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クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第7部:クロの戦記

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第18話『決戦・裏』その10



 マジックアイテム特有の白々とした光が坑道とそこで働く部下を照らしている。

 五人の部下は無言でツルハシを振るっている。

 もちろん、ツルハシを振るうだけではない。

 残土を外に運び出し、材木で坑道を補強する。

 そうやって、坑道を掘り進めているのだ。

 暑いな、とロバートは心の中でぼやき、手の甲で汗を拭った。

 坑道の中は蒸し暑く、臭く、そして、息苦しい。

 酸欠にならないようにふいごで空気を送っているが、効果はよく分からない。

 神威術が使えればもっと楽なのだが――。

 パラッという音が響き、部下達が動きを止める。

 土が落ちる音だ。

 さらに音が響き――。


「黄土にして豊穣を司る母神よ」


 ロバートは坑道の壁に触れ、神に祈りを捧げた。

 神威術で坑道の強度を高めたのだ。

 効果はすぐに現れた。

 音が止み、部下がホッと息を吐く。


「生き埋めになるかと思いましたよ」

「その心配はないから安心しろ」


 ロバートは黄土にして豊穣を司る母神の神威術士だ。

 坑道の崩落を防ぐことはもちろん、生き埋めになっても部下を連れて脱出できる。

 まあ、意識が保てればだが――。


「だが、坑道が崩れるのはマズいな。もう少し短い間隔で補強しよう」

「じゃあ、お――じゃなくて、私が外の連中に伝えてきます」


 部下の一人が名乗りを上げる。

 あどけない顔立ちの青年だ。

 事実、五人の中では一番若い。


「そうだな。いや、待て」


 ロバートは頷き、残土を抱えて出て行こうとした青年を呼び止めた。

 ポーチに手を伸ばす。

 通信用マジックアイテムを使えば外と連絡を取るのは容易いが――。


「いや、行け」

「――ッ! 分かりました」


 ロバートが許可すると、部下は心なしか軽い足取りで外に向かった。

 二、三分が経過し――。


「お優しいことで」

「そう言うな。あいつが一番若いんだ。気を遣ってやらなければ倒れてしまう」

「俺達にも気を遣って下さい」

「分かった。あいつが戻るまで小休止だ」

「へへ、ありがとうございます」


 部下達は手を休めた。

 その場に座り込んだり、ツルハシにもたれ掛かったりしながら話し始める。


「それにしても坑道戦術って本当に使われてるのかな」

「本職じゃないってのもあるだろうけど、しんどすぎるよな」

「もう少し楽に掘れると思ったんだけどな~」

「神威術で掘る訳にはいかないんですかね」


 部下の一人が期待するような目で見てきたので、ロバートは苦笑した。


「帝都の神威術士に察知されたくないからな」

「神威術士ってのはそんなことまでできるんですか?」

「もちろんだ」


 ロバートは頷いた。

 だが、自分に注意を向ける者はいないはずだ。

 一週間ほど前に皇軍は大規模な神威術を使っている。

 神威術士であればそちらに注意を向ける。

 とはいえ物事に絶対はない。

 できる限り注意は払うべきだ。


「ここまで掘り進めておいてなんですけど、このやり方って正しいんですかね?」

「……分からん」


 部下の問い掛けにロバートは少しだけ間を置いて答えた。


「分からんって、ロバート隊長」

「仕方がないだろう」


 部下が情けない声で言い、ロバートは少しだけムッとして返す。

 帝都の『黄土神殿』で農業を学び、軍隊経験もある。

 エクロン男爵家の家令として領地運営に携わったことも。

 だが――。


「俺は坑道を掘ったことがないからな」

「「「「――ッ!」」」」


 ロバートがぽつりと呟くと、部下達は息を呑んだ。

 きょろきょろと周囲を見回す。


「だ、大丈夫ですよね?」

「方向はあっているし、何とかなるだろう」

「変だな~とは思ってたんですよ」


 部下は呻くように言った。

 そう思うのも無理はない。

 問題が起きるたびに作業が中断しているし、二本の坑道が崩落している。

 無事なのはここだけだ。

 経験者がいればスムーズに掘り進められたのだが――。


「割と大所帯なんですけどね」

「それを言うな」

「分かってます」


 部下は苦笑した。

 南辺境に坑道を掘った経験者がいないのはルー族がアレオス山地にいたからだ。

 とてもじゃないが、敵地で資源調査などできない。

 もっとも、資源調査ができないのは今も同じだ。

 敵地でこそなくなったが、アレオス山地はルー族の自治区という扱いになっている。

 問答無用で殺されることはないが、気軽に立ち寄れる場所ではない。

 さらにカナンを始めとする南辺境の領主達は慎重すぎるほど慎重に行動している。

 少しずつ交流を増やし、いずれ共同で資源調査を実施しようと考えているのだ。

 ロバートに異論はない。

 いや、やり方があまりにも迂遠だと感じることはある。

 だが、自分達は敵対関係にあったのだ。

 それを考えれば慎重すぎるということはない。


「それにしても蛮ぞ――」

「ルー族だ」

「ルー族に気を遣わなきゃならないなんて時代は変わりましたね」


 ロバートが訂正すると、部下は言い直した。


「俺達が子どもの時分には悪い子はルー族に攫われるって躾けられたもんですけどね」

「「「あ~」」」


 部下の一人が言うと、他の面々が声を上げた。

 南辺境の出身者ならではの反応だろう。

 ロバートにも覚えがある。


「それなのに惚気られる日が来るとは思いませんでしたよ」

「惚気?」

「ガウル殿の部下ですよ」


 ロバートが鸚鵡返しに呟くと、部下はうんざりしたような口調で言った。


「普段はツンツンしてるけど、二人きりの時には甘えてくるとか、子どもが生まれたとか、まあ、色々です。まったく、なんで惚気話を聞かなきゃならないんだか」


 最後の方はぼやくような口調だった。

 不満はあるようだが、部下達は上手くやっていたようだ。


「俺も早く結婚したいです」

「軍人になればキャーキャー言われると思ったんだけどな」

「馬鹿、見透かされてるんだよ」

「俺を好きになってくれれば誰でもいいよ」


 皆、意外に結婚願望が強いようだ。

 意外といえば――。


「結構、交流はあるものだな」

「ロバート隊長はないんですか?」

「ガウル殿とはそれなりに交流はあるが……」


 ロバートは言葉を濁した。

 彼の苦悩を知る身としては単純に羨ましいとは思えない。

 正直、部下にもルー族の結婚は勧められない。

 できる限り力になりたいと思うが、苦労するのが目に見えているからだ。


「もう少し平和な時代ならよかったんですけどね」

「……そうだな」


 部下がぽつりと呟き、ロバートは同意した。

 ガウルはこの戦いを利用して子ども達の未来を切り開こうとしている。

 果たして、それは正しいことなのだろうか。

 分からない。

 だが、彼の覚悟が報われればいいとは思う。


「……頑張らないとな」

「ええ、またうんざりした気分で惚気話を聞きたいですからね」


 ロバートが呟くと、部下は小さく笑った。


『報告です。帝国軍の補給部隊に動きあり』


 くぐもった声が坑内に響く。

 帝国軍の動向を監視している部下の声だ。

 ロバートはポーチから通信用マジックアイテムを取り出し、口元に近づける。


「ロバートだ。どんな動きをしている?」

『大多数は死体の片付けです』

「死体?」

『ええ、昨日運ばれてきた傷痍兵ですよ』


 吐き捨てるような声が響く。

 ロバートも同じ気持ちだ。

 何年も前に除隊したとはいえ帝国兵だったのだ。

 口にはできないが、それなりに思う所はある。


『それと、五騎の騎兵が西に向かいました』

「分かった」


 ロバートは短く応じ、軽く咳払いをした。


「ロバートより報告。騎兵が五騎、西に向かった。ケイン、ガウル両隊長に対応願う」

『こちらケインだ。騎兵ってことは貴族か?』

「断言はできないが、その可能性は非常に高い。可能ならば捕虜にしたい」

『了解と言いたい所だが、捕虜にするんなら往路は素通りさせる。簡単に逃げられないように距離が欲しいし、斥候が五騎だけとは限らねぇからな』

「なるほど、確かに」


 ロバートは小さく頷いた。


「つまり、ガウル殿が迎え撃つと」

『まあ、そういうことになるな。で、ガウルの旦那はどうだ?』

『こちらで迎え撃つのは構わんが、部下に無理はさせられん』

「可能な限りで――」

『損耗を抑えることを優先しろ』


 ロバートの言葉をティリア皇女が遮る。

 思わずびくっとしてしまった。

 まさか、会話に割って入ってくるとは思わなかった。

 だが、考えてみればティリア皇女も会話を聞けるのだ。

 割って入ってこないと考える方がおかしい。


『降伏勧告し、それでも抵抗するのならば殺します』

『それで構わん』

『ありがとうございます』


 ガウルが感謝の言葉を口にする。


『……ロバート』

「はッ!」


 ティリアに名前を呼ばれ、ロバートは反射的に背筋を伸ばした。


『割って入って、すまない』

「いえ、助かりました」


 正直な気持ちだった。

 南辺境軍の命令系統は曖昧な所がある。

 上下関係はまだしも横の関係は難しい。


『そう言ってもらえると助かる。では、私は聞き役に戻る。色々な役目を押しつけてしまってすまないが、よろしく頼む』

「はッ! お任せ下さいッ!」


 ロバートは声を張り上げた。


「では、二人ともよろしく頼む」

『任せてくれ』

『ああ、任された』


 ケインが軽く、ガウルが低い声で答える。

 ロバートはポーチに通信用マジックアイテムをしまった。



 ガウルは草陰に隠れ、帝国の騎兵を持つ。

 いや、正確には戻ってくるのを待つか。

 帝国軍の騎兵はすでにガウル達の前を通り過ぎている。

 あの時は生きた心地がしなかった。

 思い出しただけで嫌な汗が噴き出てくる。

 これは自分のための戦いではない。

 未来を切り開くための戦いだと自分に言い聞かせ、何とか耐えることができた。

 だが、帝国軍の騎兵が近づいてきたら――恐らく、自分は耐えられなかっただろう。

 感情を暴発させ、槍を手に襲い掛かっていたに違いない。

 自分の未熟さ――ひいては父の偉大さを痛感する。

 父は『鉄壁』の二つ名を持つ。

 幾度となく神聖アルゴ王国軍を退けてきたことからそう呼ばれるようになった。

 正直にいえば父の二つ名が好きではなかった。

 騎士――貴族とは敵を打ち倒すものだ。

 それなのに敵を凌ぐことに長けるなど情けない。

 父の下で戦っていた頃から、いや、それ以前からそんな風に感じていた。

 なんと、愚かだったのだろう。

 ガウルは五十人の命を背負い、ほんの数時間待っただけで恐ろしく消耗している。

 父は二十倍の命、いや、周辺の領地を含めれば何百倍、何千倍にもなるだろう。

 数え切れないほどの命を背負い、何十年も戦い続けている。

 今ならその偉業を理解できるし、どうして自分に辛く当たっていたのかもよく分かる。

 本当に、嫌になる。

 いつも自分は後になってから大切なことを理解するのだ。


「……ガウル隊長」

「何だ?」


 ガウルは隣にいる部下に視線を向けた。

 顔は泥に塗れ、目だけが輝いている。


「戻ってきませんね」

「前回の襲撃で糧秣を失ったからな。遠くまで見回っているのだろう」

「ああ、なる――」

「伏せろ」


 ガウルは部下の言葉を遮り、部下の頭に軽く触れた。

 そのまま地面に伏せる。

 帝国軍の騎兵が戻ってきたのだ。

 徐々にスピードを緩める。

 街道に石がばらまかれているためだ。

 通信用マジックアイテムを口元に近づける。


「まず、俺が仕掛ける。俺が仕掛けたら退路を塞いで囲め。降伏するのであれば捕虜にしろ、抵抗する素振りを見せたら殺せ。繰り返す、降伏するのであれば捕虜として扱え。抵抗する素振りを見せたら殺せ」

『『『……了解』』』


 低く押し殺したような声が返ってくる。

 前回と同じようにガウルは隊を四班に分けた。

 やがて、騎兵が完全に動きを止める。


「……ガウル隊長」

「まだだ。まだ早い」


 騎兵は石をどけるために馬から下りるはずだ。

 自分ならばそうするが、このまま進む可能性もゼロではない。

 石の密度は大丈夫だっただろうかと不安が湧き上がる。

 大丈夫なはずだ。

 何度も確認した。

 だが、不安は膨れ上がる一方だ。

 攻めるべきか、待つべきか。

 選択肢は二つしかないのにいざ選ぶとなると難しい。

 いっそのこと走り去ってくれればとさえ思う。

 その時だ。

 騎兵が馬から下りた。

 ただし、一騎だけだ。

 他の四騎は周囲を警戒している。


「ガウルた――」


 部下は最後まで言い切ることができなかった。

 ガウルがすでに立ち上がり、槍を投擲する姿勢を取っていたからだ。

 気付けないほどスムーズな動きだったのだろう。

 正直にいえばガウルも驚いていた。

 これほどスムーズに動けるとは自分でも思っていなかったのだ。

 これならばアルヘナやロイ――近衛騎士団長と互角以上に戦えるはずだ。

 体が動く。

 槍は一直線に進み、騎兵の首を貫いた。

 一、二、三、四――十秒が経過し、首を貫かれた騎兵が頽れる。

 いや、頽れかけたというべきか。

 槍が支えになり、中腰のような姿勢で動きを止めていたのだから。

 さらに五秒が経過し、四騎の騎兵が馬首を巡らせる。


「二班、三ぱ――ッ!」


 ガウルは最後まで指示を出せなかった。

 二班と三班は驚くほど迅速に騎兵の背後に回り込み、槍衾を形成してみせたのだ。

 かつて所属していた第二近衛騎士団に勝るとも劣らない早業だった。

 勝ち目がないと悟ったのだろう。

 四騎の騎兵は完全に動きを止めている。

 ガウルは四騎の騎兵に歩み寄った。

 もちろん、油断はしない。

 隙を見せれば襲い掛かってくるに違いない。

 街道に出て、身を曝す。

 近づきすぎただろうか。

 いや、弱腰では舐められる。

 こちらが圧倒的に優位に立っていると理解させなければならない。

 胸を張り、騎兵を見据える。


「俺の名はガウル! 第二近衛騎士団団長タウル・エルナト伯爵の息子だッ! 偽帝アルフォートを討つため、帝国の未来のためこの戦いに参加している!」


 ガウルが声を張り上げると、四騎の騎兵は目配せし合った。


「諸君らに降伏を勧告する! 馬から下り、武装を解除せよッ! 降伏するのであれば捕虜として扱う! 抵抗するのであれば……斬るッ!」


 ガウルは剣を抜き放ち、地面に切っ先を突き立てた。


「返答や――」


 またしてもガウルは最後まで言い切れなかった。

 四人の一人が剣を地面に落としたのだ。

 驚きのあまり目を見開く。


「分かった。降伏する」


 剣を落とした騎兵は馬から下り、両手を上げた。

 残る三人もそれに従う。

 剣を捨てて馬から下りたのだ。

 罠かと思ったが、どうもそうではないようだ。


「武器を隠し持っていないと確認できるまで拘束させてもらう。悪く思うな」

「仕方がない。当然の処置だ」


 ガウルが目配せすると、四班の兵士が歩み寄り、騎兵を縛り上げた。

 もたもたとした動作だ。

 相手が協力的でなければもっと時間が掛かっていただろう。


「意外か?」

「……まあ、な」


 騎兵が茶化すように言い、ガウルは少しだけムッとして答えた。

 犠牲を出すことなく、四人を捕虜とできた。

 最高の結果を出せた。

 だというのにどうにも居心地が悪い。


「隊長には殺されそうになったら降伏しろと言われている」

「べらべら喋っていいのか?」

「降伏しろって言うくらいだ。俺がべらべら喋ることくらい織り込み済みだろ」


 騎兵は軽く肩を竦めた。

 仲間が殺されたのにこの態度はどうだろう。

 斬り捨てておいた方がいいのではないかという気がする。

 だが、抵抗しなければ捕虜として扱うと宣言したばかりだ。

 これで斬り捨てたら沽券に関わる。

 折角、べらべら喋ってくれているのだ。

 有益な情報を――。


「今回の荷はシャベルと工具だ」

「貴様、それでも貴族か」

「その三男坊な。正直、雑な拷問をされて体をぶっ壊されたくねーんだよ」


 なるほど、とガウルは頷きそうになった。

 そういう事情があるのならばべらべらと喋るだろう。


「協力したんだから一日二食は食わせてくれ。監視付きでいいから日光浴と湯浴みもだ」

「分かった。できるだけ希望を叶える」

「頼むぜ」


 ガウルは溜息を吐き、部下に目配せした。


「三班と四班は捕虜を連行しろ」

「「はッ!」」


 三班と四班の班長は背筋を伸ばして返事をすると、四人の騎兵――捕虜を連行した。

 ガウルは呆然と捕虜を見送る。

 一人殺してしまったが、その必要はなかったのではないかという気がする。


「ガウル隊長、その、報告をした方が……」

「――ッ!」


 部下に声を掛けられ、我に返る。

 あまりのことに呆然としてしまったが、まだ作戦中なのだ。

 それに本命は補給隊だ。

 通信用マジックアイテムを取り出し、口元に近づける。


「こちらガウル。斥候の一人を殺害、四人を捕虜とした」

『ティリアだ。ガウル、被害は?』

「被害はありません」

『そうか、よくやった』


 感動すべきなのだろうが、今一つ感動できない。


『どうかしたのか?』

「こちらに被害はありませんでしたが、どうやら降伏しろと指示されているようです」

『……どういうことだ?』


 ティリア皇女は少し間を置いて答えた。

 困惑が伝わってくる。


『ケインだ。わざと捕虜になって兵站に負荷を掛けるつもりなんじゃねーか?』

『ああ、なるほど』


 ティリアが納得したような口調で言った。


『どうするんだ、姫さん?』

『敵の思惑に乗るのは面白くないな。他に情報はないか?』

「補給隊が運ぶのはシャベルと工具だと」

『……』


 ティリア皇女は黙り込んだ。


『敵陣が強化されるのはともかく、皇軍陣地の攻略に使われるのは痛いな』

『結論を頼む』


 ケインがティリア皇女を急かす。


『適度に攻撃して撤退だ』

『さじ加減は俺の判断でいいか?』

『無論だ』

『了解。敵の思惑に乗らないように攻撃する』

『頼んだぞ』

『任せてくれ』


 ケインは軽い口調で請け負った。

 もう少し真面目にやれと言いたかったが、ケインはクロノの部下だ。

 文句を言う権限はない。

 それに、クロノがこのような態度を許していたのだ。

 ガウルの理解できない考えがあるのだろう。


『ガウルの旦那は拠点に戻ってていいぜ』

「馬鹿を言うな。俺も戦う」

『捕虜を連行したら兵数は三、四十人って所だろ? たったそれっぽちの兵数じゃ足止めは厳しいし、あまり頑張られちまうと捕虜にしてくれって降伏されちまいそうでよ』

「……分かった」


 ガウルはしばらく考えた末にケインの提案を受け入れることにした。

 捕虜を連行したせいで兵数が減ったのは事実だし、ケイン達を邪魔する訳にはいかない。

 さらにいえば自分達の目的はまだ先にある。


『助かるぜ』

「礼を言うほどのことではない」


 ガウルはポーチに通信用マジックアイテムをしまった。

 死んだ騎兵を横に寝かせ、槍を引き抜く。


「死体はどうしますか?」

「放置だ。ここに死体があれば急いでくれるだろうからな。一班、二班、拠点に戻るぞ!」


 ガウルが歩き出すと、部下達はやや遅れて付いてきた。

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