第46話 始まりがあれば終わりがあるとか言うけど、そんなのは些細な事
やっと最新話更新できました!!
タイトルが長い? べ、別に久しぶりでテンションバカみたいに跳ね上がったわけじゃないんだからねっ!!
はい、スイマセン。紅書いててテンションが限界突破しました。その時のノリでタイトルェ……
「イツキッ!!」
返事をするまでも無い。ティアが叫ぶのと同時に、俺は動き出していた。
魔力を足に込めて、地面を蹴り上げる。歩くのでは無い。走るのでも無い。魔力を使い、常人のスピードを逸脱する速さで駆け抜ける。
しかしそれでもだ。実戦練習の為に広大に造られているこの場所は、目的の場所までかなり遠い
「あの魔法って!?」
「分かってる。でもあの魔法って、一般的に使われていないのか?」
「術者の魔力を使わずに、対象の魔力を吸い取って魔法を展開するのよ。そんな高度な魔法、一般的に習える訳無いでしょ? 私達が上級魔法を教えてもらっているから一概には言えないけど、あんな魔法普通なら教えないわ」
苦虫を潰した様な顔をしながら、ティアは冷静に分析する。やっぱり前回の事件が気になるのだろう。俺も引っかかる。でも、そんな事を考える前にやる事がある
「イツキ、あの魔法の対抗策あんの? 闇雲に突っ込んでも、私達が喰らうだけよ?」
「あるにはある。だけど……」
創造魔法を使えば絶対に破壊する事が出来る。前回も俺に対する雷撃を停滞させて、他は創造魔法による魔法キャンセルを使った。それ以外は魔法のキャンセル方法を知らない。
無理やり魔法に干渉すれば良いのだろうが、3人分の魔法を干渉する前にアイツらがもたないだろうし、マノヒ達がそれを許すとは思えない。
「アタシはアンタのそれに掛けるしかないのよ。それ以外ヨミ達を助ける方法を知らないわ」
●紅の術者
第46話 始まりがあれば終わりがあるとか言うけど、そんなのは些細な事
「……分かった」
縛り以前に、自分が作った枷。この能力をずっと使い続けると、対処出来ない事態になったら俺達は完全に手詰まりになる。だから本当に必要な時しかこの能力は使わない事にしている。神さまもそれを望んでいるだろうし
で、今は多分この能力を使う時なんだと思う。色々思い当たる節もあるし
そう思って俺は頭の中で魔法の無効化を思い描きながら、指を鳴らそうと――
「やっと来たね、本命」
「フハッハ!! 俺には残飯か。否、それでも全力で戦うのが王だ」
予想通り2人が接近してくる。コイツら、俺が使おうとしたタイミングを狙って……。いや、そんな訳ないか。ティア達にすら教えてないんだから。
しかし戦いながら創造魔法を使う事は、まだこの能力を自分のモノにしてない俺には無理だ。創造能力でイメージしながら、戦闘でも状況判断するのは不可能に近い
そういった戦闘スタイルにしていれば別だが
「イツキッ!!」
「無理だ。せめてコイツらを引き離してからじゃないと、能力は使えない」
「だったらッ!!」
杖を思い切り前に突き出し、シュウをけん制しつつ魔法を唱える。しかしシュウはそれを気にもせず、そのままティアへと突き進む。詠唱が終わっても、魔法を展開するまで時間がかかるティアと、突き進めば攻撃できるシュウ。どちらが早いか明白だった
しかし
「完全に避ける必要はないの!! ただこの攻撃が通ればいいだけッ!!」
体を捻り、自分の中心から攻撃をずらしていく。そして前に突き出していた杖を、シュウの剣へと思い切り当てて攻撃を逸らす。避けきれないのは分かっている。だがしかし、被害を最小に食い止める事は出来る。避けるというよりはむしろ逸らすに近い形。
その行動により、体の中心を狙っていたシュウの攻撃は、ティアの左腕をかする程度で収まる。
「なっ!? 弾かれた!?」
「痛いわね、流石に。でもッ!!」
勢いを殺しきれないシュウは、そのままティアの後ろへと過ぎ去っていく。それを横目に、ティアは左腕から伝わる痛みに片目を瞑りながらシュウの背中へと足を乗せる
「これで1人。後は、アイツだけよね」
ティアの足、正確にはシュウの背中に加速用の術式が展開される。瞬動や縮地などとは違い、一般的に用いられる術式だ。遠距離専門のティアにはあまり使わないが、逃げる為に極めておけとヤスラに言われたモノだ。それがこんな所で役立つなんて、思っても居なかった
加速を始める時、足元からは通常の何倍もの力が発生する。術者はその反動を足に反作用として帰ってこないように術式が組み込まれているが、蹴るモノにはそんなご丁寧な術式は組み込まれていない。つまり莫大な力が、シュウをティアから遠ざける形で押し出していく
「クァッ!?」
体が浮き、緩んでしまった筋肉が防御が取れない。頭では分かって居る。だが認めたくない。自分の背中を踏んでいく彼女の存在を。認めたくない。自分が負けていると言う事を。先程の作戦では無く、勝負で負けてしまっている事を
しかしそれと同時に認めてしまう。彼女が自分よりも魔法で勝っていると言う事を。彼女が加速術式以外にも、瞬間的に展開していると言う事をシュウは気付く。それはティアが何気にシュウを遠くへ飛ばすための、威力増加の術式だが、詠唱に加えて加速術式まで展開している彼女にそれが出来るとは思えなかった。少なくともシュウ自身はそんな事は出来ない。だから、負けを……
「イツキ、構えなさいッ!! 私がソイツを何とかするからッ」
そう叫びながら、まるで弾丸のように飛んでくるティア。正直その接近の仕方はどうかと思うぞ? 攻撃が来ても回避が難しいわ、それ以前に人間魚雷みたいでダサいわ……。本人は必死だから仕方ないんだろうけど
「分かった」
俺は再び剣を腕の中に取り出しながら、創造魔法の準備をする。その体勢を見て、マノヒが慌てて銃を構える。やっぱり剣で一掃した瞬間に発動させた方がいいのか? 大きな博打になるけど
しかし、そんな迷いを拭い去るかのようにティアは叫ぶ
「アンタはアタシの相手をしてればいいのよ」
突っ込んでくるティアと剣を構えただけの俺。どちらと戦うのが最善かは、一目瞭然だった。マノヒは移動するかどうかも分からない俺よりも、突っ込んでくるティアの方に両手の銃を構えた。
そして魔方陣を発動しながら、宣言する
「障壁を穿てッ!!」
その発言をした瞬間、2人は笑った。1人はマノヒ。この言葉を宣言するだけで、魔力と引き換えにティアの障壁は無効化した。空中を加速によって飛ぶ彼女に、障壁以外の避け方は無いと思っているからだ。
そしてもう1人はティア。空中で回避する事が難しいこの状況は、彼女にとっては苦しいモノのはずなのに
しかしこれと似たような状況を、俺は見た事がある。アイリがそうだった時の様に、ティアもまたこの回避方法を知っている
「障壁を穿つって事は、私が障壁を発動させる事を前提に考えているわね。こうやって空中にいるから。でもね、障壁が無くても他に手はある。分からない? 防げないなら――」
そう言って彼女はダメージを喰らっていない右手を、地面へと下げる。そこから発動するのは彼女の得意魔法である遅延魔法。それは本来攻撃に使うためのモノであるが、彼女はそれを別の目的で使用する
「避ければ良いじゃないのッ!!」
手から発動する術式は、単純に魔力を前方へと押し出すものだった。しかし空中で何処にも彼女を、反動から支えるモノなど無く、単純にティアは斜め上へと進む。そしてマノヒの攻撃は寸分の狂いもせずに、先程までティアが居たであろう場所をただ通り過ぎていったのだった
「イツキ、進みなさいッ!!」
「分かってる!!」
俺はその光景を見た瞬間足に魔力を込め、縮地によってマノヒの横をすり抜けていく。ティアへの攻撃を行って直ぐなので、頭では俺が動いた事を認識できても体が付いて来ない。つまりマノヒの横を通り過ぎる事までは、絶対に成功するのだ
「くっ、そんな方法が通用するとでも思っているのかァ!!」
しかしそれは通り過ぎるまでの事。もちろんヨミ達に近づく前には、絶対に俺を捉える事が出来る。そしてあのレアスキルのせいで、俺は防御が出来ない。後ろを向いて、どうぞ狙ってくださいと言うようなモノだ。だがそれは、俺が1人で突っ込んでいったらの話だが
「えぇ、思っているわ。何故なら私がまだ、詠唱した魔法を使っていないのだから」
「なっ!?」
「気付くのが遅かったわね」
急いで振り返るマノヒ。しかしその瞬間には既に、ティアの詠唱魔法は展開を済ませていた。中級魔法と上級魔法の間の詠唱。しかし威力は中級魔法のそれを遥かに逸脱しているものだ
展開された炎が、マノヒを襲う。それの目的はただ1つ。マノヒをこちら側に向かせる事だ
「今ならいけるよな?」
俺は後ろを確認しながら、ティアの魔法に釘付けになっているマノヒを確認する。この方法は流石に予想外だったのか、彼がこの試合で始めて目を見開いて驚いている。
大丈夫だ。今は完全にティアの魔法に気を取られている
俺は頭の中で念じる。
『このフィールド内で使用されている魔法を、全て無効化する。そしてその無効化のタイミングは、この俺の剣を振った瞬間』
そうする事で俺が魔法に介入するのを不自然に思われないだろう。この剣で、魔法陣ごと切ればいいのだから。そして振った瞬間までに使用されていた魔法は、事実上全て効力を失う。だからティア達の魔法も全部だ
「いっけぇぇぇええええええええええ!!」
俺は3人の足元に展開している魔方陣を繋ぐ線を、思い切り断ち切る。そしてその瞬間、創造魔法の効果によってフィールド上のの魔法が全て消え去る。そう、文字通り全てだ
ティアの出していた炎の魔法も、マノヒが撃った魔力弾も……。しかしその瞬間可笑しな事が起こった
「何よ、これ?」
ティアが口を開く。マノヒとシュウ以外の全員から、体を包んでいた何かが崩れて地面へと落ちていく。それが術式だと気付くのに、数秒を要した。しかし俺達はともかく、魔法によってダメージを受けていたヨミ達や、先程ノックアウトにしたはずのシルビア達からも同じモノが見える。
そう、まるで2人以外全員に同じ魔法が掛けられていたかのような
「……魔法がキャンセルされた? 何故だ?」
マノヒが今まで以上に驚いた顔をして辺りを見渡す。そして俺の方を見て、その視線を外さない
(ティア、動揺するなよ? 今のは俺の魔法で、このフィールド上の魔法を全部無効化しただけなんだからな?)
(そんなバカみたいな事を、動揺せずに聞けって言うのは無理ね。私達以外は)
(それは違いない)
(で、今私達から出てきた術式は何? 私障壁以外にこんな魔法張った覚えは無いんだけど?)
(分からない。おそらくマノヒとシュウが何か展開していたんだろうが、仲間にまで魔法を掛けていた所が不自然だ)
そのまま俺は黙り込む。やはりコイツは何かがおかしい。しかし何がおかしいかは、明確には分からない。ただ感覚として、それが頭の中で渦巻くだけだ
「イツキッ!!」
「はい!?!?」
「返事なんかしないで、前見なさい!! 前をッ!!」
ティアの叫び声で、思考の渦から現実へと戻ってくる。すると既に眼前にはマノヒが接近してきていた
先程までずっと考え込んでいたはずの彼が、もうここまで来ると言う事はやはり遠距離の訓練以外にも他の訓練をやっていたのだろう
「なるほど、君が当たりなんだね?」
「当たり? 何の事だかさっぱりだね!!」
「言わなくても分かっているはずだ。あえてここでは言わないけどね。しかし君がもしそうだとしたら……」
銃を使っての近距離戦。あえて他に会話が漏れないようにするためなのか、攻撃はしてきてもわざと防がれる位置に持ってきてる
「本当の戦いはこれからだ」
そう言って俺を見据える目は、この試合の中で1番狂気に満ちていて、1番楽しげで、1番悪意に染まっていた。
「お前頭大丈夫か? 変な薬やってんじゃねぇの?」
「そんなわけ無いだろ? いや、ある意味もっといい物にめぐり合えた。だから今回は引くよ。君に出会えた事を歓迎してね」
そう言って手を上げ、実況者であるイオリ先輩にアピールする。自分達は降参すると
俺は意味が分からず、ティアも理解出来ないと言う顔をしながらその光景を見続ける。しかしそれ以上何かをするわけでもなく、彼はシュウと一緒にこの場を去って行った。意味深な表情を残しながら……
『と言うわけで、色々波乱な展開もありましたが!! 学年別トーナメント、1年の部。優勝はチーム紅です!!』
こうして俺達の戦いは、謎を残したまま終わったのだった
また新しい点が生まれたのを感じながら、俺達はヨミ達を医務室へ運んでいく。いつになったらこのばらばらの点が、1つに繋がるのかを考えながら……
案外あっけなく終わった決勝戦。いや、双方のチームのダメージは大きいですけどね。マノヒ達が終わり際に放った言葉の真相は、何時語られるのか……?
さて、次回もまだまだトーナメント戦のお話ですが1日の休日を書くと思います。そして次の話から、待ちに待った2年生徒会との全力の戦い。今まで自分達に枷を付けていた紅の面々は、何処まで2年生相手にやれるのでしょうか?
それは本編でと言うわけで
ってかヨミがティアの腕を切りつけられた所を見て発狂→そのまま魔法破壊→マノヒ撃退 ってのも面白そうでありかな? って思ったんですけど、やっぱりシリアス1本で続けていたのにいきなりギャグに転換は……。と思ったんでやめました
大丈夫だ!! ギャグパートは学年別トーナメント終わったらイヤになるくらいやるから!! ティアさんマジはぶられるからっ!! メインヒロイン面出来るの今のうちだから!!
というわけで、また次回~