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クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第7部:クロの戦記

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第18話『決戦・裏』その3



 カチャという音でティリアは目を覚ました。

 マイラが食事を持って起こしに来たのだろう。

 起きなければ。起きて体調がよくなっているとアピールしなければ。

 そうしなければ南辺境で療養して下さいと言われかねない。

 それほど昨日は何もできなかった。

 やったことを言えば会議に参加し、ガウルと話をしたくらいだ。

 その後はずっとうとうとしていた。

 食事を摂ったり、湯浴みをしたりしたが、これは何かをしたとは言わない。

 少なくともティリアにとっては。

 今更ながら後悔の念が湧き上がる。

 せめて、本を読んでおけばよかった。

 内容が頭に入ってこなくても本を開いていれば他人は勉強していると思うものだ。

 どうして、それくらいのことができなかったのか。

 後悔に苛まれながら体を起こそうとするが、それさえも億劫に感じる。

 まるで体がベッドと一体化しているかのようだ。

 ふと主塔に幽閉されていた時のことを思い出す。

 そこでの日々は幽閉という言葉から想像もできないほど快適だった。

 掃除は行き届いていたし、食事も美味しかった。

 今にして思えばかなり気を遣われていたと思う。

 きっと、アルコルはティリアを殺すつもりがなかったのだろう。

 とは言え、気分が滅入ってしまうことがあった。

 今の状況はそれによく似ている。

 起きる、起きるぞ。根性だ、と自分を鼓舞する。

 何とか体を起こし、深い溜息を吐く。

 倦怠感が体の芯にまでこびりついているようだ。

 マイラはベッドサイドにあったテーブルにトレイを置き、深々と頭を下げた。


「奥様、おはようございます」

「おはよう。すまないが、窓を開けてくれないか?」

「承知しました」


 マイラは踵を返し、まずカーテンを、次に窓をそっと開けた。

 冷たい空気が流れ込んでくる。

 鼻の奥がツンとし、鳥肌が立つ。

 だが、少しだけ気分がマシになった。

 マイラはベッドの上に小さなテーブルを置き、その上にトレイを載せた。

 今日のメニューは食パンとスープ、果物だ。

 水の入ったグラスもある。


「窓を閉めてもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 マイラは一礼し、そっと窓を閉めた。

 いただきます、と呟いてグラスを手に取る。


「本日もレモン水を用意しました」

「それはありがたい」


 ティリアはグラスを口元に運び、レモン水を口に含む。

 冷たく、爽やかな味わいだ。

 寝起きでねっとりとしていた口の中がすっきりする。

 グラスをテーブルに置き、食パンに手を伸ばす。

 小さく千切り、口に運ぶ。

 キメがこまかく、しっとりとしていて、仄かに甘みがある。

 同じ小麦から作られているのに今まで食べていたパンとは別物だ。

 これが金属の型に入れただけで作れるとは――。

 いや、そう考えるのは早計か。

 空いている時間を利用してと言っていたが、完成までに何年もかかっているのだ。

 ティリアに分からないだけで工夫を凝らしている可能性は高い。

 なので――。


「食パンは美味いな」


 感想のみを口にする。

 どれだけ苦労して作ったのか知らずに軽々に発言すべきではない。

 すると、マイラは満足そうに口元を綻ばせた。

 どうやら、自分の判断は間違っていなかったようだ。

 スプーンを手に取り、スープを掬う。

 ほんのり色づいているが、まるで水のようなスープだ。

 体調のよい時ならば何の嫌がらせかと訝しんだだろうが、今はありがたい。

 口に含むと、微かに味がある。

 魚だろうか。


「如何でしょうか?」

「うむ、悪くない。微かに魚のような味がするが……」

「干物で出汁を取りました」

「ああ、なるほど」


 そう言えば女将も干物で出汁を取っていた。


「何故、これを?」

「奥様がどのような食べ物であれば口にできるのか確認させて頂きました。次回はもう少し濃い味付けをして参ります」

「手間を掛けさせるな」

「メイドですので」


 マイラは小さく微笑んだ。

 仕事なので気にしないでくれということだろう。

 そう言ってもらえると少しだけ気分が楽になる。

 ティリアはスープを口に運び、再び食パンに手を伸ばす。


「……奥様」


 ティリアは手を止め、マイラに視線を向けた。

 何処となく迷っているような雰囲気だ。

 南辺境で療養して欲しいと言い出すつもりだろうか。

 だが、自分から療養について切り出したら藪蛇になりかねない。

 迷った末に口を開く。


「何だ?」

「実はドラゴン様より伝言、いえ、要望がありまして……」

「どんな要望だ?」

「はい、兵士を慰問して頂きたいと」


 マイラは普段と変わらぬ声音で言った。

 いや、わずかに低いだろうか。


「分かった」

「よろしいのですか?」

「もちろんだ。南辺境軍は共に戦う同志だ。その慰問となれば喜んで出掛けよう」


 ティリアは鷹揚に頷いた。

 戦いにおいて士気は大事だ。

 どれだけ精強な軍でも士気が低ければ能力を発揮しきれない。

 それに同志という意識を持たせることも大事だ。

 自分達は南辺境だけのために戦うのではなく、もっと大きなもの――帝国のため、ひいては未来のために戦うのだと考えてもらう必要がある。


「お体の方は問題ありませんか?」

「うむ、まだ体は怠いが、そうも言っていられん。この戦いには私達の未来が掛かっているのだからな」

「ティリア皇女の御心に感服いたしました」

「世辞はいい」

「まあ、お世辞ですが」

「ぐぬッ、お前は本心を見せるのが早すぎるぞ」


 マイラがしれっと言い、ティリアは呻いた。

 世話になっているので油断したが、相手はマイラだったのだ。

 隙を見せすぎたかも知れない。


「で、本心はどうなんだ?」

「南辺境軍の主体は駐屯軍と退役軍人です。軍で食べられなくなったので寝返った、南辺境に転がり込んできたという意識があるので、なかなかよい判断ではないかと」

「予想はしていたが、実際に聞くと気が滅入るな」


 ティリアはパンを頬張った。

 殊更、軍を神聖視している訳ではないが、満足な食事をさせられなくなったせいで兵士が離反したというのは何とも情けない。


「南辺境から作物が供給されなくなった時点でこうなることは目に見えていましたが……」

「アルコルは何をしていたんだ」


 ティリアは吐き捨て、レモン水を飲んだ。

 こんな状況になっている時点でアルコルが失脚したと容易に想像できるが、そうなる前に何とかできなかったのかと言いたくなる。

 それ以前にアルフォートを上手く操れると考えたからティリアを陥れたのではなかったのか。


「随分と信用されているのですね」

「人間性はもう信用していないが、能力は信用していたんだ」

「後ろ盾がなくなればこんなものではないかと」


 後ろ盾か、とティリアは呟き、パンを口に運んだ。

 よくよく考えてみればアルコルが自由に動けたのは父が権限を与えていたからだ。


「だが、三十年余り国政を取り仕切っていた男だぞ?」

「彼は荒事が苦手だったので喧嘩の仕方を知らないのでしょう」


 言葉は辛辣だが、表情は苦笑に近い。

 恐らく、アルコルとは友人のような関係なのだろう。

 人の縁とは面白いものだ、とティリアは食パンを頬張った。



 食事を終えてうとうとしていると、カチャという音が聞こえた。

 マイラが着替えを持ってやってきたのだろう。

 体は怠く、頭はボーッとしている。

 だが、今朝に比べれば調子がいい気がする。

 調子がいいんだ、と自分に言い聞かせて体を起こす。

 体を起こした直後、ズシッと何かがのしかかってくる。

 もちろん、錯覚だ。

 本調子ではないのに無理をしたせいだろう。

 マイラはベッドサイドのテーブルに軍服を置くとこちらに視線を向けた。


「起こしてしまいましたか?」

「いや、ちょうど目を覚ました所だ」


 実際は扉が開く音で目を覚ましたのだが、藪蛇になっても困る。

 まあ、マイラならば気づいているだろうが――。


「起きられますか?」

「もちろんだ」


 ティリアは頷き、ベッドから下りた。

 ネグリジェに手を掛けると――。


「奥様、少々お待ち下さい」


 ティリアが手を止めると、マイラはカーテンを閉めた。


「どうぞ」

「ああ、すまない」


 ネグリジェを脱ぎ、マイラの手を借りながら軍服に着替える。

 何やら視線を感じたが、これも藪蛇になったら困るので指摘しない。

 ズボンを穿き、違和感を覚えた。

 ウエストが緩くなっていたのだ。

 心なしか胸の部分にも余裕があるような気がする。

 ちょっと窮屈に感じていたのだが、痩せたのだろうか。

 内心首を傾げていると――。


「勝手ながら軍服のサイズを調整いたしました」

「どうして、そんなことを?」

「奥様、体調が悪い時に体を締め付けるのはよくありません」

「そうか、気を遣ってくれたのだな」


 ティリアはホッと息を吐いた。

 体重の増加を指摘されると思ったが、杞憂だったようだ。

 上着を着て、確認するために体をひね――。


「奥様ッ!」

「な、何だッ!」


 マイラがいきなり声を張り上げたので、ティリアはびくっとしてしまった。


「失礼いたしました。体を捻るような運動はご遠慮下さい。体に負担が掛かります」

「分かったが、お前もいきなり大声を出すのは止めてくれ。心臓が止まるかと思ったぞ」

「申し訳ございません」


 ティリアが胸を押さえて言うと、マイラは低く呻くような声音で謝罪した。

 どうやら、自分はよほど体調が悪いと思われているようだ。

 やはり、できるだけ体調がいいとアピールするべきだろう。


「いや、構わん。心配してくれるのはありがたいが、昨日に比べて体調はいいんだ」

「本当ですか?」

「本当だとも。お前は私が嘘を言っていると思っているのか?」

「はい、嘘を仰っていると考えております」


 マイラは間髪入れずに言った。

 あまりに迷いがないので、こちらの方が驚いてしまった。


「失礼なヤツだな。昨日、一昨日に比べて格段に体調がいいんだぞ」

「本当ですか?」


 マイラは距離を詰め、顔を覗き込んできた。


「本当だ。信用してくれ」

「どのように体調がよろしいのですか?」

「む、それは……」


 ティリアは視線を上に向けた。

 体が怠いし、頭はボーッとするし、少し吐き気もする。

 どう体調がいいのかなんて言えるはずがない。

 待てよ、と思い直す。

 まるっきり逆のことを言えばいいのだ。


「体は羽のように軽やかだし、頭もしゃっきりしている。気分も爽快だ」

「嘘ですね」


 マイラはおとがいを反らし、見下すような視線を向けてきた。


「一体、どんな根拠があって私を嘘つき呼ばわりするんだ」

「奥様は口籠もった後に視線を上に向けました」


 上? とティリアは天井を見上げた。


「嘘を吐く時、人間は視線を上に向けるか、話している相手を凝視するものです。また咄嗟に吐く嘘は事実と反対であることが多いです。反論はございますか?」

「ぐぬ……」


 マイラが勝ち誇ったように言い、ティリアは呻いた。

 反論のしようがなかった。


「認める。私は嘘を吐いた」

「何故、嘘を吐いたのですか?」

「体調が悪いと言ったら南辺境で療養するように言われると思ったからだ」

「……奥様」


 ティリアがぼそぼそと呟くと、マイラは呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた。


「奥様、私はそのようなことを申しません」

「本当か?」

「神に誓って」


 マイラは右手を上げて言った。

 そこまで言うならと思い、そんなに信仰心の篤い女だっただろうかと思い直す。


「ところで、どの神を信仰しているんだ」

「強いて言えば黄土にして豊穣を司る母神を」

「強いて言えば?」

「南辺境の主要産業は農業ですから」


 ティリアが鸚鵡返しに尋ねると、マイラは淡々と言った。

 信仰心を感じられないのはどうしてなのだろう。


「農作物の出来不出来は天候に左右されるから翠にして流転を司る神じゃないのか。いや、蒼にして生命を司る神でもいいのか」

「どちらも寄付金を積んでも大した知識や技術を教えてくれないので。さらに言えば寄付金を積んでも天候に恵まれる訳ではありませんから」

「いや、それは仕方がないんじゃないか」


 いくら神威術でも天候を操作することは難しい。

 しかも、農作物の出来がよくなるほどとなればナム・コルヌ女男爵でも不可能だ。


「ですので、黄土にして豊穣を司る母神を信仰しております」

「う~ん、それは信仰なのだろうか」

「神官様は旦那様を信仰が篤い方と仰っています。ふ、信仰が何処にあるか分かりませんね」

「うむ、お前に信仰心がないことだけは分かった」


 嘲るように口元を歪めるマイラを見て、ティリアは確信を得た。


「……お前の信仰については何も言わん」

「恐縮です」


 マイラは軽く頭を下げた。

 口元が綻んでいるように見えるのは気のせいではあるまい。


「さて、そろそろ慰問に出掛けるが、移動はどうする?」

「外に箱馬車を待たせております」

「ふむ、箱馬車か」

「兵士に親近感を持たせるために荷馬車や幌馬車を使うと仰るのであればお止め下さい」

「そんなことは考えていないぞ」

「本当ですか?」

「本当だ」


 少しだけムッとしながら返す。

 正直に言えばちょっとだけそういう発想が脳裏を掠めたが――。


「では、結構です」

「お前は本当にメイドなのか?」

「メイドですが、何か?」

「……何でもない」

「では、こちらに」


 ティリアはマイラに先導されて歩き出した。



「奥様、どうぞ」

「うむ、すまない」


 マイラが扉を開け、ティリアは足を踏み出した。

 自分で扉くらい開けられるが、藪蛇になりそうなので口にはしない。

 そう言えば屋敷に来てから外に出るのは初めてだ。

 どんな庭園なのだろう。

 侯爵邸と同じように荒れ果てているだろうか。

 いや、案外、しっかりした庭園かも知れない。

 少しだけ期待しながら外に出て、足を止める。


「どうかなさいましたか?」

「何もないんだな」


 ティリアは視線を巡らせた。

 遠くに塀があるがその内側には箱馬車が一台あるだけだ。

 御者席には執事っぽい格好をした人物がいる。


「旦那様は庭を手入れすることに興味がない方ですので。エルア様もそうでした。もっとも、エルア様は庭園を造るのならばそのお金で領地を豊かにしたいとお考えでしたが」

「動機は違っても答えは同じか。お前はどうなんだ?」

「私は旦那様寄りです」


 マイラが呟いた直後、箱馬車の扉が開いた。

 箱馬車から下りてきたのは女性――女将の妹カナンだった。

 寒いからか、マフラーを巻いている。


「では、参りましょう。石が落ちているので足下にはくれぐれもご注意を」

「ああ、分かっている」


 マイラが静かに歩き出し、ティリアは後を追った。

 ティリア達が近づくと、カナンはしずしずと歩み寄ってきた。

 足を止め、優雅に一礼する。


「本日は私がエスコートさせて頂きます」

「ん? お前は来ないのか?」

「私は護衛枠ですので」


 なるほど、とティリアは頷いた。


「護衛はもう一人。ロバート!」

「はい、ただいま」


 カナンが声を張り上げると、御者が馬車から下りた。

 そして、こちらに歩み寄る。

 背が高く、やや筋肉質な男だ。

 軍隊経験があるのか、唇を縦断するように傷が走っている。


「お初にお目に掛かります、ティリア皇女。私はエクロン男爵家で執事を務めておりますロバートと申します」


 ロバートは立ち止まると深々と一礼した。

 カナンのような優雅さはないが、立ち居振る舞いに隙がない。

 かなりの手練れに見えるが、どうして南辺境で執事をしているのか。

 そんな疑問が脳裏を掠めるが、黙っておいた方がいいだろう。


「よろしく頼むぞ」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」


 ロバートは力強く頷き、踵を返した。


「……ティリア皇女」

「何だ?」

「こちらを」


 ティリアが返事をすると、カナンはマフラーを解いて差し出してきた。

 気を遣ってくれているのだろう。


「すまないな」

「いえ、気遣うのは人として当然です」


 マフラーを受け取って礼を言うと、カナンは小さく頭を振った。


「人として当然は言い過ぎじゃないか?」

「いいえ! いいえッ! 気を遣わない者は人面獣心の輩に違いありません!」


 カナンはやや声を荒げた。

 そこまで言われると何だか申し訳ない気分になってくる。

 自分はそこまで大した人間ではないのだ。

 もっとちゃんとした人間であればアルコルに陥れられなかったかも知れない。

 しかし、それを指摘しても否定されるだけだろう。

 だから――。


「ありがとう」


 ティリアは礼を口にし、マフラーを首に巻いた。


「うん、温かいな」

「それはケイロン伯爵から頂いたものなんです」

「そ、そうか」


 ティリアは上擦った声で答えた。

 首がキュッと絞まったような気がした。

 ハッとして周囲を見回すが、誰もいなかった。


「お見合いをしたのですが、断られてしまいまして。ですが、マフラーをくれたんですからこれは脈があるってことですよね?」

「い、いや、それは……」


 ティリアは口籠もった。

 ケイロン伯爵は――リオはもういない。

 それに、クロノの愛人だった。

 きっと、ケイロン伯爵はクロノの愛人だったから断ったのだろう。

 偽装と割り切って結婚してしまえばよかったのにと思わないでもない。

 しかし、それだけ一途だったのかも知れない。

 もっと話しておけばよかった。

 今更ながらそう思う。

 本当に、自分は後悔してばかりだ。

 ケイロン伯爵の死を伝えるべきだろうか。

 片思いにしろ、彼女には知る権利があるのではないだろうか。


「カナ――」

「では、私が先に乗りますので」

「私は背後の警戒を」


 ティリアの言葉をカナンとマイラが遮る。

 カナンはそのまま箱馬車に乗り――。


「どうぞ、手を」

「ああ、すまない」


 ティリアはカナンの手を取り、箱馬車に乗った。

 内装はかなり豪華だ。

 イスの上に置かれたクッションと毛布に目が留まる。


「ティリア皇女、クッションと毛布をお使い下さい」

「あ、ああ、すまない」

「いえ、人として当然のことですから」


 カナンはきっぱりとした口調で言った。

 やはり申し訳ない気分でクッションの上に座る。

 すると――。


「奥様、失礼いたします」

「ああ、ありがとう」


 マイラが脚に毛布を掛けてくれたので、ティリアは感謝の気持ちを伝える。


「いえ、当然のことです。奥様お一人の体ではありませんので、ご自愛下さい」

「うむ、そうだな」


 ティリアは居住まいを正した。

 マイラの言う通り、自分は皇軍及び南辺境軍の旗頭なのだ。

 自己評価はさておき、旗頭を失う訳にはいかない。

 体調が悪いなりに自己管理をしっかりしなければ。

 そう自分に言い聞かせた時、箱馬車がゆっくりと動き始めた。

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