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第1話:転生の鼓動と無限の始まり

秋風が教室の窓をそっと撫でる。高校の生徒会室は、書類の山と静かな喧騒に満ちていた。佐藤健太、17歳。学年トップの成績を誇る生徒会長だ。頭脳明晰、戦略的な思考が自慢だが、体育の時間になると足がもつれて転ぶ運動音痴。友達には「頭で戦う男」と笑われるが、俺はそれで満足だった。アニメやゲームには興味が薄く、歴史書や戦略論を読み漁るのが趣味。ナポレオンの戦術や三国志の謀略に心躍らせ、夜遅くまでページをめくる日々だった。

その日、いつものように文化祭の企画書をまとめ、校舎を出た。夕暮れの空がオレンジに染まる中、交差点で信号を待つ。ふと、足元が揺れた。地震? いや、違う。視界が歪み、世界がぐにゃりと溶けるようだ。トラックの音も、クラクションも聞こえない。ただ、頭の中に響く声。「君の才能が必要だ」。低く、深く、まるで魂に直接語りかけるような声。意識が落ち、闇に飲み込まれた。


目を開けると、森だった。木々の隙間から陽光が差し込み、葉ずれの音が耳に心地よい。湿った土の匂い、遠くの鳥のさえずり。あまりにリアルだ。体を起こすと、制服はそのまま。ポケットに手を入れるが、スマホも財布もない。代わりに、視界の隅に青い文字が浮かぶ。

【ステータス】

名前:ケンタ・サトウ

レベル:1

HP:8/8

MP:7/7

攻撃力:5

防御力:6

敏捷性:4

知力:9

幸運:3

「何これ、ゲーム?」

一桁の数字が並ぶ。知力だけが9と、少し高い。だが、攻撃力も敏捷性も貧弱。運動音痴の俺らしい、情けないステータスだ。転生? そんな馬鹿な。だが、木の葉を触ると湿った感触が指先に伝わる。遠くから獣の咆哮が響き、背筋が凍る。これは現実だ。

慌てて森を進む。足元は不安定で、根っこにつまずきながら進む。すると、目の前に緑色のゼリー状の生物。スライムだ。ゲームで見たような、ぷよぷよした体が近づいてくる。恐怖で足がすくむが、近くの木の枝を拾い、振り上げる。「離れろ!」

だが、運動音痴の悲しさ。足が絡まり、転倒。スライムが足に絡みつき、チリチリと痛みが走る。視界のHPが7に減る。焦りが心を支配する瞬間、握った枝が突然ビュンと伸びた。鞭のようにしなり、スライムを叩き潰す。緑の体液が飛び散り、消滅。

「え、俺がやった?」

息を切らしながら立ち上がる。枝を握り直し、じっと見つめる。もう一度、伸ばせと念じる。ピクリとも動かない。だが、あの感覚は本物だった。混乱する俺の前に、足音が近づく。振り向くと、白髪交じりの髭を生やした老人が立っていた。筋肉質の体躯、鋭い目つきだが、どこか穏やかな微笑み。80歳とは思えない威厳を放つ。

「おお、君か。私のスキルに反応したな」

彼はエルドラン。50年前、魔王を倒した最強の冒険者。この世界の英雄だ。だが、今は隠居し、森の奥で後継者を探しているという。「君のステータス、凡庸だな。だが、それがいい。私の若い頃と同じだ」。

エルドランのスキルは「無限伸張」。武器や武具を自在に伸ばす力。刀を伸ばして遠くの敵を刺し、盾を広げて仲間を守り、斧を巨大化して城壁を砕く。才能のない彼が、努力と工夫で極めた技だ。俺の低ステータスを見て、彼は目を細めた。「君なら継げる。弟子になれ」。

拒否する理由はなかった。この世界で生きるには、力がいる。俺は頷いた。「よろしくお願いします、師匠」。


エルドランの住処は森の奥の小さな小屋。木の壁に蔦が絡み、屋根は苔で緑色。内部は質素だが、壁に掛かる剣や盾が歴史を物語る。魔王を倒した勲章だ。50年前、魔王はモンスターを操り、世界を支配していた。エルドランと仲間たちが倒した後、呪いが解け、モンスターは野生化した。今の冒険者は、それらを討伐し、人里を守る仕事だという。

「才能など、最初は関係ない。鍛えろ」。

エルドランはそう言い、俺に木の棒を渡した。スキルの発動は意志の集中だ。「伸ばせと強くイメージしろ。心を空にしろ」。

小屋の前の広場で、早速修行開始。棒を握り、目を閉じる。伸ばせ、伸ばせ。汗が額を伝うが、棒は動かない。エルドランは傍らで茶を啜り、静かに見守る。「焦るな。体で覚えろ」。

夜、焚き火を囲んで彼の話を聞いた。凡人だった彼は、偶然このスキルを得た。刀を伸ばして魔王の心臓を遠くから刺し、盾を広げて仲間を守り、槍を曲げて敵を絡め取った。だが、歳月は彼を蝕む。80歳の今、継承者を待っていた。「君の知力は武器だ。戦略を活かせ」。

転生前の俺を思い出す。生徒会長として、皆をまとめるのは得意だった。文化祭の企画も、予算配分も、俺の戦略で成功させた。だが、体は弱い。運動音痴の俺が、ここで強くなれるのか? でも、知力9。頭脳はここでも通用するはずだ。


翌朝、修行再開。森の中で棒を振る。エルドランの指示はシンプル。「感じろ。武器は君の延長だ」。何度も試すが、棒は動かない。苛立ちが募るが、エルドランの目は温かい。「転ぶのは学びだ。次は立て」。

昼過ぎ、森でゴブリンに遭遇。緑色の肌、鋭い爪。3匹の群れが牙を剥く。俺は棒を握り、恐怖を抑える。伸ばせ! 棒がわずかに伸び、ゴブリンの腕を叩く。だが、力不足。ゴブリンが飛びかかる。とっさに棒を振り回すと、しなりながら長くなり、ゴブリンを弾き飛ばした。

【レベルアップ! レベル2】

HP:10/10

MP:9/9

攻撃力:6

防御力:7

敏捷性:5

知力:10

幸運:4

微々たる上昇だが、達成感が胸を満たす。「師匠、できた!」

エルドランは笑う。「まだ始まりだ。だが、いい目だ」。


その夜、小屋でスープを飲む。森のキノコと獣の肉が煮込まれた、素朴だが温かい味。エルドランが語る。「この世界は平和だが、モンスターは増え続けている。魔王の呪いの残滓が、どこかに潜む」。

俺は頷く。師匠のスキルは、ただの武器の延長じゃない。戦局を変える力だ。生徒会長だった俺なら、戦略で活かせる。

翌日、さらなる試練。森の奥で、狼型モンスター、ウルフビーストと遭遇。灰色の毛、鋭い牙。エルドランが剣を渡す。「やってみろ」。

剣を握り、伸ばせと念じる。剣先が伸び、ウルフの背を斬る。だが、反撃で爪が腕をかすめる。痛みに叫びそうになるが、エルドランが盾を広げ、俺を守る。「共に戦う。それが師弟だ」。

傷の手当てをしながら、俺は決意した。このスキルで、師匠を超える。最強の冒険者になる。


森の静寂が、俺の新たな旅の始まりを告げる。エルドランの教え、スキルの可能性、そしてこの世界の謎。転生した俺、ケンタ・サトウの物語は、ここから始まる。師匠の遺志を継ぎ、世界を守るため。次の試練は、街での冒険者生活だ。だが、それはまた、別の話――。


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