表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第7部:クロの戦記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/202

第19話『宣言』その2

「……ティリア」

「何だ?」


 クロノが声を掛けると、ティリアは拗ねたような口調で応えた。

 感動の再会を邪魔されて面白くないようだ。


「座ったら?」

「……そうする」


 やはり、ティリアは拗ねたような口調で言い、マイラが座っていたイスに座った。

 沈黙が舞い降りる。

 気まずい沈黙だ。

 当然か。これから何人が死んだかを口にしなければならないのだから。


「……ティリアが無事でよかったよ」

「お前も無事でよかった」


 涙がこぼれ落ち、ティリアは手の甲で目元を擦った。

 くッ、と小さく呻く。


「最近、涙脆くていけない」

「疲れてるんだよ、きっと。今日は休んだら?」

「言葉に甘えたい所だが、私の仕事だからな。そうもいかん」


 ティリアが居住まいを正し、クロノもそれに倣う。


「さて、何から話すべきか」

「カイ皇帝直轄領で別れた後のことを教えてくれると嬉しいな」

「そうだな。お前達と別れてから――」


 ティリアはゆっくりとこれまでのことを説明し始めた。

 船に乗って南辺境を目指したこと。

 養父と合流したものの、体調を崩して倒れてしまったこと。

 養父達――南辺境軍と同盟を結ぶために粛正した貴族の領地を与える約束をしたこと。

 南辺境軍を囮とし、別働隊と共に帝都に赴いたこと。

 帝都近郊の森に潜み、アルフィルク城を攻め落とす準備を進めていたこと。

 ケインと合流し、帝国軍の補給隊を襲ったこと。

 ブラッドが機転を利かせてレオンハルトの父――ロムス・パラティウムを動かしたこと。

 セシリーと合流したこと。

 レオンハルトが動き、作戦を開始したこと。

 トラブルに遭いながらアルフィルク城の城門に迫ったこと。


「帝国軍は城門の前に防御陣地を構築していたんだ。第十二騎士団が――」


 え!? とクロノは思わず声を上げた。


「何だ?」

「どうして、第十二近衛騎士団が出てくるの?」

「ピスケ伯爵は帝国、いや、アルフォートに見切りを付けたんだ。続けるぞ」


 クロノが問い返すと、ティリアは簡単に説明した。


「私達は第十二近衛騎士団の力を借り、防御陣地と城門を突破した。だが、セシリーの率いていた騎兵とガウルの率いていた歩兵、合わせて八十人が死んだ。その中には……」


 ティリアは俯き、唇を噛み締めた。

 クロノは黙って彼女が口を開くのを待った。

 しばらくして意を決したように口を開く。


「ガウルもいた」

「そうなんだ」

「――ッ!」


 クロノが呟くと、ティリアはハッとしたように顔を上げた。

 それだけか? ガウルの死を悼む気持ちはないのか?

 そんな気持ちが伝わってくる。

 だが、言葉にはしない。

 この戦いはクロノ達が始めたのだから。

 それに――。


「予感みたいなものはあったんだ。困ったことがあったら言えって言ってたし」

「そうか」


 ティリアは弱々しく笑った。


「ところで、セシリーは?」

「気になるか?」

「そりゃね。色々あったけど、長い付き合いだし」

「太股に矢を受けたが、命に別状はない。あとで見舞ってやれ」

「嫌がるんじゃないかな」

「そこまでは知らん。話を戻すぞ。その後、私達はアルフィルク城に攻め入り、アルフォート派の貴族を捕らえた。そして……」


 ティリアは再び口を閉ざした。

 やはり、クロノは彼女が口を開くのを待つ。


「私はアルフォートを殺した」

「……」


 今度はクロノが黙る番だった。

 後顧の憂いを断つためにアルフォートは殺さなければならなかった。

 だが、母親は違っても弟であることに違いはない。

 だから、ティリアに殺させるつもりはなかった。

 いや、これは言い訳か。

 可能性があればどんなことでも起こり得るのだ。

 自分達に都合の悪い未来を考えないようにしていた。

 まったく、自分の覚悟のなさにうんざりする。


「皇軍の被害状況について伝える」

「……分かった」


 ティリアが押し殺したような声音で言い、クロノは再び居住まいを正した。


「戦死者は七百二十五名、負傷者はその倍だ」

「ガウル達を合わせて戦死者八百五名か。やっぱり、被害は――」

「左翼に集中している」

「……だよね」


 クロノは深々と溜息を吐いた。

 戦死者七百二十五名――左翼に配置した兵の三割が死亡した計算だ。

 壊滅的な被害だが、第一近衛騎士団とやりあったのだ。

 さらにその後ろには第四近衛騎士団が控えていた。

 防御陣地があったとはいえ、ただでは済まない。


「……帝国軍の戦死者は三千を超えている」

「皆、よくやってくれたんだね」

「ああ、本当によくやってくれた」


 クロノが呟くと、ティリアは静かに頷いた。

 沈黙が舞い降りる。

 息苦しさを覚えるような沈黙だ。

 だが、いつまでも黙り込んでいる訳にはいかない。


「帝都の状況は?」

「掌握はしている。警備兵は謹慎の命令に従ったし、帝国軍もアクベンス伯爵がよく纏めている。正直、もっといい加減なヤツだと思っていたが……」

「根っこの部分は真面目なんだよ」

「だろうな」


 ティリアは溜息交じりに言った。


「南辺境に派遣された帝国軍にも撤退するように命令を下したが、これは連絡待ちだ」

「従ってくれるといいね」

「怖いことを言うな!」


 ティリアはわずかに声を荒らげた。

 流石に反乱を起こすような真似はしないと思うが、街道を押さえられている。

 彼らが従ってくれなければ南辺境と連携が取れない。

 クロノが彼らの立場であればちょっとごねて部下の安全を確保する。


「何とか帝都に居座ってるって感じだね」

「そうだ。だが、このままではマズい」

「というと?」

「アルフォート達のせいで大手の商会が軒並み逃げ出しているんだ。逃げ出さなかった商会もあったが、商会長が我々に与したという嫌疑を掛けられ……」

「殺された?」

「そういうことだ」


 念のために尋ねると、ティリアはムッとしたように言った。


「あとに残ったのは悪徳商人ばかりだ。人、物、金の流れが滞り、物価が高騰している。食料の価格だけでも元に戻さなければ……」

「商業連合――ナム殿に協力の打診は?」

「真っ先にしたが、話し合う時間が欲しいと言われた」


 ティリアは拗ねたような口調で言った。

 商業連合はシルバニアにある倉庫に大量の食料を運び込んでいる。

 早急に売らなければならないはずだが――。


「思惑があるんだろうね」

「まったく、思惑があるなら口で言えばいいものを……」


 ティリアは吐き捨てるように言った。


「これで全部?」

「そんな訳ないだろう。軍の掌握、諸侯の臣従、アルフォート派貴族の粛正、南辺境への恩賞、行政制度の再建、やるべきことは山積みだ。しかも――」

「何処から手を付けていいのか分からない?」

「そうだ。何をすればいいのかも分からん。各局の前責任者を呼び戻したいが、何処にいるか分からん。平時であれば試行錯誤できるが、今の帝国にはその余裕がない。下手をすれば反乱が起きる」


 クロノが言葉を遮って言うと、ティリアは顔を顰めた。

 正直、ここまで状況が悪いとは思わなかった。

 ないない尽くしだ。

 いや、さらに悪いか。


「アイディアはあるか?」

「まあ、一応」

「本当か!?」


 ティリアは身を乗り出して言った。

 よほど希望に飢えていたのだろう。

 興奮した面持ちだ。

 そこまで期待されると申し訳ない気分になる。


「それで、どんなアイディアなんだ?」

「怒らない?」

「怒らないぞ」


 クロノが尋ねると、警戒心を解こうとしてか、ティリアは微笑んだ。


「本当に?」

「本当だぞ」

「本当に本と――」

「しつこい! さっさと言えッ!」

「……もう怒った」


 ティリアが声を荒らげ、クロノは顔を背けた。


「お前がしつこいのが悪い。さっさと言え」

「分かったよ」


 クロノは溜息を吐き、自分のアイディアを語った。

 一瞬でティリアの表情が曇った。

 絶対に嫌だという気持ちが伝わってくるが――。


「他にアイディアがあるなら聞くけど?」

「…………うぐぐ、ない」


 ティリアはかなり間を置いた後で呻くように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「クロの戦記Ⅱ」コミック第5巻大好評発売中‼


同時連載中の作品もよろしくお願いします。

10月31日コミック第3巻発売

アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?

↑クリックすると作品ページに飛べます。


小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=373187524&size=300
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ