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クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです  作者: サイトウアユム
第7部:クロの戦記

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第10話『叛旗』【中編】



 どうして、僕が帝都に護送されなきゃならないんだ? とクロノは廊下を歩く。

 正直に言えば走り出したかったが、ここには部下の目がある。

 レオンハルトとリオが来たというだけでも異常事態なのに醜態を晒して部下を不安にさせる訳にはいかない。

 そう頭では分かっていても自然と早足になってしまう。

「旦那様!」

 クロノが応接室の扉を開けようと手を伸ばしたその時、アリッサが叫んだ。

「何ッ?」

「申し訳ございません。旦那様、剣を」

 アリッサは絞り出すような声音で言った。

 それで少しだけ冷静になれた。

 護送ということは何らかの嫌疑が掛けられているということだ。

 そんな状況で帯剣して出て行けば抵抗する意思があると判断される可能性がある。

 レオンハルトとリオを信じるかではない。

 口実として有効かという話だ。

 クロノは深呼吸をし、剣帯――長剣と短剣をアリッサに渡した。

「旦那様、お気を付けて」

「……分かった」

 クロノはアリッサの頬を撫で、扉に向き直った。

 静かに応接室の扉を開ける。

 レオンハルトとリオは非常にリラックスした様子でソファーに座っていた。

「お待たせ」

「突然の来客だからね。構わないとも」

「やあ、久しぶりだね」

 レオンハルトとリオがいつもと変わらない口調で応じ、クロノはホッと息を吐いた。

 二人がその気になれば力尽くでクロノを攫えるが、そうしないということは事情を説明するつもりがあるということだろう。

「座っても良いかな?」

「構わないとも」

 クロノは対面のソファーに腰を下ろした。

「旧交を温めたい所なんだけど、帝都に連行ってどういうこと? 言っちゃなんだけど、僕は悪いことをしてないよ?」

「……その件なのだが」

 レオンハルトは言いにくそうに咳払いをした。

「現在、アルフィルク城では羊皮紙ではなく、自由都市国家群から輸入した紙を使用することになっている」

「勿体ないことをするね」

 紙ならばクロノの領地で実用化している。

 わざわざ自由都市国家群から紙を輸入して使うなんて無駄遣いとしか思えなかった。

「それがどうしたの?」

「その紙がエラキス侯爵領で作られたものと判明した。恐らく、役人が差額を横領するために差し替えたのだろう」

 レオンハルトはそこで言葉を句切った。

 クロノは混乱していた。

 役人が差額を横領するためにクロノの領地で作られた紙――和紙を使っていた。

 クロノに何の関係があるのか。

「アルフォート陛下はクロノ殿が首謀者であると、謀反を画策していると断定した」

「え?」

 思わず問い返す。

「アルフォート陛下はクロノ殿が謀反を画策していると断定した。帝国の窮状はクロノ殿の陰謀によるものだと」

「え? いや、ちょっと待って。何なの、その超理論?」

 クロノが横領に関与していたというのなら分かる。

 まだしも理解の範疇だ。

 謀反を画策しているとは、帝国の窮状はクロノの陰謀とはどういうことか。

 全く理解できない。

 そんな命令に従っているということはレオンハルトとリオはアルフォートの超理論を理解しているということなのか。

 もしかして、自分は気付かない内に気が触れてしまったのだろうか。

「大丈夫、君は正気だとも」

「レオンハルト殿もおかしいと思っているの?」

「問題はアルフォート陛下が断定したことなのだよ」

 レオンハルトは手を組み、身を乗り出した。

「証拠は?」

「紙が証拠だと」

「いや、だって、それは僕が関与した証拠にならないじゃない」

「クロノ殿……アルフォート陛下は君を殴ると決めて拳を振り上げてしまったのだよ」

「……そんな」

 クロノは脱力感に襲われ、ソファーに寄り掛かった。

 結論ありきの冤罪ではないか。

 帝国に忠誠を誓っている訳ではない。

 だが、それでも、帝国に貢献してきた自負はある。

 その自負を踏みにじられ、今まさに思い描いていた未来まで閉ざされようとしている。

 抵抗すべきかな、とクロノは自問し、すぐに考えを改める。

 帝国は強大だ。

 頭が腐っていても体はまだまだ頑強だ。

 クロノの保有する兵力は諸部族連合の傭兵を含めて千五百、対する帝国は十万の兵力を保有している。

 兵力差は六十六倍以上だ。

 自分のために千五百人も無駄死にさせる訳にはいかない。

 最初から戦うという選択肢は存在しないのだ。

「……一生懸命、やってきたのにな」

「ああ、分かっているとも。君はよくやった。君達に救われた兵士は感謝しているし、私の部下も君達に感謝している」

 だが、とレオンハルトは続ける。

「君は味方以上に敵を作ってしまった。君が追放した汚職役人はアルフォート陛下の取り巻きだ。これ以上は言わなくても分かるだろう?」

「そうだね」

 クロノは体を起こし、がっくりと頭を垂れた。

「僕の領地はどうなるの?」

「没収される恐れはあるが、可能な限り先延ばしにしてみせると約束しよう」

「僕はどうなる?」

「そうだね。死刑の方向で話が進むと思うけれど、そうならないように頑張るよ。落とし所は帝都で一生監視されるって感じかな」

 答えたのはリオだった。

 一生監視付きで過ごすのは難しいのではないかと思うが、口にはしない。

 殺されるだろうという奇妙に確信めいた思いがある。

「嬉しそうだね?」

「とんでもない。ボクはクロノが無実の罪を着せられてとても悲しいさ」

 リオは大仰に肩を竦めた。

「……僕もこれまでか」

「そんなに悲観的にならないでおくれ。監視役にはボクが立候補するし、不自由のない生活を保障するさ」

「よろしく」

「任せておくれよ」

 やはり、リオは嬉しそうに言う。

 クロノは深々と溜息を吐いた。

 自分のやってきたことが無に帰すことに対する徒労感はある。

 だが、それ以上に部下と共に自分達の理想が終わってしまうことが辛かった。

 部下達の託してくれた思いが台無しになってしまった。

 守ることができなかった。

 もうどうにでもなってしまえと捨て鉢な気分になる。

 いや、とクロノは小さく頭を振った。

 自分はまだ領主なのだ。

 果たさなければならない責任がある。

「レオンハルト殿、僕の護送はいつ?」

「アルフォート陛下には身柄を拘束し次第、帰還せよと命じられているが……」

「せめて、明日まで欲しいんだ」

「愛人と最後の一時を過ごすのかい?」

「引き継ぎだよ」

 リオが茶化すような口調で言い、クロノは弱々しく笑った。

「クロノ、ボクはね。君に群がる女のことが好きではないけれど、それでも、愛を確かめる時間くらいは与えても良いかなと思っているんだよ」

「ありがとう。でも、彼女達なら分かってくれるよ」

 クロノは立ち上がった。



「クロノ様! 謀反の疑いとはどういうことですかッ?」

 レイラは会議室に入ってくるなり、気色ばんだ様子で詰め寄ってきた。

 こういう時は感情が剥き出しになるんだな、とクロノは苦笑する。

 微表情な彼女も好きだが、感情を剥き出しにする彼女も好きだ。

「それを今から説明するんだよ」

「納得できません!」

「座れ、ハーフエルフ」

 尚も言い募ろうとしたレイラを制したのはティリアだった。

 ティリアは最前列の席に座り、不機嫌そうに腕を組んでいる。

 机の配置はスクール形式なので、何処となく不良っぽい感じがする。

「しかし!」

「時間がない座れ」

「……はい」

 気圧されたのか、レイラは渋々という感じで席に着いた。

 クロノは演台に立ち、会議室にいる面々を見つめた。

 副官、アリデッド、デネブ、ゴルディ、シロ、ハイイロ、タイガ、女将、エレナ、アリッサ、シオン、シッター、ワイズマン先生、超長距離通信用マジックアイテムを介してケインとフェイも参加している。

 スノウ、スー、エリルの三人はいない。

 どういう訳か――。

「神官さんは呼んでないんですけど?」

「まあまあ、良いではないか」

 神官さんは最後尾の席に陣取り、手酌で酒を飲み始めた。

 空気を読まない人である。

 クロノは場をリセットする意味で咳払いをした。

「僕に謀反の疑いが掛けられていることは伝わっていると思う。何でもアルフィルク城で使われている紙がエラキス侯爵領産で僕が首謀者ってことになっているらしいんだ。それで、どういう訳か帝国の惨状は僕のせいってことになっているっぽい」

 ティリアを除く全員がポカンと口を開けている。

「クロノ、それでは分からないぞ?」

「奇遇だね。僕も分かってないよ」

 ふぅ、とティリアは溜息を吐いた。

「要するに、誰かが自由都市国家群から輸入された紙ではなく、エラキス侯爵領産の紙を使い、差額を自分のものにしたということだ」

「それは有り得ませんぞ」

 否定したのはゴルディだ。

「そのドワーフの意見に賛成よ。帳簿に不自然な点はないわ」

「来客状況からも賛成です、はい」

 エレナは偉そうに腕を組み、シッターは汗を拭いながら言う。

『クロノ様、怪しい行動、分かる』(がうがう)

『俺達、臭い、把握している』(が~う)

 シロとハイイロはスンスンと鼻を鳴らした。

 僕の行動は部下に筒抜けだったってことか、とクロノはこんな状況にもかかわらず噴き出しそうになった。

『帝国の惨状が大将のせいってのはどういう意味なんで?(ぶも?)』

「聞いた話だが、アルフォートの統治は上手くいっていないらしい。治安の悪化、汚職の蔓延、麦の価格高騰……」

「ティリア、詳しいね?」

「これくらい露店を回っていれば自然と耳に入ってくる」

「その地獄耳で今回の事態を察知して欲しかったみたいな」

「肝心な時に役立たずみたいな」

「あいつらが速すぎたんだ!」

 アリデッドとデネブが文句を垂れ、ティリアはムッとしたように言い返した。

 もっとゆっくり来てくれれば動きを察知できたんだ、と続ける。

『大将に関係あるんですかい?』(ぶも?)

「治安が悪化したのは考えなしに霊廟を建設したからだ」

『ってぇと?』(ぶも?)

「資金の流れを監視しなかったせいで中抜きされ放題、大理石の価格高騰が追い打ちを掛け、完成後は大量の浮浪者が帝都に流入だ」

 ティリアは腕を組み、さらに脚を組んだ。

『大理石の高騰?』(ぶも?)

「お前の一族がいなくなったからな」

『す、するってぇと――』(ぶも――)

「いや、お前達のせいではない」

 ティリアが断言し、副官は胸を撫で下ろした。

 自分で不安を煽ったくせにマッチポンプも良い所だ。

「あれはボウティーズ男爵と話し合った結果だからね」

「ボウティーズ男爵、商人……いや、アルフォートのミスだな。まあ、それを言い出したら一番悪いのはアルコルになるのだが」

 種を蒔いたラマル五世の責任は? と思ったが、口にはしない。

「結局、汚職が蔓延してしまったんですね」

「そうだね」

 クロノはレイラの呟きに頷いた。

「麦の価格高騰って何みたいな?」

「あたしら今日もお腹一杯食べちゃったし」

「……お前らは」

 ティリアは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

「周辺領地では麦の価格が高騰しているんだ」

「有り得ないことです。我々の調査では収穫高は前年比の九割です」

 シオンがティリアの言葉を引き継ぐ。

「徴税官が横領したと思われます、はい」

「横領にしたって程があるだろ」

 前エラキス侯爵のことを思い出しているのか、女将はうんざりしたように言った。

『汚職ってのはそういうもんなんだよ。ちょっとくらいがエスカレートして、何もかも腐らせちまう』

『汚職を許さない空気が大事ということでありますね』

 ケインが吐き捨て、フェイが緊張感の欠片も感じられない口調で言う。

 タイミングを計っていたのか、ワイズマン先生が口を開いた。

「それで、クロノ君はどうするつもりなんだい?」

「僕は……」

 すでに覚悟を決めているが、口にするのは躊躇われた。

「……僕は従おうと思っています」

「クロノ様!」

『大将!』(ぶも!)

 レイラと副官が立ち上がって叫んだ。

『無実の罪を着せられて従うってんですかいッ?』(ぶもッ?)

「戦いましょう、クロノ様!」

「あたし達も全力で!」

「クロノ様と戦うみたいな!」

『俺達、戦う!』(がう!)

『戦って、勝つ!』(がう!)

『久しぶりの戦いでござるな』(ぐるる)

 部下達が口々に叫ぶ。

 部下達の覚悟に胸が熱くなる。

 だが――。

「駄目だ。こっちの兵力は千五百人しかいないんだよ。どう考えたって勝ち目はない。そうですね?」

「自殺行為だよ」

 クロノが問いかけると、ワイズマン先生は静かに頷いた。

 その瞳には静謐な光が宿っている。

 まるで死に逝く者を看取る聖職者のような瞳だ。

「だから、君は行くんだね?」

「そうです」

 副官達はクロノとワイズマン先生の遣り取りを聞いて黙り込んだ。

 彼らには実践的な士官教育を施してある。

 その知識が絶対的な敗北を告げているのだろう。

「経済同盟の方々に助力を求めることはできないのですか?」

「無理だな」

 ティリアはレイラの提案をにべもなく却下する。

「どうしてですかッ?」

「経済同盟は軍事同盟ではない。それに、クロノは助けを求めない」

「そうだね」

 クロノは頷いた。

 助けを求めても無駄だし、破滅の運命に巻き込むことはできない。

『逃げるつもりはねーのか? 俺には傭兵時代のツテが――』

『クロノ様は逃げないでありますよ』

 フェイがケインの言葉を遮る。

「うん、僕は逃げない」

『マジかよ』

「マジだよ」

 クロノは苦笑した。

 自分が逃げれば領地は没収されてしまう。

 時間を稼ぐためにも逃げることはできないのだ。

「……ミノさん、シッターさん、アリッサ。そういう訳だから今日中に退職したい人のリストを作って欲しい。生活に困らないように退職金を上乗せしてやって」

『分かりやした』(ぶも~)

「分かりました、はい」

 副官とシッターは絞り出すような声音で言った。

「アリッサ?」

「旦那様、逃げては下さらないのですか?」

「私を連れて逃げてってのはなしね」

「……旦那様」

 クロノが戯けると、アリッサの目から一筋の涙が零れ落ちた。

「……あたしはどうすればいいの?」

「エレナは自由だよ」

 クロノはエレナに歩み寄り、頤を反らさせた。

 首輪を外すと、彼女は唇を噛み締めた。

「……アンタは最悪のクズだったわ」

「ありがとう」

「誉めてないわよ!」

 エレナは柳眉を逆立てた。

 次の瞬間、涙がポロポロと零れ落ちた。

「でも、好きよ。大好き。愛してる」

「ありがとう」

 クロノはエレナの頭を撫でた。

 アリッサとアリスンを連れて自由都市国家群に行って欲しいと言いたかったが、言い出せる雰囲気ではない。

 あとで手紙を書くとしよう。

「名残惜しいけど、会議は終了だ」

 そう言って、クロノは会議室を後にした。



 クロノは執務室に戻り、書類を整理する。

 ティリアならば細かな引き継ぎをしなくても上手く領地を運営してくれると思うが、やるべきことはやっておくべきか。

「……遅いな~」

 まさか、反乱を煽るようなことはしていないと思うが。

 不安になって立ち上がると、扉が開いた。

 ティリアは荒々しい足取りで部屋に入ってきた。

「反乱を煽ったりしてないよね?」

「心配なんてしなくてもあの連中が反乱を起こすことはない」

 ふん、とティリアは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

 反乱を煽ったが不発だったということか。

 クロノは部下の思慮深さに安堵した。

「恩知らずどもめ」

 ティリアはガンガンと壁を蹴り始めた。

 あっと言う間に壁がボロボロになっていく。

「ティリア、落ち着いて。引き継ぎをしよう」

「お前は……酷いヤツだ」

 ティリアはキッとクロノを睨み付ける。

「もう二度と会えないかも知れないんだぞ?」

「そうだね」

 クロノは頬杖を突いた。

 ティリアは歩み寄り、机に寄り掛かった。

「……逃げるか?」

「逃げない」

 もう決めたのだ。

「殺されてしまうかも知れないぞ?」

「それは分かってる」

 証拠もなくクロノを拘束しようとしているのだ。

 あらゆる罪を押し付けられて殺されるだろう。

 レオンハルトは力を尽くしてくれると言ったが、ティリアが皇位継承権を奪われた時に行動を起こさなかったことを考えると今一つ信用できない。

 それに、話していて不安になることがある。

 それは自分の気持ちが彼の心に届いているかという不安だ。

 自分の気持ちは一方通行で、彼の心を上滑りしているだけなのではないか。

 そう思う。

「……これで最後なのにキスもなしか」

「名残惜しくなりそうだからね」

 クロノはティリアの髪に触れる。

「クンカクンカしても良いぞ?」

「台無しだよ」

 クロノは苦笑した。



 翌日、ハシェルの城門には大勢の兵士と領民が詰めかけていた。

 緊張にか、部下達は顔を強張らせている。

 帝国軍でトップクラスの実力を有するとは言え、人間であることに変わりはない。

 これだけの人数に襲われたら死は免れない。

 体調が万全ならばまだしも疲労は無視できないレベルに達している。

 宿に泊まれていればとも思うが、クロノはこれだけ慕われているのだ。

 下手に泊まれば毒を盛られたかも知れない。

 レオンハルトはそんなことを頭の片隅で考えつつ、護送車の前でクロノと対峙する。

 護送車は自分達と同様に大分ガタがきている。

「クロノ殿。分かっていると思うが、馬鹿な真似はしないでくれ」

「分かってるよ」

 クロノが護送車に入り、部下が扉を閉める。

 部下は明らかにホッとした表情を見せた。

 レオンハルトはあえて指摘せずに自分の馬に乗った。

 部下達の脇を通り抜け、先頭に移動する。

「前進!」

 レオンハルトが命令すると、部下達は護送車に合わせるように馬を進ませた。

 ハシェルが芥子粒のように小さくなった頃、隣にいたリオが口を開いた。

「抵抗はなかったみたいだね」

「クロノ殿が上手く説得してくれたのだろう」

 正直に言えば一戦交えることを覚悟していた。

 クロノとその部下の絆は深い。

 感情のままに暴走することもあると思っていたのだが、杞憂だったようだ。

 杞憂と言えばリオが大人しくしていることも意外だった。

 邪魔をするようであれば排除するつもりだったのだが――。

 リオは小さく息を吐き、目蓋を揉みほぐした。

「流石に限界かね?」

「帰りはスピードを落とせるから帝都までは持つと思うんだけどね。注意力と言うか、感覚が鈍くなって嫌になるよ」

「……そうかね」

 心の中でリオの意見に同意する。

「まあ、ティリア皇女の相手なら問題ないと思うけれどね」

「何故、ティリア皇女が出てくるのかね?」

「分かってないね」

 リオは小さく息を吐いた。

「あの女は絶対にクロノを取り戻しにくるさ」

「似た者同士ということかね?」

「全然似ていないさ」

 レオンハルトが問いかけると、リオは口角を吊り上げた。

 何処か陰惨な笑みだ。

「ふむ、それがどう繋がるのかね?」

「相手にするのが猪ならそれほど警戒しなくて済むということさ」

 リオは前を見据え、目を細めた。

「待ち伏せとは少し成長したみたいだね」

「二人掛かりで捕らえるかね?」

「……そうだね。そうしよう」

 リオが馬のスピードを上げ、レオンハルトもそれに合わせてスピードを上げた。

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