表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第六話:初灯(はつとも)

 秋の終わり、茶屋の提灯は少しだけ色褪せていた。

 ともりは、棚の茶葉を整えながら、はるかの背中を見つめていた。

 彼は、記録帳を読み終えた。

 忘却茶を飲んだ人の涙、夢見茶に映った記憶、心茶に触れた痛み――

 そのすべてを、静かに受け止めていた。

「灯さん。僕、淹れてみたいです。誰かのために。」

 灯は、囲炉裏の火を見つめながら頷いた。

「では、あなたの“初灯”を。誰の心に灯したいですか?」

 遥は、少しだけ迷ってから言った。

「僕自身に、です。僕はまだ、自分の心に火を灯せていない気がするから。」

 灯は、棚の奥から一つの茶葉を取り出した。

 それは、“灯火の芽”――火を継ぐ者が初めて使う、未熟な茶葉。

「この茶葉は、あなたの心を映します。嘘をつけば、茶は濁ります。」

 遥は、囲炉裏に火をくべ、茶を淹れ始めた。

 手は震えていたが、目は真っ直ぐだった。

 湯気が立ち上ると、店内の空気が変わった。

 灯は、静かに見守っていた。

 遥は、茶碗を自分に差し出し、ゆっくりと口にした。

 ――その瞬間、彼の瞳が揺れた。

 見えたのは、幼い頃の記憶。

 誰にも認められず、孤独だった日々。

 それでも、誰かの笑顔に憧れていた自分。

 遥は、涙を流した。

「僕、ずっと誰かになりたかった。誰かの“役に立つ人”に。

 でも、今は――僕自身の灯りを見つけたい。」

 灯は、そっと言った。

「それが、初灯。自分の心に火を灯すことが、すべての始まりです。」

 その夜、茶屋の提灯は、遥の灯りに呼応するように、ふたつの火を揺らしていた。

 狐火の茶屋は、ふたりの灯りで、夜を照らし始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ