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紅の術者  作者: 結城光
第1章・2節 学年別トーナメント編
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第44話 策士の力

「まさかこんなに早く使う事になるとはなぁ……」


先程までとは全くの別人と言っても過言では無い声、形相でマノヒが呟く。幸い何を考えたか3対1で自分を倒しに来なかったから、聞こえてない。


「さて、始めようか?」


後ろに倒れている2人を見る。しかし片方の男には興味も無いような顔をして、すぐに視線をもう1人の方に向ける。倒れているはずの彼は、ニヤリと笑いながらマノヒの顔を見る。

それを見て、マノヒも同じように笑う。前に居る3人を見据えながら












●紅の術者

第44話 策士の力













「ねぇ、セイウェン」


そういって口を開いたのはアイリだった。

今は一応マノヒ達の後ろに回り、攻撃を始めたらこちらが回り込んで潰せばいい。その為に多くの魔力をつぎ込み、向こうを本物と認識させるようにした。

しかしその事に対して、アイリは疑問があるのだ


「何かな?」


「今更なんだけど、あの時セイウェンが詠唱をやめて3人で攻撃していけば確実に倒せたんじゃない? こんな手のかかった事をしなくてもさ」


確かに一般的な意見だ。いくらこのチームで1番危険と言われている彼でも、3人相手では分が悪い。

たとえどんな手を使おうとも、おそらくは防ぎきれない。それは自分達を過大評価しているわけではない。しかしそれは事実として、おそらく誰もが納得するだろう。

だが――


「愚問ですね、アイリさん」


静かにだが、ヨミがその意見を否定する。セイウェンは口を開きかけていた所なので、一瞬目を見開き驚いた顔をするがすぐにヨミを見据える。

その柔らかな表情を見て、ヨミは再び口を開く


「アナタが見ているのは、目先の状況でしょう?」


「目先? どゆこと?」


「つまり、今後の展開を考えていないのです」


チラチラとマノヒの方を確認しながら、言葉を繋げる


「確かに彼を倒す事は容易に出来るかもしれません。しかしその時に痛手を負わせられたら? 予測不能の事態に陥ったら? お嬢様をお助けする事が出来ません」


「アイリ君。君が考えているのはあくまで最善の手だ。確かにそれを考える事は悪いことではない。むしろ良い事だと思う。しかし、物事にはその裏側がある。だから今回は……」


「大丈夫、分かったよ。2人とも」


そういってアイリは2人の目を見て、いつも通りの笑顔を見せる。別に仲違いをしたわけではないし、アイリの疑問が晴れた。それでいいと、3人とも思いそれ以上は言わない

と、その時セイウェンが何かを感じ取った


「なぁ、2人とも……。ここ、異常に静か過ぎないか?」


「何言ってるの、セイウェン? ボク達の幻影が、今マノヒと戦っているじゃん」


そう言って目の前で起こっているありのままを口にする。確かにマノヒは3対1と言う過酷な状況の中で、1人で戦っている。そしてその奥ではイツキとティアがキヨルとシルビアに攻撃を仕掛けている。そして観客の声。何処を取っても静かなんて言えるわけが無い


「音じゃない、戦いが静か過ぎるんだっ!!」


叫んだ瞬間だった。

今まで自らの武器をマノヒにぶつけてきた3体の幻影がこちらを向き、突然突進してきた


「なっ!?」


驚くアイリ。セイウェンは何かしらを感じ取っていたのか構えているし、ヨミも右に同じだ。アイリも一応構えてはいたので、そのまま幻影達の攻撃をいなす

しかし驚きは大きすぎる。セイウェンの発動した魔法は自立ではあるが、1つの目的のみを設定していた。『マノヒを倒せ』と。その命令はまだ実行されていないはずだし、仮に終わっていても自分達を襲ってくるはずが無い。不意に1つの可能性が浮かび上がる


「まさか……」


「そのまさかだよ」


背後に気配を感じる。間違い無くマノヒだ

しかしその表情は明らかに先程までとは違い、別人の様な顔になっている。言うなれば狂気に溢れている


「君が氷の魔法で幻影を作る事は承知の上だ。だからこうして利用する事が出来るんだよ。そっちの作戦あまりにも幼稚だから」


戦闘狂だ。戦場でも居た。こうやって戦いになると、普段とは全くの別人格が現れる者が

彼らは普段おとなしい割に、このように戦闘になるとおかしいほど狂っていく。思考も感情も、全てが普段以上になるんだ


「わざわざ私達を誘ったのか?」


「あぁ、君達の会話が終わるまで待ってやったんだ。感謝して欲しいね」


それだけ言うとマノヒは自らの手にある銃を瞬時にこちらに向けてくる。避ける時間は無い

防御出来るかどうかすら怪しい。だが分かった。何故自分がコイツに不信感を抱いていたのか。そして何故1番大人しかったはずの彼が、あの攻撃を防げたのか

だが今はこの攻撃を――


「感覚に頼っているようじゃ、まだまだだよね?」


セイウェンが急いで大剣を後ろに振るが、手ごたえは無く空を斬るだけ。ありえない。目視で無いとはいえ、確かに感覚で彼を捉えていた。しかし剣を振った瞬間・・・・・・・その気配が消えた。

これではまるで、最初からそこに居なかった様な……


「障壁を穿て」


ハッキリした声で、マノヒが宣言する。すると彼の銃が魔方陣を展開し、そのまま魔力を集束させる

声を頼りに視線だけ向けると、彼はいつの間にかセイウェンの右側へと移動していた


(障壁を穿つ……? だが、魔力で密度を上げれば)


そう考え、セイウェンは時間の許す限り魔力をそちらへ向けた。いつもの3倍程になる魔力を使い、障壁を展開する。強度が強いに越した事は無い

ギリギリ展開を完了させ、後ろへとバックステップをして衝撃を緩和しようとするが……


「ハッ」


笑いながら放たれる攻撃。それは一直線にセイウェンへと向かい、そのまま障壁に当たるかと思われた。しかしその予想は外れる


「ガァッ!?」


攻撃は障壁をもろともせずに、セイウェンへと突き進みそのまま被弾する。空中に浮いた体が、その威力で後ろへと倒れる

障壁を展開したはずなのに、全くといって良いほど意味が無かった。それどころか障壁が機能したのかすら怪しい。まるで障壁が紙の様に……


「宣言したはずだよな? 障壁を穿つ、と」


「だから、どうした……」


痛みに顔をゆがめながらセイウェンは立ち上がる。無詠唱ではあるが、治癒魔法も瞬時に展開して傷の回復をしながら問う

宣言したから、障壁を貫通する事が出来る? そんなはず無いだろう。もしソレが出来るとすれば、レアスキルかそれとも……


「お前の仲間、丁度隣で銃使っているアイツと同じだよ。この銃も特殊能力が設定されている。大量の魔力を代償として、僕が宣言したモノを穿つ――即ち貫通させる事が出来る」


やはり、そんなスキルがあったのか。初見で見破るのはまず、無理だ

ただ言葉にしただけで、詠唱もしていない。そんな戯言とも取れる事に、誰が戦闘中なのに意識するだろうか? 

だが、そんな有利な条件を何故自分に種明かしする? 言わなければ、後数回はだます事が出来たはずだ。


「何故種明かしをしたって顔してるね? そんなの簡単だよ」


そう呟くマノヒは、既にセイウェンの正面から消えていた。


「隙を作るには、僕以外の事を考えさせればいい」


「ふっ!!」


大剣に魔力を通しながら、剣に力を加える。どんどん氷付いていく剣を視界から外し、セイウェンは考える。再び障壁を抜いてこられたら、間違いなく大きな痛手となる。

だから防がない。攻撃は全て、凍り付けばいい


「障壁を穿て」


はっきりとした声で、そう宣言する。もうこれで、セイウェンの障壁は無意味なモノへと成り変わった。さて、この状況下で発動できる魔法は限られてくる。だが、一瞬で目標のモノを凍らせれば終わるんだ。だから……


「凍れッ!!」


鳳雨の展開をしつつあった大剣を、そのまま地面に突き刺し怒鳴るような声で叫ぶ。その瞬間、剣をさした所を格として、マノヒ側のみに氷が襲い掛かる。無詠唱の術式で、自分の方へと来ないように設定するのは造作でもない。

だが――


「チェック」


息を呑んだ。明らかに近距離戦闘向けでは無い武器を携え、後方支援していたはずの彼がこの考えを見破るなどありえない。しかし今、目の前にはマノヒが居る。

ニヤリと笑みを浮かべた彼は、そのまま足でセイウェンを蹴り飛ばす。その脚力も並ではなかった


(コイツ、やはり何処かおかしい)


そう、例えば遠距離支援は仮の姿であるとか……。そんな事を考えていたら、不意に何かにぶつかり肺の空気をそのまま吐き出す


「いったぁ!? セ、セイウェン!?」


「す、すまないアイリ君」


急いで立ち上がるセイウェン。幸い打撃攻撃なら、障壁で緩和できる。だからそこまでダメージが大きいわけではない。しかしセイウェンがこんな風になっているのを見ると、アイリは鋭い目つきに変わり一瞬で目の前に2体をかき消す


「やはり強敵ですか? 彼」


セイウェンの幻影を消しながら、ヨミが問う。それにセイウェンは無言で頷きながら、簡単に概要を伝える。


「やっぱり何かおかしいと思いますか?」


「あぁ、何処かかみ合わない」


「ふぅん、侵害だなぁ?」


先程まで気配がしなかったはずなのに、そこにはもうマノヒが居た。瞬時に攻撃態勢に入るが、すぐに何かを感じる

後ろ? そう感じ、何故かセイウェンだけは後ろを振り返る。そして一言


「何故?」


そして彼は聞き返す


「あの程度の攻撃で倒せたとでも思ってるのか。俺の方が強いのであるぞ?」





◇◇◇◇



「イオリ君」


突然声がし、イオリはゆっくりと後ろを振り返る。そこには何故か、今戦っているはずの紅の顧問であるヤスラが立っていた。そしてその後ろには、セシリアも立っている。しかしイツキ達と居る時の優しい目ではなく、怖いほど鋭い目つきだ


「どうしてヤスラ先生がここに? 仮にも顧問ですよね、彼らの」


建前だ。話を始めるには何かしらの話題がいるだろう。

こんな話をしに来てない事位分かってる。


「イオリ君、じらさない」


「了解ですよ、先生」


今は実況用のマイクを切ってある。少し休憩してくると言って、アゼルとシェイルにそっちは任せてある。監視も兼ねて


「私の言いたい事は分かってるわよね?」


「この大会の事ですか? それとも――」


そこから先は聞こえない。だがしかし、2人の中では理解がなされている。唯一その場に居るセシリアは時折驚き、時折怒り、時折悲しい顔をする


「いいの? このままの状態だと、どちらも被害を被るわよ? ウチも、そっちも」


その言葉にイオリは笑みを浮かべる。そしてセシリアも何かを悟ったように、ヤスラに近づきそのまま肩に手を置く。

そしていつも通りの笑顔を振りまきながら


「先生、イオリ君も言ってましたけど先生は不安なんですか?」


「どういう事?」


突然の質問に戸惑うヤスラ。まず質問の意味が分からない。何が不安なのだろうか? いや、確かに不安ではある。だってこれは正式な表からの情報ではないからだ

そして生徒会の中でも、おそらくこの2人しか出回ってない情報。それだけ不確かで、表に出せない情報

である事を物語っている


「彼らに初めて会った時に言いましたよ、俺は。君達には期待してるって」


「まぁ今はイツ君達の活躍を見ておきましょうよ? 多分、彼らも害は成さないはずですし。今はまだ……」


そう言って紅を見ている2人は、何かを悟ったような、それでいて覚悟を決めたような真っ直ぐな瞳でこの試合を見ているのだった。

さて、そろそろ戦いも中盤を過ぎて終盤へと進んでいきます。

何気に押され気味の紅の面々。正直こんな展開にする予定じゃなかったんですけどねぇ。また悪い癖が出ちゃいましたw


伏線も色々と張りつつ、次回はメインのイツキの戦いをお送りしたいと思います!! セイウェンが見た男とは……? それは次回かその次で

ではでは~

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