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紅の術者  作者: 結城光
第1章・2節 学年別トーナメント編
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第51話 アナタノイナイセカイ

ここに登場してくるキャラクターが誰ぞと言う方は、0話をお読み下さい



「ねぇ、上野さん最近変じゃない?」


「あぁ、それはA組の神宮司――」


「えっ、ウソォ!?」


「マジマジ。同じ組の西条君も――」


バタンッ!!


大きな音が教室に響き渡る。

その音の発生源は上野まなか。正確に言えば、彼女が座っていたイスが倒れた事による音だ。

イツキも指摘していたが、彼女は同姓も異性も友達が少ない。理由は様々だが、こういった態度もその要因の1つだろう。

しかし彼女はそんな事など気にはしない。あの日から、神宮司斎の居なくなってしまったこんな日常に意味なんて見出せるわけ無いのだから。


こころにぽっかりと空いてしまった穴。その穴はあまりにも大きく、あまりにも深すぎた。

保育園時代から、私とアイツは一緒だった。共に両親が居ないという理由から、施設で育ったのだ。今は学校が提供してくれているただ同然の寮で生活している。

だけどアイツは知り合いがアパートの空き部屋を貸してくれてるって言ってたっけ……。もしかしたらあの部屋に、アイツの手がかりがあるかもしれない。

そうだ探しに行こう。イツキは死んだんじゃ無い。消えたんだ・・・・・。だったら何処かに、何処かに生きてるはず。

そうと分かれば直ぐに、今すぐにでも飛び出していこう。

もう何度目か分からない感情で、私はカバンに手を掛けて教室を出ようとする。しかしそこにはいつもとは違った光景があった


「よう、ちょっと付き合ってくれ」


「大輔……?」










●紅の術者

第51話 アナタノイナイセカイ











彼につれてかれて、私は学校の外へと足を運ぶ。

ここ2週間、一切学校に顔を見せなかった大輔。それ故に何故かと問いただしていただろう、イツキが居れば。しかしこんな状況だ、何故彼が居なくなっていたのかおおよそ見当はつく


「結局警察は受け入れてくれなかったな、俺達の証言」


「へっ? あ、あぁ。そうね」


突然話しかけてきたので、驚いてへんな返事をしてしまった。

そう、あの後少年が尋ねてきた時にイツキが居ない事を説明して警察に一緒に付いて来て貰った。相手も当事者だと言う少年とは、当日少し話をしていたらしく半信半疑だが一応話は聞いてくれた。

だが話を聞くのと行動に移すのでは全く異なる。

結局信憑性に欠ける子供・・の意見など、真に受けるほうがどうかしている。それが彼らの出した結論だった。それらしい少年を見かけたら保護する。つまりはこちらからは何もしない。運良く見つけられたらいいですね。そういう事だった。


「この世界は不条理に満ち溢れている」


だからと大輔は言葉を続ける。しかし私の中にその言葉は入ってこない。その代わりに私は自分と彼を重ねてしまった。

私はイツキの居なくなったこの世界を消し去りたい・・・・・・と思った。しかし彼は違った。

確かに彼の心の中に開いた穴は大きすぎた。私と同じ位に。だって今の彼は、いつもイツキの隣で笑っていた少年の面影など残していないのだから。失われた人間を捜し求めるモノ。


「だからこんな世界を破壊してやりたい。アイツを消し去ったこの世界を……ッ!!」


そう言いながら、彼は止まった。

何を……と言い掛けたが、直ぐに大輔の言わんとする意味が分かった。おそらくここが大輔の言っていた付いて来て欲しかった場所なのだろう。

あまり見覚えの無い場所にあるので、相当な距離を歩いて来たはずなのに記憶が無い。いや、そもそも学校を出た後の記憶が曖昧すぎる。直ぐに大輔が話しかけてきたはずなのに……


「よぉ、じいさん約束通り来たぜ?」


大輔が扉を開けながらそう呟く。

おそらく本屋なのだろうが、古本ばかり置いてあって薄暗い雰囲気であまり私の好みになりそうな場所ではない。訳の分からない文字の羅列。海外の古本なのだろうが、何故だか見ていると頭が痛くなってくる。

目を急いで奥に向けると、初老の男性が口元を吊り上げて座っているのが見える。

微笑みでは無い。むしろ何かを見通して、それを語っているかのようだ


「おうおうこれはこれは。可愛い嬢ちゃんじゃのう? どや、おいちゃんと一緒に楽しい事しないか?」


「結構です」


少しだけイラっとしながらも、大輔に視線を飛ばし早く話を続けろと催促する。

おそらくこのまま続けば、私はそのままこのお爺さんをぶっ飛ばしそうだし。いや、冗談抜きで


「で、アンタなら分かるんだろ? イツキに会う方法が」


「なっ――」


私は言葉を失った。大輔が言った言葉が信じられなかったからだ。イツキと会うことが出来る。

そもそもイツキが何処へ行ってしまったか、どうなってしまったかなんて私には分からない。だからこそ探すという方法が取れなかったんだ。


「俺はここ2週間で、色んな所を探し回った。で、結局行き着いたのがここ」


そう言いながら近くにあった本を手に取り、開いてこちらに見せる。日本語でも英語でもない、何かの文字がびっしりと描かれている。

そしてその文字を理解しようとするたびに、頭痛は酷くなっていく。


「アイツは確かに俺達の前から消えた。だからもうアレは俺達の知っているような所の問題じゃねぇんだと思った。この書店に入った時から感じていただろ? 見た事も無い文字の羅列。読もうとすると頭痛を伴う全身の痛み。この世界ではない理なんだ、魔法って奴は」


「魔法?」


「そうそう。嬢ちゃん達の友達も、おそらく魔法って奴で何処かに飛ばされたはずさ」


先程までのいやらしい目つきから一転。真剣な眼差しがこちらを覗き、一瞬だけドキリと鼓動が跳ねる


「だったら日本の何処かに……。もしかして何処か外国!? アイツ英語なんてろくに喋れないのに」


そう言った瞬間、大輔は大きな溜息をしてその後お爺さんは大きな声で笑い出す。

何を笑っているのか分からない。そう言った顔をしていると、お爺さんがゆっくりと説明を始める


「言ったじゃろ? この世界の理じゃないって。嬢ちゃんも本当は理解しているじゃろうに」


「イツキが飛ばされたのはこの世界じゃ無い。何処か別の世界だ」


異世界。別の世界。えーっと、イツキが好きなマンガとかライトノベルに良く出てくる設定だったわね?

ピンク色の髪の毛の魔法使いに、使い魔として召還されたりするアレでしょ?

大丈夫、私だってそのくらい知っているわ。そう知識が無い訳じゃ無いのよ? 


ゆっくりと深呼吸して1度、店の扉の前まで走っていく。一定の呼吸のリズムをつくり、軽くジャンプして1つのリズムへと収束する。

走り出す。この狭い店内を。ある1点を目指して。


3――――2――――1――――0


「うらっしゃァアアアアアアア!!」


「へぶっ!?」


「ほほっ。しましまか」


まなかの必殺技である飛び蹴りが炸裂する。もちろん破壊力は折り紙つきなので、大輔は避けられるはずも無く奥の本棚の方へと吹っ飛び古本の山に埋もれる。

しかしお爺さんの方は、軽々と足を受け止め、まなかのパンツまで覗いている

舌打ちをしながらも、まなかは大輔の方へと歩いていく


「おーーーい、おきろぉーーーー!! イツキ見たいに中二病に目覚めなくてもいいんだぞぉーーー!? もう一発やっとくか? ねぇ、私の一撃もう一度食らっとく?」


「ちょっ――みぎゃっ!? おまっ、やめろって。ほんきだって、へぶっ!? 言ってんだろ。こんな時に冗談なんて、ぐばっ!? 言ってる場合じゃ――」


妄言を言っている大輔に往復ビンタを食らわせて、取り合えず目を覚ますように仕掛ける。

しかしそこへお爺さんが1冊の本を持って、笑って近づいてくる


「よいよい。嬢ちゃんが信じないのも無理は無い。だから説明するよりも実行じゃ。おぬしら、奴の事を考えろ。おい、そこの若造。その『イツキ』とやらの私物は持ってきたな?」


「あ、あぁ。それならここに」


そう言って取り出したのは、アイツの部屋の中にあるマンガの中の1冊だった。

その本を受け取ると、彼は自分の持ってきた本の上に置いて私達を見つめる。


「よし、それじゃあソイツに対する想いを募らせろ。深ければ深いほど、ちゃんとした場所へといけるはずじゃ」


イツキに対する想い? 早く会いたい。自分に正直になりたい。心配かけさせた事を謝らせたい。いっぱい話がしたい。

いや、それよりも取り合えず一発――殴りたいッ!!


「そんじゃ、行って来い。運命の欠片達よ」


そして私達は――消えた・・・



「お主がちゃんとメッセージを残せば……いや、それだと逆に探しに来るか? なんにしても、これで運命を変えて見せろよ? 少年」


ゆっくりと呟きながら、その店は消え去り残ったのは普通の商店街だけだった。



◆◇◆◇◆◇


呼んでいる

アイツが呼んでいる。


俺は暗闇の中に差し込んだ、一筋の光を掴もうと手を伸ばし――


「――ツキッ!! イツキッ!!」


「ティア?」


俺の目の前には涙を流しながら手を握るティアと、それを不安そうに見つめるアイリとセイウェンの顔があった。顔を横にすると、ヨミが奥の方でチラチラとこちらを見ているのが分かる


「イツキィ!!」


「イツキ君!!」


「イツキが目を覚ましたよぉ!!」


「ふんっ、いつまで寝てやがりますか」


各々がいつも通りの反応を見せる。そこが学園の医療施設である事を理解するのに、さして時間は掛からなかった。


「それでは私は2年生の方々に、ごみ――いえ、イツキが目を覚ました事を報告してきます」


「ヨミ、泣いてもいいんだぜ?」


「誰がアナタなどに」


さっさと扉を閉めて、出て行ってしまうヨミ。少しは心配してくれてもいいと思うんだけど、それは叶わぬ夢なのでしょうか?

さてっ、少しだけの現実逃避を終え俺は横で泣いている3人に目を合わせる


「悪い、心配掛けて」


「アンタ無茶ばっかやってんじゃないわよぉ……」


「私は寿命が縮んだでは無いか」


「ボクはこの歳で未亡人になりたくないよ?」


おい、待てよおい。ティアとセイウェンが真面目な事言ってるのにアイリさんは何なのでしょうね?

アレですか? 最近死語になりつつある、KYとか言う奴ですか?


「……取り合えず状況説明を頼む。試合に負けた事は何となく分かるから、そこを省いて」


「う~ん、ちょっち違うかな? イツキ君が考えている事と」


「ヤスラ先生?」


「はい呼ばれて飛び出たヤスラ先生です。一応負けになったけど、それにも理由があるのよイツキ君? まずは試合の事を思い出して頂戴」


試合の事、ねぇ。

確かイオリ先輩の重力魔法に捕まって、それを魔法喰らいエンペルゲレトで吸収した。形勢逆転だと思ったらその時に内側から何かが侵食していって……。

何処か外からの魔法で俺は意識を持っていかれたような気がする。でもだったらどうやって俺は普通に戻ったんだ?


「誰が俺の暴走を止めたんです?」


「その件よ。その件でアナタに会わせたい人が居るの。とりあえず部屋に入ってきて頂戴? 話はその後で良いから」


そう言って扉の向こう側から、誰かを呼び寄せる。

そして俺は目を疑った。ここは地球じゃない。だからお前が居るのはありえない。だって、お前は俺の……


「イツ……キ? イツキなの」


「まなか? 何でお前がここに」


そこに立っていたのは、俺の地球の、幼馴染の上野まなかだったからだ

0話を投稿してから約2年ですかww


あの当初は、第2章でまなか達と会わせるシナリオを考えていたのですがここまで来るのに長くなったので少しシナリオ修正をしました。

でもちゃんと2人の出番があるって言っていましたよね? 気付いてくれた人が1人でも居たら嬉しいですけど。


さて、次回で第一章『学園編』は終了です。

しばしお待ちください

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