむ、任された。お主も頼んだぞ」


 アルコル宰相が深々と頭を垂れると、神官さんは鷹揚に頷いた。

 クロノ達に背を向け、玉座に向かって歩き出す。


「何のことですか?」

「今回の件を引き受けてもらう代わりに神殿を建てる約束をした。とはいえ、帝国も疲弊しているのでな。しばらくは空き家を使ってもらうことになるが……」


 クロノが尋ねると、アルコル宰相は溜息交じりに言った。

 お酒を奢れば引き受けてくれそうな気がするが、黙っておくべきだろう。

 世の中には黙っておいた方がいいこともあるのだ。

 それに、少しだけ溜飲が下がった。

 神官さんは玉座の前で立ち止まり、クロノ達に向き直った。

 マイラが斜め後ろに立つ。


「略式じゃが、これより戴冠式を行う」


 神官さんが威厳に欠ける口調で宣言した。

 これがアルコル宰相の策だ。

 女帝となることでティリアの言葉は今以上の重みを持つという理屈らしい。

 聞いた時は半信半疑だったが、言われてみればという気もする。

 クロノは貴族の肩書きに何度も助けられた。

 女帝の発言ならば尚更だろう。

 商業連合については空手形を乱発しすぎたせいもあると睨んでいるが――。


「ティリア皇女、こっちへ」


 そう言って、神官さんは視線を横に向けた。

 そこには扉がある。

 多分、控え室に通じているのだろう。

 ティリアはそこから顔を出し、口を開けたり閉じたりしている。

 何と言っているのだろう。

 ごほん、と神官さんが咳払いをする。


「ティリア・ユースティティア・モーリ=ケフェウス、ワシの前へ」


 神官さんが言い直すと、ティリアは扉から出てきた。

 黒を基調としたドレスを着ている。

 喪服のつもりだろうか。

 ティリアは神官さんの前に行くと跪いた。


「今からお主がこの国のボス――うぼッ!」


 神官さんが奇妙な声を上げて身を捩った。

 マイラが脇腹に貫手を叩き込んだのだ。

 神官さんが脇腹を押さえながら視線を向ける。

 すると、マイラは真面目にやれと言うように顎をしゃくった。

 その時――。


「もしもし、あたし、アリデッドみたいな。今、クロノ様の背後にいるし」

「もしもし、あたし、デネブ。今、クロノ様の背後にいるみたいな」


 アリデッドとデネブの声が背後から響く。

 ついでに生温かい吐息も。


「いつの間にか戴冠式が始まっててショックみたいな」

「あたしら、すごく頑張ったのにひどい扱いだし」

「二人とも列の端に並んで」

「列の端に行けとは無体な言葉だし」

「このままクロノ様の背後で頑張るみたいな」


 ふぅ、と隣から声が響く。

 アルコル宰相の溜息だ。

 隣を見ると、アルコル宰相はピスケ伯爵の方へと移動した。

 二人のためにスペースを空けてくれたのだ。


「爺ちゃん、ありがとうみたいな」

「でも、あたしらは爺ちゃんがしたことを忘れないみたいな」


 そんなことを言いつつ、二人は空けてもらったスペースに移動する。

 ごほんごほん、と神官さんが再び咳払いをし――。


「……冠を」

「……」


 小さく呟くと、マイラは手にしていた箱を空けた。

 神官さんがそっと冠を取り出し、高々と掲げる。


「『漆黒にして混沌を司る女神』よ」


 歌うように祈りを捧げると、冠の周囲に闇が生まれた。

 まるで薄墨のような闇だ。

 闇は徐々に濃くなり、冠を自身の色に染め上げる。

 クロノはぶるりと身を震わせた。

 息が苦しい。

 まるで肺を圧迫されているみたいだ。

 神威術・神器召喚を何度か見たことがあるが、それよりも遙かに圧迫感がある。

 不意に闇が消え、呼吸が楽になる。


「『漆黒にして混沌を司る女神』の御前にて冠を戴き、女帝たる聖別を施す」


 神官さんは冠をティリアに被せ、手を伸ばす。

 だが、そこには何もない。

 その時、床――いや、影から剣が現れた。

 先程と違って圧迫感はない。

 それでも、神器かそれに匹敵するものであると容易に想像がついた。

 それほど美しい剣だったのだ。


「汝にこの剣を授けよう。この剣を抱き、臣民を守ることを義務とせよ」


 神官さんが剣を差し出し、ティリアが恭しく受け取る。


「神よ、この者を守りたまえ」

「「神よ、この者を守りたまえ」」


 神官さんの言葉にアルコル宰相とピスケ伯爵が続く。

 しまった。慌てて口を開くが――。


「女帝よ、長き世を築きたまえ」

「「女帝よ、長き世を築きたまえ」」


 長き世を築きたまえ、とクロノ達は一拍遅れて続く。

 ティリアの肩が震えている。

 感動にではない。

 多分、怒っている。

 気持ちは分かる。

 折角の戴冠式なのにぐだぐだなのだ。

 だが、聞いて欲しい。

 打ち合わせもなしに唱和するなんて無理だ。


「新たなる女帝に祝福を! ケフェウス帝国に平穏をッ!」

「「新たなる女帝に祝福を! ケフェウス帝国に平穏をッ!」」


 やはり、クロノ達は一拍遅れて続いた。

 神官さんが口を閉じる。

 戴冠式はこれで終了だろうか。

 そんなことを考えていると、ティリアが立ち上がった。

 おや、とクロノは目を見開いた。

 怒っているかと思ったが、平静を保っている。

 頬がぴくっと動く。

 いや、やはり怒っているようだ。

 ティリアは深呼吸を繰り返し――。


「皆の者――」

「姫様、お話は早めに切り上げて欲しいみたいな」

「あたしらも暇じゃないから三十秒くらいが理想みたいな」


 口を開いた次の瞬間、アリデッドとデネブがそんなことを言った。

 怒りによってティリアの顔が赤くなる。

 何を考えたのか。

 きょろきょろと周囲を見回す。

 神官さんから渡された剣を見つめ、再び周囲を見回す。

 突然、動きを止める。

 視線の先にはマイラがいる。

 いや、見ているのはマイラが持った箱だ。

 そこで、ようやくティリアが何をしようとしているかを理解する。

 アリデッドとデネブに箱を投げつけようとしているのだ。

 ティリアが手を伸ばす。

 だが、流石はメイドというべきか。

 マイラは箱を庇うように抱き締めた。

 ぐぬッという呻き声が響く。


「ブー、ブーッ! さっさと話を終わらせて欲しいしッ!」

「お姉ちゃんって命知らずだよね」

「――ッ!」


 デネブが溜息交じりに言い、アリデッドは息を呑んだ。

 そして――。


「お前ら!」


 ティリアが顔を真っ赤にして叫んだ。

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