第23話:喰らう者の咆哮
霧が黒く染まり、願いを喰らう者が姿を現した瞬間、空気が凍りついた。
律とあいはすぐに構えを取り、霧の蝶と折り紙を展開する。だが、男の動きは異常だった。滑るように空間を歪ませ、律の折り紙を指先で弾き飛ばす。
「アァ……やっぱり、うまそうだ。焦げた願いの匂い……たまんねぇなァ……」
男は笑いながら、霧を引き裂くように手を振る。影が槍となって降り注ぎ、律とあいは必死に防御を展開する。
「蝶閃・風封・連舞!」
あいが霧を操り、影の軌道を乱す。律は折り紙を連続で放ち、男の動きを封じようとするが、すべてが寸前でかわされる。
「ユウさんの技でも通じなかった……やっぱり、あいつは……」
律の声に焦りが滲む。男は霧の中を滑るように移動し、律の背後に現れる。
「願いってのは、喰われるためにあるんだよォ……抵抗すんなよ、もっと美味くなるからさァ」
律が振り返ると同時に、影の刃が襲いかかる。あいが霧盾を展開し、辛うじて防ぐ。
「律、集中して! あいつ、感情の揺らぎを読んでる!」
「わかってる……でも、動きが速すぎる……!」
ふたりは連携を取りながら、霧の蝶と折り紙を駆使して防戦に徹する。だが、体力は少しずつ削られていく。
「……ユウなら、どうする……」
あいが呟き、霧の粒を集め始める。
「灯霧術・模倣式――“願い喰らい・試”」
霧が震え、あいの周囲に灯が灯る。副作用のある技――ユウの禁術を模倣する形で、あいは霧を願いの形に変えていく。
「……あい、それは……!」
「大丈夫。完全じゃない。模倣だから、少しだけ……喰わせるだけ」
霧が爆ぜ、男の身体に直撃する。影が軋み、男は一瞬だけ動きを止めた。
「……ほォ……なるほどなァ……お前も、喰えるのかァ……」
男は笑いながら、あいの霧を舐めるように吸収する。
「効いてる……でも、薄い……!」
律は折り紙を展開し、蝶の群れを男に向けて放つ。
「蝶閃・終結・改!」
蝶が男の周囲を包み込むが、男は霧を逆流させて蝶を弾き飛ばす。
「アァ……惜しいなァ……もうちょっとで、喰えるのに……」
律とあいは肩で息をしながら、再び構えを取る。
「……まだ、終わらせない……!」
「うん……ユウがいないなら、私たちがやるしかない……!」
男は笑いながら、霧の奥へと手を伸ばす。
「もっと喰わせろよォ……願いってのは、熟れてからが本番だろ? 潰して、揉んで、泣かせて……喰う!」
霧がざわめき、戦いはなおも続いていた――。




