第42話 生まれる謎
また脱線しつつ、物語が進んでいきそうです。
多分、魔法のガチバトルは次回からだと思います。はい
「なるほどな。確かに俺らみたいな、形だけのチームとは少し違うみたいなんやな」
キヨルが驚いたような顔をしながら、こちらを見る。たった今起こった事がどれだけ難しいか、アイツは分かってるのだろう。まぁ、俺とティアもお前らと同じ位に会ったんだけどな。色々あるんだよ、俺達は
「納得が行きませんわね。アレだけ練習しましたのに」
「フンッ、アンタの性格にキヨルが付いて来れなかったんじゃ無いの?」
「なっ!? 何ですって!?」
結局ケンカはするんですね、ティアさん。いきりたって怒っているシルビアの姿を見て、鼻で笑うティア。やっぱり水と油だから、こっちが近づけない方様にするのが無難だな。
「なぁ、イツキ」
「んだよ? 試合中だぞ?」
●紅の術者
第42話 生まれる謎
「なぁ、イツキ」
「んだよ? 試合中だぞ?」
試合中だというのに、キヨルが念話の形で俺に話しかけてくる。普通に喋っているのと同じ風に聞こえるから、別に問題ないし
さっきとは又違った風に困った顔をしている。まぁ理由は分からないでもないが
「ワイら、絶対試合終わっても苦労するな。主にコイツらのせいで」
「まぁ……頑張れ。俺はもう慣れた」
「さようか。ワイも覚悟決めなかんなッ!!」
そう力強く宣言すると、キヨルは再びこちらへ突進してくる。コイツの得意魔法はおそらく――風。ある意味ヨミと同じような感覚がする。当たり前だが、コイツはヨミみたいに殺気が無い分安心だけど
「そうだなッ!!」
俺はその拳に合わせるかのように、剣を振るう。本当に鋼を纏っているみたいに硬いな、オイ
いくら拳にガントレットつけてるからって、この硬さは無いだろ。硬化の魔法も使っているのか? しかしシルビアは土が得意とは聞いてない。だったらキヨル自身が、か
「やっぱ強いわ、イツキ。これはワイも本気出さないかんか?」
「へぇ、本気出さずに勝てると思ってたんだ」
「ちゃうんやで?」
そう言いながら、後ろを振り向く。そうするとムスッとした顔で、突っ立て居るシルビア姿が見える。しかしその視線に気付いた途端、表情はさらに険しくなる
「何をこっち見て余裕かましていますの!? 早くティスティアを倒しなさいな!!」
杖でキヨルの方を指しながら、頭に角が生えたように怒っている。俗に言う鬼だな、アレは。自分だけでは俺はおろか、ティアも倒せないと自覚しているのだろう。ニュアンス的にはキヨル1人で倒せ見たいな感じになっているけど、多分2人でティアを倒すって言う意味だろう。
その間に残りの3人がヨミ達を倒して俺に5人で攻撃、か。確かに悪くない作戦だな。まぁその作戦も、俺を除く全員を倒せる事を前提としているけどな
「な、ワイが本気出して倒れてみぃ? あの暴走お嬢様を誰が止めるん?」
「大変だな、お前」
「それはお互い様やろ?」
2人で何度も剣と拳を交えながら会話をする。それなのに後ろのお2人さんはずっと睨みあったままで、補助をしてくれるわけでもなければ攻撃をするわけでもない。
しっかりしろよ、マジで
「昨日までは普通やったんやけどな」
「はぁ?」
「シルビア嬢の事や」
普通に話をしていて、客からブーイングを受けないかとチラチラ横目で見ているキヨルが深刻な顔で話しかけてくる。この顔は結構マジな顔だ。
拳を交えながらも、どうにか話をしたいようで手加減しているのが目に見えて分かる。そこまでして話したい事なんてあるのか?
「あんな、シルビア嬢は別に試合開始――ちゃうな。この会場に入るまではあんな風やなかったんや」
「あんな風?」
キヨルがわざわざ言い直したのも気になるが、今はソレよりも大きな方を尋ねるべきだろう。別に俺から見た所で、シルビアに変わった様な所は無い。
「ティスティアさん見た時にいきなり挑発したやろ? 何か違和感があってん。いい意味でも悪い意味でも緊張しとった彼女が、お前らが入ってきた瞬間に雰囲気が変わったんよ」
「それは……。でも、2人があんな感じに仲が悪いのはいつもの事だろ?」
一撃一撃ではなく、近接で何発も放つ様になったキヨル。いちいち離れて近づいてを繰り返しながら話すのが面倒になったのだろう。
しかしキヨルが感じ取って居るのはなんなんだ? 確かにティアが挑発されて、冷静に対処する訳でも無く怒った所は俺も驚いた。でもそれだけだ。今までの溜めていたものが、とうとう溢れ出したに過ぎない。
「気よ付けや? この試合、ひょっとしたら何かあるかもしれんで?」
意味深な言葉を残しつつ、キヨルはそのままシルビアの元に戻る。アレがキヨルの言いたかった事なのか? 別にそこまで気にしなくてもいいだろ。何かあれば、全力で対処すれば
「ん? 私の顔になんか付いてる?」
「いーや、別に」
この通りティアも変わった所なんて何処にも無いんだから。
◇◇◇◇◇
「どうして僕がこっちに来てしまったんだぁ!!」
クラッドが絶望に染められたような表情をしながら、セイウェン達を見る。3人は概ねティアがこっち側に居ない事に失望しているのだろうと、容易に検討が付く。ヨミとアイリは呆れ顔をしながら、セイウェンはイラつきを抑えながらそれぞれ相手を見返す。
「んで、何で君達がここに居るのかな? ボク達は別にチーム戦じゃ無くてもいいんだけど」
「フッハッハ。それは俺もどうかんである。良い考え方をしておる!!」
「……メンドクサ」
ここでいつもらならセイウェンの声が聞こえてくるはずなのだが、何故か無言だ。しかしヨミとアイリはあえて振り向かない。チームを組んでから、1度たりともセイウェンが機嫌を悪くした事は無かった。イツキを始めとして、このチームは自分を救ってくれた。いや、それが無くとも彼らは自分の仲間だ。
しかしコイツは違う。何もしなければ普通に接していたかもしれない。だからあえて問おう。
「1つだけ聞いてもいいか? シュウ・エンドルド」
「フッ。庶民の意見も聞いてやろうぞ。何でも申せ」
お前は何様だというツッコミを皆が心の中で思った事だろう。しかしセイウェンは、そんな事ですら怒りに変えられる程怒っていた。
しかし冷静がとりえの彼女は、その感情を心の中に押さえ込みながら静かな声で、しかしはっきりと問いかける
「お前のその剣は何だ?」
「何だと聞かれても困るな。これは俺の剣だ。それ以上でもそれ以下でもなかろう?」
その言葉に完全にセイウェンがキレた。後ろに居た2人、特にヨミでさえ目を見開いてセイウェンを見つめている。それほど怒りによって魔力の押さえが効いていないのだ。しかしただ漠然としか魔力を感じていない3人は、表情1つ変える事無くセイウェンを見つめている
「ではその光沢も、その色も、その装飾も、自らやっているのだな。意味も無く」
「意味が無い? そんな訳無かろう!! これは俺が貴様らより上であるという事を、見せ付けるためのものぞ。何を言っておるのだ」
「フッ……。なるほどな」
セイウェンはそう言いながら、自らの大剣に手をかける。その動作はゆっくりでその場に居る全員が、セイウェンが剣を抜けば戦いが始まると思っていた。しかし誰もが予想しない形で、試合は始まりを告げる
そしてそれに気付いたのは、不幸にもブラッドムーンの面々では無かった。そう、真後ろに居た2人が最初の異変に気付いたのだった
「セイ……ウェン?」
アイリが戸惑うようにセイウェンに話しかける。しかしいつもなら振り向くセイウェンも、この時ばかりは一言も、ましてや彼女達と目を合わせようとすらしなかった。
剣が凍りつき始めている。その事を言おうとさせない為にも
「――鳳雨」
小さな声でセイウェンが呟く。この名前は大切な人、イツキから貰った剣の名前だ。本来ならずっとこの名前で呼びたいのだが、いつも使っている大剣の姿は仮のもの。だから本来の姿を解放する時のみ、この名前を呼ぼうと決めたのだ。
剣が全て氷に包まれる。そして大量の魔力が剣へと流れ込んでいく。そのまま攻撃しても十二分の威力を発揮するその大剣は、主の魔力を吸収しその姿を本来のモノへと変える。
「いくぞ、シュウ」
「ほう、我との一騎打ちを所望するか。ならば良かろう!!」
シュウもその言葉に答える様に、自らの剣を前へと突き出し地面に魔方陣を展開し始める。もちろん純粋な剣術での勝負でも良いのだが、ここは魔法学園。魔法でも剣術でも上回ってこそ、真に自分の能力が評価される。そんな事をシュウは思っているのだろう
「参るぞ!!」
先にシュウが前へと踏み出す。その瞬間に、魔法が展開し補助がかかる。加速と衝撃を和らげる補助魔法がかかっているはずだ。
それを分かった上で、セイウェンは地面を蹴り上げる
その瞬間、剣を覆っていた氷にひびが入り氷が砕け散る。そしてそれと同時にセイウェンがシュウの視界から消える。
「なっ!?」
驚くのも無理は無い。理解が出来ない場面に遭遇したら、必ず人間は1度思考を止めてしまう。そのまま動きを止めずに行動できる人間は、一握りしか居ないはずだ
そしてシュウはその一握りの人間では無かった
「君は少し度が過ぎた」
確かな声が響き渡り、シュウの横を風が吹く。気付いた時にはもう遅い。右手に握っていたはずの剣が宙を舞っていた。そしてそのまま眼前にセイウェンが迫ってきていた。
その瞳は、倒すのでは無く殺す眼。学生の前に傭兵であった彼女本来の眼だったのかも知れない。その瞳にシュウは恐怖すら覚えた
「死ねェぇええええええええええ!!」
「クッ!!」
いつもならセイウェンが言わないような言葉がこだましながら、下段からシュウの首元へと鳳雨が迫り来る。防御用にいくつか補助魔法をかけてあるが、それがただの紙切れ同然で突き破る彼女に意味などあるのか? しかし自分は最強だ、そう思っているシュウは諦めなかった。何とか剣の軌道上から、自分の体を逸らそうと体を捻る
――パンッと言う甲高い音が、辺りに響き渡った。
その音に誰もが驚いただろう。1番驚いているのはセイウェンだった。
自らの剣が、何かにぶつかり軌道が大きく逸らされたのだった。
「い、一応チームだからね」
弾が飛んできた方を見ると、マノヒが銃を構えて魔方陣を発動させているのが分かる。つまり今の攻撃はマノヒがやったとでも言うのか? ありえない。彼は1番戦いに向いていないと誰もが思っているのに、セイウェンの行動を予測してピンポイントで攻撃できた。
「ふむ」
先程までの視線がウソのように、いつものセイウェンの顔に戻る。彼女にしては珍しく頭に血が上っていたらしく、深呼吸をしながらヨミとアイリの所に戻っていく。
シュウも同じように、飛んでいった剣を魔法で自分の元に手繰り寄せながら戻っていく
「ヨミ君。彼を、マノヒの相手を頼めるかい?」
剣を元の状態に戻しながら、セイウェンは静かに語りかける。元々の魔力量が普通よりも遥かに多い彼女は、別に今の攻撃で魔力を使っていてもそこまで変わった様には見えない。むしろ先程までの感情を整理できて、良かったというべきか。
「いいですけど、やっぱり1番気をつけるのは……」
「あぁ、シュウが積極的に攻撃してくるかと思ったが……。おそらくマノヒの援護攻撃が1番厄介だと思う」
「ボクも見てて思ったよ。あの射撃はかなりのレベル。ボクでも難しいと思う」
3人が今の一瞬で出した結論。シュウへの援護攻撃が、あの状況下でどれほど難易度が高かったかわかっている。だからこそ自分の実力を過剰評価せずに、1番強い相手を見極める。
「よし、それじゃあここからはチームで行こう」
◇◇◇◇◇
「何かがおかしいわね……」
試合を見ながら、ヤスラは眉に皺を潜めながら呟く。別に戦い方や戦術に対しては、何も指示していないから文句は無い。
ヤスラが指摘しているのはそこではないのだ
「魔力の流れがおかしいの? それとも何か……」
そう考えながら、相手の教師の方を見る。別段変わった所は無いが、こんな空気では何かあるかと思ってしまう。しかしそれでも外から見ているからこそ、分かる事もあるかもしれない
「注意して見てみましょう。何かあるかも知れないし」




