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第四話:灯が揺れる夜

 狐火の茶屋に、秋の風が吹き込んだ。提灯の火は揺れ、囲炉裏の炎も少しだけ弱くなっていた。

 ともりは、棚の奥にしまっていた茶葉を取り出した。

 それは、誰にも淹れたことのない“心茶”――自分の感情を茶にする禁忌の茶葉。

 白狐との約束を破ることになる。

 でも、灯はもう一度、誰かの悲しみに寄り添いたかった。

 今度は、自分の痛みを知ったうえで。

 その夜、茶屋に現れたのは、少年だった。

 名を「はるか」という。年の頃は灯と同じくらい。

 だが、その瞳は、何かを見失った者のそれだった。

「……僕は、誰かの“灯り”になりたかった。でも、誰も僕を見てくれなかった。」

 灯は、静かに言った。

「あなたの心は、まだ消えていません。だから、茶を淹れます。」

 彼女は“心茶”を囲炉裏にかけた。

 湯気が立ち上ると、店内の空気が変わった。

 まるで、灯自身の記憶が空間に染み出すように。

 遥が茶を口にした瞬間、彼の瞳が揺れた。

 見えたのは、灯の記憶。

 ――幼い頃、山奥の社で白狐と出会った日。

 ――人間の村で「化け物」と呼ばれた日。

 ――それでも、誰かの悲しみに寄り添いたいと願った夜。

 遥は、涙を流した。

「……灯さんの心、すごくあったかいです。」

 灯は、少しだけ驚いた。

 “心茶”は、誰かに自分の痛みを見せる茶。

 それを飲んだ遥が、灯の心に火を灯した。

 その瞬間、提灯の火が強く燃え上がった。

 白狐の声が、どこかで響いた。

「灯が消えそうなときは、誰かが火を継ぐ――その者が、遥かなる灯となる。」

 灯は、遥の手をそっと握った。

「あなたは、火を継ぐ者かもしれません。

 でも、今はただ、茶を飲んで、心を温めてください。」

 茶屋の夜は、静かに更けていった。

 灯の心は揺れながらも、確かに燃えていた。


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