第20話:灯霧の静寂、蝶の軌跡と日常の影
ユウが灯霧の奥へと姿を消してから、数日が経った。
律とあいは拠点に戻り、静かな時間の中で次なる戦いへの準備を進めていた。灯霧の流れは穏やかで、まるで嵐の前の静けさのようだった。
「ユウ……まだ戻ってこないね」
あいがぽつりと呟く。律は折り紙を折りながら、霧の粒を見つめていた。
「うん。でも、あの時のユウさんの動き……何か、今までと違ってた気がする」
「違ってた?」
「霧の流れを読むだけじゃなくて、影の動きそのものを操ってたような……まるで、敵の願いを逆手に取ってるみたいだった」
あいは目を細めて考える。
「願いを逆手に……それって、私たちにもできるのかな」
「できるかどうかはわからないけど、試してみる価値はあると思う」
ふたりは灯霧の庭に出て、訓練を始めた。あいは霧を蝶の形に編み、律は折り紙を星から花へと変化させてみる。
「ねえ律、霧の蝶って、敵の影に触れるとどうなると思う?」
「うーん……もしかしたら、影の流れを乱すかも。蝶って、風を巻き起こすから」
「じゃあ、蝶を使って影の動きを封じて、その隙に折り紙で攻撃するっていうのは?」
「それ、いいかも!」
ふたりは試行錯誤を繰り返しながら、新たな技のヒントを探っていく。
「蝶閃・風封・連舞……とか、どうかな」
「技名まで考えてるの!? さすがあい」
「えへへ、ちょっとだけ魔法少女っぽくしたかったんだよね」
訓練の合間、律は灯霧の扉をくぐり、現実世界へと戻る。
日常の空気が肌に触れ、霧の静けさとは違う喧騒が耳に届く。
「ただいま……」
公園のベンチには、律の友人たちが集まっていた。澪の姿はもうないが、皆どこか安心した表情を浮かべていた。
「律! 最近見かけなかったけど、元気だった?」
「うん、ちょっと……夢の中で冒険してたんだ」
「夢? また不思議なこと言うなぁ。でも、なんか雰囲気変わったかも」
律は照れくさそうに笑い、折り紙を手にして空を見上げた。
澪との記憶は、事故の衝撃で一部が抜け落ちている。
灯霧は、律の願いが生み出した記憶の世界。
「澪の記憶、あと三つ。……絶対、取り戻す」
夕暮れの空に、霧の蝶がひとつ、ふわりと舞った。
それは、次なる戦いへの静かな予兆。
そして、ユウの背中を追いかける律の決意が、またひとつ強くなった瞬間だった――。




