第48話 エキシビジョンマッチ
始まる戦い。
それぞれの想いを胸に、選手達は舞台へと足を運ぶ。自らの力を見せる為に
「なぁ、セシリア」
暗い部屋。先程までここには生徒会メンバーが全員居た。全員と言っても4人だけの少数なのだが。
しかし今はアゼルとシェイルが居ない。シェイルにはある事を頼んでいてさっさと部屋を出て行った。アゼルは用事があるといって、シェイルより先に出て行ってしまった。つまりは2人。年頃の男女がこんな密室でとかある人達は言うかも知れない。しかし、そんな雰囲気は微塵も感じさせない程にこの部屋の空気は緊迫していた
「どうしたの?」
「お前は世界の終わりってのを信じるか?」
そう言った瞬間セシリアは一瞬目を丸くし、そして次の瞬間笑い出した
「クフッ、イオリ君ってそういうキャラだっけ?」
誰しもいきなりそんな厨二臭い言葉を投げかけられれば笑ってしまうだろう。当たり前だがこいつはそういったお年なのかと
しかしそんな表情をされるのは分かった上でイオリは質問した。そしてその会話は続く
「俺はな。もう近いと思うんだ。世界の終わりってヤツが」
「ふむふむ。またまたどうして?」
「そういうのを運命って言うんじゃないのか?」
ここまで来ると、誰もが引いてしまいそうな位の発言なのだがセシリアは逆に聞き入った。正確には彼が何を言わんとしているかが、何となく分かってきたのだ
「そういった時。物語の中には勇者や救世主が突然イレギュラーの形で出てくるよな?」
「まぁその世界の人間では立ち向かえないから、外部からのパワーバランスを壊す存在が必要になってくるんじゃないのかしら? 物語をハッピーエンドに向かわせるために」
わざとセシリアは皮肉を交えて言葉を返す。一体彼は何処まで知っているのか? いや、生徒会長という枠を超えて彼は逸脱している。自分も逸脱しているとは思っていたが、それ以上だ。だからこそ彼は――
「争いが起これば必ず裏切りが起こる。君は俺達の味方であり続けるかい?」
「当たり前よ。|救世主(あの子)とアナタ達の味方であり続けるわ。たとえ私が死ぬような事があっても。それが私の覚悟だから」
2人だけの世界。聞こえは良いかも知れないが、もしこの会話の内容を聞いていて、なおかつ理解出来る者が居たら恐怖するだろう。コイツらはなんて会話をしているのだろうかと。
しかしそんな事は気にせず2人は会話している。何故なら理解できる人間など、ここには居ないのだから
「その答えが聞けて嬉しいよ」
「とりあえずは明日のエキシビジョンマッチ。そこでイツ君達の本気を見てから。それからが本当に始まりでしょ?」
「俺の中では、初めて勇者を見たときから始まってたんだけどな? いや、悪魔を見てから始まっていたのかもしれないが……」
●紅の術者
第48話 エキシビジョンマッチ
この国に夏と言う概念は存在するのかと聞けば、答えは曖昧なモノだった。確かに世界広しと言えども、四季がはっきりと分かれている日本は、珍しいと何処かで聞いた記憶もある。
だがあえて言おう。この暑さは……夏のそれに匹敵すると!!
「って感じの回想を入れて逃げてみたけどどうよ?」
「いや、それアンタしか分からないでしょうが。アタシ達も理解しかねる単語で話さないの」
あからさまに面倒な顔をするティア。冷房みたいなものを付けてはいるのだが、結局日光に当たりながらここまで来た事にイラついているらしい。
別に夏とかそういった感じではない。外は別に暑くない。この会場に入った瞬間おかしな熱気に包まれたのだ。
『さぁ、大会もいよいよ大詰め!! 1年の優勝者と2年生徒会のエキシビジョンマッチが開催されるぞ!!』
黄色い声援が飛ぶ中、ティアを含め女性全員があからさまに嫌な顔をしている。それもそのはず。会場の中に、何故かヒーター的なモノが置いてありそこから熱風が吹いているからだ
「イツキ君。今からあの装置を破壊しても?」
「何言ってんだよセイウェン? アレはボクが撃ち抜くんだよ?」
「私がやらせて頂きます。お嬢様の為にも。そして自分自身の為にも」
「いいわよ、ヨミ。私が破壊するから」
四人とも殺気を込めながら、恨めしそうな目で機械を睨む。しかしそんな事はお構いなしに、生徒会メンバーが入場してくる。
「あっつ!? 暑くないかな、ここ?」
「冷房入れようとして間違えているな」
「大丈夫よ、イツ君!! 私、今から破壊するからぁ~~~!!」
「そんな事をしなくてもね」
そう言いながら、笑って指を鳴らすイオリ先輩。その瞬間何かが壊れる音と共に、熱風を出していた機械が止まった。そしてもう一度指を鳴らすと、次は冷たい風が一瞬で会場を吹き抜けていき温度が適温となる
「嫉妬深いからって、この試合にちょっかい出すのは関心しないなぁ」
「えっ?」
「いやいや独り言だよ」
俺達にしか聞こえない声で何かを言った後、声援を送ってくれている生徒達に手を振るイオリ先輩。まぁ設定ミスもあったのだろうけど、やはり会場の中と観客席は隔離されているのか。
観客が怪我してはいけないと言う理由で障壁の様なモノを展開している事は聞いている。だけど係りの人くらい気付いてもいいと思うんだけどなぁ
『さて、役者が全員揃った所でお待ちかねの選手紹介!! まずは皆さんご存知、2年生徒会メンバーからだぁ!!』
そう言いながら、やたらテンションの高いこの声。イオリ先輩の時もそうだったけど、司会ってのはテンションが高くないと出来ないのか?
そりゃあ物凄い低くて選手の士気を下げるのも良くないけど、これは限界突破してるだろう
『さてっ、まず初めは書記と会計の2人だ!!』
「はいは~い。まずは私シェイル・クラリス。武器はトラップ全般。最近の悩みは、期間限定で発売しているお菓子を食べ過ぎる事で~す」
「よっし。私の名前は言わなくても分かるよね? えっ、分からない? セシリア・ジングウジで~す」
バキリと何かが折れた音が聞こえる。主に俺の近くに居る4人と、会場の男性方から。視線で人を殺す事が出来るとするなら、おそらく今の俺は即死状態なんだろうな。
セシリア先輩の苗字ってターラントでしたよね? いつからジングウジに変わったんです? ってか神宮司って聞いた事ある苗字ですねぇー
「冗談冗談。セシリア・ターラント。武器は鎌。皆のハートをサクッと狩っちゃうぞ☆」
そう言いながらあからさまに俺に向かってウインクしてくる。つまりアレですかい。セシリア先輩は、俺の事を殺したいと。路地裏にセシリア先輩応援団を待たせてボコ殴りにさせたいと言う事なんですね、分かります
『なかなか過激なパフォーマンスを見せてもらったァ!! ちなみにこちらが独自に入手した情報によると、1年生であるイツキ選手とセシリア選手はかなり仲が良い様だ!! なんと、「イツ君」とか呼ばれているらしいぞォ!!』
火に油を注げばどうなるか? 答えは簡単だ。当たり前の様に火は大きくなる
「観客席まで上って来い!! クソ野郎ォォォオオオオオオ!!」
「俺達のセシリアを返せェェエエエエエエエエ!!」
「お前なんか、隣のぺったん娘と一緒に居ればいいんだよォ!!」
ティアが杖を構え、更にはヨミが同じように魔方陣を展開させる。そして、思い切り魔法を野次を飛ばしたであろう奴らに向かって放つ。
先程も言ったが、観客には怪我の無いように障壁が張られている。しかし攻撃は障壁に当たり、空気を振動させるほどの威力を出す。その一撃で、怒鳴っていたはずの奴らはシュンと静まり返った
「1年代表のティスティア・ナフィーです。色々と発展途上中なので至らぬ点があるかも知れませんが、以後お見知りおきをッ!! 武器はご覧の通り、杖です」
「ティスティアお嬢様の専属メイドのヨミです。お嬢様を侮辱するなら、お命覚悟で。もちろん私が狩ります。 この短剣で」
2人とも表面上は笑顔を保っているが、目が笑っていない。ある意味1番怖い状態だと言えるだろう
何気に打ち合わせで言われてた、選手紹介を勝手に済ませちゃってるし。2年生徒会からだって言ってたのを理解していたが、胸の事を言われて少し怒ったんですね? 少し。
別にティアの胸は小さく無いって言ってるんだけど。近くに大きいのが居ると、嫌でも小さく見えるんだな
『……は、ハプニングもありましたが4人の選手紹介が終わりました。次は、副会長と1年生から2人ご紹介です!!』
瞬時に台本を書き換えた、ってか書き換えざるを得なかったんだな。不憫だ、司会者さん
「……アゼル・ドウベント。武器はこの本だ。先輩としての面目を保てるよう、善処しよう。よろしく頼む」
再び女子サイドからキャーキャーと黄色い声援が飛び交っていく。イオリ先輩に劣らないくらいの人気があるらしいが、こういう所で分かるな。
俺と違って男子からのブーイング無いし
「ふむっ。私はセイウェン・コウラリス。武器はこの大剣だ。先輩方の胸を借りて、全力で戦っていこうと思う」
「セイウェン、それは硬すぎだよぉ? ボクはアイリ・クラン。武器はこの2丁拳銃。最近のブームは、あるモノの取り合いです。よろしくねっ」
さてっ、何処からツッコメば良いんだ? セイウェンは元からああいった性格だけど、アゼル先輩の後だとキャラ被ってるし。
アイリはアイリで何の取り合いしてんだよ? 笑いながら殺気をセシリア先輩に向けてたし。一応エキシビジョンマッチって事を忘れないようにして欲しいのだが?
『時間が押している? そんなの関係ないぜ!! さて、それではメインの2人。自己紹介してもらいましょうかぁ!?』
そう言うと、何故かイオリ先輩が手招きしている。えっと、俺がそっちに行けば良いんですよね?
とりあえず真ん中まで行くと、イオリ先輩が俺の肩に手を回しながら大きな声で
「皆さんお久しぶりの方から初めましての方からいっぱい居ると思う。とりあえず今日は集まってくれてあありがとう!! 2年生徒会のイオリ・スラトスだ。今日はこの1年のトーナメントを勝ち上がってきた『紅』のメンバーとエキシビジョンマッチをやって行きたいと思う」
完全にイオリ先輩の演説みたいになっているのは気のせいだろうか? しかもさっきもセイウェン、アイリ、アゼル先輩の紹介で騒いでいた観客も静かに聴いている。
これがこの人の持つ魅力なのだろうか?
「正直言って、俺達と戦えるのは彼らしか居ないと思っていた。だからこそ今日の試合は何が起こるか分からない。もしかしたら俺達が負ける事だってある。でも彼らはそれだけ力があるんだ。さぁ、この2ヶ月でどれだけ強くなったのか見せてもらおうじゃないか? 俺達はそれに全力で答えよう!!」
しんっと静まり返る会場。そこで横から小さな声で、「次は君の番だよ、イツキ君」と促される。
こんなに凄い状況を作って、ここで俺に振りますか!? イオリ先輩、アンタ絶対Sだろ。自慢じゃ無いが、俺はこういった演説は苦手だ。ある程度そういった作る内容で話さなければならないから
そう思いながら後ろを振り向くと、何故か笑いながらこっちを見ている4人の姿が見える
「イツキ、ガンバッ!!」
「イツキ君。君はリーダー以前に男の子だろ? だったらカッコ良く決めてきてくれ」
「ゴミ虫からレベルアップするチャンスを無駄にする気か。さっさと試合を始めさて」
「イツキ。アンタは自分自身の言葉で想いに答えなさい。それが私の選んだ、アンタなんだから」
普通に死亡フラグでも立ってるんじゃ無いんですかね? ほらっ、赤毛の彼は回避したらしいですけど俺にこういったのは立てられると困るんですよ。1度死にそうになってるんで
えっ、誰か分からない? だったら気にしなくて良いよ。
「えっと、1年の代表として立たせて貰っています。イツキ・ジングウジです。武器は、えっと……色々です、はい。とりあえず早く戦いたいので手短に済ませます。
正直俺達は、先輩達に勝ちに行きます。その為にこの2ヶ月色々な特訓をしてきましたし、時には過酷な出来事もありました。でも、それを乗り越えて俺達はここに立っています。だったら全力を出して先輩を倒したいです。だってこんな機会は滅多にありませんもん。とりあえず今日の『紅』の目標は、2年生徒会に勝つ事です。絶対に負けません。負けたらヤスラ先生からのお説教が長くなりそうですし」
「要らない事はいわないのっ!!」
「まぁ負けても悔いの無いように、出来れば下克上をと願いながら。応援よろしくおねがいしますっ!!」
再び静寂に会場が包まれる。やっぱり堅苦しかったか? でもこういった場面で思いついた言葉を言っていくと、結局堅苦しい物言いになっちゃうんだよ。
早く司会者進行してくれよぉ!!
と願った矢先、これまでに無い程の歓声が俺達を包み込んだ
『コングラッチュレイショーン!! イオリ選手はいつも通り素晴らしいコメントを、そしてイツキ選手も頼もしい決意表明だったぁ!! これはこの試合、面白くなっていきそうだぁ!! さて、それでは試合開始までのカウントを――』
「良い試合にしよう。イツキ君」
「はいっ。イオリ先輩」
そういって握手をすると、直ぐに自分達のチームの元へと戻っていく。カウントは既に10を切っている
「分かってるな? アイリとティアは後衛。俺とセイウェンが前衛をやる。ヨミは一番槍を頼む」
『了解』
『それでは、3―――2―――1―――試合開始ッ!!』
『風速瞬動』
開始と同時にヨミが加速する。とりあえずさっきの自己紹介を聞いている限りでは、セシリア先輩が前衛のはず。ちゃっかりイオリ先輩は言わなかったけど
それだったらまずは最初こちらから仕掛ける事によって、大体の戦術は見えてくる。作戦はその後だ
「いきますっ」
「人間、つまり俺達には翼は無い。この狭い箱の呪縛から逃れる事は出来ないんだ。ごく一部を除いてね」
そう言った瞬間、イオリ先輩が指を鳴らす。するとヨミの持っていた短剣が、まるで1tでもある大剣のようにクレーターを作りながら地面へと落ちる。
もちろんヨミもその短剣と共に、地面へと這い蹲る
「さぁ、レアスキル持ち同士戦おうじゃないの? イツキ君」
キャラクター紹介を更新しておきました。
一部ネタバレになる事も少し書かせていただきましたので、嫌な方は次回まで見ない事をお勧めします。
とりあえずイオリの発言とか生徒会メンバーの能力とかは、次のお話から少しずつ出していく予定です。
でもエキシビジョンマッチなので、あっさり終わる様にしたいと思います。
何も戦闘不能だけが敗北ではない。
この言葉が今回の幕を引く感じで。
ではまた次回~