第53話 任命? 襲撃!
2章、生徒会編開幕ですっ!!
2年生徒会メンバーの戦闘から数日、完全に魔力や体に残っていたダメージを回復した俺達はとある招待状を受けていた。
そう、火を象徴する国フレイス。その国の王であるフレイス・ビル・ガインからの、生徒会一同を任命する儀式に。そもそも何故国王たる彼が任命しなくてはならないのか? それはルビニア学園自体が、国の魔導師を育成する場所であるからだ。その中でもSクラスは飛びぬけて能力が高い。そして生徒会はSクラスの中でも更に能力が高いモノ達が集まっている。つまりは卒業後の自分の補佐や国の重要職に着くのが当たり前。だから一国の王が任命式なんてものを大々的にやるそうな。
これはフレイスだけでなく、魔法学園のある7国全てが行っているらしい。ある意味自分達の国の力を見せ付けている様にも見えるのだが。
んで今回は俺達だけに用が有るらしいので、まなかとヤスラ先生は学園待機。万一に備えてな。
だから今この国の紋章が入っている車に乗っているのは、俺・ティア・ヨミ・セイウェン・アイリの紅メンバーとシルビア・キヨルを合わせた1年生徒会メンバーだ。
「国王様に会うのも久しぶりね? いつが最後だったかしら?」
「おそらく娘様、つまり王女で在らせられるナルフィア様のお誕生日会の時が最後ではありませんか?」
「そうですわね。あの時のティスティアも今と同じで胸が小さく」
「すぐに変わるわけ無いでしょッ!!」
セレブな話がいきなりレベルの低い所まで落ちたな、オイ。それに前からずっと感じてたんだけど、絶対にティアとシルビアを一緒にするべきでは無かったと思う。信頼が出来てこそ仲間と言うモノは成立する。しかし彼女達は互いにいがみ合い、信頼する事なんて無いと思う。せめて何か共通点が有れば良いんだよ、2人が結束する何かが
「ねぇねぇ、美乳と巨乳だったらイツキはどっちが好き?」
「アイリ君、そんな何処からか分かりにくいネタを持ってくるのは止めた方が良い。置いてきぼりになった様な感覚が凄いぞ?」
こちらの2人は言う事は無いだろう。いや、性格に関しては色々言いたいけど。
後から入ってきた? 2人も歓迎してくれているし、揉め事を起こすなんて事は無いし。
「なぁ、イツキ。ワイの居場所が無い様に思われるんやけど、どういう事や?」
「多分そう言う事だろ。大人しく乗ってろ」
そしてキヨルは何とも言えない残念なポジションに収まっていた。ヨミからは置物認定を早々と受けて以来、ティアは雑用係、セイウェンとアイリは一応生徒会の仲間と言う認識をしては居るものの……。そしてシルビアは良く分からないが、前のチームの延長線と考えているのだろう。
とにかくアイツが望んでいるハーレムは作れないと思う。ここでは。
「ほらっ、見えてきましてよイツキさん。アレがフレイス国のお城ですわ」
そう言われて、俺達は城の方を眺める。やはり国の王が住み、そしてその国の象徴とも言える建物だ。立派と言う言葉だけで片付けられるモノではない。フレイスの紋章が入った旗は、優雅に揺れている。もしここであの城に広範囲の魔法をぶつけたとしよう。その攻撃はおそらく城に触れる事すら許されず、霧散してしまうだろう。これが各国の城に掛けられて居る絶対防壁の力らしい。先程聞いたのだが、各国にはそれぞれ代表する属性があるのは知っての通りだ。
王族は代々その属性の最上級魔法、言わば秘術を会得する事が出来る。これは俺達が同じ様に呪文を唱えてもダメらしい。王族の血が発動条件になっている。
そしてその中に絶対防壁も含まれているらしいのだ。
「王族の人に頼んだら、その魔法見せて貰えるかな? 俺、1回その――」
魔法を見せて貰いたい。そう続けようとした時だった。全員が微弱な魔力を感じる。走っている車だが、無理やりドアを開けてそのまま体を投げ出す。
(ガンドロフッ!!)
(承知!!)
俺は瞬時にガンドロフから日本刀を取り出す。それと同じタイミングで各々が武器を展開する。それと時を同じくして、先程まで乗っていた車に魔法が集中する。そして爆破。つまりはイツキ達生徒会は襲撃を受けたのだ。
これが1年生徒会、後の新生紅メンバーの初めての戦闘であった。
◇◆◇◆◇
イツキ達が襲撃を受ける少し前。フレイス国の王、フレイス・ビル・ガインとその后であるアリッサの元に1人の兵士が走って来ていた。
「ほ、報告致しますっ!!」
「どうした、そんなに慌てて。あぁ、例の生徒会が到着したのか? だったらそこまで慌てんでも、ゆっくりここまで通せばいいだろうが?」
豪快に笑いながらガインはそう告げる。広い城なのだ、別に転移魔法を使う訳でも無いから時間は幾分とあるはずだ。だから慌てて走ってきた兵士の行動を笑った。
しかしアリッサは違った。
「どうしたのです? 報告しなさい」
「はっ、先程ナルフィア様が親衛隊と兵士の計100名を連れて城の外へと出られました。そしてその目的はおそらく――生徒会に対しての襲撃」
その瞬間、2人ともは顔を見合わせて――笑い出した。兵士はその光景を見て走りつかれた頭をフルに回転させる。しかし答えは変わらない。おかしいと。
仮にもルビニア学園から来た大切な客人だ。王女だからといって襲撃なんてしたら、色々な問題になりかねない。それは2人も分かっているはずだ。しかし笑っている。
「まぁ良いであろう。ナルフィアにはそろそろ世界の広さを知って貰わねばならないからなぁ。自分の思い通りになんでも行かないと言う事を」
「し、しかしっ!? もし仮に生徒会の皆様に何かあったらどうするのですか!?」
その言葉は意味を成さない。もし仮になどと言った言葉は、どんな時にも適用される。だから好きではない。しかしそのもしを考えても、ガインは余裕な表情を崩さなかった。
「彼らはここ10年で1番のチームかも知れん。もしかしたら去年を上回る程の、な」
だから心配は要らない。じゃじゃ馬娘の行動をゆっくり見ているとしよう。
◇◆◇◆
「冗談、では無いようですわね?」
シルビアが状況を確認しながら呟く。手前には先程乗っていた車が火を上げながら大破している。そして目の前にはフレイス王国の紋章が入った武器を手に取り、戦闘服に身を包んだ者達がおよそ100人。対するこちらは7人。圧倒的に数の差が生まれている。
「どういう事か説明して貰おうか?」
俺は一歩前に出ながら、告げる。しかしその答えを告げるモノは居ない。こういうのは絶対にリーダーが存在しているはずだ。ぶっちゃけあんまり騒ぎを起こすのは嫌なんだけど……。
仕方ない。剣に魔力を込める。怪我をさせないで相手の意識を刈り取る、その一番の方法は――
「魔力による昏倒ッ!!」
そう言った瞬間、後ろにいた皆も各々動き出す。シルビアとキヨルの加入によって紅の戦闘隊形は完成に近づいていた。前衛のイツキ・セイウェン・キヨル・ヨミ、後衛のティア・アイリ・シルビア。いざとなれば、大多数が前衛と後衛を変更可能。つまり状況に応じた戦術が組める。
だが今回は後衛は存在しない。全員が敵へと突っ込む。だからこそ最前線である俺は、握っている剣を横に振るう。瞬間地面の砂を巻き上げながら、かまいたちが彼らを襲う
「にゃっはは~。失礼」
「悪いけどこれは反逆罪じゃないからね?」
「私達は王へ直接問いたださせて貰います。この件についてはッ!!」
先に遠距離組が仕掛ける。跳躍で空中へと飛翔する。接近では無く遠距離で攻撃出来る彼女達は、近距離組が近づくまでの時間稼ぎに徹する事にしたのだ。王道と言えば王道の手。しかし彼女達は、ただ時間稼ぎなどするつもりは毛頭も無かった
「オープンバレット『cinque』」
「応えなさい 天より降りて かの火の粉を消し去らんっ 流星の矢」
2人の声に答える形で、それぞれの武器が展開する。バレットの数は5。つまりは5大元素全てを装填出来ると言う事。もちろん彼女はここで能力を解放するつもりは無いので、バレットを5大元素で埋める。
対してシルビアはトーナメントでは見せなかった術式を使用している。おそらくはボウガン用に彼女が作ったのか、既存のものなのか。しかしその姿は圧巻だった。ボウガンの所に無数の矢がセットされているだけではなく、彼女の近くの空間にも無数の矢が点在しているのだった。
そして
『業火よ かの地より降りし烈火の精 燃え立つモノは全てを消し去る さぁ飲み込め その本流は汝すら飲み込み跡形も残さん 焔陣流火』
ティアの詠唱を合図に、3人の攻撃が降り注ぐ。アイリとシルビアの多方向からの同時攻撃。それすら防ぐのは難しい、いや人数を合わせれば出来るが広範囲に渡る攻撃だ。しかし彼女達はそれすらも囮として使う。
本命はティア。かなりの高温の火炎が円陣を作り、何度も流れてくる。それはある意味地獄絵図で、親衛隊達はすぐさま自分の主と共に回避を試みる。しかし若手陣営は荷が重すぎた。彼らとてルビニア始め各国の魔法学園を卒業した者達ばかりだ。
しかしそれらを圧倒するSクラス、生徒会。
「後輩風情に負けるわけにはッ!!」
そう叫ぶ事で少しでも周りの戦意を向上させようとする。しかしそんな願いは直ぐに崩れ去る
「失礼。皆のヒロイン、ヨミちゃんです」
「なっ!?」
炎の中から現れたのはヨミ。高密度の空気を圧縮、そしてその上で表面から酸素を除く事で自分が燃える事を防いだ。そして中に飛び込んでしまえばそんな心配など無用。はっきり言って邪魔である。だからこそ彼女の双剣へと、風を集中させる。
「先輩なら大人しくお嬢様の魔法で昏倒していてください。それも優しさですよ?」
「くっ、障壁展「遅いッ!!」がぁ!!」
なぎ払う。全てを。そして彼女は的確に進んでいく。風の如く。
すり抜けていった場所には風が吹き、そして何人も倒れていく。しかし全員では無い。
「だから私が後片付けか?」
「いやいや、ワイも居るんやで?」
ヨミが開けた風の穴から、2人が飛び込む。その手には既に武器が握られている。
セイウェンは鳳雨状態となった剣を握り、キヨルは拳にメリケンと炎が付いている。正反対の能力の2人。
「参るッ!!」
先に踏み込んだのはセイウェン。慌てて抵抗しようとする者達の武器を、魔法を、戦意をその全てを凍らせていく。その一振りだけで燃えていたはずの周囲が凍り付いて。身動きが取れなくなった所へすかさず鳳雨が意識を刈り取っていく。
「いやいや、セイウェンちゃん本気出しすぎやって」
「確かお前はアイツらに負けたチームだったな? ならば我らにも勝機はあるっ!!」
そろそろ動こうか、そう思っていた矢先に10人単位に囲まれる。確かに彼が言った事は本当だ。悪いが紅メンバーには戦闘能力は劣っていると思う。若干だぞ、ホントイツキ以外には少しだけだが。
しかしキヨルは小さな声で呟く。俺がアイツ等に及ばないからと言って、お前達が強いと言うわけじゃねぇだろうと。
そして前衛5人の魔法やら武器が一斉にキヨルへとぶつかる。避ける素振りも見せず、全ての攻撃は直撃する。一瞬だが彼らは思っただろう。あっけなかった、自分達は勝ったんだと。しかし次の瞬間おかしい事に気が付く。手ごたえが無いと。
それと同タイミングで後ろの5人が倒れる音が聞こえる。
「熱いよな、だから気付かねぇよな? セイウェンちゃんが突進しながら温度を下げているのと同タイミングで、俺が周りの空気を熱していた事を」
蜃気楼。温度による空気の密度の違いで発生する現象。つまり彼らが攻撃したのはキヨルであってキヨルではない。灼熱が生み出した幻想。
それに囚われている間に、キヨルは後衛5人の後ろに回りこみそのまま意識を刈り取る。これもトーナメントの時には見せなかった技だ。いや、正確には見せられなかった。
「ホント、優秀やないか生徒会顧問。お前達の先生は。俺とシルビアに短期間で的確なアドバイスをしてくれるなんてなぁ」
そう言いながら残りの5人へと突っ込む。彼の体が霞む。先程の戦術を使いながら、キヨルは後方へと叫ぶ
「せやろ、イツキッ!!」
先陣を切ったはずの彼が炎に包まれた場所へと来ていないのには理由があった。それはティア達が攻撃を放った瞬間、親衛隊が離脱していたのを見ていたからだ。
こういった場合に危険を孕む場所から逃げた理由は1つ。主を潰されない為だ。
「さぁて、招いておいて襲撃とはいいご挨拶だよなぁ」
剣を担ぎながらイツキは呟く。数にして6人。奥にフード付きのマントを被ったヤツが居るから、ソイツがリーダーか?
王国の兵士を装って襲撃したのか、あるいは……。
「まぁ、お前達に聞けば少しは教えて貰えるよなぁ!!」
踏み込む。右手に剣を握り、左手は一瞬だけ空にする。魔法喰らいの準備だ。
6人相手なら、電撃を取り込んで速度を上げた方が有効。そう思って手の内に電撃を停滞させる。そして握りつぶして取り込もうとした瞬間――
「ッ!?」
ゾワリと背筋を冷たいものが流れる。決して何かおかしな術にかかった訳では無い。しかしこれは精神かんらくるモノだ。心に深い傷を負ったのと同じ、いわばトラウマ。気にしていなかったはずなのに、またあの時と同じ様な事になったらと思うと怖くて発動出来なくなってやがる
「くそっ!!」
俺はそれを握りつぶすのではなく剣へと押し付ける。魔法付与。超電磁振動を起こさせる。触れたものを全て切り裂く電撃の刃。
それを俺は瞬動を使い、一瞬で切り裂く。4人の武器と防具は粉々に砕け散る。そして電撃に触れた余波で昏倒する。しかし俺は5人を葬るつもりだった。しかし最後の1人だけは斬れなかった。
「若者でも一瞬でもこんな反応を起こせるモノが居るとはなぁ」
だがな、と付け足しながら男はフードを取り己が剣を振りかざす。
「お前はここまでだっ!!」
紅 魔法辞典
流星の矢
術者の武器とその辺りの空間に魔力の矢を停滞させ、自分のタイミングで放てる中級魔法。魔力が多ければ多いだけ停滞させる事が出来、本当に流星の降り注ぐ様に見えるらしい。
属性付与させる事も出来るが、今回はしていない。
使用者:シルビア・フォンレット
焔陣流火
円陣上の火炎が何度も何度も発射される。その効果は多く、酸素濃度の低下や火傷など多くの副作用も起こす事が出来る。
対多数用の魔法だが、周りを火の海にする事もしばしばあるようだが魔力が切れない限り燃え続ける。
使用者:ティスティア・ナフィー
新生紅メンバーの能力を見せつつ、ある程度の伏線を張りました。さて、次回は王女と親衛隊隊長の登場です!!




