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紅の術者  作者: 結城光
第1章・2節 学年別トーナメント編
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第47話 反省は大事な事




●紅の術者

第47話 反省は大事な事




予定されていた1年生の部は、多少のハプニングがありながらも無事に閉幕した。俺たちの掲げていた目標である2年生徒会とのエキシビジョンマッチは、明日と言う事になっている。もっとも、俺達がこの状態で戦おうモノなら、おそらく瞬殺されるが落ちだろうが。

それにしたって色々と引っかかる点はある。だが今ここでソレを言った所で、何かが解決するわけではない。ただ1つ分かっている事は、マノヒと言う人間は危険だと言う事。こっちの世界に来て2ヶ月の平凡な日常を送っていた俺ですら、危険と感じるんだ。まぁ、こっちの世界に来て、色々と環境の変化やら何やらがあったのは事実だけど

でも俺達が勝ったので、これでほぼ俺達が生徒会になるのは決まった。アイツが何を考えて、何をしようとしているのかは分からないが、おそらく生徒会に関わる事が彼の目的だったのだろう。もう1つ心配事があるけど、それは後でどうにかするとして今は……


「お嬢様は寝ていてください、私は……ッ!」


「バカでしょ、ヨミ。アンタは私よりもダメージ喰らってるんだから、大人しく寝てなさい」


「で、ですが……っ」


「明日のエキシビジョンで足を引っ張る気?」


そう言うとヨミは悔しそうな顔をして、それ以上何もティアに言わなくなった。布団の中でまだぶつぶつと呟いているが、自分の中でティアと同じ位アイリとセイウェンも大切なのだろう。3人の足を引っ張ってしまう事は、やはり彼女としても嫌なのだろう。

俺の事は絶対に考えて無いだろうがな。別にいつもの事だから分かっているけどな


「イツキーーーー!!」


布団の上からアイリがダイビング。どう考えても、先程まで試合で気絶していたヤツがやるような行動ではない。当たり前だが、ここには俺達以外誰も居ないのでそこまで気にしないが


「お前大丈夫なのかよ? セイウェンとアイリは結構長く喰らったし、初めてだから耐性も無かっただろ?」


そう言うと2人はニヤリと笑いながら、小さな声で少しだけ話してこちらを向き直る。そしてアイリがこちらに近づき、セイウェンはヨミの方へと歩いていく

2人の姿はヨミとは違い、いつも通り痺れや電撃のダメージが残っているようなそぶりを見せていない


「ヨミちゃんには悪いけど、ボクはほらっ。これがあるから」


そう言ってアイリは少しだけ魔力を放出する。すると瞳は赤と青のオッドアイへと変わり、お尻の辺りからは尻尾が生えてくる。前にも見せてもらった、彼女の本来の姿。魔族と神族のハーフってヤツだ


「魔族や神族は、人間と比べると多くの面で勝っている部分がある。まぁ逆に劣ってる部分もあるけど。でもボクはその両方の血を引いてて、運がいい事に良い能力を引き継いでいるんだよ。魔力の多さとかね」


「で、それで回復スピードが人間よりも早いって事か?」


「まぁ、さっきまでずっとこの姿を解放してたからね。それに自分で治癒魔法を少し使ったから。この姿じゃ無いと、普通に1日位はかかるんじゃないかなぁ」


そう言って俺の後ろから再び抱きつく。危うく近くの机に置いていたジュースをこぼす所だっただろうが。いつものじゃれあいでしょうが、ほぉらウチの飼い主様が睨みつけていますよぉ。アイリさん、早く離れてくださぁい。このままじゃ、明日を無事に迎える事も結構難しいかもしれませんよ


「私の方は言うまでは無いかな? ヨミ君には悪いけど、自分の治療を今までずっとしていたのだよ」


「いえ、私はあの攻撃を知っていたのに避け切れませんでした。こちらの方こそスミマセン」


「まぁ勝ったから良しとしよう。さぁ、寝てくれ」


そう促すと、セイウェンは魔方陣を展開する。それは簡単な治癒魔法を、彼女が独自に弄ったオリジナル魔法だろう。それか上級魔法か? とにかく、さっきまで居た治癒術者よりも断然回復の速度が違う


「イツキ君、明日の事なら心配ない。私も含めて、みんな万全の状態で戦えるようにしておく。だから君は何の心配も要らない」


「そうよね。それが最初の目的だったもんね?」


後ろから突然声が聞こえて、全員が一緒に振り向く。ガチャリともバタンとも何にも音がしなかったのに、いつの間にかヤスラ先生が立っている。ちょっとしたホラーになっている。気配だしてくれよ、気配


「さて、みんな居るわね? 反省会するわよ、反省会」


そう言うと、自分が持ってきたプリントをせっせと配り始める。別に口頭で説明してもいいのに、こうやってプリントにしてくる辺り凄いと思う。それにしても、ここに3人を運んでから1時間位しか経ってないのに早すぎる……


「まずは個人で言って行こうか? リーダー最後で行くから、まずはそうね……。ティアちゃんよろしく」


「はいっ」


壁にもたれていたティアがヤスラ先生の顔を見ながら頷き、全員の顔を見直す。そしてゆっくりと口を開く


「私は試合前からずっとシルビアに対しての感情が、判断能力を鈍らせていた。幸いイツキのおかげで試合にはそこまで影響しなかったけど、やっぱり迷惑を掛けたと思う」


「そうね。そこについては少し気になる所はあるけど、アナタの反省点はそこね。遅延魔法もしっかり発動できてたし、入学してからの成果は見えたわね」


そう言いながらヤスラ先生は僅かに眉をひそめる。さっきも言っていたけど、確かにティアがあそこまで取り乱していたのは予想外だったな。どんな時でも冷静に対処していたのに


「じゃあ、次はヨミちゃんかな?」


「そうですね」


セイウェンの治癒を受けつつも返事をして、彼女の治癒魔法を1度止めて貰い上半身を起こす。まだ少し痛みが残っているのか、引きつった顔を一瞬見せる。しかしその後はいつも通り、本当の表情を見せない顔をする


「私の判断が間違っていた事です。お嬢様とシルビアの交戦は絶対に避けるべきだったのに、私はそれが出来なかった。あまつさえ油断していて、あの時と同じ魔法を……。未熟故の失態です」


「そんな事は無いでしょっ!? ヨミは十分やってくれたわ」


「そうね。ヨミちゃん自身は満足していないかもしれないけど、アナタは十分やってるわ。自分でも分かってるでしょ? 風速瞬動のスピードが物凄く早くなってるって事が」


そう言われても、ヨミは少し悔しそうな顔をしながら何かを呟いている。彼女は自分が気絶してしまって、ティアを護れなかった事が1番悔しいのだろう。自分がお嬢様を護れなかった役立たずだと思っているのだろう。でもな、絶対にヨミは強い。おかしいのはマノヒの方だ


「さぁて、次はアイリちゃんでいいかな?」


「ボクはね、多分何も出来なかった。オープンバレットを使ってクロッドを倒しただけで、結局何の役にも立ってなかった」


「クロッド君を倒している時点で、役に立っていると思うけど?」


にゃははっと笑いながらも、少し悲しい目をしている。俺達は試合に勝ったのだが、気持ち的には負けていた。アイリ自体、クロッドを倒した事は誇るべきなのに倒されてしまった事が心残りなのだろう


「セイウェンちゃんは?」


「私は……状況を見なさすぎた。私が先走って、自分の考えを押し付けて、それで……」


「確かにアナタは状況に振り回されたわね。でもね、その時の最善を考えての行動だから何も責任を感じる事は無いよ」


それでも彼女は置いてある自分の剣に視線を移す。鳳雨状態を使っても、互角か劣勢を強いられた

彼女としては奥の手として使った鳳雨が、レアスキルと言う能力で負けてしまったのだから


「ふぅん。じゃあ最後はイツキ君」


そう言われて、俺はゆっくり視線を上げる。皆それぞれの想いを描きながらも、俺の方へと視線を移す。その表情はどれも悲しそうで、とても優勝した様な雰囲気では無い。


「俺は……。俺は良かったと思うっ!!」


『はぁっ!?』


おい、お前ら。特にヨミさんよぉ。あんたら怪我人なんだから、そんな大声で叫んでいいんですかねぇ?

いくら俺達だけで病室を使っているからって、そんなに騒いだら他の怪我人に迷惑だろ。


「そう思う根拠を教えてくれるかしら?」


「まずティアは、練習してきた遅延魔法をベストタイミングで発動させた。しかもシルビアと戦闘中にだぜ? あんだけ荒ぶってたのに、しっかり決める所は決めたんだ」


「ばっ、当たり前でしょ? 恥ずかしい」


そう言いながら照れているのか、顔を背ける。赤くなっているのは夕日のせいか? 


「ヨミはシュウを1回倒してるじゃん。それにあの魔法だって、1回気付いて避けようとしてたじゃん。別にティアと一緒に居なくても、アイツらを足止めしていてくれたのは結果としてティアを護った事に繋がらないか?」


「イツキの癖に生意気な事を言う」


ニヤリと笑いつつ、適度に近くの花瓶を投げてくる辺り大丈夫だろう。適度に避けながら、花瓶をキャッチしてそのまま机に置くが


「アイリはマノヒとの銃撃戦で耐えてくれたじゃないか。それに、クロッドを倒した事は大きいぞ? アイツ、なんだかんだでメンドクサイし」


「にゃはっ♪ 別にボクは落ち込んで無いよ!!」


さっきまでゆるく抱きついて居たのが、更にギュッと抱きしめてくる。別に首が絞まって、やばくなっているわけでは無いが。胸を押し付けて来て、いや彼女は巨乳じゃなくて虚乳なんだけど密着されたらな

血は集まっていないが、俺の頭がおかしくなるだろうがっ!! 最近ちょっと大きくなりやがったか、コイツ? オート乳サーチで測ると、0.5cmくらい大きくなってるぞ?


「――ッ!! せ、セイウェンはうまく状況を判断して戦ってくれたよ。結果的にはマノヒに負けたけど、いい所までやってくれたって」


「いや、私は戦う事しか出来ないのに……。負けた時点で私の意味など」


「セイウェンのばーか」


「あたっ!?」


思いつめているような顔をしているので、アイリにはどいてもらってセイウェンの頭にチョップする。少し涙目になっているが、そんな事知ったことか

上目遣いも効きません。


「以前までのお前は傭兵として使われていたかもしれない。でもさぁ、今のお前はただのセイウェン・コウラリスで、紅のメンバーだろ?」


「で、でも。私は……この剣で……」


「だから、その剣を捨てろなんて言うわけ無いじゃん。お前は自分の為に、みんなの為にその剣を振るってくれ。自分の意志でだぞ?」


「……分かっているさ。少し取り乱しただけだ、すまない」


涙を吹きながら、セイウェンがいつも通りの表情で返してくる。でもやっぱり声は震えていて、自分がマノヒに負けた事がどうしても腑に落ちないらしい。みんなそうだ。何処かでこの試合に対して負けた気分になっている。こんな感じで明日の試合に臨んでも、せっかく勝ったのに意味が無いだろう。

だからこうやればよかったんですよね、ヤスラ先生?

彼女の方を見ると、こちらを向いて笑っておりとりあえず良かったみたいだ


「私もイツキ君の言う通り、みんな良く頑張ってくれたと思うわ。だけど、やっぱり今日の試合は反省する事があると思う。だから、色んな想いを良い方向に明日にぶつけて頂戴」


了解ヤー


「じゃあ、各自そのプリントに目を通しておいてね? 後、今日は早めに寝ておいてね。明日がアナタ達の本番なんだから。全力で戦いなさいよ」


そう言いながら、ヤスラ先生はさっさと部屋を出て行ってしまった。

っと、俺も少し……


「悪い、ちょっとヤスラ先生と話してくる」


「ん。何か飲み物買ってきてくれる?」


「んじゃ、適当に」


ティアと取りとめの無い会話を少しして、俺も出て行ったヤスラ先生を追いかける。と思ったら、意外にも医務室を出て少ししたロビーにヤスラ先生が缶コーヒーを持って待っていた


「予想してました?」


「まぁ、多少ね。君が今日の試合が良かったって言い出した辺りからね」


「んじゃ、いきなり本題でも?」


そういうと、ヤスラ先生はゆっくりとコーヒーを飲んで頷く。俺がヤスラ先生の考えていた事が分かったように、ヤスラ先生が俺の考えを分かっていたと。いや、別に驚くことじゃない。実際ヤスラ先生は、色んな事を考えているだろうし


「正直俺もこの試合に納得してません。そもそもマノヒ、彼は一体何者なんですか?」


「私にも詳しい事は分からないよ。とある地方の家族に生まれた、魔法の才能がずば抜けていた少年と言う事になっている・・・・・


つまりは本当の所は分かっていないと。そして彼が言っている事が、本当に正しいとは思っていないと言う事も兼ねている。だが、それ以上は彼女自身も分かっていないと言う事か


「彼は絶対に危険です」


「分からないわよ? 意外とあぁ言って性格だけで、ただのSクラスの生徒かも知れないわよ?」


分かっていると言う表情で、ヤスラ先生が笑う。ホント、変な所でこの人はSになるよな。やめてくれよ、俺の周りでMの人が居ないというね


「何か分かったら、教えて下さい」


「了解。何か他に言う事は……?」


「あぁ、そう言えば俺が魔法を無理やり解除した時にマノヒとシュウ以外の全員に解除が働きました」


「イツキ君。それってまさか……」


そう言いながら俺は紅の医務室に戻っていく。さっきのお返しだ。どうせ、ヤスラ先生なら分かっているのだろうがね

まぁ、いいや。今は明日の――イオリ先輩との試合の事を考えるか


何気に決勝戦7話分使ってたんですね……。3話位で終わらせる予定だったのに

選手紹介で1話使っちゃったりしたからでしょうね。はぁ


とりあえず次回からは2年生徒会戦です。これが終われば、1つ番外編を書いて第2章へと突入です。

番外編の登場人物は、皆さんの記憶のかなたへと消えてしまっているあの人です。とりあえず予告してから1年も経っちゃって、忘れちゃっていますかね。ヒントは最初の方に出てきた人物ですよ。


それでは、また次回~

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