第22話:狡猾なる影と、願いを喰らう者
灯霧の奥へと進んだ律とあいは、澪の記憶のかけらを求めて霧の回廊を彷徨っていた。
「ヒント通りに進んでるはずなのに……なかなか見つからないね」
「うん……でも、霧の流れが少しずつ変わってる。きっと近いはず」
ふたりは何度も立ち止まり、霧の蝶を折り紙に重ねながら記憶の反応を探った。やがて、淡い光が霧の中に浮かび上がる。
「見つけた……!」
律が駆け寄ろうとした瞬間、空間が軋み、霧が黒く染まった。
「あい、下がって!」
律が叫ぶと同時に、影が地面から這い出し、巨大な腕を形成してふたりを襲う。
「守護者……!」
その姿は人型に近く、仮面のような顔に複数の瞳が瞬いていた。動きは滑らかで、まるでふたりの動きを読んでいるかのようだった。
「蝶閃・風封・連舞!」
あいが霧を操り、影の動きを封じる。律は折り紙を放ち、蝶の軌道で影を貫こうとする。
「ユウさんの動き……思い出して。影の流れを乱して、願いの揺らぎを突くんだ!」
ふたりは連携しながら、守護者の動きを封じていく。だが、律の折り紙が一瞬遅れ、影の刃があいの肩を掠めた。
「っ……!」
「ごめん、あい!」
律があいを庇うように前に出ると、守護者の瞳が律に集中する。次々と影の槍が律を狙い、空間を裂くように飛んでくる。
「こいつ……狙いを変えた。僕が庇ったの、見てた……!」
守護者は狡猾だった。ふたりの連携の隙を見つけ、感情の揺らぎを突いてくる。
「蝶閃・霧返し・双輪!」
あいが再び霧を操り、律の周囲に盾を展開する。律は折り紙を連続で放ち、影の核を狙う。
「……願いの流れが、見えた!」
律の折り紙が守護者の胸元に突き刺さり、霧が爆ぜる。守護者は呻きながらも再生を試みるが、霧の蝶がその動きを封じていく。
「今だ、律!」
「蝶閃・終結・改!」
折り紙が蝶の群れとなって守護者を包み込み、内側から光を放つ。守護者は仮面を砕かれ、霧の粒となって消えていった。
ふたりは肩で息をしながら、静かになった空間を見渡す。
「……勝った、のかな」
「うん。でも、あい……肩、大丈夫?」
「平気。ちょっと掠っただけ。律が庇ってくれたから」
律は安堵の息を吐き、霧の蝶に手を伸ばす。だが、その瞬間、空間が再び軋んだ。
「……誰か、来る」
霧が黒く染まり、ひとりの男が姿を現した。長い外套に身を包み、瞳は深紅に輝いていた。
律は声を震わせながら、霧の奥に立つ男を見つめた。
「……また……あいつ……」
かつて一度だけ対峙したことがある。だが、その時は何をしても通じなかった。折り紙も霧も、願いの力すらも。
「……ユウさんの技でも、あいつには……」
律の背筋に冷たいものが走る。あいも、男の姿を見てわずかに身を引いた。
「……願いを喰らう者……」
男は口元を歪めて笑い、霧を操るように手を伸ばす。
「アァ……いい匂いだ。焦げた願いの匂い……たまんねぇなァ……」
霧がざわめき、男の周囲に影が集まり始める。
「もっと喰わせろよォ……願いってのは、熟れてからが本番だろ? 潰して、揉んで、泣かせて……喰う!」
律とあいは構えながら、再び霧の中に身を投じた――。




