第11話 実戦2
1話で一試合は結構キツイ……
ヤスラ先生の声を聞いたか聞かないかのタイミングでアイリの銃から魔力弾が発射された。彼女の得意属性はまだ教えてもらってない。この攻撃を見れば少しは分かると思い、剣を構える。
しかし、ヨミの考えは甘かった。
バンッ
「ガハッ」
「その短剣で斬ろうとしたの? だったら無理だね。ボクの銃から発射できる弾は、そんなに甘くはないよ」
「少し油断した様ですね」
そういって自分の服を眺める。彼女の服には何も付いていなかった。少し顔を歪めながら、剣を強く握り締めている。
「風……ですか」
「いやいや、ボクの銃には少し特殊な機能が付いていてね……」
そういって銃を構えるアイリ。今度はヨミも警戒しており……
●紅の術者
第11話 実戦2
『瞬動』
足に魔力を溜め、飛び出すヨミ。
瞬動とは、魔力を足に溜めて地を蹴る。すると通常の倍以上のスピードで地を駆ける事が出来る。イツキもこの術を使っていたが、正確なやり方を踏んでやっているヨミはそれより遥かに速かった。
バンッ バンッ
アイリの銃から2発の弾が発射される。ヨミはその弾を避けながら進んでいるが、アイリは全く表情を崩さない
「ッ!!」
「気づいた?」
「熱風……」
「そ。私の銃は基本属性の5つを放てるのよ。それも威力強化して」
それはイツキの物と同じだった。しかしその強化されて放つ魔法弾は剣の機能を付けていないため、魔力弾のみに集中できる。アイリの思考とシンクロした銃は、普通のものではなかった。
「この銃は、私のお母さんの形見……だからっ!!」
「悪いですけど私も攻撃させてもらいます」
「それはムリ!!」
瞬動を繰り返し間合いに入ろうとするヨミと、いくつもの銃弾で間合いに入らせないアイリ。普通の魔力弾であれば形を形成する瞬間などがつかめる。しかし、アイリが使っている銃はその領域を超えていた。
自分の意識とシンクロしているため常に魔力が流れている状態で、いつでも放てるようになっていた。
だがヨミは負けていなかった。
『疾風よ 我が身に風の加護を 風速瞬動』
瞬時ヨミの姿は消えた。アイリは驚いた顔を見せるが、慌てず銃の引き金を引く。再び放たれる熱風の弾丸。何処に隠れようともこの攻撃は逃げられない。射程圏内に居ればの話だが……
『疾風よ 雷撃よ 双方の力を掛け 破砕せよ 雷の風襲』
「なっ!?」
風速瞬動とは、発動した魔力の分だけ瞬動のスピードを上げる技。ヨミは発動してすぐに上へと飛翔していたのだ。もちろんアイリが撃って来る事を計算して。
『土よ 壁となれ』
上へ飛ぶという選択肢を持っていなかったアイリは障壁を形勢するしかなかった。しかしそれさえもヨミは計算の内だった
「遠距離ばかりに重点を置いては、こういった事態は逃げられないんですよ!!」
『風よ 我が剣に宿れ 属性付与ー風剣ー』
地面に降り立つ前に呪文詠唱を終わらせ、アイリに飛び込むヨミ。彼女の戦闘スタイルは疾さをとことん突き詰める事。何処となくティアに似ているのは、ティアの父のエドワルドに教わっていたからだろうか。アイリは何発も弾丸を撃ち出すが、一向に当たらない。
「終わりですっ!!」
ガキン!!
ヨミが放った一閃はアイリに当たった。みねうちだが、その攻撃は確かに体に当たっている。
「ぐっ……やっぱ、接近戦は向いていないなぁ」
「随分と余裕ですね」
「そりゃあ……」
そういって銃を構えるアイリ。しかし、弾は発射されない。
全く撃とうとしないアイリに、ヨミはチャンスだと思い近づく。
「私の魔法はこれから発動し始めるからだよ」
「ーーッ!?」
すぐに距離を取ろうとするヨミ。確かにアイリはまだ詠唱呪文を使っていない。それどころか最初に立っていた場所から、少しも動いては居ないのだ。
「ヨミちゃんはなんで私がここから動かなかったか分かる?」
「それは……」
「答えはコレだよっ!!」
『岩石よ 土の人形を我が姿に 岩石の人形』
その瞬間、アイリと同じ姿をした人がどんどん形成されていく。魔法によりほぼ一緒だ。
「分身!?」
「まぁそうとも言えるかな。この魔法を発動するために、動かなかったんだよ」
何人もの分身を生成するためにはそれ相応の魔力が必要だ。呪文詠唱こそ簡単だが、いくつもの制限が付く。その1つに動いてはならないという条件があり、詠唱呪文の発動が出来ないという制限もある。
「さて、降参するなら今だよ?」
「冗談を言わないで下さい。私だってまだ秘策がありますから」
「じゃあ次で終わるのかな?」
「無論です」
そういってヨミはティアに視線を送る。そしてティアは少しだけ考えたような顔をして、頷いた。
「どうせアナタも上級魔法が使えるのでしょう?」
「アナタもって事は……」
ヨミは含みを持たせた質問をした。その言葉にアイリは笑いながらも困惑した表情を浮かべている
『濁流よ 逆巻くものに沈静の雨を 反流の雨』
水属性の攻撃によって、アイリの生成した分身が崩れていく……ように見えた
土はアイリの元に戻っていき、そして1つの大きな石の塊となった。
「ッ!?」
「言ったでしょ? 分身とも言えるかなって。でも、これが分身だなんて言ってないよ?」
そういって静かに拳銃を土の塊に当てる。そして力強く、静かに詠唱を始める。それに対応するかのようにヨミも慌てて詠唱を始める。
『鋭石よ それは天より振りし 無数の矢』
『烈風よ 彼方駆ける 全ての風よ』
ほぼ同時に上級魔法を発動している。その魔力は、一般の生徒から見ればありえないくらいだろう。しかしここにいる者は全く動じない。
『我が前で 全てを粉砕せよ 破砕の矢』
『風は全てと混ざり合う しかし全てを切り裂く疾風とならん』
先に詠唱を終えたのはアイリの方だった。銃から発動した魔方陣は土の塊を破壊しながら上に上がっていく。詠唱どおり上から降ってくる。
しかし、詠唱というのはその長さに応じて攻撃力を増す。
『吹きすさべ 汝はそのための風 烈風の覇者』
上から降ってくる矢を全て破壊しながら進んでくる烈風。詠唱の威力、そして属性の相性からヨミの方が上回りアイリに一撃を加える事ができた。それは上級呪文を上回った上級呪文。土を破壊しながら進んでくる風の攻撃。アイリは完全に攻撃を加えられる。
「はい、そこまで」
風の攻撃で服がボロボロになって血も少なからず出ているアイリを見てヤスラ先生が止めに入る。実戦とはいえ、これ以上やったらシャレにならないほどの事が起きるだろう。
2回戦 アイリVSヨミ
勝者 ヨミ
「アイリ君、こっちに来てくれ。治癒呪文を使おう」
「分かった、お願いするよ」
そういってセイウェンの所に行くアイリ。すぐさまセイウェンは治癒呪文を唱える。
そもそも治癒呪文にはいくつかの条件がある。怪我をして何時間も経ったものは完全には治せない。もちろんの事だが、傷の深さ、魔力の高さ、呪文の強力さ、術者の実力により治癒の割合が決まる。
そこまで深くなく、すぐに治癒を始めるのですぐに治るだろうが。
「ああそういえば2人にも同じ質問をするけど、上級属性は使える?」
「「使えません」」
「OK」
またおかしなくらいにノートに書き込みを続けるヤスラ先生。完全に不審者です。
「じゃあ最後は私達ね」
「イヤです」
「じゃあ入学もとりさげ「やります、やらせてください!! 全力でやります!!」そう♪」
イツキは急いで準備をしにいく。ヤスラ先生も不敵な笑みを浮かべながら中央へと向かっていく。
しかし途中で4人のほうに振り返り
「アナタ達が彼をリーダーにした事は正解だったわ」
「えっ? どういうことですか?」
「すぐにわかるわよ。彼がどれだけすごいのかを」
そういうと笑いながらイツキの元へ歩いていった。
このとき彼女達は、この試合で何かが起こると感じたのだった
紅 魔法辞典
風速瞬動
ヨミのオリジナル技。瞬動(縮地)を自分の魔力と脚力だけでなく、風の補助を受けてさらに速める事の出来る補助魔法。この魔法は空気抵抗や身体にかかる負担を相殺する魔法も共に使っている
使用者:ヨミ
属性付与ー風剣ー
雷の剣と同様に風を纏わせる補助魔法。断罪の剣より威力は劣る
使用者:ヨミ
岩石の人形
使用条件にその場から動かずに魔力を流し込まなければならないという制限があるが、流し込んだ魔力量に応じて術者が作成した人形が形成される。
使用者:アイリ・クラン
破砕の矢
アイリの銃に魔法陣を展開して放つ矢。普通に放つよりも銃に展開させる方が命中率、威力共に格段に向上する
使用者:アイリ・クラン
烈風の覇者
周りの風を急速に集める事で竜巻やかまいたちなどの攻撃を行う事ができる。風をたくさん集める事でさらに他の現象を起こす事もできるが、低酸素になってしまうので危険ではある。
使用者:ヨミ
ヤスラ先生の実力はいかほどに!?
イツキは能力を使うのかは……