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紅の術者  作者: 結城光
第1章・2節 学年別トーナメント編
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第37話 学年別トーナメント当日


「はいは~い! 『紅』のみんなぁ~。とりあえずこっちに集まろうか?」


ヤスラ先生の声が頭にガンガン響く。とりあえずもう少し声を小さくしてもらいたいんですけど? 俺たちは別に遠足に来た小学生じゃないんだから。ほらっ、遠くに待機していた別のチームの奴らも何事かってくらいの顔でこっちみてるじゃないですか


「よし、じゃあみんな一応出席の確認しようかぁ? ティスティア・ナフィーさん!!」


あからさまにテンションが高いヤスラ先生に、みんなうんざりしている。いきなり点呼とか取り始めているし……。そんなに昨日飲んだ酒がいい感じだったんですかね。うん、決めた。これからは重要な事がある前は、絶対にお酒なんてものを飲ませないので


「……はいっ」


怒りを抑えているのがここからでも分かる位震えながら、それでもどうにか返事をするティア。一瞬自分の背中に背負ってる杖に手をかけようとしたのが見えたが気のせいだよな……? こんな所で魔法を発動させたら、どうなるか位はティアでも分かっているはず


「にゅふっふ~。どうしたのぉ~ティアちゃぁ~ん。あっ、昨日とうとうイツキ君と「先生!!」ふにゅ~、違ったかぁ」


アイリ、グッジョブだ。今のはいくらみんなから鈍いって言われている俺でも、何を言おうとしたか位は分かった。もしあの続きでも言ってみろ、ティアの後ろの杖が完全発動してここら一帯が焼け野原だ。そしてその後には、俺とかティアに「挙式いつですか~」とか「結婚の前に子供作っちゃいましたか。手が早いですね~」とか言われる。絶対に

そして俺はヨミに殺されるんだろうな。また短い人生で








●紅の術者

第37話 学年別トーナメント当日










「そんじゃぁ~次はぁ、ヨミちゃぁん!!」


「はい、いつも影ながらお嬢様をお守りしております」


その格好だけ見れば、ヨミはホントにちゃんとしたメイドに見えそうだった。いや、性格とかがアレだからダメだけど。ここまで完璧にしているのはさっきの手前自分に降りかかってるのが嫌なのか、それとも……緊張してる?


なんか朝から気になってけど、今日のヨミは少し様子が変だ。そわそわしていたり、心ここにあらずって感じだったのに、さっきからは妙に気持ち悪いくらいメイドのしている。まぁこれも可笑しな言い方かもしれないが、ヨミはティアの専属メイドだがあまりそういった事をあからさまに出してなかったと思う。


「なぁ、ティア。何かヨミ今日の朝からおかしくないか?」


そういうとさっきまでのムスッとした顔が、驚きの顔へと変わった。何? 俺聞いちゃいけない事聞いちゃったのか?


「それは……。あの子の存在意義に関わるからだと思う」


「存在意義?」


何かをためらうように、重い口からゆっくり言葉を紡ぎ出すティア。表情はあんまり良くないが、俺には話しておくべきと思い話してくれているんだろう。


「あの子は他の子と違い私専属のメイド。今はアンタが居るからいいけど、護衛役も半分引き受けてるって訳」


「なるほどな。それなのに負けたら、普通だったらクビになるわな。ヨミはそれを恐れているのか?」


「多分ね。でも私はそんな事絶対しないって言ったのに。もしお父様がそんな事をしようモノなら、ウチになんて絶対帰らないから」


それだけ言うとティアは何か喋っているヤスラ先生とヨミを心配そうな目で見ている。


(自分の居場所がなくなるのが怖い、か)


元々気になっていた事なのだが、ヨミは何でこの年でティアのメイドをやってるのだろうか? それに何より『ヨミ』という名前しかない事も気になる。だがそんな事を聞くのはご法度だというのは分かってるつもりだ。多分それが分かる時がいつか来るから、その時にでも聞けばいいか


そんな事は置いといて、つまりだ。ヨミが変な所で負けてしまったら、自分は用無しとされて捨てられるのを恐れていると。自分の居場所はティアの傍しか無いのだから


「そろそろイツキ君とティアちゃんの秘密のお話も終わったようだし、点呼続けていいかな」


「ッ!? イツキ。私が先生と話しているからって言って、お嬢様を狙うなんて」


腰に挿してある短剣2本を素早く自分の手に持ってきて、そのまま風速瞬動をしようと魔方陣を簡易展開しかけるが


「ここで暴れないのぉ」


瞬間的にヤスラ先生が影縫いを使い、ヨミの行動を束縛する。一瞬その束縛さえも構わず他の魔方陣を展開しようとするが、ヤスラ先生の魔力が明らかに一瞬だけ大きくなったのを感じてやめた。本当に微量だけだったが、俺たちにとってアレは脅威の他なんでもない

もしあのまま魔法を発動しようモノなら、俺たちは最悪4人で戦わなければならなかっただろう


「もう、いくら今日が楽しみだったからってそんなに興奮しないの」


「……はい、すいませんでした」


ヤスラ先生の顔が笑ってる……。でも目が笑ってない。

何この怖い顔? ヨミもかなり顔が引きつりながら謝ってるし


「はい、じゃあセイウェン・コウラリスさん。アイリ・クランさん」


「ちゃんと居ますよ、先生」


「ボクも昨日ちゃんと寝て、元気は有り余ってるんだよ!!」


いつもよりもテンションの高いアイリと、普段通り冷静なセイウェン。その姿を見て、一瞬だけだがヤスラ先生の顔がいつもの穏やかな顔に戻ったような気がしたが……


「はぃは~い!! んじゃ、最後にチーム唯一の男。他の男子からは死ぬほど憎まれてるリーダーのイツキ・ジングウジ君から一言貰いましょうか?」


完全に悪乗りがすぎる。やっぱりまだ酒が抜けてないんじゃないか? よし、飲ませないの次は体からアルコールを抜く魔法でも創造しようかな。なんで出席の確認から、今日の意気込みを言えに変わってるのかが分からん。

ってか他の奴らも期待しすぎだろ


「イツキ、ちゃんとやんなさいよ?」


「下手な言葉を言ったら……ニヒッ」


「まぁ肩の力を抜きなよ、ありのまま思った事を言えばいいさ」


「イツキ、ここでミスったら今日1日の士気がだだ下がりだぞぉ~」


オイ、味方はセイウェン1人か? 誰か味方をくれ、味方を

まぁヤスラ先生がこうやって少しでも緊張をほぐそうとしているのは分かるけどさぁ。だってなんとなくだが、みんな少し緊張しているような感じがした。ヨミ程ではないけど


「え~っと、今日はお日柄もよくいい日々を過ごせるような……」


一斉に刃物を突きつけられました。左の首にはヨミの、右にはセイウェンの剣が。そして後ろの2人はいつでも攻撃態勢に入ってる

なんだよぉ!! 少しボケてやっただけで命が吹っ飛ぶなんて聞いた事ねぇぞ!?


「はぁ……。正直俺たちが今日までやって来た事で、どれだけの力を出せるか分からない。でも確実に俺たちは入学前よりも強くなった・・・・・。それは紛れも無い事だし、みんな分かってることだと思う。どうせ色んな理由ではぶられてたチームだ。俺たちが出せる力を出して、みんなを見返してやろうぜ?」


どう……? 一応今思ってる事を簡単に言ってみたんだけど。えっと……、誰か反応してよぉ

周りに他のチームのヤツが居ないのが幸いだけどさぁ


「プッ……クハハッ」


「何!? 何で笑ってんだよぉ!?」


「いや、イツキが真剣な顔で言うからさぁ。ククッ……」


「笑うなぁ!!」


みんなが腹を抱えて笑ってるが、そんなに俺はおかしい事を言ったか? ここは俺の言葉でみんな感動……はしないまでも、真剣な顔をして勝つぞーってなるのが普通じゃないのか?

何、俺は漫画とかアニメの見すぎなのか


「いやぁ、でもイツキ君はよく言ってくれたよ。クフッ。みんな今日は頑張ろうじゃないか、いつも通りに」


「いや、セイウェン。笑いながら無理して言うな。俺も悲しくなってくる」


必死になって笑いを堪えながら、俺を必死に慰めようとしてくれるセイウェン。しかしソレはやっぱり俺にとっては悲しくなる以外には何も残らない


「さてっ、イツキ君の恥ずかしい一言も終わった所でヤスラ先生からありがたい一言を授けよう」


そういうとさっきの一瞬だけの普段の顔に戻り、はぁっと息を吐く。少しまだ酒の臭いがするのだが、昨日は1人でどれだけのんだんだよ……


「君達は強い。この学年を超えて、ね。だからいつも通り戦えば、ちゃんと頂点に立てるよ。でも私はそこで満足はしない。この前イオリ君達も言ってたでしょ? だからとりあえずはこの大会を優勝して、2年生徒会メンバーと戦ってきなさい。話はそれからしようね?」


2年生徒会。今の俺の目標であり、俺達がこの大会で戦う約束をしている相手。

そこまでたどり着ければ、俺達は1年の生徒会として迎えられるだろう。だからこそ、ヤスラ先生はそこから始まると言ってるんだろうけど


「んじゃ私は色々と準備があるんで、試合間近にあいましょ」


そう手を振ると、ヤスラ先生は事務局の方へ歩いていった。そういえばヤスラ先生って一応この1ーSの担任を兼ねてるんだったな


「まぁ俺達は選手控え室にでも行っておこうか?」


「そうね。確か私達はここから結構近い場所に部屋が取ってあったはずよ?」


「あぁ、それなら私が地図を持ってるから見てみよう」


場所を確認すると本当に近かった。試合会場への通路も結構近いので、ヤスラ先生が色々やってくれたんだろうな


「お嬢様、そこの段に躓かないように」


「へヴァッ!? ヨミちゃん早く言ってよぉ。ボクだけ変にこけちゃったじゃん」


もうそこには緊張という文字は見られなかった。みんないつも通りの自然体で、これから普通に訓練にでも出て行くかのように控え室に歩いていく。

途中で一般の生徒達が俺たちを見てヒソヒソと会話をしているが、それも気にならない。まぁこっちは普段から慣れてるからいいけど


「ん? イツキ、あそこじゃないかなぁ?」


アイリが先に走っていって、ある部屋の前に立つ。そこにはちゃんと張り紙で『チーム紅』と書かれており、学生証をかざさなければ開かないようになってるみたいだ。

それなのに、扉と扉の間に不自然な魔方陣が展開されてるがなんだ……?


「セイウェン、解除できるか?」


「ふむっ、あまり高度な魔法ではないが……ダメだ、私の魔力では何故か反応しない」


「反応しないってどういう事だよ?」


「この魔法は『特定解除ロック』と呼ばれる魔法なのだが、ある特定の人物の魔力しか反応しないようになってるみたいだ。主に暗号文などの伝達の時に使われる魔法なのだが……」


魔力によって解除させるものか。でもこの部屋の前に置いてあるって事は、この中の誰かの魔力に反応するようになってるのは間違いないよな?


「ティア、ちょっと魔力を流してみてくれ」


「えぇ、いいわよ」


「お嬢様!? 危ないです。もし解除されてお嬢様が危険な目にあわれたら……。なので私が先にやらせて貰います」


「いや、ヨミ君。この魔法はそういった魔法はそういうのを固定出来ないようになってるのだが?」


セイウェンの言葉など聞かず、ティアを後ろに下がらせるとヨミは自分の短剣を魔方陣にかざす。もし何かがあっても、ヨミは短剣で対処するだろう

しかしずっと魔力を流していても、全く反応せずにただ無駄な時間がすぎるだけだった


「すみません、お嬢様」


「いや、いいわよヨミ。今度は私がやるから」


そういって自分の背中にある杖を魔方陣に突き出し、こちらも魔方陣を展開する。解除魔法も同じように展開しているみたいで、時折何か小さな声で呟いているのが分かる。

しかしやっぱり反応しないみたいで、少ししょんぼりしながら後ろに下がっていった


「んじゃ次は俺が……」


このパターンだと俺が絶対に最後になるから、アイリが変な気を起こす前にさっさと魔方陣に触れておきたい。それで反応しなかったらアイリ宛のラブレターかなんかって事になるし


「それはさせないんだよっ!!」


「んなっ!?」


何故かさっきからテンションの高いアイリが、俺の前に光弾を放ち目晦ましをしてくる。うん、意味分かんない。ただの魔方陣を解除する順番だけで、なんでいちいち魔法を使ってくるんだよ? この後普通に試合がある事忘れてません?


「ふふん。ボクが先にやれば、最後にイツキに期待が高まる事間違いなし」


しかも自分では絶対に解除できないとか断言しちゃってるし……

もうこの子達嫌だぁ!!


そして案の定魔方陣に魔力を流すが、何も反応が無く解除出来なかった。しかし本人はその事実に喜びながら、後ろに下がっていく。最後に俺の肩を叩いていくのを忘れずに


「はぁ、なんでまた俺なんだ」


自分の不幸に嘆きつつ、俺は扉の前へと歩いていく。とりあえず後ろからの期待の視線なんぞ知った事じゃない。まずはガンドロフを魔方陣に当てる


(どうだ、ガンドロフ。何か感じるか?)


(いや、大丈夫だ主。そういった魔法の類は感じ取れん。解除しても大丈夫だ)


そうかと心の中で呟くと、俺は魔方陣に手を置く。そしてゆっくりと深呼吸をして魔力を手に停滞させて、解除魔法を発動させる

そうすると俺の中で何かがカチリと音を立て、目の前の魔方陣がゆっくりと開いていく。そして俺の手の中には一枚の紙だ握り締めてある


俺は無言でその紙を開き、中に書かれている文字に目を通す。

そこにはどれだけの長文が書かれているかと思ったが、1行だけしか書かれていなかった


『待っている。君達の持てる力を全力で出してくれ』


「えっと、それだけ」


「おう、炙り出しとかはないだろ。魔力を流しても何にも変化は起こらないぞ?」


その手紙にはその一言しか書かれていなかった。

でもこの手紙を出した人の意図は分かるし、誰が出したかも分かった


「イツキ、これってもしかして……」


「あぁ、挑戦状だよ。イオリ先輩からのな」


それだけ呟くと俺は自分の学生証を出し、そのまま扉を開ける。確かな意志を、心の中に留めながら

紅 魔法辞典


特定解除


術者が指定した解除の方法でしか解除できない魔法。主に軍や王族の間などでよく使われるが、一般人でも使えるほどの中級魔法。

今回は魔力だったが、他にも色々な方法での解除がある


使用者:イオリ・スラトス


もうすぐ学年別トーナメントが始まります。

戦闘ばかりでは無いとは思いますが、Sクラスの実力が目立つかどうかが……



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