第58話 護られると言う事
「ヤツはおかしな魔法が使えない!! 俺達が気を引いている隙に魔法を放てェ!!」
突っ込んで来た男の1人がそう叫ぶ。後ろには2人残して、残りの3人で接近戦か。確かに悪くない、いや俺が危ないのか? 魔法は使えたとしても、接近戦に集中しながらだと上級魔法を使うのも至難の業だ。
だけど!!
「魔法の使えない者が、それでも魔導師に立ち向かうために造られた剣だって言ったはずだ」
「何をっ!!」
ガキンッと金属のぶつかり合う音が辺りに響き渡る。しかし呑気に刃を重ねている時間など無い。直ぐに力を入れて跳ね返し、次に来る剣へと剣筋を合わせる。
欲を言えばもう一振り剣が欲しい。今もギリギリ反応できているのだが、気を抜けば間違いなく斬られる。これが本物。今までも経験してきた、遊びや訓練では無い命のやり取り。
「お前は人を斬った事が無いから出来ねぇよなぁ。避けて相手を無効化する事しか」
「だからお前の敗因はそこさ。残念だったな、坊や」
「くっ!!『火炎よ!!』」
とっさに魔力をつぎ込んで大きな火を出して、地面へと叩きつける。かつ炎で幻影をつくって、俺はその場を逃れる。
魔術を使われたらたまったもんじゃねぇ
(主よ)
(分かってる)
ガンドロフが言いたい事は分かってる。この剣はただの鋼じゃない。魔法を殺す為の剣。ただ斬るんじゃない、喰らうんだ。俺の能力と同じ様に。
「なっ!? お前、向こうで戦っていたはずじゃ!?」
「今更気付いても遅ぇよ!!」
基本属性なら、この剣で斬れないモノは無い。
驚いた方も慌てて魔法を唱え始めるが、それより先に奥に居たヤツの詠唱が終わる。しかしやはり基本属性。上級属性である光や闇を平気でみんな使うから、感覚が麻痺するがある意味嬉しい誤算だ。この感覚は何度も味わっているが、やっぱり俺らが異質である事を改めて実感させられる。
でもそれが勝利へと繋がるなら――
「断ち切れ、飛燕」
剣に告げ、鞘から飛燕を抜き去る。途端、剣に呪文が描かれうっすらと光りだす。おそらく魔法が発動しているのだろうが、魔力は微々たりとも吸収されない。それはこの剣を魔法が使えない者が使う事を前提に造られているからだ。
俺の目の前に来た雷の塊が瞬時にぶった斬られ、後ろで消える前に剣へと吸い込まれていく。
そして剣に走り出す雷。
「魔法喰らいは使えなくなったはずじゃ!?」
「言ってろっ! 走れ、雷電!!」
ただ吸収するだけでは終わらない。特殊な魔法石、霊招石を使っているこの剣は取り込んだ属性によってあらゆる効果を引き出す。
例えば雷。これは剣、鋼の形状が解け変わりに剣筋が広範囲まで延びる。いわば鞭のように変化する
「化け物がァ!!」
どうやら幻影と戦っていた3人も、俺の方に気付いたらしくそのまま剣を振りかぶって斬りつけようとしてくる。だけど遅い。いや、俺の剣がいつもより早く対応できるから余計に余裕があるだけかもしれない。
「化け物でも良いさ。お前達みたいな奴らから、大切な2人を護れるなら」
(想いの強さは力の、魔法の強さになるぞ。主ッ!!)
「クサいセリフしか言えないガキがァ!!」
接近してきた3人の手元目掛けて、飛燕を振るう。具体的に何処に当たらなくてはならないという事は無い。剣を握る腕に当たればそれで良い。後は電撃によって腕が痺れ、剣を握る力を失い、そして剣を離す。
「ガァアアアアア!!」
まず踏み込んできた1人目の腕に剣をしならせて当てに行く。剣だと思っていたモノが突然鞭の様に動いてくるのだ。避けられるはずなど無い。
バチッと鋭い音を立て、腕に痣を残しながら男はその痛みにうずくまる。失神はしてない。だがこの戦闘の中で利き手で剣を持つ事は叶わない
「くらえっ!!」
振りかぶった剣で俺を捉える。瞬間、俺は鞭の状態から剣へと戻しそのままその剣を受け止める。
しかしただの剣では無い。電撃を帯びた、雷の剣。
「何も斬るだけが戦いじゃないんだよ」
「喋ってる余裕なんて――」
押し返そうと、男が力を入れた瞬間に俺は魔力を剣へと、そして天へと注ぐ。剣から放電していた雷が魔力となって再び上空へ集まり1つの魔方陣を形成していた。
『降り注げ 流星の雷槍』
そして耳鳴りがするほど鋭い音と共に、俺の目の前の男は雷に包まれた。視界はほとんど真っ白になり、こちらに男が倒れこむ。
真っ黒焦げになっては居るものの、電撃のダメージよりも魔力ダメージの蓄積による昏倒の為別に死ぬ事は無い。だけど3日位は目を覚まさないだろうな。
「ば、化け物だ……」
地面が抉られるほどの電撃を目の当たりにして、最後の男は足がすくんでいる。後ろの奴らも詠唱を止めている。
ぶっちゃけあれはそこまで威力は高くないんだけど、それよりも重要なのは見た目。自分達と圧倒的な差を見せ付ける事で相手が取る行動は2つ。1つは今のように実力差を見て絶望し、戦意を喪失する。
「黙って寝てろよ、いい加減さ」
相手の背後に回りこみ、そのまま剣の柄を当てた後一気に魔力を流し込む。それによって魔力を体の中へと過剰に入れた事によって体が酔って意識を失う。一応ついでに残りの電撃も流し込んでおくけど
「さてっと」
振り返りながら普通の剣に戻った飛燕を魔導師2人に突きつける。1人はビクリと震えながらこちらを見て恐怖の表情を浮かべている。コイツはもう戦う意思を持ってないよな
だけどもう1人は……
「下手な技放っても無駄だぞ? 飛燕で喰らえるし、そんなの相殺出来るからな」
「フン。確かにお前に対しての攻撃は無理そうだな。1つの命令として、『イツキを連れて来い。無理なら殺しても構わん。』と言われていたのだが」
杖を構えなおしながら、男は爆発的に魔力を高める。
舌打ちをしながら、俺はヤツとの距離をつめようとしたが――
「侮っていた。こちらもかなりの実力者を5人も連れてきたのに。今度は質だけでなく量を100倍位にした方が良いか」
「喋ってる暇があるなんてなぁ!!」
「やはりお前は場数を踏んでない。それが命取りだ」
男が横を見た瞬間、恐怖を顔に浮かべていたはずのもう1人がニヤリと笑い杖を構える。地面には魔方陣が展開され、そして俺が一閃する前に転移を終える。
俺の一太刀は空振りに終わるが、急いで体の体勢を立て直す。そしてそのままもう1人を斬りつける。肩から腹にかけての一閃で血しぶきが舞い踊る。そして次に氷によって傷口を冷凍させる。
これなら捕まった後で治癒する時も何とかなるはず。
「何処行きやがった!?」
それよりも転移魔法で逃げた男を目視で捜す。
アレだけの莫大な魔力を解放していたからには、何か一発ぶちかますつもりだろう。だけど何処へ……!?
「イツキィ!!」
呼ばれてとっさにまなかの方へと向き直る。100m位離れた所にいたはずの2人の上空に、例の男が浮かんでいる。しかもご丁寧に魔方陣を展開させてだ。
ナルフィアの方を見るが、余裕そうな顔をしているだけで何も対抗策を講じようとはしない。おいおい、王女に何かあったら俺に色々来る事分かってんのか!?
「フッ、今更気付いても遅い」
「遅いのはお前だ!!」
魔力を足に込め、そのまま地面を蹴ろうとする。しかし蹴った瞬間俺は前に進むのではなく倒れこむ。何かに引っ張られた様な感覚と共に。
「だから言っただろ? 遅いと」
見ると何重にも重ねて束縛魔法が掛けられている。普通なら数秒掛ければ破壊出来るのだが、その数秒が命取りだ。上級魔法を発動されたら、2人を無傷で護りきれる保障が無い。
「くっそぉおおお!!」
思い切り剣を突き刺し、その魔法を破壊しようとするが時間が……。
魔法が放たれる瞬間が、直前に迫っていた。
◇◆◇◆◇
「にゃっはは、久しぶり? そんな事無いかな、ティアちゃん」
「前回ヤスラ先生に特訓を命じられた1ヶ月に比べれば、短いだろうに」
「そんな事がありまして? それよりイツキさんは何処ですか? もちろん生徒会の会議なのですから、会長たる彼も来ておられるのですよね!?」
「なぁ、何でワイは呼ばれとらんかったんや? アレか。いじめられとんのか。番号交換してたのに、先生からも説明うけへんかったで?」
うるさいわね、このメンバーは……。前はアイリが騒いでいるだけだったのに、そこにシルビアとキヨルが入って余計にうるさくなってるわ。
ほらっ、私の紅茶を持っている右手が震えだしてるし。カタカタ音を立ててちょっとずつこぼれてるわ。ヨミ、そんな不安そうな顔をしなくてもここにイツキは居ない。最悪魔法で病院送りにしても大丈夫よ
「そんなどうでも良い話よりも、ちゃんとやってきたんでしょうね?」
「ちなみにお嬢様と2年生徒会からの提供資料はこちらになります」
ドサッと横に控えていたヨミが全員分の資料をわざわざ紙で用意してくれた。データでもよかったのだけど、どれだけやったかを直ぐに分かるのはやっぱり紙だと思ってね。
それを見て、4人は少し文句を言いながらも何だかんだで自分達が調べてきたモノを取り出し始める。
「ヤスラ先生は他の用事があるとかで朝から居ないわ。そして生徒会長のイツキはまだナルフィア王女の護衛で帰ってきてない」
「だったら帰りますわ。イツキさんが居ないなら、ここに来た意味なんてありませんの」
きっぱりとシルビアは言い切り、踵を返して扉から出て行こうとする。キヨルだけは慌てた表情で止めなくて良いのかとこちらに視線を投げかけるが、私は余裕の表情で口を開く。
「イツキに言いつけるわよ」
ビクンと大きくのけぞり、ゆっくりとこちらに向きかえるシルビア。その不安な顔を見て、私は余計に笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「大体アンタは勘違いしているわよ。イツキがもし帰ってきた時に、調査が進んでいなかったら失望されるわよ、アンタ」
「うぐぐ」
「それにもししっかりと調査していたら、イツキ喜んでお礼とかしてくれるんじゃないのかしらね?」
それは私自身も思っていたことだ。だからこそこの3日間はずっと調べ物をしてきた。私が分担された事を、誰にも負けない位に。
2年生徒会の資料も分かりやすくまとめ直したし。
「ふ、ふん。別にティスティアに乗せられてやるわけじゃありませんからね。私はイツキさんの為にやるのですから!!」
「やはり素直じゃないのだな、シルビア殿は」
「ボク達みたいに素直になっちゃいなよー」
「アナタ達と違って、私は乙女ですのっ!!」
また騒がしくなったがこれでいい。
イツキも戦っているのだ。だから私も戦おう。ここで、彼の帰りを待ちながら。
◇◆◇◆◇
「束縛魔法じゃのぅ。これではイツキがこっちに来るのは本当にぎりぎりか」
余裕の笑みを浮かべながら、ナルフィアはそう呟く。しかしその横の私はかなり不安な顔で目の前の光景を見守る。
私にとって戦闘と言うものは生まれて初めての事だ。先程までの戦いを見ていれば分かるだろう。本当に命のやり取りをしている事に。イツキは幸い誰も殺さなかったが、殺していても、殺されていてもおかしくない状況に立っているのは歴然としている。
足が震える。死にたくないという願望が心の底から湧き上がる。
「最悪相殺すればよいのじゃろ? 力加減を間違えなければよいのじゃが……」
生き残るにはどうすればいい? 護られるばっかりか? いや、違う。イツキ達に護られて、この先も荷物として着いていくのか?
護られているばっかりじゃ嫌だ。私だって、ナルフィアを、王女を護りたい。自分の力で道を造りたい!!
「ねぇ、ナルフィア?」
私にはこの世界で主力となる力を持っては居ない。でもその力を壊す事なら出来る。それに魔法じゃなくても武器になるものを、私は持っているんだからっ!!
「あの変な男の近くに足場って造れる?」
一瞬だけ目を丸くして驚いた表情を見せるナルフィアだったが、私の考えを見抜いたのか再びあの不敵な笑みを浮かべる。
大丈夫、なんたってあのイツキが出来てるんだから。私に出来ないわけ無いじゃない
「大丈夫じゃ。でも良いのか? 別にこれからも『護って貰う』と言う選択肢はあるのじゃぞ?」
「私負けず嫌いっぽくて。それにイツキばっかカッコイイ所見せられると、腹立たしいの」
「ん。なら行って来い!!」
その言葉に背中を押されるようにして、私は地面を思い切り蹴り飛ばす。
あっちに居た時には感じなかった力が、足を駆け抜けていく。魔力……じゃないよね。私には無いって言ってたし。まぁ今はいっか
「なっ!? 小娘が何をしに!?」
「何ってアンタを倒す為に決まってんでしょ!!」
大きくて変な模様、確か魔方陣だっけ? から何か良く分からないモノが出されそうになっている所を見ると結構ヤバイよね?
確か私にはこの魔法とか言うのを破壊する力、『魔法殺し』があるんだ。だから恐れるな、進め!!
「チッ!! まずはお前から死ね!!」
大きな炎の塊が、こっちに向かって放たれる。チラリとナルフィアを見たら、眼前に踏み台の様なモノが現れる。
ジャストタイミング!!
「魔法を破壊すると言っても、魔法によって作られたモノの定義は曖昧じゃ。この場合は無機物を転移させただけだから、多分大丈夫なはずじゃ。思い切り踏み込め!!」
よくわかんないけど、使えるってことだよね?
んじゃ、右足で踏み込んで!!
「まずはこの炎を消すっ!!」
踏み込んだ右足で炎に向かって蹴りを入れる。熱を感じるのは当たるまで。当たった瞬間何かの模様が足から出てきて、甲高い音と共に炎が散っていく。そして相手の魔方陣も。
「なっ!?」
男とすれ違う瞬間、彼は驚愕の目で私を見ていた。でもアンタが受けるのは、かなり痛い罰だよ!!
私とナルフィア、ついでにイツキを狙った分!!
「ナルフィア!!」
「分かっておる!!」
先程踏み込んだ踏み台が、私の目の前に再び現れる。
それを再び蹴り、私は通り過ぎた男の背後へと回り込む。そして更に右足で死角からの蹴りを――
「廻し蹴り!!」
浮いていたはずの男の首元へクリーンヒットし、そのまま甲高い音と共に男は落ちていく。
その下にやっときたイツキにキャッチされるのを見て、私も同じ様に重力に身を任せる。やったんだと言う感触と共に
廻し蹴りの名前はテコンドーから貰いました、どうも。
蹴り技に関しては、他の格闘技からも名前を取っていきたいと思います。それかオリジナル?
まなかの蹴りの凄さは、元の世界で既に証明済み(0話参照)
何気に伏線でした!! ゴメンナサイウソデス。
さて、後は魔法喰らいの事をどうにかしたら進展させる予定です。シリアス方向に。恋愛も少しは発展するといいなぁ……。
そう言えばまなかの魔法殺しは、魔法で作ったモノから治癒魔法まで全て無効化しますのでご注意を。
んじゃ、また次回!!