第21話:霧の舞、蝶の閃きと記憶の予兆
灯霧の庭に、霧の蝶が静かに舞っていた。
律とあいは、ユウの戦い方を思い返しながら、特訓を重ねていた。影の流れを読むだけでなく、乱し、封じる。その動きは、まるで霧そのものを操るようだった。
「ユウの動き、やっぱりすごかったよね」
「うん……霧と影の境界を見極めて、願いの揺らぎを突いてた。あれって、ただの技術じゃなくて……感覚なんだと思う」
あいは蝶の霧を編みながら、律の折り紙に目を向ける。
「でも、私たちも少しずつ近づいてるよ。蝶閃・風封・連舞、昨日よりずっと安定してる」
「ありがとう。あいの霧が、影の動きを止めてくれるから、僕の折り紙も狙いやすくなった」
ふたりは何度も連携を試し、技の精度を高めていった。蝶の霧が風を巻き起こし、折り紙がその流れに乗って影を貫く。
「……これなら、次の守護者にも通じるかもしれない」
「うん。でも、次の記憶のかけらがどこにあるか、まだわからないよね」
律は霧の流れを見つめながら、静かに呟いた。
「探しに行こう。灯霧の奥へ。澪の記憶が呼んでる気がする」
あいは頷き、ふたりは旅支度を整えて灯霧の回廊へと足を踏み出した。
霧の色は淡い青から、徐々に紫へと変化していた。願いの深層に近づくにつれ、空気が重くなる。
「この辺り、前に通った時よりも……霧が濃い」
「記憶の密度が高い場所かも。澪の大事な思い出が近いのかもね」
ふたりは慎重に進みながら、霧の中に浮かぶ光を探した。
やがて、小さな庭のような空間に辿り着く。そこには、澪が好きだった花――白い彼岸花が咲いていた。
「……ここ、見覚えある。澪と一緒に来たことがある気がする」
律が呟くと、霧の粒がふわりと舞い上がり、蝶の形を成した。
「記憶のかけらのヒントかも!」
あいが手を伸ばすと、蝶の霧が律の折り紙に触れ、淡い光を放った。
「折り紙が……反応してる。澪の記憶に繋がってる証拠だ」
ふたりはその場に腰を下ろし、霧の蝶と折り紙を重ねながら、記憶の流れを探った。
「この花、澪が“秘密の場所”って言ってた。誰にも教えてないって……」
「じゃあ、ここに澪の“誰にも言えなかった願い”が残ってるのかも」
霧がざわめき、蝶がふたりの周囲を舞い始める。
「次のかけら、きっとこの場所にある。準備を整えて、もう一度来よう」
律とあいは、灯霧の庭へと戻る道を歩きながら、次なる戦いへの決意を胸に刻んだ。
霧の蝶がふたりの背中を見守るように、静かに舞っていた――。




