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紅の術者  作者: 結城光
第2章 生徒会編
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第60話 開門

「大丈夫か、まなか!!」


「大丈夫なわけ無いでしょ!! 他になんかあったでしょ、バカ」


俺達は今、絶賛走行中である。家の屋根を飛んでいたが、王都は既に抜けてしまった。

何を言ってるかと言うとな、簡単に言えば転移魔法が使えなかったんだよ。まなかを主軸として転移魔法を発動させると『魔法殺しデストロイヤー』が発動して魔法がキャンセルされる。触れなくて良いなら俺が背負うか何かすれば良いかと思ったのだが、それでもキャンセルされた。最悪お姫様だっことかすれば良いかも知れないが、もし転移中にキャンセルされてみろ。俺達は11次元を彷徨うとか、頭と体がお別れするとかそんな事になるかも知れない。そんなのは真っ平ゴメンだ。

だから俺の体に加速魔法を掛けれるだけかけて瞬動を繰り返している。俺は良いのだが、まなかは空気抵抗などを跳ね返す魔法が使えないので、俺がわざわざ発動すると言う丁寧な対応つきで。

結局はお姫様抱っこになってるんですけど。


「黙って掴まってろ。下手したら俺もお前も血まみれになるんだからな。絶対足伸ばすなよ」


「分かってるわよ!! んで、後どれくらいで着くの?」


「ルビニアにあの魔方陣が再展開する前には絶対に着かせて見せる。とりあえず後2分位で着かせるからそれまでの我慢だ」


「ねぇ、私思ったんだけど。あの扉って私が触れれば消えるんじゃないの? ほら魔法殺しデストロイヤーの能力で」


「無理だ」


確かにそれは1番始めに考え付いた案だったのだが、多くの点で壁にぶつかる。

そもそも魔方陣が展開している場所まで、まなかをどうやって運ぶのか? 転移魔法をキャンセルしてしまう以上、人間大砲の様に打ち出すしか無い様に思えたがそれだとまなかが物理的に死ぬ。いや、本当に。

そして仮にその問題が解決したとして、魔族達が放出されている扉にまなかが近づいて無事に扉を破壊出来るかと言う問題も出て来る。

もし仮に上位の魔族が出てきたら、それこそ体術だけでまなかは圧倒されてしまう。向こうの世界に居たまなかがさっきみたいに勝てたのはほぼまぐれと言っても良い。そもそも自分の命を犠牲に術式を発動させようとしたんだ。抵抗すらしてなかったのはその為だろう。

そして何より、この騒動を引き起こしたヤツを見つけなければいけない。今回この騒動を止められたとしても、また次に同じ事をやられる可能性は高いから。


「あっそ……。ねぇ、ナルフィアが言ってた事だけど……。何、アンタみんなの事好きなの?」


「アイツ等は真っ向から俺に好意を寄せてくれていた。それを俺は勘違いだって思って気付かない振りをしていたんだ」


「だからってこんな時に告白? バッカじゃないの!?」


「いや、ある意味今だからこそだ。俺も少ししか聞いてないけど……多分、戦争になるはずだ。殺し合いが今から行われると思う。こればっかりは避けて通れない」


「アンタ彼女達が死ぬとでも思ってんの?」


「んなわけあるか。コレは俺の中でのけじめだ。もし上位種が出て来た時には嫌でも魔法喰らいエンペルゲレトを使わなくちゃいけない。でもアイツらを信用しきってない俺が使えるかどうか。それに……」


「それになんなのよ?」


言霊と言うのは偉大だ。口にすればその通りになってしまうと言われているし、実際精神的にも来る。

それにフラグをたてるには絶好の機会でもあるんだよな、これが。

だけどその事を言う事で逆にそのフラグを折りに行く。俺はこんな所では止まっていられない。ゆっくりとまなかへと視線を合わせる。そして言葉を紡ぐ。


「今度あの力を使ったら、次こそ俺は戻って来れなくなるかも知れない」



◇◆◇◆◇



「何よ、あれ……?」


最初に気付いたのはティアだった。後方支援や大きな魔法を使う彼女が1番魔力の察知に長けていたと言うだけなのだが。

1年生徒会のメンバーはその言葉につられ、会議を中断して全員が外を見て絶句する。そこには普段の魔方陣とは比べ物にならない程大きな魔方陣が展開されていた。そしてそこから莫大な量の魔力が漏れている事位、ここに居る者達なら誰でも分かった。


「取り合えず状況確認を優先しよう。ヨミ君、ヤスラ先生に連絡を」


「もうさっきからしてはいますが、全くの応答無し。携帯って意味分かってますかね、彼女」


「仕方ないわね。本当ならイツキ達にも連絡したいけど、こんな状況。まずは内部での連携が必要だと思うの」


そう言いながら自分の服を正し、ゆっくりと自分の杖へと手を伸ばす。

万が一の為にストックされている魔法の中から派手に音や光の出る、雷の魔法を選択して術式を頭の中で解凍する。

それと同時並行で補助魔法の術式を構築、範囲は学園全体、そして発動。

ティアはその魔法を、自らの遅延魔法を合図として発動する。

雷の魔法で魔方陣に攻撃を与えてみるものの効果は皆無。内心分かってはいた事だ。しかし正体が分からない以上、それは恐怖を生み出す種にもなりえる。

だから彼女だけでは対処しきれない。学園全体に拡散魔法が展開されたのを確認して、ティアは大きな声で叫ぶ。


「学園に居る教師、及び生徒諸君に通達します。現在上空に正体不明の大規模転移魔方陣が展開中。授業は即刻中止。各自戦闘態勢に入ってください」


「おいおい、戦闘態勢って……。もし違っとったらエライ事になるで? えぇのか、ティスティア嬢?」


「だったらアンタ、あそこまで行って見て来る? もしアレがただのレクリエーションなら、私は実行したヤツを火あぶりにしても良いわよ?」


キヨルも、いやここにいる全員がしっかりと感じ取っていた。上空に浮かぶ転移魔方陣から漏れ出す禍々しい魔力を。

そもそも転移魔方陣などはかなり上級の魔法使いしか使う事が出来ず、以前イツキ達が転移魔法を電車に使った時にも言われていたが一般人が使うにはかなりの額を使って札を買わなければならない。

だからどちらに転ぼうとも対処できるように、いや最悪の事態を引き起こさないようにする為の一手を彼女は打ったのだ。

流石は魔術学園。すぐさま大勢の生徒が自らの武器を持ちながら外へと出てくる。

そしてそれと時を同じくして門から滲み出る禍々しい魔力が一気に爆ぜた。ゆっくりと門が開き、そしてその中からはおびただしい量の魔族、魔族、魔族。

下級が一斉に飛び出した後に中級、そして上級魔族の姿も少なからず見受けられる。その数は数千体。そして転移魔法によってその数は更に増えていく。対してこちらの軍勢は教師達を合わせたとしても5千を超えない。しかもこの時期は5・6年生達が多くで払っているために、1番の戦力に期待が持てない。

そもそも1年、2年生などはまだまだ基礎を習得する時期であり本格的な魔法を習得するのが3年になってから。

なので戦力として期待できるのは1年、2年のS~Bクラスと3年、4年、そして教師陣。つまりは本当の意味での戦力は更に半分となってしまうわけだ。


「どうする、ティア君。出て来いと言った手前、まだ戦闘に慣れていない者達までも援護しながら戦わなくてはいけないぞ?」


「それでもよ、アレは転移魔法を使っているから私達と比べて圧倒的に戦力がある。手数はあるほうがましでしょ?」


「しかしだなぁ」


「残ってる5、6年生と1、2年生をある程度の形で密集させる。下級生は上級生の魔法の援護役って事で出てもらわなければ困るわ。ヨミ、今のを簡単に纏めるから2~6年の生徒会に渡してきて頂戴。私達だけの決定ではダメでしょうから」


「分かりました、お嬢様」


ティアが話し終えて直ぐにヨミはデバイスから空間投射型の画面を取り出して、幾つもの操作を同時並行で行っていく。そしてすぐさまその場から消え、生徒会へと資料と共に説明をしにいった。

大方皆が居る場所での通信は控えた方がいいと思ったのだろう。

それを横目にティアは考える。どう考えても現時点で自分達は圧倒的に不利だ。しかも今回は自分達だけではない。この学園全員の命が掛かっている。失敗は許されない。1つでも選択を誤ればその時点で多くの命が、自分さえも死んでしまうかもしれない。

自分の身は自分で護れ、各自で戦えと言ってしまうのは簡単な事である。しかしそれは彼女のプライドが、性格が、立場が許さない。仮にもSクラスであり生徒会。自分が生徒達を護る事はあっても、見放すなど全く選択肢にあるはずがない。


「や、今年の1年生は優秀で俺達2年も鼻が高いよ」


「流石イツ君率いる生徒会だね。お姉さんがご褒美をあげよう。アメちゃんだよ、みんな甘いもので糖分を取ろー」


「イオリ先輩、セシリア先ひゃい!?」


スットライクとニヤニヤ笑いながら近寄ってきたのはイオリとセシリアであった。

2人とも武器は既に出しており、この事態を把握しているのか幾つかの指示を同時に出しているのが見て取れる。


「あら、お2人だけですの? シェイル先輩とアゼル先輩は?」


「別行動なんだよね、2人と。たまたまセシリアと一緒に居た時にこの事態にあっただけだし。まぁ、2人なら何処かで自分達のする事をしているだろうさ。――どんな事だろうと、ね」


「大丈夫よん、私達の王子様が今急いでこっちに向かって来てるから」


その言葉を聞いて、皆の動きが一端止まってしまう。当たり前だ、彼と会ったのはいつが最後であろうか?

一ヶ月。言うだけなら容易いが、本人達が感じるそれは言う程短くは無いのは想像に難くない。

緊急事態だと言うのに、急がなければならないのに、その事で頭がいっぱいになってしまう。


「さて、良い報告聞いたといって安心してはダメだ。彼が来るまでにここが破られたら元も子も無いだろ? やるべき事は、分かっているね?」


「フッ、言われるまでも無いね。私達は彼が来る前にこの事態を治める。それくらいで妥協しようか」


「せ、セイウェンが冗談言ってる……。どういう状況か、まだしっかりと分かってないのに……」


『それは妾から説明しようかの?』


イオリとセシリアの間に突然ウインドが表示され、ナルフィアが自信有りげな声でモニターに映る。成長していない胸と共に。だから声しか分からない。いや、正確に言えば突き出された胸で自信が伺えるのだ。

だが誰も注意しようとはしない、いや出来ない。自信がありそうだから。

流石にこれは2人も予想出来なかったのか、苦笑いをしながらその胸を見ている事しか出来ない。

とりあえず今の所、不都合が起きてないのでスルーしていく事にしたようだ。


『さて、今起きている状況は何処まで把握した?』


「ボク達が確認出来た時には、扉はもう開かれる寸前で……。直ぐに魔族達が襲撃して、今こんな感じ? なのかな」


『そう、だな。あまり時間は無いので手短に話すぞ?』


そう言いながら、ナルフィアは自分で見てきた事を話し始めた。

自分を尾行してきたヤツを倒したらと思ったら、こんな大事になっていた事。しかもそれはこの国全体に発動していたのを、イツキがくい止めて何とか2つに絞った事。

王国も同じ状況であるが、どうにかやっている事からイツキがそちらに向かっている事。


『というわけじゃが、はっきり言って状況は最悪なのじゃが……』


いわばテロである。王都とルビニアのみに扉を限定できたとはいえ、大量の魔族や堕天使を送り込まれて攻撃を受けている時点で何も言うまい。

そこにはこの国を崩壊させようとしている奴らが居て、はっきり言ってこれは非常事態だ。

イツキの判断が間違っていたとは誰も言わない。しかし力を持っているとは言え、まだ学生。国家事情、更には命のやりとりをするには少し早すぎたのでは? そんな事を思ってしまうので、不安である。彼女達もまた護られるべき国民なのであるから。

もしも彼女達が戦いたくないと言えば、それを拒む事は出来なくなる。だがそうすればまた多くの国民が……。

頼みたいのだが頼みづらい。そんな雰囲気が漂っている、胸から。


「それで姫様、私達はこちらを片付けたらそっちに援軍として行けば良いんですね? 逆にそちらが早く終われば、私達のほうへ援軍を派遣していただきますが」


『……不満を抱いておらぬのか? はっきり言えば、妾達がもっとしっかりしていれば防げたかもしれんのだぞ?』


「そないな事言い出したら切り無いやろ、姫様や。いつまでも結果にウジウジしとらんで、今後の対策をさっさと考える方がなんぼもましや。せやろ、ティスティア嬢?」


「そうね、アンタの言う通りよ。――今まで居たの気付かなかったけど」


最後の一言、ティアにとってはひっそりと言ったのだろうがキヨルには聞こえてしまっていてゆっくりとひざから崩れ落ちたのは秘密だ。

しかしながらナルフィアの心配は、彼女達にとっては既に考えにも無かった事であった。

いや、彼女達だけで無くこの学園の大半の生徒は同じだろう。全てと言えないのは口惜しいが、それでも多くの生徒が戦う意思を見せているだけでナルフィアは顔を綻ばせた。見えないが。


「お嬢様」


「あっ、ヨミ。もう終わったの?」


「はい、主要な所には。後は各々が伝達していくと思いましたので。まだお話中でしたか?」


「いえ、もういいわ。姫様、というわけで私達は私達の戦いをしていきます」


『――宜しく頼む。あっ』


「どうかしました?」


『いやな、お前達とイツキが会うのが楽しみでな。無事にこれを乗り切った暁には、また城に招待しよう』


「えっ? よく分かりませんが、一応期待してます。それでは」



最後まで胸をズームされていた事にも気付かずに会話を終えたナルフィアの顔は満足そうであった。


◆◇◆◇◆◇



「おいおい、何の冗談だ?」


「説明などする必要は無いだろ? いや、君達は大きな誤解をしていたから必要あるのか。どちらにしても僕としてはお前を殺してしまえばいいのだから、関係ないのだがな」


ルビニアまで後もう一歩。そんな時に俺達の目の前に現れ、あまつさえ魔法で攻撃してきたのは意外な人物だった。

はっきり言って俺達はずっとマノヒ達が何か怪しいと思ってたし、実際証拠になるような出来事もトーナメントで見ている。だから信じられない。なんでコイツが今この場所でこんな事をしているのかが。


「イツキ、コイツ……誰?」


「ソレが噂の……。まぁ僕にはただのひ弱な女の子にしか見えないけどな」


「おいおい、大丈夫なのかよ? 女だぜ、女。お前、テンパって喋れなくなったりしないのかよ」


「アレは演技さ、半分は。確かに女は苦手だ。だけどオーバーリアクションの方が印象に残ると思ってやってた事だ。最も、お前が居るせいであの計画は全部水の泡さ。ナフィー家を始めとするこの国の貴族達を掌握するというね」


「それは残念だったな。一応聞くが、同じ部屋のよしみとしてここを通してはくれないか?」


「出来ない、と言ったら?」


「だったら倒すしかないよな、クロッド!!」


学園に向かう前。まだしっかりとはつかめていない。

だが確かな事は、コイツは俺の敵だって事。

まだ分からない事が、この先も俺を待っているのか? そう思いながら、剣を握り俺は一歩踏み出した。

ただいま、帰って来たよフラグを回収しつつ折りまくって!!


詳しい事は活動報告に記載済みなので、そちらを見てくれればと。

それでは次回まで。

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